魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第53話「堕ちた天巫女」
前書き
やべぇ...なんか、優輝が言ってる事、大抵結果が伴ってねぇ...。
緋雪の時もそうでしたし、まるで中身の伴ってない偽善者みたいな振る舞いになってますが、相手がとにかく規格外なだけです。(ジュエルシード25個同時使用って...。)
...ただ、優輝も設定的に規格外なので、ほぼ結果が出てからの逆転も可能です。
しかし、そうなるまで長丁場なので予めご了承ください。
=out side=
「っ...!あれは....!」
「...早く戻ろう。村が危ない...!」
森の中、猪擬きを担いで移動していた二人の男女が、ある方向を見てそう呟く。
...その方向には、瘴気のような魔力が迸る集落があった。
「急げ...!あの魔力...どこか見覚えがある...!」
「確か...あれって....!」
「ああ。....感じられるのは邪悪なモノしかないけど、あの魔力は間違いない....ジュエルシードだ...!あの時、あいつを撃退するのに感じた魔力と、同じ....!」
二人は思い出す。...魔法を使う切っ掛け、そしてこの世界で暮らす切っ掛けを。
「それが、あの規模...!」
「っ.....!」
二人は駆ける。災厄が渦巻く集落へと。
=優輝side=
「司さん....!」
魔力で視力を強化して、瘴気の中心にいる司さんを見る。
...司さんは目を開いてはいるが、まるで意識がないように目に光が灯ってなかった。
「っ、全員避けろ!!」
しかも、そんな悠長に見ている暇はなかった。
魔力の触手が僕らに襲い掛かり、全員が散り散りに避ける。
その中でも、クリムを抱えていた葵は掠ってしまったのか、大きく吹き飛ばされる。
ついでにクリムも葵より吹き飛ばされ、森の中へ消えた。
「くっ....!」
避け、切り払い、逸らして凌ぐ。
だが、量も質も対処不可能に近い。
フェイトや奏も防戦一方で、椿でさえきつそうだった。
「(距離が近すぎる...!ここは撤退したいけど...!)」
攻撃が苛烈すぎて撤退さえできそうにない。
何か仕掛けて隙を作るしか...。
「穿て...“呪黒剣”!!」
「っ!?葵!?」
瘴気に向けて黒い剣が次々と放出される。
そんな攻撃をしたら、反撃が....!
「葵!避けっ...!」
吹き飛ばされた事で僕らよりも少し離れた所にいる葵に、瘴気の触手が迫る。
だけど、葵は少し笑みを浮かべるだけで、避けようとしない。
「っ...!“アォフブリッツェン”...シュナイデン!!」
咄嗟に斬撃を飛ばし、瘴気の触手を断とうとする。
だが....。
「(一瞬...間に合わなかった...!?)」
「葵!?」
着弾まで一瞬遅れてしまい、椿は悲痛の声を上げる。
「っ....!!」
―――ギギギギギギギギギギィイン!!
さらに、瘴気の触手が僕に向かってきて、それの対処に追われる。
重さを捨てた、超高速の乱撃。それを創造した二刀で対処する。
「は、早っ...!?対処が....!」
だけど、それでも足りない。遅い。
あまりにも速すぎて、僕の身体能力では防ぎ切れない。
「断ち切れ、“呪黒剣”!」
「っ!?」
「優ちゃん!」
防ぎ切れず、攻撃を喰らいそうになった所で、黒い剣が地面から生え、瘴気を防ぐ。
声がした方を振り向けば、そこには葵がいた。
「いつの間に!?って、また...!」
またもや葵に攻撃が向かう。
...だが、葵はその場から忽然と姿を消し、僕のすぐ隣に現れた。
「っ!?」
「優ちゃん!皆!撤退するよ!」
僕の手を握り、そう言う葵。
...反対の手には、黄色がかった水晶...ロストロギア“メタスタス”を持っていた。
「(そういう...事か...!)」
あのクリムが持っていたメタスタス。あれがあるから葵はあんな無謀な攻撃をしたんだ。
僕達の攻撃を転移で躱したクリムのように、葵もあれで攻撃を回避していたんだな。
「近かったら碌に攻撃もできない。それどころか、あたし達じゃなかったらとっくにやられてる程の攻撃の苛烈さだよ!とにかく、今は距離を!」
「そうだな...!」
今、瘴気の攻撃を凌げているのは、僕らだからこそだ。
僕と椿と葵は、戦闘経験も豊富で強力な攻撃や速い攻撃の対処を心得てるし、奏とフェイトは素早いし回避も上手い。設置型のバインドとかがないからその分も避けやすい。
クロノでも対処できるだろうけど...これがなのはとかならやられていただろう。
「っ....さすがに人数が増えると転移が...!」
「僕が凌ぐ!葵は集中して!」
次に奏を回収した所で、僕らなら阻止できる程の転移までのタイムラグが出来た。
そこで僕が転移が間に合わなかった時のために掌に魔力を溜めておく。
「(絶望を呑み込みし極光よ!黄昏に染めよ!)」
フェイトが回収される。コンマ一秒で転移が間に合う。
それギリギリで見極め、僕はさらに魔力を集中させる。
最後に椿の所に行き、遠くに転移しようとする所で、魔力を放つ!
「“トワイライトスパーク”!!」
〈“Twilight spark”〉
極光を放ち、迫っていた瘴気を討ち払い、さらに瘴気の中心へと迫る。
だが、21個の時点でブリューナクを防いだ魔力だ。通じるとは思えない。
とはいえ、時間稼ぎにはなったので、そのまま僕らは遠くへ転移した。
「...遠くから見れば相当やばいな。アレ....。」
「司...どうして...?」
ショックを受けてるフェイトと奏を余所に、僕は瘴気の魔力を見て顔を顰める。
「....とりあえず、クロノ達と合流よ。」
「分かってる。方向は...近いな。」
クロノ達が集まっている場所を僕は探知する。
「(これからどうするべきだ...?)」
1個でも危険な代物が25個全て集まり、それら全てが災厄を振りまいている。
そして、その中心にはよりにもよって司さん。
正直、考えを放棄したいくらいやばい状態だ。
「(...とにかく、クロノと合流が先決だな。)」
そう思いつつ、僕らはメタスタスでクロノの下へと飛んだ。
「クロノ!」
「っ!?優輝か!あれはどういう事だ!?何が起きている!?」
僕がいきなり現れた事に驚くクロノだが、すぐに瘴気の事を聞いてくる。
「...詳しくは分からない。...けど、あれはジュエルシードと司さんだ。」
「なっ...!?」
...そういえば、集落の人もいるここは被害がないな...。
結構あの瘴気から離れてる場所だが、あっちからも普通に確認できるような...。
「どうして司が!?」
「...分からない。けど、司さんの能力は感情に左右されるだろう?...つまり、あれは...。」
「司の...負の感情とでも、言うのか...?」
「...さすがに、ジュエルシードで増幅されてると思うけどな。」
しかし...魔力の波動がここまで...。
緋雪の時よりも、強大だな...。
「司は...司本人は?」
「...遠目だから分からなかったけど、多分、意識はない。あっても何もできないだろう。」
「そうか...。」
クロノは少し考えて一度アースラと通信を繋げる。
「エイミィ、アリシア。そっちからはどう見える?」
『....なんというか...ジャミングが掛かってるみたいだよ。』
『それに、魔力量は計測不能だよ!』
少しノイズ混じりにエイミィさんとアリシアの通信が聞こえる。
「...クリム・オスクリタは?」
「悪い、攻撃を受けた時に一緒に吹き飛ばされた。ここから反対側の遠くの森に吹き飛ばされたから、探すのには手間がかかる。」
「そうか...。」
クロノがどう動くか考える。
僕も、どうするべきか思考を重ねる。
「(あの瘴気はさっきは攻撃してきたけど、今は襲ってこない。さっきと今で違うのは...人数と距離ぐらいか。人数はまず関係ないだろうから...距離か?)」
どう動くかはクロノに任せ、僕は瘴気の特徴を解析する。
あの瘴気は負の感情を魔力に乗せたモノで、今はこちらを攻撃してこない。
「(...そういえば、かつて椿が言ってたな。司さんの魂はどこか歪だって。...辛い過去があって、それを抑え込んでいたのなら、攻撃的にはならない...。)」
つまり、あれは一種の防衛機能とも言えるのか?
一定以上近づけば、排除しようと瘴気が襲い掛かる...そんな感じの。
「む、村が...。」
「ど、どうしてこんな事に...。」
ふと、聞こえてきた声に思考を中断する。
見れば、そこには集落の方角を見て嘆いている人達がいた。
「天巫女様は...天巫女様はどうしたんじゃ...。」
「っ.....。」
村長である老人がそう言った時、僕は何も言えなかった。
「...彼女は...ジュエルシードの力...いや、それによって増幅された負の感情に...呑み込まれました。...今、彼女に自我はありません。」
「っ...なぜ、どうしてそうなった!!そなたらが付いていながら!」
「っ....すみません....。」
憤るように声を張り上げる老人に、僕は頭を下げるしかなかった。
...僕らだって司さんがああなったのを認めたくなかった。
だけど、集落の人達にとっては、僕らがいたから伝説上の存在である司さんが逆に災厄を振りまく存在になってしまったと思ってしまっているだろう。
...僕らのように、認めたくないから。
「そなたらに任せたのが間違いじゃった...!このままでは、儂らは...世界は...!」
「....クロノ。」
怒りよりも、これからの事で絶望しているのだろう。
老人は頭を抱えて蹲る。皆、あの瘴気を見てどうしようもないと思っていた。
だからこそ、指示を仰ごうと僕はクロノに声を掛ける。
「ああ...!なんとしてでも止める。優輝、少しでもいい。何かあの瘴気の情報はないか?」
「推測も混じるが...いいか?」
どんな些細な情報でもいいらしい。クロノはすぐに頷いた。
「...まず、あれがジュエルシード25個分の魔力なのは分かる。そして、おそらく今は一種の防衛機能と化している。一定の距離まで近づけば、瘴気の触手による攻撃をしてくる。」
「なるほど...。だからこっちに被害がないのか。」
「次に防衛機能による攻撃の威力だが...。速い時は途轍もなく速い。おそらく、フェイトでも回避不可能な速さだ。それに、威力も半端じゃない。並大抵の防御魔法じゃ、あっさり破られる。」
ぶっちゃけて言えば、束で掛かってどうにかなるか分からない相手だ。
そうクロノに伝えると、クロノは苦虫を噛み潰した顔をしながらも指示を出す。
「優輝...その攻撃は、対処可能か?」
「...至近距離は無理だな。四方八方から囲まれて袋叩きだ。...だが、ある程度離れているのなら、防御も回避も可能だ。」
「...よし。なのは、はやて、椿、帝、リニスは遠距離から攻撃してくれ!フェイト、奏、優輝、葵、神夜、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、アルフは陽動。攻撃を引きつけてくれ!...他は集落の人達の守護。援護ができるならしても構わない。」
鋭く指示を出し、次にアースラへと通信を繋げる。
「...艦長。」
『言わずとも分かってるわ。...プレシア、出撃して頂戴。』
『分かったわ。』
通信を繋げた理由は、プレシアさんの出撃許可を貰うため。
リンディさんも状況は分かっているため、すぐに許可を出す。
「それと、そちらで何か分かった事があればすぐに連絡を頼みます。」
『ええ。...健闘を祈るわ。』
通信を切ると同時に、ちょうどプレシアさんも転移してくる。
「分かってるとは思いますが、遠距離魔法で援護を頼みます。」
「ええ。...それでも、足りるかは分からないけど...。」
指示を出し負わり、いざ行動しようとする。
「待てよ!司は...司はどうするんだよ!」
すると織崎がクロノにそう言う。
「あの瘴気から救う手段は今の所ない。ジュエルシードを封印する事が最も有効な手段だと思うが?」
「っ...そうか...。」
だが、クロノはそう言って一蹴し、織崎を納得させる。
...これが僕だったら言い返してきてただろうな。
「はっ!そんな作戦なぞなくとも、俺が救ってやるぜ!待ってろ司!」
「あ....。」
...バカが一人で突っ込んでいった。
いや、お前...いつもあっさり撃墜されたりするのに、なんでそんな自信満々なんだよ。
「とにかく、作戦通りに行動だな?行くぞ!椿、葵!」
「分かったわ!」
「任せて!」
一人で突っ走っても戦力が削がれるだけなので、僕らも援護に向かう。
「...責任は、僕達で取ります。.....あれを認めたくないのは、皆同じです。」
一言、集落の人達に言ってから、僕は飛び立つ。
...っと、言い忘れてた。
「『クロノ!クリム・オスクリタの持っていたロストロギアは、現在葵が持っている。相当便利なうえ、今は緊急事態だから、使わせてもらうぞ!』」
『なっ..!?...ああもう!後で始末書ものだぞ!?』
悪用しないと分かっているからこそ、仕方ないとクロノは割りきってくれた。
...後が怖いけどな。
「司!今、助けてやる!!」
葵によって転移すると、そこでは王牙が王の財宝を使って攻撃していた。
もちろん、そこは防衛機能の範囲内で...。
「な、なにっ!?」
「って、やっぱりか!!」
王の財宝で射出された武器群は、瘴気の触手で横から叩き落される。
そのまま王牙に触手が迫った所で...。
「させるかよ!!」
〈“Aufblitzen”〉
僕が一閃して断ち切る。
「なっ...!?貴様!!」
「連携を取れ馬鹿野郎!人間一人の力でどうにかなる代物じゃない!!」
「かやちゃんは援護頼んだよ!あたしが引きつけてくる!」
―――“戦技・大挑発”
怒鳴るように王牙に言う僕を余所に、椿は弓で狙える場所へ。
葵は葵で霊力と魔力を膨れ上がらせ、注目を集める。
「うるせぇ!俺一人で十分だ!俺はオリ主だからな!」
「一人では敵わないと理解しろバカ!」
葵が引きつけてくれても、それでもここは陽動組が動く領域。
結構近い位置なため、まだ僕らを狙って瘴気が攻撃してくる。
「はっ、しゃらくせぇ!!....なっ!?」
「馬鹿の一つ覚えかよ!リヒト!」
〈Jawohl!“守護せし七つの円環”!〉
ちょうど七方向から攻撃が来ていたので、それぞれを花弁を模した障壁で防ぐ。
だが、防ぎきると同時に障壁は割れる。
「...相当、強固な障壁なんだがなぁ...。」
魔力も結構使う魔法なのに、たった一撃で破られた事にちょっと泣きたくなる。
...まぁ、そんな暇はないんだけどね。
「邪魔するんじゃねぇ!」
「さっきのを防げなかった癖に何言ってんだよ...。」
「はっ!あんなもん、オリ主の俺には通用しねぇよ!」
ダメだこいつ。作戦をぶち壊しにかかってやがる...!
「『クロノ!王牙をどうすればいい?一人で突っ走ってばかりだ!』」
『なっ!?...ああもう、あいつは...!』
またもや飛んでくる触手の攻撃を、創造した剣を射出してなんとか打ち消す。
『説得は?』
「『無理!言う事一つ聞かない!』」
『....気絶させてこっちに送ってくれ。...火力には期待してたんだが、このままじゃ被害しかでない。』
唸るように悩んだ後、クロノはそう言ってきた。
「『了解。いい加減学習してほしいよな。』」
『全くだ。』
とりあえず念話を切り、触手を魔力を込めた鋭い一閃で相殺。
それと同時に、遠い所から光を帯びたいくつもの矢が飛んでいく。
「(椿か...。それに...。)」
さらに、そこから桃色の砲撃と白銀の砲撃が飛んでくる。
なのはとはやての砲撃魔法だろう。
「(攻撃が一瞬止まった!今の内に...!)」
未だに王の財宝を射出しまくっている王牙の後ろに回り込み、手刀で気絶させる。
魔力で衝撃を徹していたからいとも簡単にそれを成せた。
「『クロノ!送ったぞ!』」
『ああ、今来た。後は頼んだぞ。』
転移魔法で王牙をクロノの所に送り、再び襲ってきた触手を避ける。
「避けるだけならリヒトじゃなくてもできる...なら、シャル!」
〈承知しています。〉
宙返りの要領でさらに触手を避け、手元にシャルの杖形態を出現させる。
それを握り、棍の要領で避けた触手を断ち切る。
「面子は揃った。...行くぞ!」
〈“Magie Waffe”〉
魔力で赤い大剣――シュネーや緋雪が良く使っていた形態――を作り、空を駆ける。
途中、触手が襲ってくるが、全部ステップで回避する。
「(あの瘴気は生半可な攻撃じゃ、当然貫けない。なら、少しでも攻撃を徹せるように、僕ら陽動組で穴を開ける!)」
何度も椿の矢や、なのはの砲撃が瘴気の塊に直撃しているが、どう見てもダメージがあるように見えない。
だから、僕らで“道”を作る方が良い。
「『葵!』」
『了解!」
念話で葵に声を掛けると、返事の途中で隣に並ぶように転移してきた。
そのまま、僕らは瘴気の塊に接近し...。
「「はぁああああっ!!」」
ただ、魔力を込めて斬りまくる!!
一撃必殺な攻撃でも、正直効果が薄い。
だから、効果が薄くても連撃を繰り返した方が効率は良い。
「(だけど...。)」
「(それでも...。)」
僕らを排除しようと瘴気が襲ってくる。
それを、互いに庇うように切り払いながら、攻撃を続ける。
「「(...びくともしない...!)」」
僕ら以外にも、遠距離組が何度も攻撃を放っている。
織崎も隙を見て反撃ぐらいはしているだろう。
椿に至っては、僕らの連撃の合間を縫うように矢を同じ箇所に当てている。
...それでも、瘴気は一切晴れない。
「(瘴気の魔力を片っ端から吸収してそれで攻撃してるのに...!)」
「(一向に変化がない...!それどころか...!)」
今までと違い、大木程の太さの触手が襲ってくる。
さすがにそれは切り払えず、ついに僕らは間合いを離してしまう。
「どんどん...強大になっている...!?」
「まずいよ優ちゃん...!」
大木程とは言わないが、それでも切り払えないほどの太さの触手が襲ってくる。
それらを、僕らは逸らしながらも避ける。
「(瘴気は段々と強くなっている。悠長に斬っていても、それ以上のスピードでパワーアップするだろう。...そうなれば、司さんがどうなるか分からない。ここは...。)」
迫りくる触手を、大きな剣を創造して縫い付けるように刺して止める。
その傍らで、僕は念話を繋げる。
「『全員に通達!生半可な攻撃をしてても、瘴気は強くなるだけだ!一斉に超強力な攻撃をぶち込まないと、この瘴気は突破できない!』」
『魔力の密度がさらに増大!優輝君の言うとおり、一斉攻撃じゃないと、意味がないよ!』
僕の念話と共に、エイミィさんからもそんな通信が入る。
...相変わらず、ノイズ混じりなのも余計にヤバさを引き立てている。
「『クロノ!』」
『...ああ。フェイト、奏、シグナム、優輝、葵は遠距離組に回ってくれ!全員で一点に集中した強力な魔法を叩き込む!...残りの陽動組は引き続き囮になってくれ。無茶はするなよ?』
「『了解!』」
クロノの指示通り、僕と葵は遠距離組がいる距離までメタスタスで転移する。
引き抜かれた面子は誰もが一点集中な砲撃が放てる者だ。
葵の場合は椿とユニゾンする事による威力の底上げだろう。
「『クロノ!撃ちこむための場所は?』」
『今こっちで割り出し中...椿ちゃんの所がちょうどいいよ!』
クロノにどこがいいか聞くと、エイミィさんからそんな通達が入った。
...流石椿。弓術士としてのポジションが分かってるな。
「っと、ここか。」
「...来たわね。」
ついた場所は、ギリギリ防衛機能の範囲外の高台だった。
確かにここなら全員の魔法が届くな。
「念話の声、一応聞こえていたわ。一番乗りはやっぱり優輝たちだったわね。」
「え?念話を...?椿って、魔力がなかったはずじゃ...。」
そう思って解析魔法を掛けると、微弱...それこそ雀の涙程の魔力でしかないが、椿はリンカーコアを持っていた。
...なんで?
「なぜか聞こえたのよ。まぁ、今まで何度も魔法に関わって来たし、それで順応でもしてしまったんじゃない?」
「...まぁ、今は気にしてられないか。」
次々と集合してくるのを余所に、僕はグリモワールを開き、五芒星を描くように魔力の結晶を浮かべる。
「...それは何かしら?」
「ちょっとした増幅装置です。この術式を起動させるにも結構魔力を使うので...。これを通して魔法を使えば、さらに威力が増すはずです。」
いつの間にかプレシアさんとリニスさんが来ていて、プレシアさんが五芒星について聞いてきたので答えておく。
「それと、全員にこれを。」
「これは...。」
「魔力の結晶です。カートリッジには劣りますが、それで魔力を増幅できます。」
全員揃った所で作り置きしていた結晶を渡す。
カートリッジシステムが付いていない人でも、これなら増幅ができる。
「かやちゃんはあたしだね。」
「ええ。」
椿も葵とユニゾンし、準備完了だ。
ちなみに、リインフォースさんも来ていたのか、既にはやてとユニゾンしていた。
「全員...チャージ開始!」
僕の一言に、なのはとフェイトとはやて、奏、プレシアさん、リニスさん、シグナムさんが魔力を高め、椿は予め僕が創造しておいた特殊な矢に霊力と魔力を込める。
カートリッジシステムを搭載している者はカートリッジでさらにブーストさせている。
僕もグリモワールを傍らに、魔力を集中させる。
「......放てぇ!!」
―――“Starlight Breaker”
―――“Plasma Zamber Breaker”
―――“Ragnarök”
―――“Fortississimo”
―――“Thunder Rage”
―――“Plasma Saber”
―――“Sturmfalken”
―――“Vermillion Bird”
―――“Twilight spark”
僕の声と共に、全員の全力の砲撃が放たれた。
しかし....。
『っ!?ジュエルシードから高エネルギー反の―――』
「っ!?」
エイミィさんから警告するような通信が入るが、途中で途絶えてしまう。
...瞬間、瘴気の方から黒い閃光が迸った。
「っ、ぐ―――――!!!」
僕らが放った魔法と、その閃光がぶつかり合い、衝撃波が奔った。
『―――!...っ...!!....んな...!皆!!』
衝撃波が止み、まだノイズ混じりだが通信が繋がる。
「....っ、エイミィさん!状況はどうなってますか!?」
『攻撃を誘導していた皆は事前に離れていたから無事!ジュエルシードの方は....嘘!?』
囮になっていた皆はどうなったのか少し不安だったが、それを聞いて安心する。
だけど、続いた悲鳴染みた驚愕の声に戦慄した。
『....魔力反応、健在....あれを...凌いだの...!?』
「なっ....!?」
その言葉に、全員が驚愕する。それと同時に、瘴気を覆っていた煙幕が晴れる。
...そこには、ほんの少しだけ小さくなったものの、瘴気の塊がまだあった。
「っ...!?椿!」
「ええ!」
―――“Aigis”
―――“刀技・金剛の構え”
バチィイイイッ!!
瘴気から煌めくものが見えて、咄嗟に僕と椿で皆を庇うように立つ。
そして、迸った閃光を障壁で弱め、障壁が破られた所を椿が何とか弾いた。
「っ...なんて、重さ....!」
「全員離脱!捕捉されている!」
僕の声に皆が散り散りに離れる。
瞬間、先程までいた場所が閃光によって薙ぎ払われた。
「っ、くっ...!」
閃光が薙ぎ払うのを横目で見ていると、僕目掛けて触手が襲ってきていた。
それを、なんとかシャルで逸らす。
「...範囲が広がっている...!?」
「...それだけじゃないわ。」
偶々一緒の方向に逃げていて、隣にいた椿が言う。
「...あの閃光、どうやらあれっきりじゃないらしいわね。」
「...そうだな。」
そう。触手だけでなく、閃光も放たれるようになっていた。
これでは、ますます近づけないし、封印もできない。
「(くそっ...どうすれば...!)」
とにかく、クロノに指示を仰ごうと通信を繋げようとする。
―――....め...さい....。
「....っ....?」
何か、何かが、聞こえた気がした。
「....司?」
「司さん...なのか?」
僕より耳が...と言うか、感度が良い椿が、司さんの声だと断定する。
『....ごめん...なさい....皆...私の...せいで.....。』
「『っ...司さん!?意識が戻ったのか!?』」
念話を飛ばすが、こちらからは通じないのか、反応がない。
...当然だ。あんな瘴気の中にいるのだから、通じる訳がない。
「(だけど、この程度なら...!)」
瘴気で妨害されている。...だけど、それだけだ。
広範囲には無理だが、一つの方向...司さんに対してだけなら、繋げられる!
『皆...私の、せい、で...不幸に....。』
「『...司さん!無事なのか!?今、何とか助けて....!』」
妨害に対抗する魔力を片っ端から詰めながら司さんに念話を繋げる。
魔力はそこらじゅうにある。これで、声が届いたはず...!
『っ....嫌っ!来ないで!!』
「なっ....!?」
刹那、閃光と触手による攻撃が苛烈になった。
皆避けようと距離を取っていたから、避けるのは簡単だったが...。
『私なんかが...!私なんかがいたから....!』
「(拒絶してる...!?くそっ、迂闊だった...!)」
司さんは精神的に追い詰められている。
そんな状態に無闇に声を掛けても、拒絶されるだけなのは、分かっているのに...!
「っ、しまった!?」
閃光を避けて行く。しかし、そのうち一筋の閃光がクロノ達のいる方へ飛んで行った。
場所は把握してある。あれだと、直撃コース...!
「くそっ、間に合え!!」
「ちょ、優輝!?」
ユニゾンしているため、今は椿が持っていたメタスタスを奪い取るように借りて、その力を行使する。
転移先はクロノ達のいる所。間に合え...!
―――ズキン!
「ぐっ....!?」
転移は間に合った。しかし、今回の戦闘での魔力行使が、やはりこの体には無茶だったのか、鋭い痛みが全身に走る。
そのせいで、コンマ数秒動作が遅れてしまう。
「間に...合わな....!?」
いきなり転移してきた事に驚くクロノ達が、とても遅く見える。
それと同時に、途轍もないスピードで迫る閃光。
せめて、僕自身を盾に......!
「「―――“トワイライトバスター”!!」」
...その瞬間、オレンジと白が混ざったような極光が、閃光を打ち消した。
「.......優輝....なのか...?」
「....え....?」
極光を放った男女の、男性の方が僕を見てそう言った。
...その姿を見て、僕も思考が止まった。
「....父さん...母さん....?」
後書き
守護せし七つの円環…元ネタ(Fate)のロー・アイアスを改造した魔法。
七つの花弁による障壁を分散させ、多方向からの攻撃を防ぐ。
特徴はロー・アイアスと同じで遠距離に強いが、花弁一枚分の防御力しかない。
シュッツは守護のドイツ語(Schutz)から。
Magie Waffe…14話にも一応登場していた、魔力で武器を作る魔法。術者の魔力操作の精度によって、強度も変わる。
Fortississimo…奏の使う集束型の砲撃魔法。アタックスキルの中でもトップクラスの威力を誇る。
Vermillion Bird…弓奥義・朱雀落に魔法を加えて強化したもの。葵とユニゾン中のみ使える。威力はもちろん朱雀落よりも強力。
椿にリンカーコアが出来たのは優輝のとある能力のおかげです。(キャラ設定に既に載っている。)
さぁ、ついに助っ人...優輝の両親と再会しました。(ピンチなのは依然変わらず)
再会の余韻に浸る間もなく、引き続き戦闘は続きます。
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