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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第92話 大隊長 ミネバ・マーガレット




―――それは、崩落直前での事―――



 仕掛けた大量の爆発茸とプチハニーにより、後はミネバの合図1つで直ぐにでも崩落するであろう鉱山。そして 崩落し、岩雪崩が起きてしまえば眼下の町はひとたまりも無いだろう。虫けらの様に、踏みつぶされてしまうだろう。その未来が手に取る様にミネバには判っていた。

 前回の成果を見て、よりも規模を大きくしたのだから猶更だ。


「くくく……、まぁ トーマの部隊も同じ運命をたどるだろうねぇ……、まぁ不慮の事故ってやつさね。今回も(・・・)ね。こんな少数で 更には ここに攻め入った解放軍を一網打尽にできるんだ。こんな効率の良い事故も無く、戦果も無いってもんさ」

 くくく、と口元を歪めながら嗤うミネバ。
 その傍らでは、彼女の部下が佇んでいる。心底、下にいなくてよかった、と安堵をしながら。……同じ3軍でありながら、ここまでの違いはいったい何だというのだろうか?
 それは簡単だ。


『ミネバの部下であるか、どうか』
『使える駒であるか、どうか』


 これらに尽きるし、何よりも自覚も大切だ。
 ただの冷血漢であれば、クーデターの類を起こせば事足りるだろう。……が、眼前の筋肉隆々の巨躯を持つ、女戦士の実力はヘルマン内においても……いや、女と言う意味においては、大陸一とも言われている程の豪傑だ。

《人類最強の女》

 と呼べるだけの実力を持ち合わせている。そんな相手に意見をし、袂を分かつ様な真似をすれば……、実力のない者であれば、即座に比喩抜きで首が飛ぶのだ。

「アイザック」
「はい」

 不意にミネバに呼ばれた男の名はアイザック。ミネバにとっては数少ないが《それなりに使える駒》として認めている男の1人。

「下にいる連中は、あの化け物の信仰者どもが、全員が揃ってる。……間違いないな?」

 こちらには、視線を向けていない。だが、その眼は鋭く、射殺しかねない程物騒だという事は、見なくとも判る。違えれば、どうなるか……判っているからだ。

「へへ……。敵前逃亡《・・・・》を図ろうとした者達は、ミネバ大隊長が粛清致しましたし、つまりは、大隊長に対する恐怖意識っつぅ名の士気を入れ直して 戦線に赴いてる様ですよ。……へへ、まぁ その実、内心では 何が何でも生き残って軍部に駆け込む様子ですがね」

 そして、アイザックと言う男も、ヘルマン軍内では性質の悪さでは有名である。ミネバに言わせれば、甘ったるい考えを持っていない者であり、基本的には非人道的な真似をしても、躊躇する様な事はない。
 ミネバがある程度、とは言え《使える》と称しているだけの物を持っているという事だ。

「だろうねぇ。まぁ、あれで隠せてるつもりって思ってるから馬鹿なんだよ。……単純な馬鹿程、扱いやすいってもんは無いのさ。……だが、その望みは叶いそうには無いがね」

 邪悪極まりない笑み。極自然に出せるミネバの嗤いだった。命を散らす部下を前にしても揺らぐことは無かった。

 そう、敵諸共押し潰す事への一切の躊躇いは無かった。何より 軍務に駆け込む様な者を放置しておく訳も無い。この女を御する事が出来るのは、たった1人しかいない。弱肉強食を旨としているミネバを、完全に力で抑えつける事が出来るヘルマンのたった1人の男……。


 第3軍――将軍 トーマ・リプトン。


「あの化け物に正面から喧嘩売る程、私も馬鹿じゃない。……あわよくば、この戦争で……ね」

 それこそが、ミネバの真の狙いでもあった。

 いや、元々上手くいくとは思っていない。その男の強さは誰よりも知っているからだ。あれ程の男がリーザスの残党如きに、打ち破れる物じゃない、と思っていた。

 だが、破竹の勢いで領土奪還を続けるリーザス解放軍を前に、考えを少し改めたのだ。ここを攻めてこなければそれでも良い。リーザスにいる本隊を守るつもりは更々ない。兵力をここに集中させたのは、部隊を2つに分ける為。……極力、あの男の側近を少なくさせる為にだった。


―――あの男(トーマ)の殉職。……戦死をが起こる事を狙っていた。


「まぁ……あの化け物を()れる程の者がいるとは思えないが」

 正直上手くいく確率は低いとは思っていたが、ミネバは万が一の為に出来る事は全てしておく。
 自分自身に風向きを向ける為に。



 そして、ミネバは合図を送った。その数秒後……軈て、鉱山は地響きと地鳴を起こしながら激しく揺れ、崩落を始めた。大小の無数の岩がまるで雨霰の様に、降り注ぐ。
 それを下衆びた笑みを浮かべながら、喜々とし眺めるミネバ――。



 だが、その悪魔の所業は、悪魔の笑みは、長くは続かない。



「なっ……!!」



 直ぐに、笑みは消え失せ―――、変わりに驚愕の表情を浮かべるのだった。










 更に遡る事、数秒前。

「ランスだけだったら、無視して見殺しってのも有りだったかもね」
「……それはそれは。冗談に聞こえんな。志津香が言うと」
「馬鹿」

 精密さが必要とされる今回の作戦において、軽口を言い合える程の2人。
 ランスの事を悪態つく志津香だったが、手を抜く様な真似は決してしない。……あの場所で戦っているのは、ランスだけじゃないから。命を懸けて、戦ってくれている。自分達を信じて、戦ってくれている仲間達がいるから。

 軈て、チューリップ3号の砲撃準備が整った。

 マリアは、ヒララ合金製の弾頭で作られた砲弾を装填し――ユーリの指示通り、中腹を狙う。飛距離は問題なく、後は狙いだけだった。

「……絶対に外さないわよ! あの人でなしにチューリップの力、見せてあげる!! 撃てぇぇぇぇ!!!」

 マリアの号令の元、轟音と共にチューリップの砲身から火が噴いた。
 僅かにだが、放物線を描きながら――狙い通りに着弾し、爆発を起こす。

「やはり、マリアの技術、腕……全部が見事、と言う他無いな」

 ユーリは、それを見て、改めて関心していた。
 狙い通りに、狙った場所に正確に当てる等、簡単ではない。それが 気候にもそれなりに影響が出るであろう飛び道具で、更に距離が離れていれば尚更だ。だが、マリアは正確にやってのけた。色々と難がある所があるのは、ランスと同じだが――、その技能においては、脱帽ものだ。

「こーーーらーーーー! なぁんか、失礼なこと、考えてないーーっ!! 頑張ったんだから、ユーリさんと志津香もやってよぉ!」

 不穏な気配を感じたのだろうか、マリアは抗議の声を上げつつ、全てユーリと志津香に託した。

「ま、普段が普段だからしょうがないでしょ」
「だよな。さて、志津香。オレ達の出番だ。――やるぞ」
「ええ」



 そして――時は元に戻る。



 志津香は、既に魔力の集中を終えていた。両手に魔力を込め―――、討ち放つは、《白き破壊の魔法》。
 ユーリ自身も、鞘に納めた剣の柄を強く握りしめる。迸る煉獄に纏わせる《白き破壊の魔法》。

「白色―――」
「煉獄―――」

 志津香の両手に極限にまで集中し、練られた魔力が形を成してゆく。
 そして、ユーリの剣にも煉獄と共に、白光が迸っていく。

 手の先から迸る白光は輝きを増し――志津香の手から撃ち放たれ、ユーリの剣は いつもの煉獄の闇……黒とは全くの逆。……白き輝きへと姿を変えた。


「極・破壊光線!」
「極光閃!」


 2つの白き閃光が―――鉱山へと一直線に伸びていった。


 撃ち放たれた志津香の魔法は、一直線に崩落していく鉱山へと突き進む。
 そしてユーリの剣から放たれたのは、纏わせた煉獄。技能 リ・ラーニングにより、学習した破壊光線魔法。つまり 《白色破壊光線》と同等の性質を持つ力。纏わせる煉獄の剣、魔法のハイブリットである。



 撃ち放たれた2つの光は、軈て 鉱山に向かう途中で、交わり――、直線の光線だった魔法が、一気に拡散した。


 云わば志津香の白色破壊光線を、ユーリの白色破壊光線(剣術ver)でぶつけて拡散させたのだ。より精密さが要求されるのはそこにある。手から離れた力は、コントロール性が著しく失われる。途中で微調整など殆ど効かないのだが、精密な技能はそれを可能にした。


 そのあたりは、志津香とユーリは打ち合わせ済である。


 因みに 2人の共同作業? ――と言う事で、その力に驚きつつも、マリアは 2人を見ながらニヤニヤと笑うのだった。






 
 そんな事が、そんな強引極まりない対処をされている事などは思いもしないのがミネバだ。

「………!!?」

 今まさに崩落が起ころうという時に、唐突に鉱山の中腹で大爆発が起こったのだ。そして、同時に不安定な地盤が、揺らいで響く音が町に満ちていく。

「今、いったい何が――……!? (向こうで何かしくじった……? いや、そうだとしても、あんな爆発が起きるハズが……!)」

 原因を探ろうと、頭を回転させているが、その時間も最早無い。

「み、ミネバ様っ!? こ、これはいったい……ひぇぶっっ!!」

 足並みが乱れるのは、高みの見物を決め込んでいたミネバの直属の部隊の者達だ。指示を仰ごうとした1人の兵士が、落下してきた岩に押しつぶされてしまったのだ。

 つまりは、もう考えている暇などは無い。……直ぐにも崩落が来る。しかも、それは自分達が潜んでいるであろう場所にピンポイントで狙いを定めてきているのだ。下にいるリーザス解放軍にも影響があるだろうが、明らかに自分達を。……いや、違う。囮として使っていたトーマの部隊じゃなく――外道な手を使ったミネバを、その部隊だけを狙っているかの様だった。

「馬鹿な……、こんなッ……!! こ、この光は……!!!」

 初めて、ミネバの表情から余裕が完全に消えたのだった。

 何よりも、圧倒されたのが、あの爆発の後に降り注ぐ、白光の輝きだ。
 ミネバが起こした崩落により、無差別に降り注ぐ岩石だったのだが――、町方面に落ちる岩は勿論、眼下で戦いをしているメンバーに降り注ぐ岩石をも削り、岩から砂粒へと変えていっている。

 言うならば、味方を守る盾。攻撃は最大の防御、と別の意味で体現している様に見えた。有りえない正確さで、役割を果たしているのだ。


 これらを、全てを狙ってやっているのだとしたら―――、とミネバの背に冷たい汗が伝う。


「人間業じゃない……、い、いったいどんな手品を使ってるって言うんだい!?」

 正確無比に障害物だけを削り取っていく。
 まりで、天から全てを見下ろしているかの様な気分だった。躍らされている気分になるのは確かに不快だったが、それ以上に その所業にミネバは 驚きを隠せられなかった。

 そして、自身が置かれた現状。

 高みの見物をきめていたミネバだったが、一気に窮地に立たされてしまった為、余裕も吹き飛んでしまった。










「がはははは!! 良いではないか、マリアに、志津香! そして、オレ様の下僕、ユーリ!! 狙いも良く、更には オレ様の援護とは気が利くではないか!」

 中腹の部隊が慌ただしくなっているのは、ランス側もよく判る。
 当然だ。自分達がしようとしていた事がそのまま、跳ね返されたも同然なのだから。

 ランスの強引な作戦、そして ユーリの対応策、それらを全て知る者は 実の所は少ない。それ程までに強引極まりない作戦だからだ。極一部のリーダー格のみであり、それでも肝が冷えたと言えるだろう。

「ったく、ユーリのヤツがいなけりゃ……って思ったら マジで肝が冷えたよ」

 敵陣で崩落を続ける場面を見て、深くため息を吐きつつ、ランスの楽観ぶりにも 呆れかえってしまうのは、ミリだ。 もしも――ランスのみの作戦。マリアの砲撃のみであれば……間違いなく無差別に降り注いでいる事だろう。手崩落する岩石が敵味方の区別をするとは思えない、と言うか有りえないから、あっという間に潰されてしまったかもしれない。

「それにしても――とんでもない事、してるな。これがあれか? 《針の穴に通すかの様な様な正確さ?》 何やっても驚かないって決めてたんだけどなぁ……」

 続いて脱帽するのは、今自分達を守ってくれている魔法だ。
 志津香の魔法だけじゃない。ユーリもしてくれている事は判る。打ち合わせをしていた所も見ているし、力についての詳細を訊いている訳じゃないが……それでも、異常性だけは十分に理解できるつもりだ。志津香の魔法についてはよく知っている。今までの戦いでも何度も見てきたのだから。だからこそ判る。志津香の魔法だけで、ここまでの真似が出来るとは到底思えない。

「流石ユーリさんですかねーーーっ!! トマトを守ってくれている愛を感じるですかねーっ!」
「あぁ……ユーリさん……ありがとう……」

 崩落が始まった時こそ、正直ビビってしまったメンツ、トマトとランだったが、後に落下してくる岩よりも早くに削り取ってくれる魔法を見て、感涙? してしまう様子だ。
 トマトの発言に色々と悶着がありそうだったが……、今は安堵感の方が強い為、誰もツッコミを入れなかった。

 そして、白色の輝きを思わず魅入っていたのはフェリスとクルック―だ。悪魔であるフェリスだが、この輝きは決して不快には感じなかった。眼鏡をしていなくともだ。

「……凄い、です」
「だよな……。あいつはあれか? ほんと。神かなんかなのか? いや……アイツは確か 神より……」
「え?」
「……いや、何でもない」

 表情に出にくいクルック―でさえ、思わずつぶやいてしまう程の光景。その傍らにいたフェリスも同意する。白光を天から降り注がせる所から、思わず神を連想させてしまったのだが――、直ぐに口を噤んだ。

『神よりも悪魔を』

 それはかつてユーリが言っていた言葉。隣にいるAL教のクルックーの事を配慮しての事でもある。



 そして、クルック―は、フェリスの言葉に気になりながらも、ユーリと言う男(・・・・・・・)についてを、久方ぶりに考え出した。



 巨大で、強大な力を持っている事。
 そして――、詳細の一切は判明していないとされているも、AL教内では バランスブレイカーとして 登録されているという事実。
 本来であれば、AL教に所属している身とすれば……、対処をしなければならない相手。傍にいる理由は、その一言に尽きるだろう。
 だけど、する気は全く起きない。実力差があり、出来るハズがない、と言うのもあるだろうが、その選択を取る事も自分の中では有りえない選択の1つとしている。その心が……まだ判らないが。

「クルック―」
「………」
「クルック―?」
「あ、はい。何でしょう?」

 珍しく上の空の様子のクルック―を呼ぶのはフェリスだ。
 あまりの光景だから仕方のない事だろう、とフェリスは解釈をしつつ。

「元凶の連中への攻撃は成ったが、眼前の敵はまだ健在だ。油断するなよ」
「はい。勿論です」
 
 呆然としているのは、敵側も同じだが……、まだ戦闘中だという事実もあるから、あまり意識から外すのはよくない事だ。

 だが、足並み乱しがいっそう激しいのが敵側。

 本来であれば、あの崩落で自分達の命が危ぶまれる筈だった。……だが、それを救われたのだから。

「これが、ユーリが扱う魔の力―――か。流石と言う以外言葉はない。ここまで来たら呆れると言うのが正しい感性なのかもしれんな。『多芸は無芸』と言うが、ユーリには全く当てはまらない。それに、………まだまだ、学ぶべき事が多い」

 復讐の血刀を、自らの身の内に戻す清十郎。ユーリが使用する魔法に関しては、ランスを操る業、《催眠術》と《洗脳術》の2つは知っていたが、相手を攻撃する力は見た事が無かった。だからこそ、よけいに感じたのだろう。

「同感です。魔法と剣の習得は決して容易ではない。……其々全く異なる分野を追及しなければならないのですから。……脱帽です」
「全くよ。軍人として、全く頭が下がる思いよ。立つ瀬がない、と言っても良いかな? 多彩過ぎ。欲張りすぎ、って感じたわ」

 リックとレイラも同じ気持ちだった様だ。
 レイラは何処か、清十郎と同じく 呆れている様だ。驚く事はもうない。何をしても、どんな事をしても――、驚かない。だけど、その代わり、呆れるだけだ。


「……随分な表情だな? お前ら」


 そんな時、役目を終えたユーリ、そして その後ろに マリアと志津香がいた。

「私は皆の気持ちは判るわ。何してももう驚かない代わりに、ただ、呆れるだけでしょ?」
「あ、あははは…… 辛辣だね、志津香……」
「マリアだって同じでしょ? ランスの馬鹿にとんでもない事させて、滅ぶかもしれないって思ったんだけど……、それ ちゃんとフォローしたんだから」

 まだ 少なからず落石は続いているが……、ちょっと危ないなぁ、程度だ。頭に当たれば痛い、程度でもあるだろう。最初こそ リックや清十郎は警戒を強めていたが……警戒するに値しないと判断した。その程度を防げない者は この戦いの場に来てはいないから。

「志津香だって人の事、言えない気がするんだが……。それに、あの威力=志津香の力だって事だぞ?」
「まぁ~ どっちも凄いって事ね♪ さ~すが! 息ぴったりだよね~」
「ふ、ふんっ!」

 ぷいっ、 とそっぽ向く志津香。
 褒められた事もそうだし、マリアに言われた事もあって、照れてしまった様だ。……レイラ達もいるからか、なかなか実力行使で、あからさまな事が出来ない、黙らそうとも出来ないからそうするしかなかった。

「それは兎も角だレイラ。……町の住人の無事も確認してくれないか? かなみが 誘導をしてくれているとは思うが、念のために。……オレは、連中の所に行ってくる」
「!! ……判ったわ。住人達の事は私達に任せて。リックは、ユーリ君と行くでしょ?」
「良いのでしょうか?」

 行きたそうにしてるリックを見て、レイラは少々吹いてしまいそうになるが、ひとまず抑える。危険な相手の元へと行こうとしているのだから、リックの力は絶対に必要だろう。それは清十郎や、他のメンバーも同様にだ。
 レイラ自身、先の敗戦もあったから、自らの手で引導を渡したい思いは当然あったのだが、今は私情よりも全体を視なければならない。今は解放軍。違うとはいえ、元々は親衛隊隊長。金の軍の将軍なのだから。

「大丈夫。うちの子たちだけで、事足りるわ。全部終わったら合流する」
「判りました。宜しくお願いします」
「合流するまでには終わらせよう。……今回の相手は強者には違いないが、何も生まん危険人物だという事は判ったからな」

 リックと清十郎は頷いた。
 レイラ達の戦力を分断させるのは好ましくないが、町の住人の安全、捕らわれた義勇兵達それでも放置するには危険すぎる相手だ。

 そうこうしている内に、ランス達とも合流。

「がはははは! よくやったぞ! さぁ、さっさとあのババアの首を取りに行くぞ。浮き足立ってる今が最適だ!」
「そりゃ当たり前だろ。殆ど災害が直撃してんだから」
「だから良いだろ。これまでの行いの報いと言う奴なのだ!」

 意気揚々と口にするランスだったが……、それを訊いて深くため息を吐くのは女性陣。

「ランスの口からそんな言葉が出るとは思わなかったな」
「……ほんとね。たぶん、自分のとこにも来るって、意識してんじゃない? そろそろ順番って」
「ですかねー。天誅が訪れそうなんですかねー」
「あ、あぅ……、ら、ランス様ぁ“ぽかっ!!”ひんっっ!!」

 ランスは、心配そうにするシィルの頭に拳骨を食らわせた。
 戦争中だというのに……、いつも通りのやり取りを続けられるのもまた凄い。

「馬鹿者が! さっさと行かんと逃げられるだろ! とっとと殺すぞ!」
「はいはい。了解」

 悠長に会話を続ける余裕がある訳でもない。
 適当な所で、ユーリもそれとなく促しながら、話を終わらせ、戦闘を突撃していくランスとシィルを追いかけて、走り始めた。



 そして まだ 崩落が続いている中腹。

 その崩落は町に影響は、殆どない。ミネバ達のみに降り注ぐ裁きの鉄槌だった。

「ちっ……、この辺なら大丈夫か……」

 回避を続け、何とかたどり着いたのが、町中心部。町を守っている、と言う事は、そこには崩落が起きていないのだ。逃げるにはもってこいの場所だ。

「ったく……、崩落はあの坊やの仕業だろう……。町を守ったのは別にして。(……あの芸当……、トーマとは違ったレベルの化けモンだよ)」

 破壊するだけならば、実行できるか否かを別にすれば、方法次第で誰にでも可能だろう。
 だが、それでも 町を奪回し、解放しに来た部隊が、町ごと崩壊させかねない様な策を取るだろうか?
 そんな無茶な事、リーザス側では、いったい誰が出来ると言うのだろうか? それは言うは安いが、いざ実行する者など、これまでのリーザス側の性質上、皆無だと言っていい。

 更に恐るべき事実は、鉱山を崩落をさせつつ――、それを防いでしまう。おまけにこちら側には大打撃を与えて。……正直な感想は、力は別次元で異常だと言える。

 あの光の輝きは、魔法である、と言う事は理解した。ただの魔法ではない。……余程高位の魔法使いが存在しているのだろう、とミネバは最終的には予想をしていた。

「(敵さん側の魔法使いには要注意、だって事だ……。それに 向こう側にいるあたし同様に、手段を択ばない手腕の持ち主。あの坊やもそうだが……)」

 ミネバは、逃げ出しながら、頭を回転させて、対応する策を考えようとしたその矢先。

「がーーーーーっはっはっはっは!!」

 正直、味方にとっても鬱陶しいと言える高笑いが、回転を遮った。

「漸く見つけたぞ! ババア!! 山で潰されてると思ったが、こんな場所に逃げ込みやがって、ゴキブリババア! さっさとその見苦しい首を差し出してもらおうか!」
「やってくれるねぇ……、けど、大将自らからくるのは、利口とは言えないね。なめられたもんだ」

 ミネバは手を上げた。

 すると、町の建物の扉を蹴破ってヘルマン兵たちが出てきた。町の建物に紛れ込ませていたミネバの息がかかっている部下が、まだ控えていたのだ。

 追い詰めた、と思った矢先、あっという間に取り囲まれてしまった。

「これが保険、ってヤツさ。使える頭がないと、戦場じゃ生き残れないのさ。……それで、数は逆転したし、あたしも健在だ。……それっぱかしで どうにかなるって思ってんのかい? 坊や」
「ふん。さっきまでの数に比べたら、どうってこと無いわ。雑魚が幾ら集まっても無駄だ無駄! オレ様1人でも十分なくらいだ」

 ランスが意気揚々と構えた。そして ランスについていく形となったユーリたちは、流石に今はギャグを言う場面ではない。
 眼前の相手を見てしまえば。

《ミネバ・マーガレット》

 これが初対面である事は、間違いない。そして その眼光に宿るモノの凶悪さ、それが何よりも際立っていた。それだけではなく、底知れぬ野心も同時に感じ取る事が出来た。
 纏う雰囲気は、間違いなく強者の者だ。このヘルマンとの戦争においても、いや、ユーリ自身の戦いの歴史の中で、人間(・・)において、恐らくは十傑には入るであろう、と認識出来る。


 だが、それでも一切、この相手には敬意を払う事が出来ない。


 ただただ 思うのは、1秒でも早く終わらせたいという事。


「……とっとと。片を付けるぞランス。……不快だ」
「当然だ! 親玉ババアはオレ様が頂く、雑魚どもをさっさと殺すのだ!」

 冷静に、慎重に…… それは必要な事だ。
 感情のままに従えば、そこに付け込まれる事が有りえる。そして、隙を作ってしまう事だってある。
 その程度の事が判らないユーリではないのだが、この相手には《怒》の感情を優先させてしまった。

「はっ! そいつが遺言でいいのかい? おいで、坊や達。ちょいとかわいがってやるよ!」
「冗談でも気色悪いことをほざくな!」
「――黙れ。耳障りだ」

 そして……サウスの町 最後の戦いが始まった。




 ミネバの戦術は大小2本の戦斧を使う。云わば斧の二刀流と言える代物。

 斧は剣に比べて重量があり、2本も振り回すのには、正直に言えば向いてないと言えるのだが……ミネバは、その余りある筋力に物を言わせ、まるで自分の手足の様に軽々と振り回していた。
 そして、太刀筋 その速さ、威力、全てが十分脅威だった。ただの外道ではなく、大隊長と呼ばれるのに相応しい実力を兼ね備えていた。

 ミネバが従えている兵達も、トーマの部隊には及ばないものの、それなりの実力者が揃っており、更に言えば、正面からだけではなく、だまし打ち、奇襲など 巨躯なヘルマンの重騎士とは思えない行動をとってきていた。トップに見習え、と言う事なのだろう。

「おおおおらあああああ!!!」
「ふん……! だが、甘いな!」

 清十郎に頭上と言う死角から。
 建物を利用し、飛び降りてきた兵士がいた。重量級である故に、更に攻撃力が増すのだが……、勿論当たらなければ意味は無い。

「戦場では、常に生き残りを懸けた戦いだ。……卑怯などと言う言葉は存在せん。……だから、お前たちを卑怯とは言うつもりはない」

 最小限の動きで、清十郎はそれを躱し、地面に剣が突き刺さった所で 自身の剣で頭部を穿った。

「がっ ひゅっ……!」

 息つく暇もなく、絶命し動かなくなる。

 清十郎の強さは十分過ぎる程身に染みたヘルマン兵達だ。今までの戦いから轟いた異名が間違っていない事も。だから、数の利を活かして、攻めよう。前後左右、全方向からの一斉攻撃を仕掛けようとしたのだが……、それも敵わない。

「赤将リック、参る」

 清十郎の背には リックがいたからだ。完全に死角などは無い。

 違いに背中を預けている形だった。

「バイ・ラ・ウェイ!!」
「ぎゃああああ!!」
「ぐああああ!!!」
 
 圧倒的な手数の差。それは物量の差ともいえるだろう。その高速の剣技を受けた兵達は、無限とすら思える太刀筋に圧倒され、少しも防ぐ事が出来ず、全身を切り刻まれ、吹き飛ばされた。

 離れた場所で、仲間たちが殺されたのを見たヘルマン兵は、足並みを乱し、動揺した。

「し、死神に鬼……っ!!」

 2人の戦いを見て、この戦争で轟いた名を思い出していたのだ。
 そう――それは圧倒的な実力者。絶対的強者。幾ら束になって攻めたとしても、その攻めた数だけ、屍の山が築き上げられるだけ。

 眼前の相手――それがいったい何なのか、彼らは確かに見た。
 それは、黄泉へと誘う鬼と死を司る神だ。

 そして、続きがある。
 その後ろには、彼らを従えているのは 黒曜石とも見間違う程、鮮やかで……妖艶な美しささえ纏わせている剣を振るう黒の剣士がいる。それが、リーザスの三強。
 ヘルマンの中でも名の轟いている3人の戦士だった。

 そして、もう1人。

 人一倍うるさくて、更には出鱈目だと言っていい力を持つ男も1人。……全くのノーマークだった、と言う訳ではないが、それでも 警戒は3人よりは遥かに薄かった。
 それが甘かった、と痛感している者も、ひょっとしたらいたかもしれない。一振りで、全てを吹き飛ばす剛剣。ヘルマン兵の巨躯な体が、まるで木の葉の様に吹き飛ぶ。がはは、と戦場で 笑いながら 剣を振るう男、ランス。

「へっ……、オレら 出る幕なんか無かったんじゃねぇか?」
「流石ユーリさんですかねーー。惚れ直しちゃうですーーっ」
「ユーリさんもだけど、リックさんや清十郎さんもでしょう? トマトさん。………(あ、あとランスもだけど……)」

 お零れを相手にしているミリ、そして トマトとラン。殆どの敵勢力は4人に向いているのだ。そう思ってしまっても無理はないだろう。トマトは まるではしゃぐ子供の様に、ぶんぶんと手を振るかのように剣を振り、ランは トマトの気持ちは十分過ぎる程判りつつも、戦っているのは4人だから そう付け加えていた。……ランスの事はぬかしていた様だけど。

「ちゃんとフォローはしないとだめだよ、みんな! チューリップもこれだけ接近してると、誤射の可能性だってあるから使えないから!」

 その隣にマリアがいる。彼女の最大火力であるチューリップ3号の使用はとりあえず辞めて、白兵戦に入っていた。これだけ密集していれば、味方諸共吹き飛ばしてしまいかねないだろうから。

「……ランスだけだったら、使っても良いって思うけどね」

 随分と辛辣な言葉を呟くのは、志津香。
 先ほどの魔法でそれなりに消耗したのと、マリアの言う様に巻き込む可能性がある為、規模を抑えた中級魔法程度で、応戦をしていた。

「……ユーリなら、いや、後の2人も、防いじゃいそうだけど」

 苦笑いをしつつ、翅を畳んで降りてきたのはフェリス。
 空から戦線を見極めつつ、介入をしていたのだが……、殆どがあの4人が食い尽くしてるので、その必要も無かったのだ。その言葉を訊いて、志津香も苦笑いをしながら『確かに――』と同調していた。
 
「ケガしても、私が必ず治します」
「私も。神の名において、必ず」
「お助けしますっ!」

 ヒーラーの3人、クルック―、セル、シィルと揃っている為、守備は万端だと言える。数では劣っていたとしても……完全に、量より質だ。ヘルマン側には魔法を使える魔法兵は配備されていない様で、はっきり言ってしまえば、脳筋パーティ。力に物を言わせて強引に戦い続けてきたのだろうが、今回ばかりは相手が悪い。
 
 それを敵側が意識するのも時間の問題だった。
 
「だ、だめだ……、お、おれらじゃ、こいつらには……」

 強者を前に、気の弱い者は 立ち上がる事さえできない。それ程の実力差を目の当たりにしたメンバー達は、思わず後ずさろうとしたが……。

「ば、ばかやろう!! こ、ここで引いても、ミネバ大隊長に殺されるだけだ!! 生きる為に、前にいくしかないんだよぉぉっ!!!」

 敵わない相手だろうが、関係ない。
 使えないと判断されたら、即断罪されてしまうのだから。それは、これまでにも何度も見てきた。……何度も味わってきたのだから。


 恐怖で支配されているヘルマン軍だと言えるが、一切の同情の類は無かった。


 確かに彼らは圧倒的なミネバの力に屈服し、従っている形となっているが、その性質の悪さも受け継がれている。それは町の状況を見れば一目瞭然だ。征服した町を蹂躙。サウスの人達を欲望のままに蹂躙してきた連中なのだから。

 つまり、どうなろうと、してきた事への報いが巡ってきた、と言うだけの事なのである。例外がいるとすれば、崩落により 命を失いかけたヘルマンの兵士達、トーマの部下達だけだろう。

「がははは!! 死ねぇぇ! ゴリラババア!!」

 ランスは一切容赦せず、その剛剣をがら空きのミネバの脳天目がけて振り下ろす。
 タイミング的にも、そして ランスの剣速を考えても、ミネバには防ぎようが無いだろう。

「は……? え……ぁぁ……」

 頭に振り下ろされる瞬間……呆気にとられた様な発言をミネバはしていた。頭を割られ、絶命するであろう瞬間にも、判っていない様子だった。その瞬間、ユーリには判った。

「!! ランス、伏せろ!!」
「どわあっ!!」

 ユーリは、咄嗟にランスを突き飛ばし、倒すと、そのランスの胴体があった場所に、突如戦斧が現れた。
 ユーリは、その攻撃を自身の剣で弾き返す。がきぃいんっ! と言うけたましい音が響いた。

「こらぁ、ユーリ! ……む? ななな、何故貴様(・・)が! うげっ、まさか双子だとでも言うのか?? ババアが二匹もいるなんて、気持ち悪いにも程があるぞ!」

 突き飛ばされて、憤怒していたランスだったが、直ぐに自分が置かれた状況を理解していた様だ。けたましい音が響いたのに、正直遅い気もするが……まぁ、ランスだから。

 だが、状況を見て、ランスは 殺した筈の(・・・・・)ミネバが……再び現れて攻撃をしてきた、と言う事にそれなりに驚いていた様だ。

 ランス自身は、殺されるつもりなど毛頭なかった様だが(自信過剰) それなりに危なかったのも事実。とどめをさした瞬間、勝ちを思った瞬間に、隙と言う物は生まれるのだから。

「(まぁ……、ランスなら 別に助けなくても 問題なかった気もするが。……それより)」

 ユーリは、斧を受け止め、弾き返しつつ、目の前のミネバを睨む。

「《フォト・ショック》か。 ……何処までも下衆な女だ。貴様は」
「へぇ……、チンケな魔法だけど、生真面目な男は、大抵引っかかっちまうんだが……、あんたは、やっぱり 別格って訳かい。パッと見は、そこのぼうやよりも更にぼうや、ただのガキっぽいんだがねぇ」

 ミネバは、ユーリの姿、全身を一通り見た後にそう呟いた。

 はっきり言って、もう何も言う事は無い程、言う必要が無い程、ミネバの言葉は、地雷なのだが……、ミネバと言う女を知っているからこそ、元々怒っているからこそ、ユーリは、今までの様に、そこまで劇的変貌を見せる事は無かった。

 その代わりに、無言の剣撃で返答をした。その剣は正確で素早く……何よりもミネバに全く引けを取らない程無情で、その身体の急所に迫る。

「っ!! ちぃっ!」

 ミネバも、何とか反応が間に合い、防ぐ事が出来たが、一の矢、二の矢と剣撃を矢継ぎ早に攻撃を繰り出した。

「くっ、がぁっ!!」

 防ぎ続けていくが、違和感をミネバは覚え始めた。
 打ち合う事僅か数合後に。その剣は弾けば弾く程、速くなっていってる様に感じるのだ。いや、間違いなかった。

 ミネバとて、百戦錬磨である。

 打ち合えば、その剣を覚え 身体が慣れ、予測と読みで それなりに防ぐ事が出来る様になる。戦闘中に成長をする、と言う訳では無いが、それなりのレベルの相手であっても戦術の修正等を行い最適に動き、打ち負かす事が出来るのだ。

 だが、相手はそれなり(・・・・)ではない。

「(なんだい!? こいつ……、どんどん、速くなる! ……畜生、役立たず共も殆ど殺られたってのか!)」

 完全に後手に回るミネバは、打ち合いの隙間、僅かな隙間に視線を動かし、戦況を確認した。数で勝っていた筈なのに、死屍累々……とまではいかずとも、圧倒されている者がほとんどだったのだ。

 ミネバは完全に死神と鬼の力量を見誤っていたのだ。……そして、目の前の男に対しても。

 だが、それでも十重二十重の策を張り巡らせているのがミネバだ。
 そして、迷う事の無い強大な悪意。力では敵わない相手でも 対応次第でどうとでもする事が出来る。……敵の弱点を見極め、えぐり、つけこむ。そのためには如何なる研鑽も厭わないし、迷いなどある筈も無い。

 町中に逃げ込んだのにも――意味はある。

「正直誤算だったよ。ぼうやの様な男が、いたなんてねぇ」
「オレもだ。……まさか、ここで リーザスでお前に出会うなんてな」
「ほーぉ、あたしの事を知ってんのかい」
「………」

 ミネバの問に対するユーリの返答は……無言の殺気だった。
 
「(成る程、ねぇ…… 穏やかじゃないとは思ってたけど。あたしに限って、そんなもんある訳ないけど)」

 ミネバの口元が、少しだけ吊り上がる。

 突破口(・・・)が見えたからだ。

「だぁぁぁ! ユーリ! 親玉はオレ様が取ると言っただろうが!」

 ユーリとミネバの一騎打ち! 的な空気が漂いだした所で、ランスが乱入してきた。

 正確に言えば、その場は、まだまだ十分過ぎる程乱戦であり、『余裕が出来たから、手を貸そう!』と言える程のメンバーは、リックや清十郎でさえ まだ無かった。ミネバの恐怖支配は、精神の髄にまでしみ込んでいる様で、死に物狂いで かかってくるからだ。……死を恐れていない訳ではない。ただ、死よりも怖いのが、ミネバと言う女だった。訪れる結果は――遅いか、速いかだけなのだ。

「ならさっさと来いランス。……この相手は 早く始末するのに越したことはない」

 この言葉に、ランス自身もユーリにしては 珍しく、勝負を急いでいる様にも思えたのだが……それも一瞬の事。『あの戦闘狂が? 頭打ったか?』程度である。

「がははは! 格好良く始末するのはオレ様だー! らぁぁぁんす……!」

 ランスは、叫びながら跳躍をした。
 一見すれば、隙だらけ……とも言える攻撃手段だが、その威力が驚嘆であるのが、闘気の解放《ランス・アタック》である。着弾点から爆散する闘気のエネルギーは破壊だけを求めているかの様に、周囲を吹き飛ばすのだ。
 ランスのレベルにはそぐわない程の威力を持つから、益々驚嘆だと言えるだろう。

「……しめた」

 だが、ミネバは冷静そのものだ。
 ランスの攻撃、ランス・アタックについては、ランスが出し惜しみをしないから、何度となく見ている。その性質……そして、着弾すると、どうなるのか。

「あたぁぁぁぁぁぁっく!!!!」

 ランスの攻撃、ランス・アタックが、ミネバの間際で爆発した。
 強烈なエネルギーは、まるで爆発が起きたかの様に、飛散し 大地の破片と共に土煙が巻き起こる。

 そう――巻き上がるのだ。その周囲に巻き起こる土煙が、ミネバの身体を覆い隠す事になった。

「ははっ! 間抜けだねぇ、ぼうや! 感謝するよぉ」

 ミネバは、一切の攻撃をせずに、防御に集中した。威力を知っているからこそ、それを上回る覚悟と、防御姿勢でダメージを最小限にしたのだ。

 ミネバの姿が完全に隠された所で、ユーリは直ぐに動く。
 だが、それでもミネバを見失ってしまった。ランスの攻撃が来る為、距離を取った事が仇になってしまった様だった。

「ちっ……、逃げる気か!」
「だぁぁぁ!! 素直にオレ様の剣の錆になれば良いのだ!! 逃げるなぁぁ!!」

 逃すとかなり危険な相手と強く認識している為、直ぐに行動をするユーリと必殺の一撃を躱された事に憤慨し、追いかけるランス。それでも視界が不良事、それなりに乱戦が続いているから、気配を辿るのも難しい。
 土煙に映されたミネバの影はもう完全に消え去ってしまっていたから。

「(あんなもん、正面から誰が受けてやるか、ってんだよ。頭足らずなぼうやだ。あっち(・・・)に比べたら大分)」

 ランスの言葉に、呆れつつ 逃げの一手は認めていた。勝気な性格だと言えるが、無駄な意地は持ち合わせていない様だ。
 そして、逃げ出したミネバが目指すのは1つだった。

「(感情が表情に出やすいね。……それに、アイツ自身とあたしは面識は全くない。つまり考えられるのは代行(・・)ってトコか)」

 ミネバはある場所を目指し、速足で移動を続けながら考える。

「(代行。……おそらくは仇討ちの類。それが濃厚――か。随分とやんちゃだったからねぇ。あたしも。心当たりが多すぎるってもんさ)」

 口元が更に歪んだ。
 自らの手にかけた者の数等、数を数えるのも馬鹿らしく成る程だ。恨みを抱かせてる者が多い事、それはどんな馬鹿であっても、判るだろう。ミネバは、別にそれが嫌いな訳ではない。

 どちらかと言えば、……復讐者を、返り討ちにする事に喜びを感じるのだ。


「正面からは分が悪い。……アイツら(・・・・)に 色々と活躍(・・)してもらおうじゃないか。請け負うなんてのは甘ちゃんがする事さ。……だからこそ、効果は抜群ってもんだろう」


 ミネバはそう呟くと……更に走る速度を速めるのだった。
 
































~人物紹介~


□ アイザック

Lv20/35
技能 統率Lv1 剣戦闘Lv1

 ヘルマン第3軍中隊長。
 その性格は、完全に《長い物には巻かれろ》であり、その性質が色濃く出たのは、ミネバの恐怖支配に屈服しなかったとある兵士に見せしめとして痛めつけた時から。のし上がる事をそれなりに目論んでいるものの、相手が完全に悪い為、表立っては行動はしない。



~魔法・技紹介~


□ 白色・極・破壊光線
 
 魔想志津香の代名詞、とも言える白色破壊光線の強化版。
 魔力は、白色破壊光線よりも遥かに消耗する為、一度の戦いで使用できる回数は1度が限度だろう、と本人は意識している。溜めも必要の為、使い所が難しい魔法でもあるが
―――隣でともに戦っていた《男》がいたから成功できた。
 とも言えるのは最早当然、彼女を知っている者であれば一発で判る周知の事実である。


□ 煉獄・極光閃

 ユーリの技能《リ・ラーニング》により、再現させた《白色破壊光線》
 正直、反則な力。最大級の魔法をあっさりと覚える所に、チートを感じたりするのは、マリアや志津香。ちなみに、元来より、リ・ラーニングは ユーリしか現時点で使い手がいない為、比べる事は出来ないが、どうやら、習得できる魔法に得手不得手があるらしく、ハンティから学んだ《スリープ》や《幻覚魔法》に比べたら遥かに難しいらしく、連続使用はできない模様。(使用後のユーリの感想)

 ―――そうは言っても、どーせ、さらっとするでしょ? と、誰も、その言葉を信じなかったりする。

 志津香同様に、溜めが必要だと言う事と、魔法の力の為、魔に耐性があるモンスターや、完全に無効化するハニーには通じない為、そこまで万能……と言う訳ではなさそうだ。


 
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