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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第58話16年目の真実

弾side

夜の9時20分、俺と翼とかんなと亜利沙の四人は竜からのメールを見て未来の入院している病院に向かっていた。その途中で竜の兄貴の龍星さんの運転するワゴン車と合流して乗せてもらった。だがーーー

『・・・』

車内に沈黙が漂う。理由はーーーALOで痛覚を現実の肉体まで影響が及ぶレベルで刺激され、痛みに苦しむ竜を看病?しているーーー謎の妊婦。

「え~っと・・・竜、誰なん?その人・・・」

「あ?なんだ、知らなかったのか?」

かんなの質問に対し、竜が素っ気なく返答する。全く知らない人だ。少なくとも竜や龍星さんと一緒にいる辺り、二人の関係者だという事は確かなんだがーーー

「申し遅れました。私は神鳴龍星の妻、神鳴雪乃です」

『・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

「あ、オレと全く同じ反応」

龍星さん結婚してたのか?初め知ったぞーーー

「去年の秋に挙式したんだ。ちなみにもう「リューセー?」・・・ハイ」

「丁度オレと未来がSAOにいた時にだぜ?どう思うよ?この兄貴。正直な感想プリーズ」

『龍星さん人でなし・・・』

「え!?ボクもしかしてディスられてる!?」

ディスるよそりゃ。だって弟と妹が命懸けで戦ってた時に結婚したんだぞ?結婚は人生を墓場とか言われてるけど、もしかしたら弟と妹が一秒後には結婚(ゴールイン)する前に他界(コースアウト)してたかも知れないんだぞ?ちなみに龍星さんは妊娠してる雪乃さんを超危険人物の須郷の所に潜入させたらしいしーーーもうマジで人でなしじゃねぇかーーー

「話変わるけど・・・龍星さんと竜くんって、あんまり似てないんですね」

突然亜利沙がそんな事を言ってきた。言われてみればーーー確かにあんまり似てないな。龍星さんは顔はお母さん似らしいけど、女顔の竜だってお母さん似のはずだ。なのに全然タイプが違う。龍星さんの金髪はケンブリッジ在学時に染めたらしいしーーー

「あぁ、そういえば言ってなかったな。オレ、赤ん坊の頃に両親と死別したんだってさ」

『え!?』

「ボクはその時の事をよく覚えてるよ。いきなり弟が出来たんだからさ。一家全員で交通事故に遭遇して、両親は死亡。それで竜の方は父親の友人夫婦の神鳴家・・・ボクの両親が養子として引き取ったんだ。未来とユッキーも知ってる」

何その壮絶人生ーーー竜って、天涯孤独だったのか?そんな話されたから車内の空気が一気に重くなったよ。聞いた立場の亜利沙なんて半泣きで『ごめんなさい・・・』って連呼してるよ。竜は気にしてないみたいだけどーーーどうすれば良いんだよ?この空気。

「着いたよ」

運転手(ドライバー)の龍星さんの声を聞いて、窓の外を見る。確かに今いるのは病院の前、駐車場だ。龍星さんが車を停めたのを確認して、龍星さんと雪乃さん意外の俺達はシートベルトは外して車を降りた。竜は痛みのせいで少し遅れてるが、俺は構わず先に行く。未来が起きたんだ。早く、早く未来の所にーーー

「うっ・・・!!」

「竜くん!?」

「おい竜!大丈夫か!?」

「何があってん!?」

俺の後ろで事件発生。後ろを振り返って見てみたらーーー竜が右腕から血を流していた。どうやら刃物で斬られたようだけど、何があったんだ?

「随分なご挨拶じゃねぇか・・・え?」

竜が後ろを振り返って、視界に入った車を見据えた。その車の陰には一人の男がいた。片手にナイフを持ち、スーツの上に茶色のコートを着た眼鏡の男ーーー

「須郷伸之・・・!!」

須郷伸之、ALO内で元SAOプレイヤー達を違法実験の実験台にしていた男だった。

「遅いよ、神鳴君。僕が風邪ひいちゃったらどうするんだ・・・?」

「お前の腐れ機嫌なんか知るか。それに、お前はもう終わりだ。すぐそこにいるオレの兄貴が警察やらを呼んでお前を取り締まる。法の裁きを受けてもらう」

「終わり?何が?僕を欲しがってる企業は山のようにあるんだ。これで僕は真にこの世界の王に・・・神になれる」

神になれる?ふざけるな。どうしてお前のその薄汚い欲望のために、お前みたいな奴のために未来が涙を流さなくちゃならなかったんだ。どれだけお前を欲しがってる企業があっても、お前の再就職先は刑務所や監獄の牢屋の中しかありえない。

「弾、翼、かんな、亜利沙、先に未来の所に行ってくれ。オレはこいつを叩き潰す」

「竜、お前・・・分かった。みんな行くぞ」

「竜くん・・・死んだら許さないから」

「分かってる・・・《リトルギカント》を完全復活させるんだ」

須郷に対するリベンジのつもりなのか、それとも未来に会えなくなるかもしれないのを覚悟の上で戦うつもりなのかーーーいや、どっちだっていい。俺達はあいつを信じて前へ、未来の下へ走り出したーーー




******




ここだ。ここに未来がいる。この病室の前に未来が、俺の愛する人がーーー

「弾、お前が行け」

「え?」

「『え?』やあらへんよ。ウチらも一緒に行ってもええけど・・・未来が求めてるのはアンタや」

「私達はここで待ってるよ」

俺の気持ちを知ってる上で、みんな俺に行かせてくれるのか?みんなも今すぐ会いたいはずなのにーーー

「・・・ありがとう」

俺はみんなに礼を言い、病室の扉を開く。流石に夜なだけに部屋は暗く、そもそも電気すら点いていなかった。俺はこの薄暗い部屋の中にあるベッドの上に座ってーーー雪が降っている夜空を眺めている未来を見た。彼女も俺の視線に気付いたのか、俺の方を向いてきた。

「未来・・・」

俺は彼女に歩み寄り、小柄な彼女の身体を少しだけ強く、強く抱きしめた。

「ごめんね、耳が上手く聞こえないの。でも・・・終わったんだね」

「あぁ・・・今、キミの兄さんが決着を着けてる」

もうすぐ、もうすぐ全部が終わるんだーーー

「改めまして、霧島弾です。おかえり・・・未来」

「改めまして、神鳴未来です。ただいま・・・弾くん」

どんなに残酷な世界の理が、俺達を引き離そうともーーー俺は一生キミを守り、愛する事を誓います。




竜side

オレは未来を弾達に任せて、今は須郷と向き合っている。その内龍星が来るだろうけどーーー雪乃さんがいる。須郷が彼女に気付いたらお腹の子まで危険だ、早急にカタを着ける。

「お友達がいなくていいのか?まあどっちにしろキミを殺した後でお友達を、そして桐ヶ谷君を殺しに行くから別にいいかな」

「おいおい、オレのダチをなめんなよ?お前なんかに殺される程、あいつらは弱くない。もっとも・・・」

オレは腰を深く落とし、左腕を前に出し、痛みに震える右腕を腰より後ろに構える。

「まずお前じゃオレを殺す事すら出来ねぇよ」

武術の構え。オレがかつてSAOで身に付けた《体術スキル》、《竜王拳》のベースとなった構え。

「全く頭にくるよ・・・お前みたいなクズが・・・僕の足を引っ張りやがって!!」

「!」

須郷が怒りに身を任せて、手に持つナイフを構えてオレに向かって突っ込んでくる。オレはそれを避けて須郷の背中に回し蹴りをかまし、転ばせる。

「お前みたいなガキは・・・お前みたいなクズは・・・本当の力なんて何も持っちゃいないんだよォォォォォォォ!!!」

元々狂っていたような須郷がさらに狂いだし、ナイフを大きく振りかぶり頭からオレを刺そうとしているのを、オレは左手だけで止める。
本当の力を持ってない、確かにその通りだよ。でも須郷、それはお前だって一緒だろうがーーー

「フンッ!!」

「ぎやぁぁぁぁぁぁ!!!」

オレは左手に力を込めて須郷の腕を折り、ナイフを落とさせる。

「骨折で済んだだけラッキーだと思え・・・」

オレは須郷が落としたナイフを拾う。

「貧弱な武器だ・・・軽いし、リーチもない。でも・・・」

こんな貧弱な武器でもーーー

「お前を殺すには十分すぎるぜ・・・!!!」

オレがそう言った事で逃げ出そうとした須郷を押さえ付け、逃げ道をなくす。
どうしてこんな奴のために、300人のSAOプレイヤー達がーーー

『キリトくん・・・』

どうしてこんな奴のためにアスナさんが苦しまなくちゃいけなかったんだーーー

『身体が・・・言うこと聞かないの・・・!!自由が利かないの!!』

どうしてこんな奴の実験で未来が操り人形にされてーーー戦いたくもない弾と戦わなくちゃいけなかったんだ!!!

「この世から・・・オレ達の前から消え失せろ!!!」

「ヒャァァァァァァァァァァァ!!!」

オレは須郷の首筋にナイフを突き付けてーーー

「・・・フンッ」

気絶した須郷を解放し、雪が降った寒さで少し凍った地面に倒した。
身体が痛い、少し無理しすぎたかーーーでも、やっと終わったんだ。全部終わったんだ。

「竜!!」

オレの名前を呼ぶ声が聞こえたからそっちを向いてみたらーーー今になってようやく龍星と雪乃さんが来た。雪乃さんはお腹の子が危ないから仕方ないけど、龍星に至ってはもっと早く来れただろうに。

「須郷・・・!!」

「気絶してるだけだ、今の内にこいつを警察に送ってくれ」

「良いのか?」

「あぁ・・・」

そんな奴、殺す価値もない。

「そういえばさ、龍星」

「ん?」

オレはずっと気になってた事を龍星に聞こうと思う。それは車の中でオレの生い立ちを話していた龍星が言っていたーーー

「『竜の()()』って、どういう事だ?」

「!!」

オレの実の両親が死亡して、オレは今の両親の養子として引き取られた。でも龍星が言っていた『竜の方は』って言葉が引っかかる。そこで浮かんだ可能性がーーー

「オレには・・・兄弟がいたんじゃないのか?」

血の繋がった兄弟が別にいるという可能性だ。

「・・・いるって言ったら、竜は彼を・・・双子の弟を拒絶するかもしれないぞ?」

「・・・聞かせてくれ。誰なんだ?」

オレには双子の弟がいたーーーしかも龍星の言い方を聞いて見ると、オレの知ってる人間のようだった。それでもいい。

「弟くんの方は、母親の妹夫婦が養子として引き取ったんだ。その彼には妹が・・・血縁的には竜と彼からしたら従妹にあたる子がいる」

母親の妹夫婦ーーー叔母さんって事か。それに従妹までいたのか。でも、心当りが全くないーーー

「・・・竜、お前の友達だよ」

ーーーやっと分かった。

『あんた達、若干似てるわね~』

SAOでリズさんに言われた事、その意味がようやく分かった。あいつの生い立ちは知らないけど、今考えれば言動が寸分違わずシンクロした事にも頷ける。

「そうか、お前だったんだな・・・





























キリト」

オレは、天涯孤独じゃなかったんだなーーー 
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