英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第77話
~月の僧院~
「はあはあ………」
「な、何とか追い払えた………」
戦闘を終えたロイドは息を切らせ、ノエルは安堵の溜息を吐いた。
「い、今の………何だったの?教会の聖典に伝えられている”悪魔”みたいだったけど………」
「それもかなりの力を持っていましたね………」
エリィは不安そうな表情で呟き、エリナは真剣な表情で呟き
「―――”影の国”でも先程のと姿が似た存在と戦いました。あの時さらけ出していた霊圧と似ていましたし、正真正銘、本物の”悪魔”だと思います。」
「亡霊、骸骨、ゾンビ、化物ときて、最後には悪魔まで出やがったか………一体どうなってんだ、この遺跡は………?」
ティオは静かな表情で答え、ランディは目を細めて考え込んでいた。一方ロイドは目の前にある屋上に続く階段に気付いた。
「………多分、位置的にあの上が鐘楼になるはずだ。とにかく調べてみよう。」
「ええ………!」
階段に気付いたロイドの提案にノエルは頷いたその時
「待ってください。その前にその魔法陣を消滅させておかないと。その魔法陣が冥界と繋がる道になっていますから、今の内に消しておかないと、また出てきますよ?」
リタが魔法陣を見つめて言った。
「………それなら、私が消しておくわ。」
「………私も手伝うわ。」
リタの言葉を聞いたルファディエルとエルファティシアが詠唱をした。すると魔法陣は光に包まれ、消滅した。
「凄い………魔法陣が………」
「血糊ごと綺麗に消えましたね………」
それを見たノエルとティオは驚き
「エルファティシアさんも天使の方と同じように光だけでなく浄化の魔法も使えるのですか………」
エリナは興味深そうな表情でエルファティシアを見つめ
「ええ。私は光や浄化の魔術の適性が高いからね。」
見つめられたエルファティシアは頷いて答えた。その後メヒーシャとルファディエルを戻したロイド達は屋上に上がって、不気味な音を出し続ける鐘楼に近づいた。
「この音は………」
「鐘が共鳴している………?」
「………ひょっとして………この共鳴音が”場”を作っていた原因かもしれません。」
不気味な音を出し続ける鐘をロイドとエリィは不思議そうな表情で見つめ、ティオは真剣な表情で言った。
「なに………?」
「ど、どういうこと?」
「詳しい原理はわかりませんが………この鐘を中心に何らかの”場”が遺跡全体を包み込んでいるのが感じられます。ですからこの共鳴を止めればあるいは………」
「………”何か”が治まるかもしれねぇってか。」
ティオの説明を聞いたランディは真剣な表情で頷いた。
「どうする、曹長?鐘の共鳴を止めてみるか?」
一方ティオの説明を聞いたロイドはノエルに尋ね
「………ええ、やってみましょう。ロイドさん、ランディ先輩。手を貸してください。同時に鐘を押さえてみましょう。」
ノエルは考え込んだ後、ロイドとランディに言った。
「よしきた。」
「合点承知だ。」
ノエルの言葉に頷いた2人はノエルと共に行動しようとしたが
「待ちなさい。それでは不完全よ。」
「え………」
「エルファティシアさん………?」
エルファティシアの言葉を聞いて呆け、ノエルは不思議そうな表情でエルファティシアを見つめた。するとその時エルファティシアはその場で杖を構えて詠唱をした。すると鐘は音を鳴らさなくなり、さらに周囲には清浄な空気が流れ始め、モヤはなくなり、空は青空になり、太陽の光が遺跡を照らしていた。
「モ、モヤが消えた………」
「おお………青空が戻ってきやがったぜ。」
「遺跡全体を包み込んでいた”冥界”の気配も消えました。………遺跡内にいる死者達も消えているでしょう。」
周囲の様子に気付いたエリィとランディは明るい表情をし、リタは微笑み
「それにしても凄いね、エルファティシアさん!」
「一体何をしたのですか?」
シャマーラははしゃぎ、ノエルは興味深そうな表情でエルファティシアを見つめた。
「大した事はしていないわ。魔術でその鐘が出していた”魔”を封じ込めただけよ。」
「ぜ、全然大した事とは思えないのですが………」
「………さすがはルーンエルフ族の”王”ですね………」
そしてエルファティシアの答えを聞いたエリィは苦笑し、セティは驚きの表情でエルファティシアを見つめていた。
「そうですか………よし―――中に戻って、確かめてみよう。」
「ええ………!」
その後ロイド達は礼拝堂まで戻った。
「時・空・幻の属性が働いている気配もなくなりました。どうやら”普通の空間”に戻ったみたいですね。」
「そうか………しかし一体、どういうカラクリなんだ?あの鐘の共鳴に何か原因がありそうだけど………」
ティオの話を聞いたロイドは頷いた後真剣な表情で考え込みながら呟き
「多分だけどあの鐘は何らかの魔法道具で”音”に込められた”魔”の力でよって、この場を”冥界”、もしくは”魔界”に変えていたのでしょうね。その証拠に霊体や不死者、悪魔達がいたでしょう?」
「………そうなるとあの鐘が何らかの”古代遺物”の可能性である事が高いですね。」
ロイドの疑問にエルファティシアとティオが答えた。
「”古代遺物”………?」
一方ティオの言葉を聞いたロイドは首を傾げた。
「1200年前に存在していた”古代ゼムリア文明”の遺物のことね。不思議な力を持っているらしくて教会が管理しているそうだけど………」
「ああ、たまに噂で聞いたりしているぜ。どこぞの貴族が隠し持ってたやばい力を持っている遺物を教会が調べて没収したりとかな。」
「そんなものがあるのか………」
「あたしも知りませんでした………」
エリィとランディの話を聞いたロイドは驚きの表情で呟き、ノエルもロイドの言葉に頷いた。
「何しろ現代の技術では一部を除いて一切解析が不可能だそうで………そういう意味でも、一般の人には殆んど知られていないようですね。」
「う、うーん………ちなみに今、”一部”って言ってたけど、どこが解析できるんだ?」
ティオの話を聞いたロイドは考え込んだ後尋ね
「――――メンフィル帝国です。メンフィル帝国がある異世界―――”ディル=リフィーナ”は”古代遺物”クラスのさまざまな物が多数あるそうで、メンフィル帝国だけは”古代遺物”を解析し、扱えるとリウイ陛下達に聞いた事があります。………というか、ウィルさん達に創って貰った私のこの”戦衣”や靴も多分、”古代遺物”の一種になると思いますよ?なんせ、この”戦衣”と靴は”知識神”ナ―サティアの加護が宿っているそうですから。」
「ええっ!?」
「ま、”神”や”天使”が現存しているんだから、そういった物がごろごろあってもおかしくないが………セティちゃん達の親父さん、凄すぎだろ………」
「………なるほど、道理でその戦衣と靴からもヴァイスハイトの剣やリセルの鎧のように神気が感じる訳よ………………それにしても人間の身でありながらそこまでの技術にたどり着けるなんてね………(ひょっとしたら、”魔導功殻”すらも創れるかもしれないわね………)」
ティオの説明を聞いたロイドは驚き、ランディは頷いた後疲れた表情で溜息を吐き、エルファティシアは興味深そうな表情でティオが身につけている戦衣や靴を見つめた後、目を細めて考え込んでいた。
「フフ、自慢のお父さんです。」
「父様は”工匠”として最高の腕を持つお方ですから。」
「えへへ………そんな父さんが大好きだし、あたし達にとっての目標なんだ!」
一方ランディの言葉を聞いたセティ達はそれぞれ微笑んでいた。
「………―――いずれにしても、この遺跡についての手掛かりは十分すぎるほど掴めた気がします。これ以上は報告書をまとめて専門家に調査を依頼した方がいいかもしれません。」
「そうだな………」
「まあ、それが妥当かと。」
そして考え込んだ後提案したノエルの言葉にロイドとティオは頷き
「そんじゃ、遺跡の調査はこれで切り上げるとするか?」
ランディはノエルを見つめて尋ねた。
「ええ………――――皆さん。ご協力、ありがとうございました!これにて遺跡調査の任務を完了したいと思います!」
その後ロイド達は遺跡の入口まで戻って来た。
「はあ……ちゃんと出られたわね。正直、生きた心地がしなかったわ。」
入口まで戻って来たエリィは安堵の溜息を吐いて呟いた。
「ふふ、お疲れ様でした。それにしても………あの鐘、一体何なんでしょうね。それにあの化物たちも一体………」
「”塔”も不思議な場所だったけどこの”僧院”はそれ以上だったな。それと礼拝堂の裏にあったあの不気味な”儀式の間”か………」
「ええ………正直、教会の遺跡にしてはあまりにも禍々しすぎると思う。500年前、一体何があったのかしら?」
「……………………………」
ノエルとロイド、エリィが話し合っている中、ティオは黙って考え込んでいた。
「ま、そのあたりは専門家に任せて俺達はとっとと帰ろうぜ。テーマパークにあるホラーハウスを10回くらいハシゴした気分だぜ。」
「ふふ、そうですね。それじゃあ停車している車両の所まで戻りましょうか?」
「ああ、そうしよう。………そうだ、リタちゃんはこれからどうするんだい?」
ノエルの言葉に頷いたロイドはある事を思い出して、リタに視線を向けて尋ねた。
「私はしばらくこの周辺で調べる事があるので、皆さんとはここでお別れですね。」
「え………でも、一人でこんな魔獣だらけの所にいるなんて、危険ですよ?」
リタの答えを聞いたノエルは驚いた後、忠告したが
「ノエルさん。リタさんに関しては無意味な忠告ですよ。リタさんの強さは今までの戦いで知ったでしょう?」
「アハハ………確かに。」
「一人で化物や幽霊共全部を倒した時もあったしな。全く、大した嬢ちゃんだぜ………」
静かな表情のティオの突込みにランディと共に苦笑した。
「それと私は皆さんと違って、既に”死んで”いますから、心配は無用ですよ。」
可愛らしい微笑みを浮かべて言ったリタの言葉を聞いたロイド達は表情を引き攣らせた。
「それでは私はこの辺で失礼します。また会える日が来るといいですね。」
そしてリタはロイド達に微笑んだ後、槍に乗ってどこかへと去って行った。
その後ロイド達はクロスベル市に戻る為に山道のトンネル内に駐車している装甲車の場所へ向かった……………
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