ついている
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第一章
ついている
藤谷美桜は最近の自分自身についてだ、クラスでこうぼやいていた。
「最近ついてないのよ」
「運がないっていうの?」
「そうなの」
「ええ、そうよ」
その通りとだ、クラスメイト達にぼやく。一重の蒲鉾型の目の睫毛は長く薄く細い眉は奇麗なカーブを描いている。白い細面で頬のところが少し赤い。白い奇麗な並びのいい歯がピンクの唇から見えていて首の付け根までの髪は奇麗にセットされている。一六五程の身体はすらりとしていて赤と青のミニスカートの制服によく似合っている。
その彼女がだ、自分の席で言うのだ。
「お料理を作ったらね」
「失敗したとか?」
「だとか?」
「違うの、スパゲティ作るのに粉チーズ切らしてたり」
「ああ、スパゲティにチーズないとね」
「味がね」
「そう、落ちるから」
チーズをかけると美味しいからだ。
「それで今一つになったり」
「それは確かにね」
「うっかりかも知れないけれど」
「ついてないわね」
「そうよね」
「あと一昨日雨だったじゃない」
美桜はさらに話した。
「それで傘さして帰り道歩いてたら」
「またなのね」
「そこであったのね」
「横から来たトラックの水飛沫で濡れたわ」
道路の水たまりをトラックのタイヤが通ったせいでというのだ。
「思いきりかかってね」
「ああ、それは確かにね」
「ついてないわね」
「それもあるわね」
「雨の日はね」
「昨日はおトイレで定期入れ落としたり」
そうしたこともあったというのだ。
「それで今日は朝起きたら巨人勝ってたのよ」
「巨人勝ってると嫌になるわよね」
「もうそれだけでね」
「夜聞いたら嫌な一日の終わりで」
「朝聞いたら嫌な一日のはじまりになるわね」
「全く、星座占いでも血液型占いでも」
その両方でというのだ。
「運勢最悪だし」
「本当についてないのね」
「これ以上はないまでに」
「そうなのね」
「もう何よ」
困った顔で言うのだった。
「ついてないにも程があるわ、ゲームセンターでも最近UFOキャッチャーで何も取れないし」
「そっちもなのね」
「調子が悪い」
「そしてそれもついてない」
「そうなのね」
「やれやれよ、ついてないわよ」
ぼやくことしきりだった。94
「本当にね」
「そういう時あるわよね」
「何かついてないって時」
「何かとね」
「あるわよね」
「部活でもね」
美桜はバスケ部の部活に入っている、二年生でレギュラーである。
「そこでもなのよ」
「よくない」
「運がないのね」
「たまたま後ろから来たボールが背中に当たったりとか」
そうしたことがあったというのだ。
「こけたりとかあるのよ」
「部活でもそんなのなのね」
「ついてないのね」
「そうなのね」
「やれやれよ」
ぼやきがさらに強くなっていた、言葉のそれが。
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