英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第1話
―――俺達がこの地を訪れたのはエレボニア帝国政府からの連絡がきっかけだった。あの教団事件から数ヶ月後―――どさくさに紛れて、帝国へ亡命していたハルトマン元議長と元市長秘書アーネストが帝国からの追放処分を受けたのである。何故か、2人は潜伏先として共和国最先端のアルタイル市を選び……
急遽、新市長によって共和国政府との協議が秘密裏に行われ、2人の国外逮捕が執行される事となった。しかし、極めて政治的な問題を持つため、逮捕は正規の指揮系統から外れている『特務支援課』に任される形となり……
さらに捜査一課、警備隊、ギルドが協力する異例の捜査体制が整えられたのだった。そしてアルタイル市での捜査から数日―――
俺達はハルトマン、アーネスト両名が教団の旧ロッジ跡に向かった事を突き止めた。
~旧アルタイル・ロッジ~
「ここは………」
洞窟内に入ったロイドは周囲を見回し
「鍾乳洞ですか……でも、人の手が入っていますね。」
「元々は数百年前に使われていた石窟寺院跡だったようだ。それを”D∴G教団”が改修し、”儀式”を行うロッジとして利用した。6年前のあの日までな。」
ノエルの疑問にアリオスは答えた後真剣な表情で呟いた。
「……課長とアリオスさん、それに兄貴が制圧した時ですね。そして兄貴はここで、ただ一人生き残ったティオを救出した……」
「ああ、正直それだけがあの地獄のような惨状における唯一の慰めだった。今となってはその痕跡もほとんど無くなっているがな。」
「………………………」
「何だか信じられませんね……そんな事があったなんて。」
「そうだな………それにしてもティオの過去がそんな悲惨な過去とは予想もしていなかった……」
「フン、どこまでも最悪な連中だったようだな。当時、共和国軍が動けなかったのは一部の将校が教団に弱みを握られていたからだそうだが……?」
アリオスの説明を聞いたロイドは目を伏せて黙り込み、ノエルは疲れた表情で溜息を吐いた後、セリカは重々しい様子を纏って呟き、ダドリーは鼻を鳴らした後アリオスに視線を向けて尋ね
「ああ、だからこそセルゲイ班にここの制圧が任されたわけだ。今にしてみればギルドも真っ青と言うくらいの強引な介入の仕方だったが。」
尋ねられたアリオスは頷いた後静かな笑みを浮かべた。
「フン、さすがは悪名高きセルゲイ班といったところか。」
「はは……何だか当時の光景が目に浮かぶ気がしますね。―――アリオスさん、2人が向かっているとしたらロッジのどの辺りでしょうか?」
アリオスの話を聞いたダドリーは不敵な笑みを浮かべ、ロイドは静かな笑みを浮かべて呟いた後アリオスに尋ねた。
「やはり最奥にある”儀式の間”の可能性が高い。”太陽の砦”にあったような不思議な祭壇が残されている。ハルトマンはともかく……アーネストがそこを目指しても不思議ではないだろう。」
「………確かに。」
「もしかして、”グノーシス”……でしたか?その薬も関係しているんですか?」
アリオスの推測を聞いたロイドは頷き、リタは尋ね
「その可能性は否定できんな。どうやらアーネストはヨアヒムから”グノーシス”をそれなりに受け取っていたようだ。それも蒼色のではなく、紅色の。」
リタの疑問にダドリーは疲れた表情で答えた後、厳しい表情になった。
「そ、それって………人を化物に変えるっていう!?」
ダドリーの言葉を聞いたノエルは驚いてダドリーを見つめ
「ああ、場合によっては同行しているハルトマンの身が危ないかもしれない。ヨアヒムのように取り返しが付かなくなる前に何としても2人を拘束しよう。……いくらセティ達によって開発された解毒薬があるとはいえ、ヨアヒムのように大量に服用した挙句、巨大化するほどまで悪魔化が進めば、解毒薬を呑ませても悪魔化が解毒されない可能性があるとエルファティシアさんも言ってたしな……」
ノエルの疑問に答えたロイドは言い
「ええ……!はあ……でも参ったなぁ。こんなタイミングでエニグマのバージョンアップが行われちゃうなんて……」
ロイドの言葉にノエルは頷いた後疲れた表情で溜息を吐いた。
「ふう、そうなんだよな。『エニグマⅡ』か……」
ノエルの言葉に頷いたロイドはオーブメントを取り出して見つめ
「中心に嵌めるっていう新型の『マスタークオーツ』……それが間に合わなかったから結局、アーツは使えない状態ですし。」
ノエルは不安そうな表情で呟き
「毎度ながらエプスタイン財団も切り替えが突然すぎるんだよな。ティオの所属している場所を悪く言いたくはないんだけど……」
ノエルの言葉にロイドは頷いた。
「フン、いくらタイミングが悪いとはいえ泣き言を抜かすな。きちんと準備していればこれくらいは用意できるだろう。」
「え……」
2人の様子を見たダドリーは鼻を鳴らした後ロイドにマスタークオーツを一つ渡し
「フフ、ならば俺の方からも予備を一つ提供しよう。」
さらにアリオスは静かな笑みを浮かべた後ノエルにマスタークオーツを一つ渡し
「……なら、俺達の方からはクオーツを提供しよう。レシェンテ、リタ。」
「うむ。ありがたく受け取るがよい!」
「フフ、大事に使って下さいね?」
セリカはロイドとノエルにクオーツ―――『回避2』と『攻撃2』、セリカに促されたレシェンテはロイドにクオーツ―――『精神2』、リタはノエルにクオーツ―――『防御2』を渡した。
「これ……マスタークオーツとバージョンアップされたエニグマに対応しているクオーツですか?」
「これを俺達に……?」
マスタークオーツやクオーツを受け取ったノエルとロイドは驚きの表情で尋ね
「フン、足手まといになられても困るというだけだ。」
(くかかか。相変わらずツンデレだね~。)
尋ねられたダドリーは鼻を鳴らして答え、ダドリーの様子を見たギレゼルは笑っていた。
「”エニグマⅡ”の中心に好きな方をセットするといい。どちらも、付けたらすぐに複数のアーツが使えるはずだ。」
「それとシルフィル達から受け取ったクオーツも忘れずにセットしておけ。」
そしてロイド達に説明するアリオスが説明を終えた後、ダドリーが説明を補足し
「はい!」
「わかりました!」
2人の話にロイドとノエルは頷いた後、2人で相談してクオーツやマスタークオーツをオーブメントにセットした、
「よし、準備は済んだな。」
「はい、お待たせしました。その……わざわざ用意してもらって本当に助かりました。」
「べ、別にお前達のために用意したわけじゃない。―――それよりバニングス。わかっているんだろうな?この任務は、お前にとって一課での研修の仕上げでもある。万が一、無様を晒したら、例えルファディエルの奴が文句を言ってきてもやり直しにするから心しておけ!」
ロイドにお礼を言われたダドリーは一瞬慌てた後、ロイドを睨んで忠告し
「……はい!」
ダドリーの忠告にロイドは力強く頷いた。
(あはは……素直じゃない人ですねぇ。)
(フッ、見た目よりもはるかに熱くタフな男だ。……さすが一課でガイと張り合っただけはあるようだな。)
その様子を見ていたノエルとアリオスは小声で会話をしていた。
「よし―――それでは始めましょう。」
そしてロイドは真剣な表情で呟いた後一歩前に出て振り向いてノエル達を見回し
「クロスベル警察、捜査一課所属、アレックス・ダドリー主任捜査官。」
「ああ。」
「クロスベル警備隊所属、ノエル・シーカー曹長。」
「はいっ!」
「そして特別補佐として遊撃士協会クロスベル支部所属、アリオス・マクレイン殿以下4名の方々。」
「「ああ。」」
「うむ。」
「はい。」
「これよりクロスベル警察、特務支援課による強制捜索、および逮捕任務を執行します。逮捕対象は、ハルトマン元議長、およびアーネスト元市長秘書の2名。期限は本日17:00―――各自全力を尽くしてください!」
ノエル達に号令をかけた!
「いいだろう……!」
「承知……!」
「了解です……!」
「わかった……!」
「わらわに任せておけ……!」
「任せて下さい……!」
そしてロイドの号令にダドリー達はそれぞれ力強く頷いた!
その後ロイド達はロッジ内の最奥に向かい始めた…………
ページ上へ戻る