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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第5章 汝平和を欲さば戦に備えよ
  第45話 新世界の神になる

 
前書き
・書き方を昔に戻してみました。
 

 
「紫藤イリナの愛の救済クラブ?」
「はい、イリナさんから誘われまして」
「それで、アーシアは入信したの?」


 ボクが問いかけると、まさか、と首を横にぶんぶん振る。


「私は八神はやてファンクラブの会員ですから」


 フンス、と得意げな顔をしながら、ファンクラブの会員証をみせてくる。
 へー、プラチナ会員なんだ? そーなのかー。
 アーシアェ……キミは今日もぶれないね。
 その後、学校へ向かいながらいろいろな話をした。
 紫藤イリナの愛の救済クラブは、意外なことに入会、いや入信者が殺到しているらしい。
 

 理由は、『撲殺天使』だから。
 

 昨日不良に襲われた女性徒のもとへ颯爽と駆けつけ、守ったらしい――金属バットをもって。
 さすがの紫藤イリナも、一般人相手に聖剣を使わない程度の思慮はあったらしい。
 報復にきたチンピラをちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍。
 その様子を撮影した動画が広まり、ついたあだ名が撲殺天使。
 物騒なあだ名だが、これは敬意を込めてつけられたようで、紫藤イリナの人気は鰻登りだ。
 このままいけば4大お姉さまになるかもしれない――とはアーシアの談。 
 はやてさんと同列だなんて烏滸がましいですよねー、不敬ですよねー、とか笑顔で同意を求めないでほしい。
 




 緑色の髪を逆立て、ヤンキーの様な風貌をした男が、ゼファードル。
 彼に向かうは、短い黒髪に野性的な顔つきをした筋肉質な男、サイラオーグ。
 世紀末的な雰囲気を醸し出す彼らは、「力」の信奉者だ。
 事実、ゼファードルのもつパワーは凄まじい。
 しかし――サイラオーグは桁が違う。


 技術的な面こそ他に劣るものの、六家の中でも抜きんでた実力をもつゼファードルの数倍のパワーを持つ。
 画像越しでもわかる程の圧倒的な闘気。
 並の悪魔なら相対しただけで戦意を喪失するだろう。
 だが、幸か不幸かゼファードルは並の悪魔ではなかった。
 無謀にもサイラオーグに果敢に挑み――真正面から打ち砕かれた。
 

 シーン、と部室が重い空気に包まれる。
 圧倒的だった。圧倒的な破壊と暴力。
 リアス・グレモリーは悲観的な気持ちになっていた。
 だが―――


「ザフィーラさんとどっちが強いんだろうな」
「一誠……?」


 見たことがあるのだ。圧倒的な強者を。
 とくに、組手をしている一誠と小猫は実力差を痛感していた。
 そのうえで、思うのだ。ザフィーラとサイオラーグ。どちらが強いのだろう、と。
 二人とも高みにありすぎて、推測しかねるのだ。


 そのころ、いつものように自宅を警備していた盾の守護獣がくしゃみをした。
 いかんな、誇りある自宅警備員として体調は万全に整えんと。
 といいつつ、縁側で日向ぼっこに励んでいる姿は、わんこモードでなければごく潰しにしか見えなかった。


「一誠先輩の言う通りです。ザフィーラ師匠ならいい勝負ができるかもしれません」


 いえ、勝ってしまうかも、まさかね。と内心小猫は付け加える。
 その後、近接戦に知識がないリアスが、木場に問うと、彼も似たような回答をした。
 八神家は魔窟ね、と結論づける。


「ザフィーラさんってそんなに強いんですね――自宅警備員なのに」


 朱乃の余計な一言で、部室がまたシン、と静まった。


「そ、そんなことより、元の対戦相手だったアスタロトはどうなったんですか」
「……あー、そうね。それがまたややこしいことになっているのよ」


 尊敬する師匠のダメな一面から目をそらそうと、強引に話題を変えようとする小猫。
 リアスもそれに乗っかり、渋い顔をしながら、アスタロトの末路を語った。
 

 ディオドラ・アスタロト
 名家アスタロト家の新進気鋭の悪魔だった。
 気障だが女性に優しい性格で、教会に弾圧された魔女を自主的に匿っていたそうだ。
 助けられた彼女たちは彼の眷属となり、熱狂的に慕っていた。
 エリート紳士だと冥界では評判だったとか。


「悪魔の中にもいいやつがいたのだな。同じ元教会関係者としては助けてくれて感謝したい」
「ゼノヴィア、それがそうでもないのよ」
「何か裏でも?」


 リアスは裏の話を語った。
 実は、ディオドラが匿った魔女は、全員教会の元聖女だった。
 そして、彼女たちが魔女として追放された原因を作ったのが、ディオドラだったのだ。
 要するに、酷いマッチポンプ。
 それを知らない眷属たちは、


『ディオドラ様のおかげで今の私たちが存在しているのです』


 と周囲に語ってやまなかったという。
 さらに、アーシアを教会から追放したのも、奴の策略だといったところで――――。
 ガン、と壁をたたく音がした。
 そこには、壁に拳を打ち付け、怒りに震えるイッセーの姿があった。
 イッセー、そういってリアスはなだめる。
 だが、一誠以外の部員も怒りを露わにしていた。
 とくに、ゼノヴィアとイリナの怒りは大きい。


「……ですが、アスタロトは死んだんですよね?」


 ぽつりとアーシアが呟いた。
 当事者だというのに、意外なほどに平静である。
 全員がやや落ち着きを取り戻し、リアスの方をみる。
 彼女は、複雑な表情をしながら続けた。


「お兄様――サーゼクス・ルシファーによって、悪事を暴かれたディオドラは成敗された。そういうことになってるわ」
「さすがですお義兄様」
「イッセー先輩、さらりとサーゼクス様を義兄呼びしましたね……っと、そうではなくて、『そういうことになっている』とは?」
「小猫は鋭いわね。お兄様から直接聞いたのだけれど、何も関与していないのですって」


 どういうことだ? と全員が疑問に思う。
 非道な行いを行うディオドラを誅したことで、サーゼクスは一部では株を上げた。
 それは人間を対等とみなす極一部の良識派、卑劣な行為を嫌う誇りある悪魔などだ。
 その一方で、名門アスタロト家の悪魔を殺したことで、血筋に拘る旧魔王派は大反発している。
 さらに皮肉なのは――――


「――ディオドラの元眷属の彼女たちが禍の団に合流してお兄様への復讐を企てているのよ」


 やるせない表情をしてリアスは締めくくった。





 ここは、冥府。
 生とし生きるものの終末点。そこを守るは死神たち。
 静謐な空間は、いままさに襲撃を受けていた。


「――クラウ・ソラス、ジェノサイド・シフト」
『Claiomh Solais Genocide Shift』


 万を超える砲撃魔法が「殺傷設定」で乱れ打ちされる。
 進撃を止めようと殺到してきた死神を、下級から最上級まで関係なしに消し炭に変えていく。
 禍の団による奇襲により、冥府は大混乱に陥っていた。
 あちこちでテロが起こり、戦力が分散した隙を狙って、冥府の王ハーデスの居城が襲撃を受けていた。


 先頭を立つは、9歳児程度の少女で、白黒のサーコートに赤い羽根を背中に生やしている。
 色素の薄い金髪に、コバルトブルーの瞳が輝いていた。
 少女が何者なのか。情報をもたない死神たちは、訳も分からず死んでいく。


「くっ、やつは魔導師だ。白兵戦を仕掛けろ!」


 多大な犠牲を払いながら、砲撃をかいくぐる。


「飛龍一閃」
「テートリヒ・シュラアアァクク!」
『ブラッディ・ダガー』


 しかし、彼女を守る騎士たちが一切敵を寄せ付けない。 
 シグナムが連結剣を振るうと、ヴィータが鉄槌を落とす。
 はやてに向かう弾丸はザフィーラが防ぎ、シャマルが指揮と回復を担う。
 ユニゾン中のリインフォースも主を守ることを忘れない。
 死を振りまきながら確実に、最奥――死神たちの王のもとへと向かっていった。


 指揮官である最上級死神プルートの一声により、死神たちが謎の少女に殺到する。
 いや、彼には一つ心当たりがあった。
 三大勢力の諜報活動から要注意人物として八神はやての名があがっていた。
 少女にはその面影がある。そのうえ、扱う魔法も類似していた。
 妹あたりか? それとも本人なのだろうか?
 いや、少女を守る騎士たちは、八神はやてのものと同一だ。
 つまり、八神はやて本人なのだろう。

 
 八神はやては、とりわけ悪魔勢力と協力関係にあったはずである。
 ならば、三大勢力の差し金だろうか。
 たしかに、三大勢力と冥府は協力関係にないし、潜在的な敵対関係にあった。
 だが、戦争をするほどではない。
 恥を忍んで外部からの応援を頼もうとしたが、なぜか通信が遮断され、結界により外へでることもできない。
 もはや、八神はやてを打倒するしか方策がなかった。


「――闇に沈め、デアボリック・エミッション」
『Diabolic Emission』


 術者を中心にすべてを破壊する闇が広がると、触れた死神たちを塵へと変えていく。
 最上級の死神たる自分ですら赤子のように潰される。
 ここまでか――プルートは諦観をもって、目を閉じる。と、そこへ。


「ファファファ、小娘が。調子に乗るなよ」


 冥府の王ハーデスが、魔法を相殺する姿がみえた。


「ふん、骨董品風情が、塵は塵に帰るがいい」
「ファファファ、むざむざ死にに来たか。姿かたちが違うようだな、八神はやて」
「ユニゾンしているのさ。まあ、第三形態ってところかな。さあ、蹂躙を始めよう――――虚空に刻まれたボクの負念で! 神話世界を破界し、再世する!」


 なぜか胸を張って誇らしげにリインフォースとのユニゾン状態を語る八神はやて。
 リインフォースは主の口上に身もだえしていた。


「小娘、貴様は何を目指す」


 ボクは――――——


「新世界の神になる」 
 

 
後書き
・ザフィーラ
いまだに自宅警備員を勘違い中。

・ハーデス
骨董品――骨だけに!

・新世界の神になる
はやて、それ八神やない。夜神や! 
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