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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第22話『開幕』

 
前書き
そろそろ初期設定が破壊しそうになってきました。
そして2週間期限ぶっ飛ばしました。
更には夏休み入りました。

皆さん、熱中症にはお気をつけて(←関係無い) 

 
暁君が魔術を会得してから幾日か経った。
いよいよ明日にまで体育祭の日が近づいている。
初めての中学校での体育祭。しかもあの学校でとなると面白いことになりそうだ。


・・・ちなみに今は、その明日のことを智乃と話している。
時刻は午後9時。そろそろ寝たいのだが、どうやらそうもいかないらしい。


「お兄ちゃん頑張ってね! 応援行くから!」


その言葉に俺は愛想笑いを返す。
だって『部活戦争』に俺が出場するなら、家族の前で俺が魔術部所属ってことがバレるんでしょ? 家族とはいえ、それはちょっとなぁ…。


「あぁ、わかったから寝させてくれ。明日は大変なんだから」

「ぷぅ~」


智乃は構ってもらえなかったことに不満を持ったようだったが、納得したのか「頑張ってね」と一言残し、自分の部屋へと帰っていった。

『大変』というのは間違いではない。
部活戦争も原因の一つだが、そもそも他の競技にも出なければならない。


「考えても仕方ないか…」


俺はベッドに寝転んだ。
明日になれば全て始まる・・・。







「おいおい、またかよ…」


俺は独りでに呟く。
周りには、今までに二度見たことのある草原が広がっていた。
今度は記憶もハッキリしていたし、これが夢だということもわかっていた。
でもやはり、今回も前回と違うことがある。


身も凍る程の冷たい雨が降っていた。


夢の中なのに冷たいと感じるのはこれ如何に、とは思うが、それはこの夢が普通のものとは異なるからだろう。
黒く曇った空を見上げ、顔を雨粒で濡らしながら物思いに(ふけ)る俺。
何度もこのような経験をしながら、この夢の意図が全く分からない。
特に二回目に出てきたあの人。あの人は結局誰だったのだ? 顔が最後まで見えなかった。


「雨…か」


一回目は晴れ。二回目は曇り。三回目…今回は雨。
まるで、ドンドンと天気が悪くなっているようではないか。
これが何を指し示すのか、いや、そもそも何かを指し示しているのか。
たとえば、何かの前兆を知らせていたりとか・・・







最悪の目覚めだ。
そんな俺の気分とは対照的に、空は雲が一片も見当たらず、今日は快晴であるとわかる。だがまだ早朝なのか、少し暗い。
窓を開けて外をみると、誰も居ないかの様に静かで、5月にしては涼しかった。

さて、昨日から今日に架けて見た夢。内容は完璧に覚えている。あれが何に関係するのか…。


「ん…、さすがに早く起きすぎたか…」


伸びをしながら呟く俺。
時刻はまだ午前5時。
体育祭の準備で親が忙しくなる時間帯といったところか。
選手である俺はもう一時間は寝てても良いのだが…。いや、起きるか。



やけに家が静かだ。
俺が一階へ行こうと階段を降りているとき、その音が家中に響いたため、俺はそう思った。
もしかすると、母さんらはまだ起きていないんじゃないか?

・・・起きていない方が好都合か。俺の魔術部所属はあまり明かしたくない。あの部活の雰囲気はとてもじゃないが不思議すぎる。だから、そんな部活に入っているから、と心配されるのは心外なのだ。


「暇だし、もう行くか」


俺は朝食の準備を始め、まだ早いのだが学校へ行くことにした。
別に生徒が早く来ても何の問題もないだろうし、向こうにいれば家族と余計な会話をしなくて済む。
それに、時間を気にしなくてもよくなるから楽だ。





「いただきます」


朝食を軽く作った俺は、すぐに食べ始める。
ちなみにメニューはご飯、味噌汁、牛乳、そしてデザートにバナナといった所だ。和食の中にバナナのチョイスはどうかと思うが、バナナは体育祭の必需品とも呼べる代物だ。これは外せない。





「ごちそうさま」


早々に食べ終わった俺は、いよいよ学校へ行く準備を始める。
必要なものは水筒とタオルと後は・・・まぁそれくらいしかないか。


「行ってきます」


そして誰も起こすことなく、俺は静かに家を出た。







「やっぱ誰も居ないよな」


学校に着いたが、周りに見えるのは学校の建造物と数名の誰かの親と先生方。生徒の姿なんて一つも見当たらなかった。


「さて、どこへ行こうか」


だがその言葉を言うよりも早く、俺の足はある場所へ向かっていた。


『魔術室』


──と、書かれている看板がある教室の前に、俺は立っていた。
やっぱりここが俺の居場所である。しばらくはここで過ごすとしよう。

俺は扉に手を掛け、いつもの様に開いた。


「よう、三浦」


こちらを振り返りながら、クールな声で呼びかけてくるクラスメートが、部室には居た。
しかもよく見ると、部室に居たのはその一人だけではない。


「ホントにこのメンバーで大丈夫なんでしょうね?」

「俺の頭脳に狂いはない!」

「じゃあ俺の頭脳と勝負しますか?」

「おっと暁、それはまた今度な」


暁君に部長に副部長。俺以外に魔術を使うことのできる三人が、既に部室に揃っていた。
相も変わらず口論をしていたようだが、今回は暁君も混ざっている。


「何でこんなに早く…?」


俺はたまらず思ったことを口にする。
すると部長はあっさりと答えた。


「偶然偶然。暁やお前も早く来たのは驚きだわ」

「ちょっと、何で私は予想通りなのよ!」

「お前はいつも学校に来るのは早いだろうが」


あーあー、これじゃ焼け石に水だ。俺は何も喋らない方がいいかな?


「あ、それはそうと、三浦。部活戦争の説明はわかったか?」

「貰ったプリントですね。ちゃんと読みました。やっぱり、部長が言ってた説明とは違いましたね」


俺は部長にそう告げた。
最初の部活戦争のことを聞いたあの日、タイミングよく説明のプリントを学校から配られたのだ。
にしても、変なルールだったな…。


「じゃあ確認の意味で、ここにあるプリントをもう一回見るんだ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 通称:部活戦争について


参加人数…1つの部活につき1チーム
     メンバーは入部している4名

戦場…校舎全体と体育館と中庭
   グラウンドは観客席以外の箇所で

競技時間…17:00~19:00 (2時間)

単純なルール…1人倒す毎に部費獲得


*詳細*
○メンバー
・それぞれの部活の部員より4人選出
・そのメンバーの内、1人をリーダーとする(部長かどうかは問わない)
・チームのリーダーを知っているのは、そのチームのメンバーのみ(他のチームは他のチームのリーダーを知らないまま競技開始)

○スタート
・スタート地点は部活ごとに異なり、それぞれの指定場所から開始する

○戦争中
・敵を1人倒すごとに10万円の部費を入手。なお、リーダーを倒せば50万円入手できる
・倒されたら、それまでに得ていた部費は半減
・倒された者の復活はない
・『〇〇が△△を倒した』等、判断するのは運営側(審判、監視カメラ、ドローンカメラ等により)
・敵を倒す手段は肉弾戦かチーム(部活)が所有する道具だけである。それ以外の関係ない物は使用禁止とする
・チーム全員が倒れた場合は失格となり、得た部費はさらに半減される
・校舎の破壊は構わないが、修理代は部費から払われるので注意
・部費は他チームから奪われることはなく、チーム全員の部費の累計がその部活の得た部費となる

○終了
・スタートから2時間経過すると終了の合図が出される。その瞬間競技は終了とし、集めた部費は後日与えられる
・チームごとに敵を倒した数を総計し、その数の多い方から順位をつける。その順位によっても部費が与えられる(1位は1億円、最下位で10万円)


*順位について*
敵を倒した数が多いチームから1位、2位…とつけられる。ちなみに失格したチームは最下位で統一である。もし倒した数が同じで順位が同じになるチームらが有るならば、残ったメンバーの数やら集めた部費やらで順位を決める。


*失格の条件*
・チーム全員が倒れる
・運営が失格だと判断した時(過度の暴行など)→その選手のみ強制失格


作戦は自由。あくまで人を傷つけるために行う競技ではないことを自覚して、競技に参加すること。
なお、この競技に団色は一切関係ない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まぁちゃんと読んだとはいっても、わかりにくいんですけどね…」


俺はため息をつく。
こんな競技を生涯でやることになるとは思わなかった。てっきり漫画の中であるような話だとばかり思っていた。
しかも非現実過ぎる内容なのに、よくここまでルールを決めたな。ある意味凄い。


「その内慣れるだろ、たぶん」

「まぁ無傷で終わるとは思えないわ」

「そうなりますよね…」


何か絶対“罪悪感”的なやつに襲われる気がする…。
つか、人を傷つけるためには魔術は使いたくないよ?


「三浦、その顔を見ればお前が何を考えてるかなんてバレバレだ。安心しろ、秘策がある」

「え?」


俺の心が読まれたということも有るが、部長が秘策があると言った事に、俺は驚きの声を上げる。
つまりは、魔術を使わずに相手を戦闘不能にする方法ってことか?
暴力…もダメだよ?



「てってれー♪ 魔術製拘束テープ!」



急な聞き慣れた音楽に続いて、部長が取り出した白いセロハンテープの様な物を見た俺ら三人は真顔になる。てか引いた。


「部長、一応訊きますが真面目にやってます?」

「おう!」


俺の質問に部長は即答する。
なぜか誇らしげにしているのが気になる。


「実はこのテープは結んだモノの行動を制限するんだ! よって、これを敵の体のどこかに結べば、ソイツは拘束され戦闘不能…という算段だ」

「おぉ!」


それを聞いた俺は納得した。それなら安全に勝てる!と。
だが現状は甘くないようだった。


「結べばいいって…それなら結ぶまではどうするんすか?」

「「あっ…」」


俺と部長の声が見事に被る。
そうだよそうだよ。結局テープ結ぶには、相手にそれなりの隙を与えなくちゃいけないじゃん!


「そ、そいつは魔術で何とか…」


そして部長は魔術に頼り出した。
今の部長は正直言って情けない。


「それにアンタの発明品でしょ? ちゃんと効くのかしら?」
「それに関しては問題ない! 二年生に協力してもらって確かめた!」


いやいや! ダメでしょ実験台に自分の後輩使ったら!?
まぁ効果がホントに有るなら良いんだけど…。


「どうだかね~」


まだ疑う副部長。随分と疑り深いんだな。
てかこれ、部長を馬鹿にしているってことか?

そんな考えを張り巡らせていると、部長が衝撃の一言を放った。


「まだ疑うか。じゃあお前で試してやるよ」

「へっ!?」


あまりの発言に副部長が驚く。
そして部長は続けた。


「さっきからグチグチ言ってるけど、要するに体験しないとわかんないって事だろ? お望み通り、身を持って味わえ」

「え、いや、ちょっ──」



有無を言わせず、部長は副部長の手首を手錠の様にテープで縛った。
すると、何ということでしょう。
副部長が急に大人しくなりました。体だけは。



「放してよ!」

「やなこった。ちなみにこのテープは、俺の能力(アビリティ)の一部である“麻痺”の力を埋め込んで作ったもので、動きは封じるけど口は封じない設計なんだよね~。だから精々足掻いてな♪」


部長はノリノリでテープの説明をする。
だが副部長が黙っている訳がなかった。


「はいはい、アンタの発明品の凄さは分かりましたから・・・放しなさいよ!!」


結局は「放せ」の一点張りな副部長。
すると部長は煩わしいと言わんばかりの勢いで、こう言った。



「うるせぇな。襲うぞ?」



途端、副部長が顔を赤らめて黙る。何かに困惑しているといった様子だった。

まぁ「襲う」という危険なワードに反応するのも分かるよ。俺も熊に襲われた訳だし。
あ、でもそれに顔を赤らめるような要素が有るか? 不思議だ。


それ以降、体育祭が始まるまで副部長は、何かをブツブツと恥ずかしそうに小声で言っていた。





「体育祭開催まであと1時間ってとこか。よし、暁、三浦、最終調整するぞ」


部長が時計を見ながら呟く。
確かに時間が結構経ったから、今では登校してくる子も何人か確認できる。


「暁も三浦も“魔術の調整”を頼む。拘束に行き着くまでには結局魔術が必要みたいだし。何かしらで敵に隙を与えるような使い方を考えててくれ。プログラムの中では最後の競技だから、何とか体力と魔力を残しとけよ」


部長が二言三言俺らに言う。
しかし、その言葉のある部分に俺は引っ掛かり、部長に質問した。


「え、通常競技で魔術を使うんですか?」


部長が言った「魔力を残しておけ」というワードが、俺は気になった。体力ならまだしも、魔力は関係ないのではなかろうか。


「ん? 考えてなかったのか? 競技で魔術を使うってこと」


部長は堂々と言った。
つまり、徒競走やら綱引きやらを魔術を使って勝負するということだろう。でもそれって・・・


「ズルじゃないんですか?」


魔術を使って勝負に勝つっていうのは、正直反則ではないかと俺は思う。皆は魔術を使えないのに俺だけ使うなんて、不公平というものだ。


「ズル? 何言ってんだ。魔術だって実力の内だ。足の速い奴、頭の良い奴、才能のある奴・・・コイツらと何が違う?」


屁理屈に聞こえるけど、一理ある気がする。
部長のロマンチック理論には敵わないな…。


「とりあえず、今日は魔術部の晴れ舞台だ。スマートにやってくれよ!」

「「はい!」」


俺と暁君の返事が揃う。やるっきゃねぇな!!

…えっと、“スマート”ってどういう意味だっけ…?







パンパパン!!


いよいよプログラムが開始する、という合図の爆竹が鳴り響く。だだっ広いグラウンドには全校生徒300人以上が揃っていた。そして各々、赤、青、黄、緑のいずれかのハチマキをしている。
ただ、規模は普通の中学校とさほど変わらないのであろうから、ただただ広いグラウンドが目立った。


「晴登、目指すは優勝!だよな?」

「おう!」


大地が鼓舞するためか声を掛けてきた。
ちなみに俺のクラスの1組は赤団だったりする。


「無駄に意気込んじゃって~。負けた時の後悔が大きくなるだけだよ?」

「出鼻を挫くようなこと言うんじゃねぇよ…」


すかさず莉奈が何気に酷いことを言う。
うん、絶対コイツは学級委員に向いてない。


「1組集合!」


すると、今度は山本先生から召集が掛かる。
何か今日は既に忙しいな…。


「えー、皆は中学校初めての体育祭だ。是非優勝をとって、今後の生活を有意義にしよう! 全力で頑張ってくれ!」

「「「はい!!」」」


1組の全員の声が重なる。
それにしても、こういう短い話は好きだな。さっきの開会式の校長の長々とした話よりは圧倒的に良い。
校長の話が長いってどこも共通なんだね…。


「ちなみに最初のプログラムは君たちの『100m走』だ。最初が肝心だぞ!」

「「はい!」」


100m走か。インドア派の俺にとっては100mですら長距離なんだよな…。
まぁでも、今回は秘策が有るんだ!


「頑張りなよ、三浦」

「副部長」


不意に後ろから声を掛けられたため、俺は振り返る。
するとそこには、赤いハチマキに赤い大きな旗を持つ、副部長の姿があった。

何を隠そう、副部長は赤団団長である。

仕切るのとか上手そうだし、うってつけではないだろうか。


「アンタの作戦はバッチリよ! 自信持っていきな!」

「はい!」


熱い応援を掛けられ、力が入る俺。やっぱ焔使いの言葉は違うな~。
ちなみに、作戦というのは次の100m走においての魔術についてだ。我ながら良い作戦だと思う。しかもシンプルだし。


「行ってきます、副部長!」


俺が元気にそう言うと、副部長は安心したような笑みを見せた。


「晴登、もう行くぞ」

「最下位だけは勘弁ね」


俺の横を通り過ぎながら、大地と莉奈は言った。
やるからには全力でやらなきゃな!


「おう!」


二人に返事をした俺は入場するべく、門へと走った。

 
 

 
後書き
部活戦争のルールをザッと書きましたが、きっとどこかで矛盾が生じる、又はもうちょい詳しく、という事が有ると思います。なので、その場合は指摘頂けると嬉しいです。
部費の基準が自分には分からないんで、10万円とか50万円とかは「こんくらいか?」などと適当に決めました。1位が1億円はやり過ぎかなと思いますが、ここは二次創作だと割り切ります。

さて、題名で『開幕』としたのは良いが、何一つ競技に入んなかった(笑)
次回入りますんで…。

部活戦争は次の次くらいだと予想していますが、大抵俺の予想は外れます。
夏休み中に何話書けるか不安ですが、是非読み続けて頂けたらと思います! 
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