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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第60話

同日、14:40――――



~ローゼンベルク工房~



「――――ふぅん、なるほど。おねえちゃんやお兄さんたちもやっとそこまで辿り着いたみたいね。」



ロイド達が行動を始めていたその頃、ユウナはローゼンベルク工房の地下にある端末を動かしながら呟いた。

「出席者も揃って招待状も届けられた………これで(パーティー)の準備はぜんぶ整ったかしら?先に鬼さんを見つけるのはエステル達?お兄さん達?それとも―――」

今後起こる事態に対してユウナが興味ありげな表情で呟いたその時

「………相変わらず全てが見えておるらしいな。」

一人の老人が部屋に入ってきてユウナに近づいてきた。

「うふふ、ユウナはそこまで自信過剰じゃないわ。ユウナに見えるのは絡まり合った因果(システム)だけ。お互い別々に作動する因果がこのクロスベルという場でどんな織物を編み上げるのか………それが見えるというだけよ。」

「ふむ……なるほどな。マフィアと例の教団が何をするつもりかは知らんが少々、騒がしくなりそうだの。まあ、これも自業自得―――いや因果応報というものか。」

ユウナの話を聞いた老人―――ローゼンベルク工房の主であるヨルグは重々しい様子を纏って呟いた。



「ええ、あの灰色の街が積み重ねてきた因果の報いと言うべきかもしれないわね。――――てっきり”結社”の関与もあるかと思っていたのだけど。」

「この地は”結社”と”教会”の緩衝地帯にもなっておるからな。法王は騎士の活動を禁じ、盟主は執行者を派遣しない。ま、あくまで建前としてはだが。」

「うふふ、おじいさんの工房がある時点で怪しいものだけど……まさかクロスベルの導力ネットに介入できる遠隔システムまで用意してるとは思わなかったわ。おかげでユウナも退屈しなくて済んでるけど。」

「お前さんの役に立ったのなら用意した甲斐があったというものだ。あやつが押し付けて来た時はブチ壊してくれようと思ったが………」

「クスクス………相変わらず”博士”と仲が悪いのね。”十三工房”の管理者にして使徒第六柱――――ノバルティス博士。”星辰”のネットワークがあるのに、今更エプスタインの試験運用に何の興味があるのかしら?」

ある人物を思い浮かべて忌々しそうな表情をしているヨルグの様子を見て小悪魔な笑みを浮かべたユウナは興味ありげな表情で自身の疑問を口にした。



「フン、あやつのことだ。どうせロクでもない企みのために役立てようと思っとるのだろう。まったく、開発途中の実験作を適当にバラまきおって………」

「うふふ、おねえちゃんやお兄さん達が戦ったあの紅い武者さんね。モニターで見た限りはそれなりにできる子みたいだけど?」

怒りを纏って呟いたヨルグの話を聞いたユウナは口元に笑みを浮かべて尋ねた。

「やはり自律的な状況判断と柔軟な行動選択に難アリだな。なかなかお前さんの”相棒”のようにはいかんさ。」

「ふふっ……でも、ユウナがここにいるのは博士も気づいているんでしょう?ユウナはともかく彼について何も言ってこないのかしら?」

「今のところはダンマリだな。どうやら新しい機体と”リベールの異変”の際に破壊された”箱舟”の代わりの開発に熱中しておるようだが………―――まあ、課題だった姿勢制御と関節部分の構造強化も完了した。あやつに余計な口を挟ませるスキは見せんさ。」

ユウナの疑問に対してヨルグは静かな表情で答えた。



「うふふ、ありがとう。これでやっと……最後の賭けが始められるわ。」

「………ふむ………」

複雑そうな表情で呟いたユウナの様子が気になったヨルグは重々しい様子を纏ってユウナを見つめていた。

「ふふっ、そんな顔をしないで。人形繰りを教えてくれたり偽物の人形さんを作ってくれたりこうして匿ってくれたり………おじいさんには感謝してるわ。」

「なに、大した事はしておらんさ。それよりも―――今日は忙しくなるのだろう?少々早めだが、午後のティータイムとしよう。」

「うふふ、そうね。」

ヨルグの提案にユウナは上品に笑いながら頷いた後ヨルグと共にある方向を見つめ

「”パテル=マテル”、一緒にお茶しましょう。今日は長い一日になるわ。たぶん、この自治州が始まっていちばん長い一日にね。」

見つめた方向にいる巨大人形―――”パテル=マテル”に意味ありげな笑みを浮かべて提案し

「―――――――――」

ユウナの提案に答えるかのように”パテル=マテル”は両目の部分を光らせた。



同日、15:00――――



~遊撃士協会・クロスベル支部~



「―――なるほど。そんな事になっていたとは。」

一方その頃ロイド達から事情を聞いたアリオスは重々しい様子を纏って頷いた。

「うーん、失踪者の噂についてはこちらも掴んではいたけど………今回は完全に出遅れちゃったわね。しかもよりにもよってあの教団が出て来るなんて………」

「…………………………………」

溜息を吐いて語ったミシェルの横でアリオスは何も語らず目を閉じて黙り込んでいた。

「………その、アリオスさんも6年前の教団事件には関わっていたんですよね?残党が残っている可能性はどのくらいあると思いますか?」

「………そうだな。確かに全てのロッジは制圧されたが地下に残党が潜った可能性はあり得る。犯罪組織などが手を貸せば潜伏は非常にやりやすくなるだろう。」

「まさに”ルバーチェ”なんか打ってつけの隠れ蓑だったわけか。」

「でも、どうしてそんなリスクの高い事を……計算高いマルコーニ会長にしては少し違和感を感じますけど。」

「多分だけど”黒の競売会(シュバルツオークション)”の件でハルトマン議長の怒りを買ってしまった事はあのオジサン達にとって今後の活動に大きな支障になる程の相当不味い事になってしまったからでしょうね。」

ロイドの質問に答えたアリオスの話を聞いたティオは黙り込み、ランディは溜息を吐き、マルコーニ会長の真意が理解できず考え込んでいるエリィの疑問を聞いたレンはマルコーニ会長の真意を推測した。



「確かに、あの教団の残党を匿ったりしているとわかったら放っておかない所は多いハズよ。ウチはもちろんだけど……教会とか例の”結社”とかもね。」

「となると………まだ見えていない事情が存在しているんでしょうか?」

「ああ―――しかしそれを確かめている余裕は無さそうだ。今は手分けして、マフィアと失踪者達の行方を追うべきだろう。おそらくそれが、教団の残党の正体を炙り出すことにも繋がるはずだ。」

「あの、それでは………」

「協力体制を結ぶってことでそっちもいいのかよ?」

「ええ、こちらも異存はないわ。市民から失踪者が出ている時点でアタシたちは無関係でいられない。それに薬物調査についてもね。」

ランディの確認の言葉にミシェルは頷いて協力体制を結ぶ理由を説明した。



「……助かります。どうかよろしくお願いします。」

「ああ、こちらこそ。そうと決まれば、役割分担を決めておきたい所だが………エステル達はともかく他のメンバーはどうしている?」

ロイドの言葉にアリオスは頷いた後、ミシェルに現在の状況を尋ねた。

「幸い、スコットとリンたちにも緊急の仕事は入っていないわ。エステルちゃんたちを含めたら総勢7名は確保できるわね。」

「よし、全員に召集をかけてくれ。今日中に目ぼしい場所は回れるようにしておきたい。」

「オッケー。それじゃ、連絡してくるわね。」

僅かな会話の数で今後の方針を決めたミシェルは他の遊撃士達に連絡する為に一階へと降りた。



「あ、相変わらずのフットワークの良さですね………」

「それが俺達遊撃士の最大の強みでもあるからな。そういえば、セルゲイさんはこの事を了解しているのか?」

「ええ、協力体制については既に許可を貰っています。アリオスさんによろしくと言ってました。」

「そうか…………………………」

ロイドの話を聞いて頷いたアリオスは目を伏せて黙り込んだ。

「………その、アリオスさん。警察にいた頃は、課長の下で働いていたんですよね?俺の兄貴と一緒に………」

「………ああ。セルゲイさんと、俺と、ガイ………たった3人で捜査一課以上の実績を打ち立てた警察史上最高と謳われたチーム………だが5年前、俺が一身上の都合で警察を辞めてからチームは解散した。セルゲイさんは警察学校に異動し、ガイは捜査一課に移り………その2年後―――ガイは殉職を遂げた。」

「「「………………………………」」」

アリオスの話を聞いたロイドとティオはそれぞれ黙り込み、レンは真剣な表情でアリオスを見つめていた。



「俺が警察を辞めなければ―――無論そんな事を言うつもりはない。俺は俺の事情と決意をもって警察とは袂をわかったからだ。だが………それでも未だに思い出す事もある。あの輝かしい日々を………クセの強い上司と、破天荒な相棒と共に過ごした歳月のことをな。フフ―――だから正直、お前達が羨ましいくらいだ。」

「え………」

「はは、天下の”風の剣聖”にそんな事を言われるとはね………」

「どちらかというとギルドの風通しの良さが羨ましいくらいですけど………」

「まあ、ギルドは軍や警察組織と違って少数精鋭だから風通しくらいはよくしないとやっていけないわよ。」

アリオスの意外な言葉を聞いたロイドは驚き、ランディは苦笑し、エリィは溜息を吐いて呟き、レンは疲れた表情で答えた。

「―――警察には警察の、ギルドにはギルドの役割がある。いかなる権力にも屈せず普遍的な理想としての”正義”を追い求めるのがギルドなら………権力という矛盾を抱えながらそれでも”正義”を追求するのが警察の役割だろう。お前達が感じるであろう様々な矛盾や理不尽な状況……かつては俺も感じたものだが、今となってはそれもまた、価値のある経験だったと思う。」

「権力という矛盾を抱えながらも追及する”正義”………」

「………兄貴もそれを追い求めていたんでしょうか?」

「ああ………俺はそう信じている。だからこそセルゲイさんも支援課の設立に尽力したんだろう。」

「「「「「……………………」」」」」

「フ……説教めいた事を言ったようだ。お前達はお前達で答えを見つけるといいだろう。多分あいつもそれを望んでいるだろうからな。」

「………はい。」

「はは、難しい宿題だな。」

アリオスの言葉にロイドとランディが頷いたその時

「ただいま~!」

エステル達がシズクを連れて2階に上がって来た。



「エステル、ヨシュア。それにシズクちゃんも………」

「ふふ………今日はとっても可愛い服ね。」

「うふふ、中々似合っているわよ♪」

「ふふっ………ありがとうございます。こんにちは、みなさん。」

エリィとレンの褒め言葉に微笑んだシズクは軽く頭を下げた。

「お邪魔しています。」

「おーおー、外出日を満喫してるみたいじゃねえか。」

「俺に急用が入ったので彼らが付き添ってくれたんだ。エステル、ヨシュア。面倒をかけてすまなかったな。」

「えへへ、気にしないで。シズクちゃんと一緒にいられてすっごくラッキーだったもん。ホッペがプニプニの所も存分に堪能させてもらったし!」

「エ、エステルさぁん………」

「ティータやレンだけじゃ足りないなんてエステルったら意外と欲張りよねぇ。」

「まったくもう………オジサンじゃないんだから。―――ところで、ミシェルさんから聞きましたけど………何でも警察と非公式に協力することになったとか?」

エステルの自分に対する感想にシズクが苦笑している中、レンと共に呆れた表情で溜息を吐いたヨシュアは気を取り直して真剣な表情でアリオスに尋ねた。

「ああ、他の連中が集まり次第、説明させてもらおう。ロイド、できればお前達も同席してくれ。」

「はい……!」

その後、集結した遊撃士達と現在の状況確認を行った後………お互いの役割分担を決めた上で、ロイド達は一旦、支援課に戻ることにした。



「―――それではシズクちゃんは責任をもって預からせてもらいます。」

「こちらは課長もいますし、頼りになる警察犬もいますからどうか安心してください。」

「ああ、よろしく頼む。―――シズク。いい子で待っていてくれ。」

「うん、お父さん。………その………お父さん達も気を付けてね。」

「ああ、心配するな。」

シズクに心配されたアリオスは静かに頷き

「うーん、もう少し人手が足りてれば良かったんだけど。」

「全員、捜索に出払うとなるとここもちょっと無用心だからね。」

「それに関しては同感ね。レンちゃんにも一時的にでもいいから支援課への出向を停止してこっちを手伝って欲しいくらいね。」

エステルとヨシュアの意見に頷いたミシェルはレンを見つめ

「クスクス、人気者は辛いわね♪」

「ハハ……さすがにそれは勘弁してください。でも、よかったんですか?俺達の方からも捜索の人手を出した方が……」

レン笑顔でミシェルの半分本気の冗談を流し、ロイドは苦笑した後訊ねた。



「ハハ、気にするなって。そっちは病院の先生から成分調査の連絡が来るんだろう?」

「人探しは自分達にまかせて今後の状況に備えておくといい。」

「うーん、しかし警察の連中と協力することになるとはねぇ。」

「ふふ、レミフェリアでは別に珍しい事ではないけれど………よろしくお願いするわね、皆さん。」

「いや~、こちらこそ!」

「よろしくお願いします。」

「うふふ、”リベールの異変”以来の大仕事ね♪」

「それじゃあお互い頑張りましょ!」

「ああ………!」

その後ロイド達は遊撃士協会を出た。



~東通り~



「いや……何ていうか、圧倒されたな。」

「アリオスさんは勿論ですがホープのエステルさん達………それ以外の人達も全員、かなり腕が立ちそうでしたね。」

「ふふっ、クロスベルに所属している遊撃士の人達は間違いなく、”リベールの異変”みたいな大事件の解決に貢献できるでしょうね。」

「どうやら全員、B級以上のランクを持ってるみてぇだが………若手の実力者があれだけ集まっている支部も珍しいんじゃねえか?」

「それだけギルドもクロスベルという場所を重視しているんでしょうね。裏を返せば、警察が動けない状況を見透かされてるんでしょうけど……」

ロイド達がクロスベル所属の遊撃士達についての感想を言い合っている中ランディの指摘を聞いたエリィは頷いた後複雑そうな表情になった。

「ああ……こちらもしっかりしないとな。っと、ゴメン。いきなり変な事を言って。」

エリィの言葉に頷いたロイドはシズクに気付くと苦笑した。



「ふふ、気にしないで下さい。お父さんが皆、警察にいたのはわたしも聞いていますし………いろいろ複雑で難しい問題があるみたいですけど……でも、今回はいっしょに協力してお仕事するんですよね?」

「ああ、どちらかというと俺達が助けてもらうんだけどね。」

シズクの言葉に頷いたロイドはある事を思い出し、シズクに訊ねた。

「そういえば、おととい作った手作りのペンダント……お父さんには渡せたのかい?」

「あ………はい。えへへ……実は昨晩、お父さんがお見舞いに来てくれて。無事に渡せたんですけど……お父さん、どんな顔をしてたのかな。しばらく黙ってて………その後、ちょっとぶっきらぼうにお礼を言われたんですけど。」

「ハハ………『……受け取っておく』ってか?」

「はい、ちょうどそんな感じです。」

「容易に想像できますね……」

「ふふ、シズクちゃんの前ではアリオスさんも形無しね。」

「クスクス、パパだって凄く有名だけどレンやエステル達―――”ブライト家”の女性陣が相手になったら”剣聖”も形無しよ♪」

「それだけシズクちゃんの事を大事にしてるんだろうな………―――さてと、それじゃあ支援課に案内させてもらうよ。手を引かせてもらってもいいかい?」

「あ、ありがとうございます。そういえば………キーアちゃん、いるんですよね?」

ロイドの申し出に頷いたシズクはキーアに会うのが楽しみな様子で訊ねた。



「ええ、例のツァイトと一緒にいるんじゃないかしら。」

「シズクさんが遊びに来たら飛び上がって喜びそうですね。」

「うふふ、その様子が目に浮かぶわね。」

「えへへ……嬉しいな。」

「よーし、そんじゃあ姫をエスコートして帰るとするか!」

その後ロイド達はシズクと一緒に支援課のビルに向かった―――――


 
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