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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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終章~クロスベルの一番長い日 ~ 第56話

5月5日、同日8:00―――――



~朝・特務支援課~



「―――ティオ、本当に大丈夫か?何だったら課長やキーアと一緒に支援課で待機してくれても………」

翌日、ロイド達はセルゲイとキーアに玄関から見送られようとしていて、対面しているティオにロイドは心配そうな表情で尋ね

「心配ご無用です。早めに休ませてもらしましたし、普段より調子がいいくらいです。」

尋ねられたティオはいつもの調子で答えた。

「そうか……うん、顔色も良さそうだな。しかしキーアがいきなり一緒に寝るとか言い出した時はビックリしたけど………」

「んー、なんかそーしたいって思ったから。ねえねえ、ティオ。ぐっすりねむれたー?」

「ええ、それはもちろん。おそらく絶好調なのはキーア分を大量に補給したのが最大の理由かもしれませんね。」

「えへへ、よかったー!」

ティオの元気が戻った事を嬉しく思ったキーアは無邪気な笑顔を浮かべた。



「はは、なるほどな。」

「確かにキーアちゃんは最高の特効薬になりそうね。」

「ましてやキーアの”過保護者”の一人であるティオには効果抜群でしょうね♪」

「高価なアクセサリーを片っ端から買ってキーアにプレゼントしたレンさんもわたしの事を言えないと思うのですが………というかロイドさん達からレンさんがわたし以外に助かったもう一人の子供である事を聞いた時はマジで驚きましたけど……それならどうしてわたしが昨日ロイドさん達にわたしの過去を教えた時に教えてくれなかったのですか?」

エリィの言葉に同意してからかいの表情で自分を見つめるレンにジト目で指摘したティオは複雑そうな表情になってレンに問いかけた。

「レンは互いに起こった同じ不幸な出来事を話してお互いの過去の傷を舐めあう不幸仲間を作るみたいな情けない真似をするつもりはないわ。」

「レンちゃん……!もっと他にも言い方が――――」

「いいんです、エリィさん。レンさんの気持ちも何となくわかりますので………」

「ティオちゃん…………」

レンの冷たい答えを聞いてレンを注意しようとしたエリィだったがティオに制止されると辛そうな表情で黙り込んだ。



「それに一応レンが認めているレ”レンにとっての本当の仲間”であるティオにも気を遣ってあげたのよ?不幸自慢をする訳じゃないけど、ティオが受けた仕打ちとレンが受けた仕打ちを比べればレンの方が圧倒的に酷いもの。」

「まあ、小嬢の場合は女としての尊厳も踏みにじられるギリギリな状態だったって話だったしな………」

「…………………」

レンの説明を聞いたランディは疲れた表情で溜息を吐き、ティオは辛そうな表情で黙り込んでいた。

「それと………ミステリアスが魅力の一つのレンが、自分から凄惨な過去を話して同情してもらったら、レンの魅力が減るでしょう?」

しかしいつものように笑顔を浮かべて問いかけたレンの答えを聞いたロイド達は冷や汗をかいて脱力した。



「むしろさっきの二つが建前で最後の理由が本音なのでは?」

「レンちゃんの性格を考えたら本当にそうとしか思えないわよね……」

我に返ったティオはジト目で指摘し、エリィは疲れた表情で溜息を吐き

「ほえ~?”ミステリアス”ってどういうイミ~?」

一方キーアは意味がわからず無邪気に首を傾げていた。

「ハハ……………―――なあティオ。一つだけ約束してくれ。」

「………え………」

そしてロイドの言葉を聞いたティオは呆けた様子でロイドを見つめた。



「昨日みたいな事があったらすぐに俺達に言ってくれ。自分一人で溜め込んで無理をするのだけはダメだ。酷な言い方だけど……戦闘の時に倒れられたら足手まといになりかねない。」

「……はい、肝に銘じます。わたしも支援課の一員……同じ仲間でありたいですから。だから………わたしの苦しみも、辛さも、どうかわかちあってください。」

見つめられたティオは頷いた後静かな笑みを浮かべて答えた。

「ティオちゃん………」

「………はは。お安い御用だぜ。」

「うふふ、それが”真の仲間”だものね♪」

「ああ……喜んでわかちあわせてもらうよ。」

「ほえ~……」

「クク、確かにこりゃあ、オッサンの出る幕はねぇな。――――たしか午前中は薬物を使用した疑いのある市民の聞き込みだったな?」

ロイド達の様子を見たキーアは呆け、セルゲイは笑った後尋ねた。



「ええ、一課の資料も参考に改めて確認してみようかと。それと、忙しくなりそうなので今の内に他の支援要請なども片付けておくつもりです。」

「そうですね………このタイミングを逃したら市外に出る余裕は無さそうですし。」

「しかし住宅街の証券マンにサーベルバイパーのパシリ………それにアルカンシェルの新米キャストか。」

「どれも昨日の時点で少し様子が変だった人達ね……」

「人数は少ないけど、色んな立場の人達に広まっているわよね。」

そしてランディの言葉にエリィとレンは疲れた表情で頷いた。

「時間があるならイアン先生の事務所にも行った方がいいだろう。先生から聞いた2人のうち、証券マンは一課の資料にあったのと同一人物だが………貿易会社の経営者ってのはまだマークされていないようだ。」

「そうですね……法律事務所にも行ってみます。あとは午後あたりにヨアヒム先生が成分調査の結果を連絡してくれるはずですけど………」

セルゲイの言葉にロイドが答えたその時、ロイドのエニグマが鳴りはじめ、ロイドは通信を始めた。



「はい、特務支援課、ロイド・バニングスです。」

「……ロイド君?私だ、マインツのビクセンだ。」

「ああ、町長さん。―――丁度よかった。ガンツさんの様子はどうですか?今から会いに行こうと思っているのですが。」

「そ、それが………その………ガンツのやつがまた居なくなってしまったんだ。」

「!?………詳しい話を聞かせてもらえますか?」

「あの後、夜遅くにガンツが目を覚ましたんだが………意識が朦朧としてるようでそのまま寝かせてしまったんだ。念のため私も部屋に泊まって明日の朝、君達にも話を聞いてもらうつもりだったが………朝、目を覚ましたら………」

「……なるほど。ホテルやカジノに問い合わせは?」

「い、一応したが誰も見た者はいないみたいで………ロイド君……どうしたらいいと思う?」

「………町長の方はホテルに待機してください。ひょっとしたらガンツさんが戻ってくるかもしれません。こちらは聞き込みに出るので彼の事も気に留めておきます。何かあったらまた連絡してください。」

「わ、わかった………よろしく頼む!」

「………ガンツさんが居なくなってしまったの?」

ロイドが通信を終えると会話から事情を察したエリィが真剣な表情で尋ねた。



「ああ………今朝ホテルから抜け出してしまったらしい。自分から消えてしまったのかそれとも………」

「………やはり他の人達の様子も確認する必要がありそうですね。」

「ああ………妙に嫌な予感がしやがるぜ。」

(……恐らく今日で”事態が一気に動くでしょうね”。”何が起こってもいいように”後でジョーカーお兄さん達に連絡しておいたほうがよさそうね。)

エリィの質問に対して答えたロイドの話を聞いたティオとランディがそれぞれ答えている中レンは真剣な表情で今後の方針を考えていた。



「………どうやら思ってた以上に事態の進行が早いかもしれんな。こちらの事は心配するな。とっとと確かめて来るといい。」

「はい!」

「いってらっしゃーい!」

「ウォン!」

こうしてロイド達のクロスベルの一番長い日が始まった―――――


 
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