孤立無援
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4部分:第四章
第四章
「それもな。こっちだって使ってるんだしな」
「だよな。俺達が使うんならな」
「向こうが使ってきても不思議じゃないな」
「御互い様だしな」
「やられたらやり返せだ」
そうした戦争になっていた。最早だ。
だからだ。ジョーンズは言うのだった。
「向こうだってそうしてくるだろう」
「ちっ、誰があんなの使いはじめたんだよ」
バーグマンは枯葉剤についてだ。思わず舌打ちした。
「あれは後で余計に来るからな」
「今すぐにでも催涙にはなるからな」
「ああ、洒落になってないぜ」
言うならば強力な農薬だ。それが枯葉剤だ。
アメリカ軍は膠着した戦局の打開の為にこの枯葉剤をジャングルに撒きそれでベトコンの隠れている場所を消し去ろうとしたのだ。尚化学兵器は国際条約で禁止されている。
その条約を無視してまで投入している枯葉剤についてだ。バーグマンは銃撃しながら言った。
「あれだけはな」
「全く。どうなんだよ」
マニエルもだ。敵兵に狙いを定めながら言った。
「この戦争はな」
「正義もへったくれもないな」
ジョーンズもだ。苦い顔で言いながらだ。銃撃をしていた。
「全くよ。アメリカはどうしたんだろうな」
「正義と自由のステイツだが」
「とんでもねえことしてるぜ」
バルボンもバーグマンもこう言いながらだ。そのうえでだ。
戦闘を続けていた。戦闘は昼になっても続きだ。夕方になってだ。
ベトコン達はようやく退いた。しかしだ。
死傷者は出てもそれでもだ。彼等の数はまだ多かった。退く兵達の数はまだ多かった。
その退く彼等を見ながらだ。マニエルは仲間達に言った。
「明日もまた、だな」
「ああ、来るな」
「また明日な」
夕食のレーション、幸いまだ残っていたそれを口にしながらだ。仲間達もマニエルに応える。洞穴の入り口に陣取りながらだ。そのうえで話すのだった。
「夜だってまずいよな」
「ベトコンってのは何時来るかわからないからな」
「ああ、今だってな」
「油断させておいてな」
来るかも知れないとだ。彼等も考えていた。そしてだ。
その中でだ。ジョーンズがこう提案した。
「で、寝る時もな」
「ああ、交代で寝るか」
「そうした方がいいよな」
「夜来ることだって考えられるからな」
戦争の常だ。夜襲はだ。だから言うのだった。
「だから交代で寝ようぜ」
「そうだよな。じゃあ早いうちに寝てな」
「交代でそうしてな」
「休むか」
「とりあえず生きるんだよ」
ジョーンズの言葉は切実なものだった。実に。
「その為にだよ」
「あらゆることをしてな」
「そうするか」
四人はこう言い合いだ。その夜は。
二人ずつ交代で寝た。夜は幸い敵襲はなかった。
しかし朝になるとすぐにだ。明るくなるとすぐにだ。
ベトコン達が来た。洞穴に向けて次々に射撃を浴びせてくる。
入り口の物陰に隠れてそれをかわしながら。四人はうんざりした様に言い合った。
「ったくなあ」
「朝起きてすぐかよ」
「ベトコンってのは健康的な生活してるな」
「全くだぜ」
かなりシニカルにだ。四人は攻撃を凌ぎながら言い合う。
そのうえで反撃を出しながらだ。そしてだった。
朝飯にビーフージャーキーを出してかじりながらだ。そしてだった。
マニエルがだ。敵弾が頬のすぐ傍をかすめるのを見ながら三人にこんなことを言った。
「今戦争ばっかりだけれどな」
「何だ?」
「戦争がどうしたんだ?」
「いや、ベトナム人はな」
そのだ。ベトコンの攻撃を見ながらの言葉だった。朝早くからのそれをだ。
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