STARDUST∮FLAMEHAZE
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第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#9
闇夜の血闘 紅の魔術師VS幽血の統世王 ~Darker Than Darkness~
【1】
腕の良い職人の手が行き届いた池泉回遊式庭園。
琳とした空間に鹿威しの音が響き渡る。
その池に架けられた石橋の向こうで、壮麗なる淑女が可憐な鼻歌を奏でていた。
「カモン♪ ベビィ♪ ドゥーザ♪ ロコモーション♪」
皺一つ無い真珠のような艶やかな肌に、母性に満ちあふれた女神のような美貌。
嫋やかな体つきのスーパーモデル顔負けのスタイル。
客観的には、とても日本人離れした長身の息子がいる一児の母には見えない。
「あ!」
その淑女、空条・ホリィ・ジョースターは脳裏に走った直感に想わず
床の間の机の上に置かれた写真立てへと視線を向けていた。
その中に映った最愛の息子は口元に精悍な微笑を浮かべ、
凛々しい視線をこちらに向けている。
「今、承太郎ったら学校で私のこと考えてる……♪
今……息子と心が通じ合った感覚があったわ♪」
そう呟くとホリィは家事の手を一時休め、その写真立てを胸の中に掻き抱く。
そこに。
「考えてねーよ」
「学校行ってないものね」
「残念だったな奥方」
いきなり上がった三者 (?) 三様の声。
「きゃあああああああ!」
淑女は当然の如く無防備な悲鳴を上げた。
写真立ての中とはうって変わって最愛の息子は、
不機嫌な仏頂面で自分を睨んでいる。
「!?」
その息子の肩には、コートのような裾の長い学生服を着た
全身血塗れの少年が担ぎ上げられていた。
「じょ……承太郎……それにシャナちゃん……
が、学校はどうしたの? そ、それに、その、その人はッ!?
血、血が滴っているわ! ま、まさか、あ、あなたがやったの!?
承太郎ッ!?」
その質問には答えず承太郎はホリィに背を向ける。
「テメーには関係のないことだ。オレはジジイを探している……
広い屋敷は探すのに苦労するぜ。茶室か?」
「え、ええ。そうだと思うわ」
確認すると承太郎は血だらけの少年を肩に担いだまま
檜の床を踏み鳴らして行ってしまった。
「……」
ホリィは、その背中を心配そうにみつめる。
だから、目の前の少女の見上げるような視線に気づいたのはその後だった。
「あ、あら? な、なぁに? シャナちゃん?」
幼い外見に不相応な凛々しい顔立ちと視線だが、
何分長身のホリィからすると小さいのでどうしても子供に話しかけるような
口調になってしまう。
何よりその瞳に宿る色が昔の承太郎を思い起こさせたせいかもしれない。
「ごめんなさいね。新しい学校だもの。一人じゃ心細いわよね。
学校には私の方から連絡を入れておくわ。今日は家でゆっくりしていて。
あ、お昼ご飯は何が食べたい? 何なら昨日みたいに外へ行きましょうか?
パパと承太郎も誘ってね」
「……」
ホリィのその言葉を聞くだけ聞くと、シャナはおもむろに口を開いた。
「他人の家族の事に口出しするのは、趣味じゃないんだけれど」
と、まず前置きし。
「ホリィはこの件に関わらない方が良い。冷たい言い方になるけど、
出来る事ないと思うから。信じられないかもしれないけど、
あの血だらけのヤツは私と承太郎を 「殺し」 にきたの。
承太郎やジョセフと同じ 『能力』 を持った人間。
だから、死にたくなかったら何も知ろうとしないことが得策よ。
アイツもそれで何も言わなかったんだと想うし」
「……」
ホリィは黙って、目の前のシャナを見つめていた。
「殺す」という言葉に驚かなかったと言えば嘘になるが、
目の前の圧倒的な存在感を持つ小柄な少女は、
どうやら彼女なりに自分の事を気づかってくれているらしい。
不器用だが、そのやり方が承太郎と似ていたので想わず優しい笑みが
淑女の口元に浮かんだ。
「ええ。解っているわ。あの子は本当はとても優しい子だもの。
今回の事だってきっと、私には解らない「理由」が在っての事なのよ。
母親の私が信じてあげなきゃね」
「優しい、ね」
その言葉に、何故かシャナは素直に同意出来ない。
脳裏に、見ず知らずの女生徒のため全身血塗れになりながら
花京院と闘った先刻の姿が浮かんだ。
苦痛に耐えながら、己の存在の力を削ぎ取っている姿も。
血糊はトーチで消したので今愛用の学制服は新品同然になってはいるが、
その内の傷痕はまだ生々しく残っている筈だ。
「……」
押し黙るシャナの遙か向こう側から、
「おい」
凄味のある呼び声がかかる。
「はい?」
反射的にそう答えたホリィの視線の先、中庭に設置された花壇を挟んで
振り返った承太郎が鋭い眼光でこちら見ている。
「今日は、あんまり顔色がよくねーぜ。元気、か?」
「……ッ!」
その承太郎の言葉に、ホリィはまるで初恋の少女のように
顔を赤らめ、まだ持っていた胸の中の写真立てをより強く抱きしめると、
「イエ~~イ♪ ファイン! サンキュー!」
と笑顔で愛らしく手の平を広げたピースサインで応えた。
「フン」
鼻を鳴らして再び背を向ける承太郎を後目に、
「ほらね♪」
と、ホリィは満面の笑顔でシャナに向き直る。
「まぁ、そういう事にしておくわ」
「我は奥方の賢明な育て方の賜だと」
短くホリィに答えると同時に、何故か胸元から上がった声に
シャナが視線を落とす。
「あ、いや、うむ……」
心なしか少し熱くなったペンダントの中で紅世の王、
天壌の劫火は咳払いをして押し黙った。
「オイ! シャナ! モタモタしてんじゃあねー!
後で文句垂れても聞いてやらねーぞ!」
遠くになった承太郎が再びこちらを振り向いて叫ぶ。
「うるさいうるさいうるさい! 誰の所為だと思ってるのッ!」
シャナは承太郎に向かってそう叫び返し、足下の床を鳴らして踏み切ると、
軽々と跳躍して中庭を飛び越えた。
【2】
「だめだな、これは」
ジョセフは、茶室の畳の上に寝かされた花京院を見下ろした。
「手遅れじゃ。この少年はもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」
「……」
「死ぬ」 という言葉に、承太郎の視線が尖った。
「承太郎、お前のせいではない。見ろ。この少年がなぜ?
DIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか? その理由が、 」
そう言ってジョセフはいきなり花京院の茶色い前髪を右手で捲り上げた。
「ここにあるッ!」
(ッッ!?)
花京院の、額の表面に、何か、異様な「物体」が蠢いていた。
弾ける寸前の木の実のような形をしているが、
まるで生物のように微細な脈動を繰り返している。
その 「物体」 の触手らしき部分が、花京院の額中央部に埋め込まれ、
一部は皮膚と癒着していた。
「……なんだ? この動いている、クモみてーな肉片は?」
その承太郎の問いに対し、シャナの胸元のアラストールが答える。
「それは、彼の者の細胞からなる『肉の芽』、 この小僧の脳にまで達している。
この 『肉の芽』 は生物の精神に影響を与えるよう脳に打ち込まれているのだ」
そのアラストールの説明を、棕櫚の磨き丸太の柱に背を預けたシャナが
腕組みをしながら補足する。
「つまり、 「コレ」 はコイツを思い通りに操る「装置」なのよ。
常に脳に刺激を与え続け、“自分を心酔し続けるように” 精神操作を行ってるの。
コイツの養分を吸い取りながら動いてるから殆ど永久機関と変わらないわね。
時間をおけばおく程効果は増大していって、最終的には自分の命令を麻薬のように
追い求める 「奴隷」 の一丁上がりってわけ」
「手術で摘出すればいいだろう」
「それが出来たら苦労しないわ。
コレは脳の中の一番デリケートな部分に打ち込まれてる。
摘出する時ほんの僅かでも触手がブレたら、
脳はクラッシュしたまま永遠に再起動しなくなるわよ。
何より外科医は “封絶” の中じゃ動けないしね。
そこまで計算して “アイツ” はコレを生み出したのよ」
「アイツ?」
想わぬシャナの言葉に、承太郎の瞳が訝しく尖る。
「 “アイツ” とは、一体どういう意味だ?
まるで “会った事がある” みてぇな口振りだな?
アノ男……『DIO』 のヤローによ」
「……ッ!」
承太郎のその言葉に、シャナは俯いて言葉を閉ざす。
「……」
「……」
そして舞い降りる、沈黙の帳。
それをアラストールの厳粛な声が開く。
「空条 承太郎よ。実は、このような事が在った……」
シャナの代わりに、胸元のアラストールが静かな言葉で語り始めた。
「ほんの四ヶ月ほど前……我らは北米の地で、彼の者、
『幽血の統世王』 と邂逅したのだ」
「何ッ!?」
アラストールのその言葉に、承太郎が両眼を見開く。
(……ッッ!!)
追憶の欠片が、少女の脳裏に甦る。
シャナは、思い返していた。
自分の受けた 「屈辱」 を。
【3】
それは、ニューヨークのスラム街で犯罪者の魂を好んで喰らう
紅世の徒を討滅した帰りの事だった。
売店でクレープを買い目元と口元を綻ばせながらジョースター邸への
帰路についていたシャナの前に、その男は何の脈絡もなくいきなり現れた。
まるで、定められた運命であるかの如く。
人気のない路地、煌々と点る夜の街灯の下にその男は背を凭れ、
両腕を組んで静かに立っていた。
心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し。
黄金の美しい頭髪。
透き通るような白い肌。
男のモノとは想えない妖しい色気が、首筋に塗られた
成分の解らない香油によって増幅されている。
華美な装飾はないが良質な絹で仕立てられた、
古代ペルシアの王族がその身に纏うような衣服を着ていた。
(!!)
シャナは、すぐに解った。
その時はもう既にジョセフと知り合っていたので
こいつが大西洋の海の底から甦った男、
『DIO』 だと。
「……」
月影に反照し官能的に光る口唇をおもむろに開くと、
その男は静かにシャナに向かって話し始めた。
「古き友を訪ねてこの地に来たが……まさか君と逢えるとはな……
初めまして 『紅の魔術師』 ……いや……
“炎髪灼眼の討ち手” と言ったほうが良いのかな……?」
「ッッ!?」
その男を、 “本当に恐ろしい” と想ったのはその時だった。
男が話しかけてくるその言葉は、心が安らいだ。
まるで魔薬のように危険な甘さが、そこには在った。
しかし、 “だからこそ” 恐ろしかった。
「全く驚いた……私の配下の 『スタンド使い』 を始末した魔術師が……
まさか本当にこんな可愛らしいお嬢さんだったとは……」
「ッッ!!」
DIOの言葉が終わる前にシャナは足裏を爆発させて跳んでいた。
刹那に身を覆った黒衣の内側から抜き出した大太刀、
贄殿遮那が空気を切り裂く空中で髪と瞳が炎髪灼眼に変貌する。
「でやぁぁぁぁッッ!!」
「フッ」
至近距離で唸りを上げながら迫る、大太刀刺突の一閃。
ソレが、DIOの姿を刺し貫く瞬間。
そのDIOの全身が、まるで陽炎のように揺らめいたかと想うと、
一瞬でその躯が今度は蜃気楼のように左右にブレ、そこから姿を消した。
「……ッッ!?」
眼前で起きた怪異に困惑したまま、滑りながら道路に着地したシャナの
黒衣の裾が舞い上がり、深紅の髪が火の粉を撒く。
「性急な事だ……」
「!!」
見開かれる、灼熱の双眸。
そのシャナの 「背後」 に、いつのまにかDIOが立っていた。
まるで異次元空間から、たったいま抜け出してきたかのように。
或いは空間を飛び越えて、「瞬間移動」 でもしたかのように。
「クッ!」
シャナは目の前の状況の分析しながらも、
素早く足裏のアスファルトを鋭く踏み切ってその男から距離をとる。
鼓動が、激しい警鐘を鳴らし続けていた。
「こい……つ……“こいつ” がッ!?
今! 私の目の前にいるこの男がッ!」
その男は、想像していたよりもずっと美しい風貌をしていた。
だがその男の顔の裏側は、この世のどんな罪人よりもドス黒く呪われていた。
その瞳の奥は、この世のありとあらゆる邪悪を焼きつけ、
王族のように優美なその指先は、数え切れないほどの多くの人間の
死と運命とを弄んできた。
何年も。何年も……
何人も。何人も……
そしてその存在が、いま世界の歪みを増大させている。
「私の目の前にいる! この男がッ!」
「馬鹿な……」
胸元で、アラストールも動揺を押し隠せないらしい。
多くの紅世の徒、例え王であったとしても自分の存在は
なるべく隠そうとするのが普通だ。
自由に好き勝手に暴れ回っていれば、すぐに自分達フレイムヘイズに
その居場所を察知され、残らず討滅されてしまうからだ。
“封絶” も 『トーチ』 も、その事を回避する為に生まれた術。
それなのに、目の前のこの男は、
自分を追っている 『天敵』 の前にあっさりとその身を現した。
「この者が……幽血の……統世王……!」
「DIOッッ!!」
シャナは大刀を両手に構え、大地に屹立した。
燃え上がる灼眼は鋭くDIOを射抜いている。
「封・絶ッッ!!」
その小さく可憐な口唇から勇ましい猛りが湧き上がると共に、
シャナの足下から火線が走り道路の上に奇怪な文字列からなる紋章が描かれた。
シャナとDIOを中心にして、紅いドーム状の陽炎が形成される。
「 “封絶” ……因果孤立空間か。なかなか面白い 「能力」 を持っているね?
君達 “紅世の徒” は。ひとつ……それを私に見せてくれると嬉しいのだが」
穏やかな声に、心臓の凍る思いがした。
しかし同時に、心の一部分がその声に強く惹かれ形を蕩かす。
「……!!」
刹那とはいえ、心を魅入られた自分自身に凄まじい
まさに燃えるような怒りを感じ、風に靡く黒衣にそれを纏わせた。
(この男が! 全ての元凶! 数多くの王を下僕に強いた! 全ての根元ッ!)
燃え上がる使命感にDIOを見つめる瞳が灼熱の煌めきを増し、
髪から鳳凰の羽ばたきのように火の粉が舞い上がる。
(討滅! 討滅する!!)
足元のコンクリートを鋭く踏み切り、紅い弾丸のように飛び出したシャナは
DIOの首筋に向けて空間に残像が映るほど高速の袈裟斬りを繰り出した。
周囲の空気を切り裂きながら、星形の痣が刻まれた首筋に迫る白銀の刃。
意外。
DIOはソレを、あっさりと右手で受け止めた。
戦慄の美で光る刀身が手の平の肉を音もなく切り裂き、骨に食い込む。
「ッッ!?」
驚愕。
全身が燃えるように猛っていても、シャナの頭の中はクールに冷め切っていた。
まさか “手で” 受け取めるとは思わなかった。 当然避けるものと考えていた。
その後の攻防の応酬果てに必殺の一撃を頭蓋に叩き込もうと脳裏に
もう数十手先の動きまで構築していたというのに、
最初の一撃で全て計算が狂った。
速度はあったが様子見程度の撃ち込みだったので、
手は切断されず中程まで食い込み刃はそこで動きを止める。
今まで、こんな敵はいなかった。
どの紅世の徒の中にも。王の中にも。
“贄殿遮那の一撃を真正面から素手で受け止めた相手は”
(こ、こいつバカ!? このまま刀を引き抜けばッ!)
刃の切れ味で、指が根刮 ぎ殺げ落ちる。
考えるのとほぼ同時に身体が動いた。
大刀を掴んだDIOの手を支点にして、
シャナは一瞬の躊躇もなく柄を内側に素早く引き込む。
だが刀身は動かなかった。
まるでその場で “凍りついたように” 動きを止めていた。
「貧弱……」
DIOのその美しい口唇に、絶対零度も凍り付く冷酷な微笑が浮かぶ。
貴公子の仮面に罅が入り、残虐な本性がその姿を垣間見せた。
「貧弱ゥゥゥゥゥゥッッ!!」
いきなり、周囲一帯に白い膨大な量の水蒸気が
暴発したボイラーのように巻き起こった。
大太刀 “贄殿遮那” の刀身を掴んだDIOの手から肘の辺りまでが、
いつのまにか超低温に冷やされた鋼のような質感に変わっていた。
その腕から発せられる冷気に、周囲の全てが凍り付く。
大気が凍り大地が凍り、贄殿遮那が凍った。 封絶すら凍った。
「こ、凍るッ!?」
冷気が刀身を伝達して柄を握るシャナの手にまで侵蝕してくる。
「 『気化冷凍法』 使用うのは実に100年振りだ。
“波紋使い” 以外に使用することもないだろうと想っていたが」
DIOは渦巻く冷気よりも冷たい微笑を浮かべて、シャナの灼熱の双眸をみつめる。
冷気が柄を越えシャナの腕にまで達し、熱疲労でその皮膚が引き裂かれる瞬間。
「ムゥンッ!」
胸元のペンダントを中心にして巻き起こった柔らかな炎が、
一瞬でシャナの躰を包み込んだ。
冷気で柄に張り付いた皮膚を、アラストールが 『浄化の炎』 で解き剥がした。
「!」
アラストールに意識がそれたDIOの手から刀身を引き抜くと、
シャナはその手の温度の上がった部分を足場にして背後に跳躍し
軽やかに宙返りをして距離を取った。
「ありがと。アラストール」
水滴に濡れた手を黒衣で拭い、同じく透明な水で濡れた大太刀を
構え直しながらシャナは言う。
「今のが、彼奴の躯を流れる 『幽血』 の能力、その一端か。
油断するな。まだどんな能力を隠し持っているのか予測がつかん」
「解ってる」
シャナは短く言うと刀身に付いた水滴を一振りで全て叩き落とした。
「……クククククククク、100年間も眠っていたので忘れていたよ。
己の能力を存分に開放する事の出来る、この得も言われぬ充足感。
久しく戦いから離れていたので血が滾るというやつか? フフフフフ……
凍てついた私の血も、君の炎に炙られてどうやら融け始めたようだ」
DIOはその悪の華と呼ぶに相応しき美貌に邪悪な微笑を浮かべる。
「もっと焼べてくれ。深海の底で凍てついた私のこの心に。
君の炎を。君の熱を」
そう言うとDIOは超低温の冷気に覆われた両手を差し出し、
緩やかに構えを執る。
その構えは、華麗にて美しくそして流絶な力強さを併せ持っていた。
そしてそれに劣らぬ畏怖も。
それは、シャナの両手に握られている贄殿遮那と全く同じ戦慄の美。
否、威圧感だけならソレを上回った。
「さあッ! 手合わせ願おうかッッ!!」
そう叫ぶとDIOはいきなりアスファルトが陥没するほど
地面を強く蹴りつけ、一瞬でシャナの眼前に迫った。
「!!」
「UUUUUUUURYYYYYYYYYYYY――――――――ッッッッッッ!!!!!!」
周囲のビルのガラスに罅が走るような狂声を上げながら、
シャナの黒衣を纏った躰に向け凍った掌で貫き手の連打を繰り出してくる。
着痩せして見えるその細身の躯からは想像もつかない、
途轍もない怪力の籠もった撃ち込み。
だが、「砕く」 事を目的とした動作ではない、
明らかに 「掴む」 事を念頭に於いた撃ち方だ。
どこでもいいからシャナの躰の一部を掴み、
先刻の冷気で全身を凍りつかせる為に。
「ッッくぅ!」
素早く複雑な軌道を描く精密な足捌きで、
シャナはその躰を高速で反転させながら
DIOの暴風のような撃ち込みをなんとか躱す。
だが、同時に舞い上がる黒衣の裾にまで気を配らなければならないので
避けづらい事この上ない。
「クハハハハハハハハハハハハハハハハ!! どうした! どうしたぁぁ!!
自慢の炎は出さんのかッ! 逃げてばかりでは永遠にこの私には勝てんぞ!!
もっと私を愉しませろッ!
UUUUUUUUREEEEEEYYYYYYYYYY――――――――ッッッッ!!!!」
更に、DIOの心理状態が微塵も読めないので、次の攻撃が全く予測出来なかった。
貴公子然としていたかと思うと、いきなり何の脈絡もなく狂戦士のような風貌に変わる。
こんな異常な心理を持つタイプには、今まで遭遇した事はない。
「こ、この! 誰が逃げてなんか!」
負けず嫌いの性格故に思わず声が口をついて出るが、
でも確かにDIOの言うとおりだった。
しかし攻撃は出来ない。
どんなに鋭い斬撃を放ったとしても、この男は躊躇せずにまたソレを掴んで
そこから冷気を送り込んでくるだろう。
『浄化の炎』 があるにはあるが、同じ手が二度通用するとは想えない。
それに次は、恐らく胸元のアラストールの方が先に凍らされる。
しかし、今のままだと防戦一方なので永遠に勝機は訪れない。
時間を置けば置くほど回避によって神経がどんどん摩耗していき、
最終的には僅かに生まれた隙から全連撃を一気に捻じ込まれる。
(それ……なら……)
決意の光が灼眼に煌めく。
“遅かれ早かれ擦り切れるならッ!”
「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
己が血を流すことを覚悟した、鋭い猛りがシャナの裡から湧き上がる。
「ッッ!!」
過負荷により神経の電気伝達がショートし、目の奥で火花が弾けた。
だが、その甲斐はあった。
次の瞬間。
贄殿遮那の刀身全体が、渦巻く紅蓮の炎で覆われていた。
火炎が刀身を焼き焦がし、発する熱気が周囲の冷気を全て弾き飛ばす。
すぐさまに横薙ぎの一閃がDIOに向かって放たれた。
ガギュンッッ!!
まるで鋼鉄の門扉に灼熱の破城鎚でも撃ち込んだかのような、
異質で異様な斬吼と共に重い手応えが柄を握るシャナの手に跳ね返ってくる。
「美しい……コレが……君の生み出す “炎” か。マジシャンズ」
胴体に向けて放たれた炎刃の一撃を、先刻同様凍った掌で受け止めた
DIOは、炎に照らされた微笑で応える。
その手の中で、冷気と熱気が音を立てながら互いに弾けていた。
炎と氷の燻った靄が、DIOの内なる火勢を更に煽る。
(いけるッ!)
かなり無理をしたが、シャナのやった事は功を奏した。
受け止められはしたが、今度は冷気が躰に廻ってこない。
これでようやく、こちらからも攻撃出来る。
「おまえをッ! 討滅する!! 幽血の統世王ッッ!!」
シャナは凛々しく激しい瞳で眼前のDIOを鋭く射抜いた。
湧き上がる熱気と共にその全身が火の粉を撒く。
「フッ……」
DIOは、精神の高揚で牙が飛び出した口元に笑みを浮かべると
大刀を掴んだ手を高速で振り払った。
怪力によって飛ばされたシャナは、空中で軽やかに体を返し着地する。
「やあああああああぁぁぁぁぁッッッッッてみろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
青ちょびた面の小娘があああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」
理性の仮面が完全に破壊され、この世のどんな暗黒よりもドス黒い
本性を剥き出しにした邪悪の化身。
DIOは。
凍りついた両腕を広げ、殺戮の歓喜に身を震わせながらシャナに向かって狂叫んだ。
←To Be Continued……
『後書き』
はいどうもこんにちは。
本編そっちのけで最近ではこの「後書き」を書くのが楽しい作者です。
さて、内容的にはDIOサマの話をした方が良いのですが、
今回は敢えてストーリー作品に於ける『母親』というモノに
ついて考えてみましょう。
この『母親』という概念ほど、作者の力量の良し悪しが出るモノも珍しく
ほんの数ページ、或いは数コマでその存在と親子の関係性を
見事に描き切れる人もいれば、
10巻以上もダラダラ書き綴ってその繋がりが微塵も描写出来ない人もいます。
少なくとも「この親子良いな」という想いを読者に抱かせられなければ
そのストーリーは失敗です。
ジョジョについては今更ワタシが説明するまでもないのですが、
三部の『旅の目的』の核であるホリィさんは、序盤にちょこっと出るだけで
後は最後の方まで(4部以降はジョジョリオン(8部)になるまで)
殆ど出てきません。
にも関わらずアノ冷静沈着な承太郎が母親の事にかけては
冷静さを失って取り乱すというコトにより
「親子の関係性」が見事に描写され三部の旅の目的は
「世界を救うため」でも「DIOサマを斃すため」でもなく
『彼女を助ける旅』だというコトがハッキリするのです。
その上での26巻最後の話など正に圧巻の一言でしょう。
このように一番「感情移入」し易い「題材」だけに、
個々の作者の力量が如実に反映されるのです。
さて、というワケでお待たせしました。
(というかコレが楽しみなんでしょ? 今読んでる人・・・・('A`))
「もう片方の方」ですが、アレはハッキリ言って『母親』ではありませんネ。
母親とは“似て非なる存在”母親という皮を被った偽物、
有体に言えば、○ートやオタ○の「妄想」
叱らず怒らず、際限なく甘やかしてくれる
「ぼくのかんがえたやさしいおかあさん」そのものです。
だって初対面の女の子に開口一番言った言葉が
「悠ちゃんになんかされた?」ですから・・・・('A`)
だからテ○ーは一体どーゆー「育て方」してンのだと!(♯`Д)ノシ☆バ-ン
息子との「信頼関係」が皆無な以前に「親としての責任」も放棄、
可愛がってりゃソレでイイという、一部ジョースター卿の爪の垢でも
煎じて飲ませたくなる醜悪さです。
(まだ「ウチの子に限って!」というモンペアの方がマシかもしれません。
叱るべき時にちゃんと叱らず「大切な事」を教えたという
実感が何一つ存在しないから
「息子は決して悪い事をしない」という自信が持てないのです
“家族にだけ解る事”もおそらく存在しないでしょう)
当たり前の話ですが『子育て』というのは遊びではないので
(ワタシに言わせんなよこんなコト・・・・('A`))
「ただ楽しければそれでいい」という甘えは通用しません。
そうでなければ『錠 前』を掛けられた時に
息子を信じるコトが出来ず潰されてしまいます。
三無主義、無思慮、無神経、無責任は
この親からあの○○に受け継がれたモノでしょうが
それにしても幾ら何でもコレはヒド過ぎます。
だから「カワイイから」という理由だけでシャナと一緒に住もうとするのです。
犬や猫じゃないんですから何か月も何年も一緒にいたら当然「楽しいだけ」では
済まなくなります(女子高生のお泊り会じゃないですから)
それこそ幼児と同じ発想で最初はカワイイから可愛がりますが
仔犬や仔猫はあっという間に「成長」するので大きくなると可愛くなくなり
最終的には下の世話すらしなくなるのです。
相手の保護者への説明責任、隣近所周辺区域への説明責任、
学校への説明責任、加え社会的な義務、責務、制約、柵、
ソレら全てを背負う「覚悟」があってアノ女は
「一緒住もう」と言ったのでしょうか?
(別段厳しいコトでもなんでもありません。
「人一人預かる」というのはそういうコトです)
とてもじゃないですがあの「無責任」の権化のような主人公の親というだけで
到底信じられるモノではありません。
正直「大人」じゃない、女子高生がその幼稚な精神のまま「子供を生んだだけ」
本質的な意味では『親ですら無い』のです。
(そういや朝ご飯の栄養バランスも悪いなぁ~・・・・('A`))
おそらく元のモデルは某有名ゲームのキャラクターだと想うのですが、
(イヤ、ワタシ基本的にあーゆージャンルはヤりませんよ、
シナリオが凄いと聞いた時だけ手を伸ばすだけでw)
アレは「久弥 直樹氏」という稀有なシナリオライターの方が生み出した
キャラクターだから成立するのであって、その力量のない者が
その「うわっつら」だけ真似てもロクなモノにならないというのは
上記の例にある通りです。
なのでシャナ原作を読んでいて「この二人良い親子だな~」
と想えないのは当たり前です。だって「親子」じゃないンですから。
『母親』を母親として描けてない以上、
「親子」に成りようが無いのです。
「友達のような親」は親ではありません。
「若い!コレならイケる!」はもっと親ではありません。
兎に角、なんでもかんでも節操なく「萌え」にするな。
「人の生死」や「親と子の関係」など、「萌え」にしてはいけない
題材もたくさん在るというコトです。
ソレでは。ノシ
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