ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第56話非道なる刃
三人称side
霧島弾が神鳴未来と共に世界樹の上から落下した直後、神鳴竜と桐ヶ谷和人とその娘、ユイは世界樹の頂上に設置されている巨大な鳥籠の前に辿り着いた。その鳥籠の中には、キリトが最も会いたかった人物が籠の中に設置されているベッドに顔を埋めていた。
「ママ!」
ママーーーそうユイに呼ばれ、ベッドから顔を離し籠の外に視線を向けた。
栗色の綺麗な長髪、透明な白い妖精の羽、腹部を大きく露出したドレス。かつてキリトやライリュウと共に剣の世界で生死を懸けた戦いを生き抜き、キリトと共に人生を歩む事を誓った女性ーーー結城明日奈。
彼女は籠の外に立つ二人の青年と一人の少女の姿を見て、涙を流す。
「ママァーーーーーー!!」
「ユイちゃん!!」
鳥籠の鉄格子を光の破片と化し、自分の胸に飛び込む娘を母は抱きしめる。理不尽な世界の理によって離ればなれになってしまった母娘の心を、喜びと愛を込めた呼び声で暖めていく。その母子に歩み寄る青年が一人、桐ヶ谷家の大黒柱ーーーキリト。
「キリトくん・・・」
「アスナ・・・ごめん。遅くなった」
「ううん。信じてた。きっと、助けに来てくれるって・・・」
ユイを挟むように立ち、額を合わせる。愛する者が自分を救出してくれる、そう信じて疑わなかった彼女の思いが届いたのだろう。
アスナは不意にキリトやユイと共にこの場へ来た青年に目を向ける。その視線に気付き青年はーーー左腕を後ろに回し、背中の鞘に納められた大剣に手をかける。その姿を見たアスナは、彼がライリュウだと気付いた。髪型や服装、左腕があるという違いがあるが、間違いなく本人なのだろう。
「さあ、一緒に帰ろう?」
「・・・うん」
「ユイちゃん。アスナさんをログアウトさせられるか?」
「ママのステータスは、複雑なコードによって梗塞されています。解除にはシステムコンソールが必要です」
「わたし、ラボラトリーでそれらしい物を・・・」
ーーー刹那。
『!?』
キリトの足元に謎の穴が空く。その穴を中心に、その場の重力が強くなる。立つ事もままならない程の重力が彼らを苦しめる。
「うっ!!ママ・・・パパ・・・おいちゃん・・・気を付けて。何か、良くない物が・・・!」
「ユイちゃん!!」
突如ユイの身体が紫色の電磁波を帯びて、アスナの目の前から消滅してしまった。
その直後もキリトとアスナは互いに手を伸ばすが、重力がそれを阻止する。さらには腕力と根性の塊と言っても過言ではないライリュウでさえ、身動きが取れない状況にいた。
「いや~、驚いたよ。小鳥ちゃんの籠の中に、ゴキブリが迷い混んでるとはね」
彼らのように重力の影響を受ける事なく、平然と歩く男がいた。
長い金髪と緑色の衣、蝶のような形の緑色の羽を携えた、一見してシルフと見間違える男。GM、妖精王オベイロン。本名ーーー
『須郷伸之・・・!!』
「チッチッ。この世界でその名前はやめてくれるかな~?妖精王オベイロン陛下と、そう呼べぇぇぇぇ!!」
須郷伸之。そう呼んだライリュウとキリトを、まるで威張り散らすかのように蹴り飛ばす。妖精王オベイロンとは本来、全妖精達にとってありがたい存在なのだろう。ならこの光景を誰かが見てしまったらーーー本当にそう言えるだろうか。
「キリトくん!!」
「どうだい!?ろくに動けないだろう!?次のアップデートで導入予定の《重力魔法》なんだけど・・・ちょっと強すぎるかな~?」
「この野郎ォ~・・・!!」
《重力魔法》ーーー今後のALOのアップデートで導入される予定の新要素、それが彼らを苦しめていた異変の正体であった。
身動きの取れないキリトの頭をジリジリと踏みつける須郷に対し、恋人と親友の怒りのボルテージが上がる。
「それにしても桐ヶ谷君に神鳴君。いや、キリト君とライリュウ君と呼んだ方が良いかな?どうやってここまで登って来たんだい?さっき妙なプログラムが動いていたが・・・」
本来彼らが登る事が出来ないこの場所へ来た理由を、キリトの剣を抜きながら須郷は彼らに問う。その理由はーーー
「飛んできたのさ、この羽で・・・!」
「もうちょっと随意飛行難しくしても良かったんじゃないか?スナック感覚でサクサク飛べたぜ・・・!」
そう返した彼らに対し、須郷は『フン』と鼻で笑う。
「まあいい。キミ達の頭の中に直接聞けば分かる事さ」
頭の中に直接ーーーそんなマネ、超能力者でもない限り出来る訳がない。ライリュウとキリトはそう思っていた。須郷の次の一声を聞くまではーーー
「キミ達はまさか、僕が酔狂でこんな仕掛けを作ったと思ってるんじゃないだろうね?300人に及ぶ元SAOプレイヤー、彼らの献身的な協力によって・・・思考、記憶操作技術の基礎研究は既に8割方終了している。かつて、誰も成し得なかった人の魂の直接制御という神の技を!僕はあと少しで我が物に出来る!全く仮想世界サマサマだよぉっ!!」
世界樹の上で行われていたのは、人の脳・心・魂を操作するという許される事のない大犯罪ーーー人体実験であった。そして今狂気の笑い声を上げる須郷の発した言葉に、ライリュウはアスナとの再会の前に起きた出来事を思い出した。
「お前が未来を・・・オレの妹を操っていたのか!?」
「彼女には実験の発展段階に協力して貰ったんだよ。思考の操作をせず、自分の意思とは関係なく身体を動かされる・・・操り人形にね」
ライリュウの妹、神鳴未来の強襲。それは須郷の実験台にされていた事による物だった。それを聞いたライリュウの怒りは爆発しーーー《オーバーロード》の発動で神速のバーサーカーに変異し、重力魔法の制限を抜けた。
「おっと。危ない危ない」
「うっ!!」
だが須郷はライリュウの立ち位置に限定し重力魔法の強度を上げ、ライリュウをほんの一瞬前の状態へ戻す。そのせいかライリュウの《オーバーロード》が強制的に解除される。
「ここだけの話なんだけどね、神鳴君。実はこの世界の神である僕にも、一つだけ恐いものがあるんだ。それがまさしく・・・今キミが使った《オーバーロード》なんだよ」
「!?」
《オーバーロード》を知っているーーーそしてそれを恐れている。この世界限定で言えば神である須郷が恐れる程の能力、脳の活性化を行い神速を手に入れる事が出来る人智を超えた能力。
「だから遊びを始める前に・・・キミはこの世界で死んで貰うよ!」
そう言って須郷は指をパチンと鳴らし、天井から先端に手錠が付いた二本の鎖を呼び出し、ライリュウの両手首に装着する。そして鎖が天井に巻き戻されて、ライリュウは両腕を大きく開いた十字架のような体勢で立たされた。
そして須郷は先程キリトから奪った《ブラックプレート》という黒い大きな片手剣の剣先をライリュウに向ける。
「・・・残念だけど、オレは《アミュスフィア》でインしてんだ。殺すって・・・《アミュスフィア》の信号素子放出量じゃオレの脳ミソは焼けねぇぞ?」
《アミュスフィア》ーーーSAO事件によって悪魔の道具と呼ばれた《ナーヴギア》よりも信号素子を弱くした後継機。人間の脳を焼く程の火力は出せない事はライリュウも知っている。当然ALO及び《アミュスフィア》の開発者である須郷が知らない訳がない。それでも彼を殺すというのならーーー
「システムコマンド!《ペインアブソーバ》をレベル10から4に変更」
『!?』
痛覚制御システム、《ペインアブソーバ》のレベルを下げ、痛覚を強くすればいい。
「やめなさい須郷!!」
「はいぃぃぃっ!!」
「ガッ・・・グアァァァァァァァァ!!」
「ライリュウ!!」
須郷はアスナの制止を耳にせず、その手に握る剣をーーーライリュウの腹を貫く。キリトの声をかき消す程のライリュウ大きな悲鳴は、それ相応の激痛を表しているのだろう。
「痛いだろう?レベル3以下にすると現実の肉体にも影響があるようだが・・・確実に消えて貰わなきゃね。システムコマンド!《ペインアブソーバ》をレベル4から2に変更!!」
「ガァァァァァァッ!!!」
それは悪魔の呪文。須郷は痛覚制御をさらに弱め、今だ腹に剣を刺されたままのライリュウの悲鳴は先程とは比べ物にならない程の物となった。そして須郷はライリュウの腹から乱暴に剣を抜き取りーーー
「今からキミを、キミのかつての姿に戻してやるよ」
「やめなさい卑怯者!ライリュウくんを解放しなさい!!」
「さようなら・・・」
「やめろ須郷ォォォォォォォォォ!!!」
「醜い獣・・・ドラゴン君♪」
天高く切っ先を向けた剣を降り下ろし、ライリュウの左腕をーーー
「グワァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
切断した。
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