覇道を捨てて
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第一章
覇道を捨てて
昔々のドワーフの国のお話です。
ドワーフの王様は自分の金や宝石で飾られた玉座からです。こう家臣達に言いました。
「我が王国は地下にありだ」
「はい、こうして様々な宝石で飾られています」
「それに金も銀も幾らでもあります」
家臣達は王様に答えます。見れば王様が今いるそのお部屋も宮殿もです。金や銀、宝石で飾られて眩いばかりです。
地下にあるというのにその輝きで全く暗くありません。ドワーフの国はとても豊かです。
けれどです。王様はこう家臣達に言うのでした。
「しかしだ。我等は地上にも出たい」
「では上にあるですか」
「エルフの王国を」
「そう、攻めよう」
これが王様の考えでした。
「そしてエルフ達を制圧してだ」
「そのうえで、ですね」
「あの緑の森を我等のものとしますか」
「そうしよう。あの森はとても奇麗だそうだな」
そのエルフの森のことをです。王様はです。
黒い目を輝かせ髭だらけの顔を綻ばせてです。こう言うのでした。
「緑に満ちて果物が一杯あって」
「そして青く澄んだ湖があります」
「日差しに月の光がいつも差し込めているそうです」
「それがエルフの国らしいです」
「是非欲しい」
王様は目を輝かせたまま言います。
「では攻めよう。すぐにな」
「はい、斧を構え鎧兜に身を包み」
「エルフの国を攻めましょう」
「そうしましょう」
家臣達も王様の言葉に笑顔で応えます。ドワーフの王国はエルフの国を攻めることになりました。そしてです。
エルフの国ではです。緑の木々をそのまま使った香りさえ漂うその王宮の中で、です。とても奇麗な絹よりも贅沢な衣を着たエルフの女王様がです。家臣達に言っていました。
「ドワーフの王国ですが」
「金や銀で満たされているそうですね」
「そして宝石も色々なものが好きなだけ採れる」
「しかも温泉が湧いていて何時でも入られるとか」
「雨を避ける必要もないとか」
「素晴らしい場所ですね」
エルフの女王様はその切れ長の緑の瞳を綻ばせて自分の家臣達に述べます。
「そうした場所はです」
「是非共ですね。ここは」
「攻め取りそしてです」
「その富を全て我等のものにしましょう」
家臣達も目をきらきらとさせて女王様に言います。その緑の宮殿の中で。日差しも入りとても奇麗です。
その宮殿の緑の玉座からです。女王様は言いました。
「では戦争の用意を」
「はい、弓を出し魔法の書を出し」
「ドワーフの国を攻め取りましょう」
「そしてその富を我々のものとしましょう」
エルフ達も戦争の準備に入りました。こうしてです。
お互いに戦争をして奪い合いをはじめようとしました。しかしです。
その彼等のところにです。たまたまです。
人間の吟遊詩人がやって来ました。紅い帽子に上着をマントを羽織っています。ズボンは黒でとても目立つ格好です。その手にはハープがあります。
詩人はエルフの国に来てです。そのものものしさを見てこう言ったのです。
「戦争でもするのですか?」
「はい、今からドワーフの国に攻め込むんです」
「そしてドワーフの金や銀、宝石を私達のものとするんです」
「その為に今こうしてです」
「用意をしているんです」
「おやおや、それはまた無意味ですね」
エルフ達の言葉を聞いてです。詩人はです。
肩を竦めさせてです。こう言ったのです。
「そんなことをしても何にもなりませんよ」
「えっ、何にもならない?」
「それは何故ですか?」
「戦争で奪い取っても多くの人が死んで恨みが残るだけですよ」
詩人は笑ってエルフ達にお話します。
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