衛宮士郎の新たなる道
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第4話 留学生と編入生
週を開けた月曜日。
2-Sクラスの廊下前に、担任教師の宇佐美巨人の他に2人の生徒・・・?がいた。
「ほんじゃま、俺が先に入っていくから、呼び出した後に来てくれ」
「了解した」
「・・・・・・・・・」
2人の反応に頓着せず、巨人は何時もの様に気だるげに朝のホームルームを始める為、教室に入って行った。
残された2人の内の1人であるシーマは怒りに打ち震えていた。
(話が違うぞ、マスター!)
日曜日に試験を受けてから、その日の内に採点を出されて結果、見事シーマは編入生として合格して本人は知らずの内の予告通りに3-Sでは無く2-Sに入る事になった。
そして今に至る。
(余はお主の護衛が本来の目的なのだぞ!?にも拘らず、これでは意味がないではないかっ!)
そんなシーマの横にいるマルギッテは何故体を小刻みに震わせているか分からない様だが、値踏みするように見続けていた。
(女、相当できる!私の任務はクリスお嬢様の護衛及びクリスお嬢様に近づこうとする悪い害虫の駆除だが、戦闘衝動を抑えられるか分からん位に強いっ!)
まだ正式に任務先の足場を形成していないにも拘らず、戦闘衝動丸出しのマルギッテだったが、闘気を向けられているシーマは取り合う気も無く落ち込んでいる上に、先に教室に入って行った巨人がドアを開いて顔を覘かせてきた。
「オイお前さんたち、呼んでるんだから早く入って来い。色々忙しそうなとこ悪いけどな」
巨人の催促に闘気を向けながら堂々と入っていくマルギッテと、少々項垂れるシーマだった。
そうして入室するが、ある程度の興味心を持つ者も居る。
Sクラスに居る人種は元々競争心や向上心が高い者達ばかりで、基本的に自分の事以外興味を持たない者達の方が多くを占めている・・・・・・筈だった。
「うわっ、何アレ!?」
「凄い美人だな・・・」
しかし2人の内の1人の美貌に、多かれ少なかれざわつき始めた。
だがそれらを無視して巨人は紹介する。
「留学直後に2-Fの川神と決闘したフリードリヒがいるだろ?その彼女の関係者だ」
「マルギッテ・エーベルバッハです。よろしくお願いする」
少々上から目線だが気にするものは存在しない。
このクラスは実力主義で、結果さえよければいいのだ。
つまりここで幾ら吠えようが、結果も残せなければ用も無いと言った感じだ。
それに先程からのざわめきの原因は彼女の美人プリでは無く、彼のあまりの美貌にだからだ。
「それともう1人だが・・・元気なさそうだがイケるか?」
「・・・・・・大丈夫だ。ぉ・・・私はシーマと言う。わけあって名乗れるのはこのくらいだが宜しく頼む」
「――――よし、質問ある奴は手ー上げろ~」
その言葉により何時もとは違い、手を上げる者達が少なからず現れた。
その中から巨人が1人の女子生徒に白羽をたてる。
「よし、中里。お前行け」
だがそれが間違いだった。
「はい。そんなに綺麗なのは、何か秘訣があるんでしょうか?同じ女として、宜しければ後学のためにもぜひ!」
「あー、いや、シーマは・・・」
しかし此処で士郎から騙された怒りを抑えていたのに、最後の一押しに召喚されてから何度目の見間違いに対して咆哮する。
「余は男だーーー!!」
「はいぃぃぃぃぃ!?ごめんなさ・・・・・・」
殺気を向けられた生徒は一瞬怯えるも、直に聞いた言葉に頭が真っ白になる。
他にも幾人も同じ反応をする。
そして――――。
『えぇええええええええ!!?』
驚嘆する。
「何ですって!?」
横に居るマルギッテも同様に驚く。
因みに知っていた冬馬達3人は、只々笑顔の一点のまま今この場を過ごそうとしている。
しかし当人の憤りはそう簡単に収まらない。
「お主らもかっ!此処は選抜クラスなのだと聞いたぞ!?それにも拘らずその程度の観察眼しか備えていなかったとは、落胆極まる!」
結局、朝のホームルーム中はずっと苛立たしくしているのだった。
因みに今日は九鬼英雄と忍足あずみは休みだ。
-Interlude-
朝のホームルームを終えてから1時間目の授業が始まるまでの10分間、今日も今日とて2-Fは騒がしかった。
「今日もワンコちゃんは、ちゃんと勉強の用意してるんですね。えらいえらいです」
「うんまあ、それにこれも修行の内と思えば・・・・・・何時かは慣れるわ!」
教室の一角では一子が重りを付けたリストハンドも付けず、スクワットもせず、ダンベルも持ち上げずに1時間目の授業態勢を整えていた。
その事に少なからず注目が集まっている。
「まだ二日目だから見慣れ無い系」
「ホントよね~。それにワンコって、授業に付いて行けテルの~?」
「うん、無理だわ!」
小笠原千花の疑問に、何の躊躇も無くハッキリと自分では授業についていけていないと答えた。
いっそ、清々しいくらいに。
「それじゃあ意味ないじゃん!」
「それは今まで遅れた分を勉強知ってから無理・・・矢っ理・・・理解させるって、言って、たわ・・・!」
ガクガクブルブルと震えながら答える一子に、戸惑いを見せるクラスメイト達。
「ど、如何したんですか?ワンコちゃん!」
「顔青ざめてる系!」
「直っち、どれだけスパルタに教えてるの!?」
「いや、今ワンコに勉強を教えてるのは士郎さんなんだ。だから俺に言われても困るが・・・・・・当人同士で了解しているとはいえ、これはちょっと心配だな」
そんな風に幼馴染の豹変ぶりを大和は心配している時に、Sクラスに来た噂の転入生を見に言っていた育本福郎ことヨンパチが帰還した。
「オイオイ凄かったぞ!あの2人のトンでもねぇ美人度だったぜ!」
「そうだろ、そうだろ!マルさんは凄いんだ・・・・・・ん?2人?」
「あ、ああ?クリスの姉替わりだっけ?その超絶軍人美人さんと、シーマって言う絶世の美少女が――――」
「それちょっと違うわよ?」
『ワンコ(ちゃん)?』
ヨンパチの説明がどうやら聞こえていたのか、一子は青ざめていた顔を一転して補足する。
「シーマさんは一見美少女に見えるけど、美少年の男の子よ!」
『なん・・・だ、と・・・?』
「あんなに美人なのに男ぉ!?誰得だよっ、チッキショォオオオオオオ!!」
ヨンパチを始めとするクラスの数名の男子諸君は、打ちひしがる。
しかし得する者は存在するのだ。
「マジ?やっべ、押し倒して速攻食いに行かなきゃ系!」
「アンタは少し落ち着きなさいよ・・・。そもそもSクラスに入った奴よ?相手してくれるかも解んないんだしさ。――――それにしてもワンコの知り合い?」
「うん。士郎さんの家に住むようになった新しい住人さんの1人で、お姉様曰く『壁越え』って言ってたわ!」
「凄く強い人なんですね。それにしてもワンコちゃん、衛宮先輩の家で態々勉強教えてもらっているんですか?」
甘粕真与こと委員長からの質問に、先ほどの事を思い出さずに簡潔に答える。
「時々ね?それ以外は士郎さんがアタシの為に一日でも早く今の授業に追いつけるようにってために作ってくれた特製ドリルをやってるわ!」
「犬はいいなぁ!勉強とは言え、サムライたる衛宮先輩から教えを請えるなんて!」
「でもワンコ大丈夫なの?毎日毎日新しい武術鍛錬の師匠さんからの稽古終わると、何時もぐったりしてるじゃない」
「ヒィッ!?そ、そそそそそそそそ、しょれはははははあばばばばばば!!?」
『ワンコ!?』
先程の青ざめる姿が可愛く見える程に、一子は恐怖に震え上がる。
それを少し離れた席で机に倒れるように突っ伏している源忠勝ことゲンさん・ゲンは、枕代わりに使っている腕から僅かに覗き見をしていた。
(一子・・・。修業好きのアイツがあんなに怯えるなんて・・・。衛宮先輩のとこだから度は超えてないだろうが・・・少し探ってみるか)
新ジャンルの健康的なツンデレ不良は、大切な幼馴染の身を心配して行動しようと決意するが、取りあえず今は時間ギリギリまで寝る事にするのだった。
-Interlude-
昼休み。
川神学園でその時間帯は確率的に一番人気がなさそうな場所にて、士郎とシーマの2人だけが来ていた。
「さてマスター、遺言はちゃんと書き残して来たのだろうな?」
今こうして2人だけでいるのは、シーマの入るクラスが違う事についてだ。
しかし本人は笑顔ではあるが、文字通りに怒髪冠を衝く如く憤激に駆られている。
それ故、自分のサーヴァントから殺気を受けている当の士郎は、情状酌量を求めていた。
「頼むから説明を聞いてくれ・・・」
「ほぉ?今になって世迷言をほざくとは、余を楽しませる趣向をさぞ自信があるのだな?」
「楽しめるかは知らないが決定的な事がある」
「・・・?」
士郎の言葉にシーマは、未だに怒り続けたまま怪訝さを露わにする。
しかし士郎は遠慮なくそれを言う。
「シーマの背の低さじゃどうあっても3年は厳しい」
「なん・・・だ、と・・・!?」
「あのクラスや隣の2-Fなら似たような学生もいるし、何とか二年生で通せるだろうが3年では厳しすぎるんだよ。表面上の理由としては」
「背の話を持ち出すだと!?卑怯ではない・・・・・・・・・・・・表面上?」
最初の怒りは収まったが別の理由で激昂するも、士郎の最後の言葉に喰いつく。
「本当の理由は2-Sの位置にあるんだよ。あの教室は本校舎内でも縦横から見てもほぼ中心位置にあるんだ。そんな処に居てくれればいざ何かあった時、俺を守りに行こうが他の生徒を守りに行こうと選択肢が多く取れるんだ。真名は未だに判らず仕舞いだが、ステータスは高いしこれでも頼りにしてるんだぞ?」
「そ、そう言う理由なら仕方ないが、だったら最初から言えば余も士郎に怒りをぶつけようなどと思わなかったのだぞ?」
頼りにしていると言う言葉が余程嬉しかったのか、照れながらもあっさり納得した様だ。
実際は単なる偶然に即興の理由付けした結果論でしかないのだが、シーマは兎に角機嫌を取り戻した。
これに態々、溶鉱炉にニトログリセリンを入れるかのようなネタばらしをするなど、今の士郎にそんな度胸は無かった。
そんな2人の会話をある程度ではあるが、盗み聞きしている者がいた。
それは百代だった。
位置的にはかなり離れているが、こんな事の為に本来使うべきでは無い川神流の特殊な技を使って、2人の密談内容を聞き取っていた。
ファミリーメンバーや友人、自分のファンである女の子たちと遊ばずにそんな事をしている自分に、全く疑問を感じずに。
(別にあんなところで男2人だけで話さなくてもいいだろうに・・・。――――と言うか“マスター”って何だ?それに“いざという時”って、如何いう会話だ?)
ただ2人の会話内容を盗み聞きしても今はまだ、百代には理解できずにいるのだった。
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