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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第91話

同日、15:00――――



~遊撃士協会・クロスベル支部~



「―――なるほど。そんな事になっていたとは。」

ロイド達から事情を聞いたアリオスは重々しい様子を纏って頷いた。

「うーん、失踪者の噂についてはこちらも掴んではいたけど………今回は完全に出遅れちゃったわね。しかもよりにもよってあの教団が出て来るなんて………」

「…………………………………」

溜息を吐いて語ったミシェルの横でアリオスは何も語らず目を閉じて黙り込んでいた。

「………その、アリオスさんも6年前の教団事件には関わっていたんですよね?残党が残っている可能性はどのくらいあると思いますか?」

「………そうだな。確かに全てのロッジは制圧されたが地下に残党が潜った可能性はあり得る。犯罪組織などが手を貸せば潜伏は非常にやりやすくなるだろう。」

ロイドに尋ねられたアリオスは目を開いて真剣な表情で答え

「…………………………………」

「まさに”ルバーチェ”なんか打ってつけの隠れ蓑だったわけか。」

「でも、どうしてそんなリスクの高い事を……計算高いマルコーニ会長にしては少し違和感を感じますけど。」

ティオは黙り込み、ランディは溜息を吐き、エリィは信じられない表情をした後考え込んだ。

「確かに、あの教団の残党を匿ったりしているとわかったら放っておかない所は多いハズよ。ウチはもちろんだけど……教会とか例の”結社”とかもね。」

「となると………まだ見えていない事情が存在しているんでしょうか?」

「ああ―――しかしそれを確かめている余裕は無さそうだ。今は手分けして、マフィアと失踪者達の行方を追うべきだろう。おそらくそれが、教団の残党の正体を炙り出すことにも繋がるはずだ。」

「………その、実は。あくまで推測の域でしかないのですが、既にルファ姉が教団の残党が誰か推測しているんです。」

アリオスの話を聞いたロイドは真剣な表情で申し出

「何………!?」

「は~………さすがはあの”叡智”ね。それで?一体誰なのかしら?」

ロイドの話を聞いたアリオスは驚き、ミシェルは感心した後尋ね、ロイド達はヨアヒムが怪しい事やその理由を説明した。

「………まさかウルスラ病院の医師が教団の残党かもしれないなんて………灯台下暗しとはこの事ね………」

「フッ………さすがルファディエルだな………だが、今は失踪した者達の行方を追うべきだろう。そこに必ずヨアヒムが教団の残党だという証拠があるはずだ。」

ロイド達の説明を聞いたミシェルは驚いた後溜息を吐き、アリオスは静かな笑みを浮かべて言った後、真剣な表情で言った。

「あの、それでは………」

「協力体制を結ぶってことでそっちもいいのかよ?」

そしてアリオスの言葉を聞いたティオとランディはアリオスとミシェルを見て尋ねた。

「ええ、こちらも異存はないわ。市民から失踪者が出ている時点でアタシたちは無関係でいられない。それに薬物被害についてもね。」

「……助かります。どうかよろしくお願いします。」

「ああ、こちらこそ。そうと決まれば、役割分担を決めておきたい所だが………エステル達はともかく他のメンバーはどうしている?」

ロイドの言葉にアリオスは頷いた後、ミシェルに尋ね

「幸い、スコットとリンたちにも緊急の仕事は入っていないわ。エステルちゃんたちを含めたら総勢9名は確保できるわね。」

尋ねられたミシェルは答えた。

「あの………できればエステルとミントの護衛部隊に所属しているメンフィル帝国の兵士達の手も借りたいのですが………」

「ええっ!?………さすがにそれはあの娘達に聞いてみないとわからないけど………いいのかしら?他国の兵をクロスベルにいれたりなんかして………」

ロイドの話を聞いたミシェルは驚いた後、真剣な表情で尋ね

「………事は一刻を争います。それにお二人の護衛部隊と所属しているメンフィル兵達をフェミリンスさんのような”サポーター”という形でとってもらえればギリギリ大丈夫かと思います。」

「………それでも言い訳としてはかなり苦しいと思うけど、仕方ないわね。わかったわ、あの娘達に頼んでみるわ。」

エリィの説明を聞いて難しそう表情をした後溜息を吐いて頷いた。

「よし、全員に召集をかけてくれ。今日中に目ぼしい場所は回れるようにしておきたい。」

「オッケー。それじゃ、連絡してくるわね。」

そしてアリオスの指示に頷いたミシェルは立ち上がって1階に降りて行った。



「あ、相変わらずのフットワークの良さですね………」

ミシェルが去った後エリィは感心した様子で呟いた。

「それが俺達遊撃士の最大の強みでもあるからな。そういえば、セルゲイさんはこの事を了解しているのか?」

「ええ、協力体制については既に許可を貰っています。アリオスさんによろしくと言ってました。」

「そうか…………………………」

ロイドの話を聞いて頷いたアリオスは目を伏せて黙り込んだ。

「………その、アリオスさん。警察にいた頃は、課長の下で働いていたんですよね?俺の兄貴と一緒に………」

「………ああ。セルゲイさんと、俺と、ガイ………たった3人で捜査一課以上の実績を打ち立てた警察史上最高と謳われたチーム………だが5年前、俺が一身上の都合で警察を辞めてからチームは解散した。セルゲイさんは警察学校に異動し、ガイは捜査一課に移り………その2年後―――ガイは殉職を遂げた。」

「「………………………………」」

アリオスの話を聞いたロイドとティオはそれぞれ黙り込んだ。

「俺が警察を辞めなければ―――無論そんな事を言うつもりはない。俺は俺の事情と決意をもって警察とは袂をわかったからだ。だが………それでも未だに思い出す事もある。あの輝かしい日々を………クセの強い上司と、破天荒な相棒と共に過ごした歳月のことをな。そしてもしそこにあのルファディエルがいれば、どうなっていたかをな………フフ―――だから正直、お前達が羨ましいくらいだ。」

「え………」

「はは、天下の”風の剣聖”にそんな事を言われるとはね………」

「どちらかというとギルドの風通しの良さが羨ましいくらいですけど………」

アリオスの意外な言葉を聞いたロイドは驚き、ランディは苦笑し、エリィは溜息を吐いて呟いた。

「―――警察には警察の、ギルドにはギルドの役割がある。いかなる権力にも屈せず普遍的な理想としての”正義”を追い求めるのがギルドなら………権力という矛盾を抱えながらそれでも”正義”を追求するのが警察の役割だろう。お前達が感じるであろう様々な矛盾や理不尽な状況……かつては俺も感じたものだが、今となってはそれもまた、価値のある経験だったと思う。」

「権力という矛盾を抱えながらも追及する”正義”………」

「………兄貴もそれを追い求めていたんでしょうか?」

「ああ………俺はそう信じている。だからこそセルゲイさんも支援課の設立に尽力したんだろう。」

「「「「……………………」」」」

「フ……説教めいた事を言ったようだ。お前達はお前達で答えを見つけるといいだろう。多分あいつもそれを望んでいるだろうからな。」

「………はい。」

「はは、難しい宿題だな。」

アリオスの言葉にロイドとランディが頷いたその時

「ただいま~!」

エステル達がシズクを連れて2階に上がって来た。

「エステル、ヨシュア、ミント。それにシズクちゃんも………」

「ふふ………今日はとっても可愛い服ね。」

「ふふっ………ありがとうございます。こんにちは、みなさん。」

エリィの褒め言葉に微笑んだシズクは軽く頭を下げた。

「お邪魔しています。」

「おーおー、外出日を満喫してるみたいじゃねえか。」

「俺に急用が入ったので彼らが付き添ってくれたんだ。エステル、ヨシュア、ミント。面倒をかけてすまなかったな。」

「えへへ、気にしないで。シズクちゃんと一緒にいられてすっごくラッキーだったもん。ホッペがプニプニの所も存分に堪能させてもらったし!」

「うんうん!シズクちゃんのホッペは気持ちよかったね~。」

アリオスの言葉にエステルとミントは微笑み

「エ、エステルさぁん………ミントさぁん………」

シズクは表情を引き攣らせて呟き

「まったくもう………オジサンじゃないんだから。ミントもどんどんエステルの悪影響を受けているし………―――ところで、ミシェルさんから聞きましたけど………何でも警察と非公式に協力することになったとか?」

ヨシュアは呆れて溜息を吐いた後真剣な表情でアリオスに尋ねた。

「ああ、他の連中が集まり次第、説明させてもらおう。ロイド、できればお前達も同席してくれ。」

「はい……!」

その後、集結した遊撃士達と現在の状況確認を行った後………お互いの役割分担を決めた上で、ロイド達は一旦、支援課に戻ることにした。



「―――それではシズクちゃんは責任をもって預からせてもらいます。」

「こちらは課長もいますし、頼りになる警察犬もいますからどうか安心してください。」

「ああ、よろしく頼む。―――シズク。いい子で待っていてくれ。」

「うん、お父さん。………その………お父さん達も気を付けてね。」

「ああ、心配するな。」

シズクに心配されたアリオスは静かに頷き

「うーん、あたし達の護衛部隊の人達がクロスベルにいたら良かったんだけど。」

「全員、捜索に出払うとなるとここもちょっと無用心だからね。」

「でも、よかったんですか?俺達の方からも捜索の人手を出した方が……」

エステルとヨシュアの話を聞いたロイドは尋ね

「ハハ、気にするなって。そっちは犯人疑惑がある病院の先生から成分調査の連絡が来るんだろう?」

「人探しは自分達にまかせて今後の状況に備えておくといい。」

「うんうん!それに人手ならベルガード門の先にあるメンフィル領のミントとママの護衛部隊の人達が合計100人来てくれるから、夜になれば十分足りるようになるよ!」

ロイドの疑問にスコット、ヴェンツェル、ミントが答え

「うーん、しかし警察の連中と協力することになるとはねぇ。」

「ふふ、レミフェリアでは別に珍しい事ではないけれど………よろしくお願いするわね、皆さん。」

リンが苦笑し、エオリアは微笑んだ。

「いや~、こちらこそ!」

「よろしくお願いします。」

「何かあったら遠慮なくギルドに連絡してきて頂戴。こちらも何かわかったら支援課に連絡されてもらうから。」

「それじゃあお互い頑張りましょ!」

「ああ………!」

そしてミシェルとエステルの言葉に力強く頷き

「………互いの手と手を取り合えば、どんな苦難をも乗り越えられるでしょう………”神”である私もその中の一人になるのです。大船に乗った気でいなさい。」

「フフ……本物の”神”のフェミリンスさんが言うと本当にそう思えてきますね。」

「よろしくお願いします。―――”姫神”フェミリンス様………」

フェミリンスに微笑まれたティオは微笑みで返し、エリィは会釈をした。その後ロイド達は遊撃士協会を出た。



「いや……何ていうか、圧倒されたな。」

「アリオスさんは勿論ですがホープのエステルさん達と本物の”神”であるフェミリンスさん………それ以外の人達も全員、かなり腕が立ちそうでしたね。」

ギルドを出たロイドは溜息を吐き、ティオは静かな表情で呟いた。

「どうやら全員、B級以上のランクを持ってるみてぇだが………若手の実力者があれだけ集まっている支部も珍しいんじゃねえか?」

「それだけギルドもクロスベルという場所を重視しているんでしょうね。裏を返せば、警察が動けない状況を見透かされてるんでしょうけど……」

ランディの話を聞いたエリィは頷いた後複雑そうな表情になった。

「ああ……こちらもしっかりしないとな。っと、ゴメン。いきなり変な事を言って。」

エリィの言葉に頷いたロイドはシズクに気付いて苦笑した。

「ふふ、気にしないで下さい。お父さんが皆、警察にいたのはわたしも聞いていますし………いろいろ複雑で難しい問題があるみたいですけど……でも、今回はいっしょに協力してお仕事するんですよね?」

ロイド達に視線を向けられたシズクは微笑んだ後尋ね

「ああ、どちらかというと俺達が助けてもらうんだけどね。」

尋ねられたロイドは頷いた。

「そういえば、おととい作った手作りのペンダント……お父さんには渡せたのかい?」

「あ………はい。えへへ……実は昨晩、お父さんがお見舞いに来てくれて。無事に渡せたんですけど……お父さん、どんな顔をしてたのかな。しばらく黙ってて………その後、ちょっとぶっきらぼうにお礼を言われたんですけど。」

「ハハ………『……受け取っておく』ってか?」

「はい、ちょうどそんな感じです。」

「容易に想像できますね……」

「ふふ、シズクちゃんの前ではアリオスさんも形無しね。」

「それだけシズクちゃんの事を大事にしてるんだろうな………―――さてと、それじゃあ支援課に案内させてもらうよ。手を引かせてもらってもいいかい?」

「あ、ありがとうございます。そういえば………キーアちゃん、いるんですよね?」

ロイドの言葉に頷いたシズクはどこか期待がこもった様子で尋ね

「ええ、例のツァイトと一緒にいるんじゃないかしら。」

「シズクさんが遊びに来たら飛び上がって喜びそうですね。」

「えへへ……嬉しいな。」

エリィとティオの話を聞いて嬉しそうな表情をした。

「よーし、そんじゃあ姫をエスコートして帰るとするか!」

その後ロイド達はシズクと一緒に支援課のビルに向かった…………


 
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