英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第70話
クロスベル大聖堂に到着したロイド達は知り合いのシスターに事情を説明する為に、知り合いのシスターがいる部屋に入って、シスターを見つけて話しかけた。
~クロスベル大聖堂~
「あら………ロイドではありませんか。」
「こんにちは、マーブル先生。お忙しい所をすみません。」
「ふふ、いいのですよ。ちょうど休み時間でしたし。あなた方は礼拝に?それともお墓参りですか?」
「いえ、それが………」
シスターに尋ねられたロイドが答えにくそうな表情をしたその時
「ねえねえ、ロイド。この人がしすたーさん?」
キーアがロイドに尋ねた。
「あら、その子は………」
「その、実は………この子に関することで相談したい事がありまして。」
そしてロイドとティオはシスターにキーアの事情と自分達がシスターを訪ねて来た理由を説明した。
「………そうですか、そんな事が。おお女神よ………迷える子羊に光と幸いあれ。そしてこの者たちを出会わせた導きに感謝いたします………」
「マーブル先生………」
「………確かに、出会えたのは何かの導きかもしれません。」
「ほえ~?」
シスターの話に頷いているロイドとティオを見たキーアは首を傾げていた。
「とりあえず………この子の記憶喪失についての相談をしに来たのですね?何でも名前以外のことは全く覚えていないとか………」
「ええ………そうなんです。」
「えっと、がんばって思い出そうとしてるんだけど。ぜんぜんダメみたい。」
「そう………いい子ですね。………確かに教会には心と精神の領域に関する知識と技術が伝わっています。そして………記憶喪失に関する対処療法も。」
「そ、それじゃあ………!」
「この子の記憶を取り戻せますか………!?」
シスターの話を聞いたロイドとティオは明るい表情をした。
「確実ではありませんが試してみる価値はあるでしょう。時間も無いことですし………すぐに試してしまいましょうか。」
「もしかして………先生がやってくれるんですか?」
「ええ、わたくしも一応幾つかの技を修めています。心と精神に関する教会に伝わる”法術”を。」
「”法術”………」
「導力器に頼らない祈りによって紡がれる魔法………どちらかというとアーライナ教やイーリュン教の魔術に近い魔法ですね?」
シスターの説明を聞いたロイドは呟き、ティオは頷いた後尋ねた。
「ええ、本来ならばそれに特化した専門組織があるのですが………あいにくクロスベルにはその専門家が来ることが少ないのです。」
「専門家、ですか?」
「………大きな声では言えませんが教会の中にも色々とあるのです。その組織は”封聖省”と呼ばれる機関に所属しているのですが………この大聖堂を任されているエラルダ大司教は、その組織の活動を快く思っておられないようなのです。そのため、そうした専門家がクロスベルに来る機会が少なくて………」
「”封聖省”………もしかして”星杯騎士団”ですか?」
シスターの話を聞いたティオは真剣な表情で尋ねた。
「!!え、ええ……………よく知っていますね………”星杯騎士団”は教会内でも極秘の組織なのですが………」
「ティオ、知っているのか?」
ティオに尋ねられたシスターは驚き、ロイドは尋ねた。
「―――はい。”守護騎士”の方としばらく行動を共にしたことがあるのです。」
「”守護騎士”?」
「なっ………!?」
そしてティオが呟いた言葉を聞いたロイドは首を傾げ、シスターは目を見開いた。
「先生は知っているのですか?」
「え、ええ………私も詳しい事は知らないのですが、”星杯騎士団”を統率する十二名の特別な騎士達らしく、一人一人が恐るべき異能を持つと噂されているんです。」
「”異能”…………ティオはその”異能”という力を見た事があるのか?」
「はい。………ただ、申し訳ないですが名前や能力は控えさせてもらいます。」
「そうした方がいいでしょう………話を戻しますがわたくしが使える法術も彼ら―――”星杯騎士”達の使うものと変わりはありません。試してみる価値はあると思います。」
「わかりました。よろしくお願いします。えっと、どこかに移動した方がいいんでしょうか?」
シスターの話を聞いて頷いたロイドは尋ねた。
「いえ、この場で問題ありません。キーアさんと言いましたね。こちらに来ていただけますか?」
「はーい!」
シスターに言われたキーアは元気よく返事をした後、シスターの正面に近づいた。
「目を閉じてゆっくりと深呼吸をしてみてください。」
「うん!すー……はー………すー………はー……」
「ええ、いいですよ。………それでは……」
目を閉じて深呼吸をしているキーアを見て頷いたシスターはキーアの目の前に”星杯”の紋章が刻み込まれたロケットを掲げた。
「―――空の女神の名において聖別されし七耀、ここに在り。」
シスターが祈りを始めると掲げたロケットが光を放ち始め
(あ………)
(……………)
光を放ち始めるロケットを見たロイドは驚き、ティオは真剣な表情で黙って見つめていた。
「空の金耀、識の銀耀―――その融合をもって失われし欠片の在り処を彼の者に指し示したまえ………」
シスターが祈りを終えると、キーアの身体に淡い光が纏った。
「あ………」
「キーア!?」
「大丈夫、心配いりません。………どうですか、キーアさん。何か思い出してきませんか?」
「んー……………………」
シスターに尋ねられたキーアは目を閉じて考え込み
「………なんかね、暗くてでっかい場所がアタマの中に浮かんできた。上の方がぼんやりと光っててキレイだけど、ちょっとコワイ感じ。」
そしてどこか不安げな表情で答えた。
「暗くてでっかい場所………」
「どこの事でしょうか………?」
キーアの言葉を聞いたロイドは呟き、ティオは考え込んでいた。
「その光景以外に思い出した事は………?ご家族のこととか、住んでいた家のこととか。」
「んー………そっちはゼンゼン。」
「そうですか………………………」
一方キーアの答えを聞いたシスターは法術をキーアに放ち続けるのを止めて、考え込んでいた。
「えっと、マーブル先生?」
そしてシスターの様子を見たロイドはシスターを見つめて尋ねた。
「………どうやら法術ではここまでが限界のようです。心理的なアプローチから引き出せる記憶はここまで………ひょっとしたら………何か神経系に関する問題があるのかもしれません。」
「神経系の問題………」
「それはどういう………?」
「………端的に言うと脳の神経に関する問題です。何らかの原因で記憶に関する神経の伝達が阻害されてしまっている………その可能性がありますね。」
「そ、そんな………それって………何とかならないんですか!?」
シスターの話を聞いたロイドは信じられない表情をした後血相を変えて尋ね
「そうですね………教会に伝わっている法術は心と精神に関する領域………”癒し”を専門とするイーリュン教の魔術でも、恐らく法術とそう大差はないでしょう。ひょっとしたらこの問題は、近代医療の方が向いているのかもしれません。」
尋ねられたシスターは考え込んだ後答えた。
「え………」
「近代医療というと………」
「ええ、聖ウルスラ医科大学です。これまで近代医療では心と精神に関する分野の研究は不十分とされていましたが………数年前、あそこでは『神経科』という部門が立ち上げられ、優秀な研究者もいると聞いています。そちらに相談したら、教会とは違ったアプローチが期待できるかもしれません。」
「『神経科』ですか………(あれ、どこかで聞いたような?)」
「ロイドさん………相談に行ってみた方がいいのではないでしょうか?」
「ああ、そうだな。―――先生。ありがとうございます。早速、ウルスラ病院に行ってみようかと思います。」
「ええ、それがいいでしょう。………すみません。あまり力になれませんでしたね。」
ロイドにお礼を言われたシスターは頷いた後、申し訳なさそうな表情をした。
「そ、そんな事ないですよ!神経科の話も教えてもらったし。それに………キーアが思い出した光景も何か手がかりになると思います。」
シスターの言葉を聞いたロイドは慌てた後、シスターの言葉を否定した。
「『暗くてでっかい場所』ですか………」
「うーん、なんか上の方がぼんやり光ってたかなぁ。うぉおおおおんって音がして………キレイだけど、ちょっとコワかった。」
「う、うーん………」
ティオの言葉に答えたキーアの話を聞いたロイドは考え込み
(暗くて広い場所に音………この場合の音は機械音かしら?それにこの子が無意識で常にさらけ出している魅了の魔術…………まさか。”創られた”存在なのかしら………?)
話を聞いていたルファディエルは考え込んだ後、目を細めてキーアを見つめ
「確かに………普通の場所ではなさそうですね。貴方がたに女神の祝福を。キーアさんに良き導きがある事をわたくしも祈っております。」
ロイドの言葉を続けたシスターはその場で祈った後、ロイド達に微笑んだ。
その後ロイド達はバスに乗って、ウルスラ病院へ向かった………
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