シャーペン殺人
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第二章
「あいつは」
「テスト中で五月蝿かったら」
常識からだ、涼介は問うた。
「すぐに退室させられるだろ」
「そうね」
恵も涼介の言葉に頷く。
「それはね」
「そうですよね」
「それでどうしてなのかしら」
恵はあらためて加藤に問うた。
「彼はテスト中に五月蝿かったのかしら」
「あいついつもカチカチさせていました」
怯える様な、それでいて何時襲い掛かって来るかわからないような目でだ、加藤は恵に話した。
「シャーペンを」
「シャープペンシルをなのね」
「はい、いつもやたらカチカチさせて」
加藤はさらに言った。
「しかもくるくる回してやたら落として」
「そうした音がなのね」
「五月蝿かったんです」
「そしてそれを我慢出来なくて」
「殺しました」
完全な自供だった。
「そうしました」
「そうなのね」
「何度言ってもカチカチ鳴らして落として」
そのシャープペンシルをだ。
「腹が立っていました」
「わかったわ」
彼の自供はとだ、恵は答えた。それからも聴取をしたが。
それはすぐに終わった、そしてその聴取の後でだ。涼介は刑事課で恵に自分が淹れたコーヒーを出しながら言った。
「何か」
「今回の事件ね」
「はい、何ていいますか」
「とんでもない理由で殺した」
「そう思いますけれど」
「そうね、確かにペンの音で殺されてたら」
恵は涼介からそのコーヒーを受け取りつつ答えた。
「浮かばれないわ」
「全くですよね」
「けれどね」
「それでもですか」
「世の中はそうしたものでもあるのよ」
「下らない理由で殺し殺される」
「そうしたものでもあるのよ」
世の中というものはというのだ。
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