覇王と修羅王
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インターミドルに向けて
二十四話
前書き
こそーりこそーり
ヴィヴィオ達初等科組み以外を加えた初の合同訓練から2週間。
八神はやてよりアレクとアインハルトのデバイスが完成したと連絡が入った。
ノーヴェは2人の授業が終わり次第受け取りに行こうと、チンクと共にSt.ヒルデ魔法学院付近に停めた車の中で待っていた。
「来たようだな。時間通りだ」
「アインハルトが居るからね。アレクだけじゃきっと……ぁあ!?」
先に気付き指さしたチンクに倣いノーヴェも視線を向けると、こちらに向かう2人の姿が映るが、つい声を荒らげてしまった。頭や腕に包帯、頬にガーゼ等等、明らかに何かやらかしてきたアレクの姿が目に入ったからだ。隣のアインハルトも咎めるような心配するような視線を向けている。
だが当のアレクはボロボロな格好とは裏腹に晴れ晴れとした表情をしていた。
「アレク、お前……」
「てへっ」
「てへじゃねぇ!! ガチバトル禁止っつっただろーが!!」
◆ ◇ ◆
「で、説教してて送れたって訳か~」
「はい、すみません……」
「ええよ~。やんちゃなアレきゅん叱るのは当然やしな」
八神家にての頭を下げるノーヴェに、はやてはからからと笑いながら気にしてないと伝える。はやてとてボロボロの姿なアレクを見たら同じことをしただろうから。
「お叱りは済んでるということで、当初の予定通りデバイスのお披露目しよか。リイン、アギト」
これまでと手を打ったはやてが意味ありげにリインとアギトに視線を送ると、2人は待ってましたとばかりに其々大きな箱を取り出し、アインハルトとアレクの前に置いた。
「じゃあ……先ずアインハルトから開けてみて」
「は、はい。」
「外見はシュトゥラの雪原豹をモチーフにしたんだぜ!」
はやての促しにアインハルトは頷き手を伸ばし、続くアギトの説明に期待が高まる。
いったいどんな形をしたデバイスを作られたのだろうか。豹の形をしたペンダントだろうか。それとも豹柄のエンブレムだろうか。
そんな緊張が見て取れる動きで蓋を開けると、中に居たのは――――
『………………猫?』
――――産まれて間もないような子猫だった。
確かに豹は猫科ではあるが、これは予想外であった。その上、動物型であるとは完全に予想外であった。
あまりの衝撃に固まるアインハルトをよそに、当の猫型デバイスは起き上がり、鳴いた。
「にゃ~」
どう見ても猫そのものであった。
「な、なんか気に入らなかったか?」
「い、いえ! あ……あまりに可愛らしかったので少々気を取られてました」
「じゃあ触れてあげて? その子はアインハルトの為に作ったんだから」
「……はい」
アギトの言葉にドキリとしながら、アインハルトは首を横にふる。
ただでデバイスを頂こうとする身の上で、頷くことなんてできやしない。それに、可愛いので気に入らないわけではないのだから。
意を決するように頷いて手を伸ばすと、猫型デバイスは待ってたかのように尻尾を振り、その手に乗った。
「次はアレきゅんやな」
目を合わせたはやてに対し、アレクは頷く前に確認したい事があった。
「ほんとにただで……?」
「ええよ。でもそこまで言うなら……」
「言うなら……?」
「インターミドルで戦う姿見せてくれる? それを代金にしよか」
二コリと笑うはやてに、アレクは神妙に頷いた。そして箱に手を伸ばし、そこで止まった。
チラリを隣を見ると、撫でるアインハルトの姿が目に入る。
もしや、自分も動物型のデバイスなのだろうか。この図は女ならまだしも、男がやったら絵にならないだろう。アレク自身も、縫い包み等に戯れる趣味はない。
「どうしたんアレク?」
「な、何でもございやせん! 開けやす!」
催促を促すように聞こえたアレクは、ええぃままよと蓋を開ける。どうか動物型は勘弁してください、何でも、何でもしますから! とコレでもかというくらいに思いながら。
しかしそこに居たのは――――
「………………蛇?」
――――紅く長い胴をした蛇が蜷局を巻いた状態で収まっていた。
「ちゃうよ。モチーフは蛇じゃなくて龍やよ」
「龍……?」
「アレきゅんのは何がいいかなーってルー子と話してたら、龍っぽいの出してたから龍がいいんじゃないかって事になったんよ」
「へー……」
はやての説明を聞き流しながらアレクは、視線の高さまで身体を伸ばした龍と見つめ合う。
よくよく見ると2対の翼と4本の足らしきものが見えなくもない。だが、なんか妙に可愛らしい感じなのはどうなのだろうか。クリリとした目は如何なものか。というか、龍とはこんなもんだったのか?
「アレきゅんも気に入ったようだし、マスター認証しよか。アインハルトも」
「はい」
「じゃあ庭でやるですよー!」
案内するリインに続々と席を立つが、アレクは固まったままだった。
そして来ないアレクを不審に思ったノーヴェが声を掛け、漸く再起動した。口だけが。
「お前、龍……か?」
「がぁー」
返答が頭に空しく響いた。
◆ ◇ ◆
庭に出て認証を行うこととなったが、手にしたデバイスは個体名称すらも設定されてない状態。名称を考えることから始めなければならなかった。
前世の記憶があるアインハルトはまだしも、名称なんて考えた事もなかったアレクは難儀する破目に。
よって先程と同じアインハルトからの認証となった。
アインハルトは決めた名称を、次いで愛称を呼んだ。
「個体名称アスティオン、愛称……ティオ」
デバイス認証を終え、次いで細部調整する為にバリアジャケットを大人モードになりつつ装着する。
その様子をボケっと見ていたアレクは変更されてる点に気が付いた。
「あれ? 前と髪型変わってね?」
「あぁ。デバイス……ティオはそっちの方がいいと思ったんじゃねーか?」
「へぇー」
アレクはノーヴェの推測に相槌をうちながら、腕に巻き付いた龍型デバイスを見た。
インテリジェントデバイスはその名の通り知能があり、人に近い思考能力がある。これから相棒となるデバイスも当然備わっているものだ。そしてこのデバイスはアインハルトが望んだものと同じ補助・制御型。これからの戦いで助けになろうとするだろう。
だがアレクの本分は魔法格闘技でも魔法戦でもない覇気による闘法だ。どこまで補助できるのか全くの未知である。
その思考を読んだのか、龍型デバイスは気付けば巻き付いていた腕を離れアレクと向かい合う形で浮いていた。自身の意思を主張するように。
「……アレク。アインハルトの方は終わったぞ」
らしからぬ雰囲気を察っして控えめに伝えるノーヴェに、アレクは視線を変えず頷き、一度視界を閉じた。
皆の視線を気にする事無く、再度思考の海に沈んでいく。
「お前の名称は……」
真っ先に思い浮かぶは紅い修羅。己の先を往き、何かと意識するようになった王。国の支配者であり絶対者。
そして荒々しい神如き化物の拳すら持つ。言い表すのならば修羅の神――――修羅神。
だが人という器を脱することは無い。決して神ではない。なれはしない。
そこで決まった。思い付いた。名は、愚かで傲慢な偽の神。
「お前の名称はアルコーン。愛称はアル。……セットアップ」
「がぁ!」
魔法陣が敷かれ、アレクの身体が段々と成長していく。その姿を、アインハルトは落ち着かぬ気持ちで眺めていた。
今のアレクは、どことなくアレディ・ナアシュに近く感じる。姿は勿論、雰囲気さえも。記憶の中に居る彼の王は、拳を握らなければ穏やかな水面を思わすような人だった。
また挑みたい。また何処まで通用するか確かめたい。出来るのなら今すぐ拳を交えたい。アレディ・ナアシュにも向ける気持ちが溢れ出てくる。
同時に、アレク自身も将来はこんな落ち着きを持つのだろうか、とも。
セットアップを終えたアレクは、合同訓練時と同じバンテージをした姿で、手をゆっくりと握ったり開いたりし始めている。おそらく違和感があるかどうかの確認を取っているのだろう。現に一度、人の居ない虚空に拳を放った。
そして今は戻した握り拳に向け、静かに目を細めている。その姿から、目が離せない……
(なんでだろう……)
何時までも見ていたい気持ちすら沸き起こっていたが、漸くアレクが口を開き、その時が終わる。
「なあ、今もしかして……爆発チョンマゲ?」
更に先程までの雰囲気が木っ端微塵に砕かれた。
次いでアルを掴み振り回し始めたアレクに、アインハルトは盛大にため息を吐きたくなった。
「おいこらアル! テメェなんでこんな髪型にしやがった!?」
「がぁ!?」
「テメェなんぞに大した名称なんぞいらねぇ! もう駄龍で十分だ!!」
「がぁ! がぁぁ!!」
後書き
ギャップってクるよね!
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