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血のせいにはならない

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6部分:第六章


第六章

 そしてその他の者達についてもだ。ケンタウロスは賢者に問うた。
「どうなのでしょうか」
「ニンフ達もか」
「そうです。他の者達も」
「そうだな。善悪の中で揺れているのならばだ」
 どうかとだ。賢者も言葉を返した。
「それは人なのか」
「そうであると考えます」
 つまりだ。ケンタウロスもニンフもだ。人であるというのだ。
「善悪の間で揺れ動くのならば」
「そうか。君はそう考えているのだな」
「その通りです。私の考えは間違えているでしょうか」
「どうだろうか」
 賢者はケンタウロスの言葉を受けてだ。そしてだった。
 深いものをみながらだ。ケンタウロスに対して答えた。
「私がはじめて聞いた考えだ。即答に困る」
「左様ですか」
「しかし見事な考えだ」
 考えとしての質はだ。いいというのだ。
「これまでにないな」
「人の考えでしょうか」
「そうなっている」
 このこともだ。賢者は認めた。
「この私も間違いかどうかは断定できない。しかしだ」
「それでもですか」
「素晴らしい考えだ。人間としてな」
 こうそのケンタウロスに答えたのだった。そうしてだった。
 このアテネの賢者と若いケンタウロスのやり取りは忽ちにうちに広まりだ。多くの者がだ。
 ケンタウロスと話をしてみた。そして付き合ってみた。その結果わかったことは。
 確かにケンタウロスの中にはまだ無学で粗野な者がいる。だがその彼等も改善されて言っており尚且つ多くの者が賢明になっていた。そのことがわかりだ。
 人間達もニンフ達もだ。驚いてこう言うのだった。
「まさかな」
「そうだな。あのケンタウロス達がな」
「あそこまで学んでいるなんてな」
「そして上品になったな」
「酒に乱れることもなくなった」
「かなりましにはなってきたな」
「たまには相変わらずな奴もいるけれどな」
 そうした者もだ。やはりいることはいるのは確かだった。だがそれでもだ。おおむねにおいて彼等はどうかとだ。そのことを話していくのだった。
「けれど。あいつ等も変わったな」
「ああ、イクシオンの子孫でもな」
「ましになったよ」
「よくなったよ」
 彼等も次第にケンタウロス達を認めだしたのだ。そうした話を聞いてだ。
 ケンタウロス達も驚きを隠せなかった。それでこう言うのだった。
「おい、信じられないな」
「そうだな。俺達がなあ」
「何か最近評価変わったよな」
「違ってきたよな」
 驚きを隠せない顔での言葉だった。
「俺達でもそうなんだな」
「いいことをすれば見る目が変わるんだな」
「行いをあらためれば」
「そうなっていくんだな」
「その通りだ」
 その彼等にだ。ケイローンが話した。彼は今も同胞達の傍にいる。
「確かにまだ我々を軽蔑する者がいるな」
「はい、それに俺達の中でもまだ行いが悪い奴がいますね」
「そうした奴等も」
「まだいますね」
「そうだ。だがそれでもだ」
 そうした小さいことではなくだ。ケイローンは大局を見て言っているのだ。
「かなり違ってきたことは事実だな」
「はい、何か本当に」
「かなり変わってきましたね」
「それは確かですね」
「大切なのは自分自身なのだ」
 これがケイローンの言いたいことだった。そして実際に言うのだった。
「とどのつまりはだ」
「自分自身ですか」
「それが大事なんですか」
「そうだ。精進するのだ」
 また言うケイローンだった。
「生まれでは何も決まらないのだ」
「わかりました。じゃあこれからもですね」
「学び己を保てということですね」
「その通りだ。そうすれば諸君等も馬鹿にされ軽蔑されることもなくなる」 
 これまでの様にだ。そうしたことがないというのだ。
「わかったな。それではだ」
「はい、それじゃあ」
「これからも頑張りますね」
 ケンタウロスは明るい顔になって彼等の長老の言葉に応える。そうしてだった。
 ケンタウロス達は努力していった。そうして何時しか人間やニンフ達と変わらない評価を受けるようになった。イクシオンの子孫であってもだ。そうなったのである。


血のせいにはならない   完


                           2012・4・3
 
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