とある科学の裏側世界(リバースワールド)
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ep.012 決戦3
的場はうっすらと消えかける意識の中でトボトボ階段を上っていた。
階段を上り切ると、以前に会った覚えがある女性が待っていた。
しかし、先ほどの2戦でかなりのダメージを負っていた的場はもう戦える状態ではなかった。
意識がなくなる。
体を支えている軸のようなものがポロッと無くなってしまったかのように的場は倒れた。
的場はやや重たい目蓋を開いた。
どれくらい時間が経ってしまったんだろう。
すると、女性の声が聞こえる。
「おはようございます。 体はもう大丈夫ですか?」
的場は自分の体を見て、驚いた。
傷口はすべて応急処置を受け、止血されている。
痛みもほぼ感じない。
おまけに、さっきから驚くほど体の具合が良い。
まるでさっきの2戦が嘘だったかのようだ。
「1時間ほど眠っていたんですよ。 その間に治療等は多少させていただきました。」
『え、1時間ほどこの状態だったってことか?』
的場は1時間ほどその女性に膝枕をしてもらっていた。
寝ている間にすごい体験をしたと的場は動揺した。
「あなたも俺を止めるのが目的なんですか?」
的場は女性に質問をする。
女性はそれに答えずに的場を見ていた。
「私はあくまで、あなたと戦うのが仕事です。」
つまりはYESということだ。
的場は、歩いてゆっくりと距離をとった。
「私は箱部鈴菜と言います。 的場くん、いざ尋常に勝負というやつです。」
戦闘が始まった。
「先手は俺がもらいます。」
的場は真っ直ぐ突っ込むかと思いきや、箱部の目の前でグルッと回って背後をとる。
そこから、右のストレートを打ち込む。
「なるほど、動きはさすがですね。 でも、あなたの攻撃は見切りました。」
箱部は的場の攻撃を食らうでもなく受け止めるでもなく体を器用に動かし、すり抜けるように攻撃をかわす。
的場はそこから更に左キックを繰り出すが、これも完全に読まれ華麗に避けられる。
そして、箱部が的場と距離をとった。
「次は私の攻撃ですね。」
箱部は、的場に正面から攻撃を仕掛ける。
走る途中から既に攻撃のモーションに入っている。
右のストレート。
モーションだけでそれが分かる。
的場は心の中に少しの余裕を感じたがそれは一瞬のうちに砕かれた。
「....消えた............。」
突然、箱部が視界からいなくなった。
しかも気配すら感じ取れない。
すると、的場は背後から急にどす黒い殺気を感じ取り、うしろを振り向くとそこには箱部がいた。
箱部の力を込めた一撃が的場の脇腹に入る。
「カハッ.......!?」
こんなにも綺麗に素手の攻撃を決められたのは、的場にとっては久しぶりだった。
「なんだ今のは。」
「気配をコントロールしたまでです。」
「気配を...コントロール....。」
「あなたは勝つことに必死過ぎて本来使える技術をまったく使えていないように私は思います。」
的場はこれまでの2戦を思い出す。
すると、冷静に考えればもっと要領よくできた場面がいくつもあったことを理解した。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「単純ですよ。 負けることを知ればいいんです。」
つまりは『答えはない』と言われたようなものだ。
的場はそれに動揺し、取り乱したように攻撃を始めた。
拳を振りかぶり、強烈なパンチを決める。
それだけではない。
的場の弱点設定を使えば、箱部の腕を潰すことができる。
案の定、箱部は的場の拳を腕でガードした。
しかし、的場のそんな考えは実現しなかった。
「なに!!」
能力が発動しない。
自分の演算が狂っているわけでも、ましてや相手から干渉されているわけでもなさそうだ。
「能力は使えませんよ。 私の能力、異能殺しの前ではどんな能力も"無"になります。」
「能力を........無にする!?」
彼女の能力異能殺しは行ってしまえば"上条当麻"の幻想殺しの"強化版"のようなもので彼とは違い、ある一定の範囲の相手の能力を消すことができる。
的場の一瞬の油断を狙って箱部は先ほどパンチを繰り出したままの腕を固定し、見事な一本背負いを決める。
次に的場が見たのは天井だった。
『どうすればいい....体術で負け、精神的にも負け、さらには能力も封じられて........もう.....。』
「俺の.......負けです。」
的場は負けを認めた。
これ以上はどれだけやっても彼女を倒せる突破口が一切見つからなかった。
studentが何をしようとしていたのかまた、野口のことも何一つ知ることができずに諦めくてはならない。
不服だったが実質彼女は今の自分より強かった。
自分は此処を立ち去らなくてはならない。
しかし、返答はあまりにも意外だった。
「合格ですよ。 通って下さい。」
的場はその言葉の意味が分からなかったが、箱部の表情と場の雰囲気でそれを理解した。
「どうして.......。」
「言いましたよね、私はアナタと"戦う"ことが目的でした。 つまり私はアナタに"負け"を知って欲しかった。」
箱部は倒れている的場に手を伸ばした。
「これで体の力が程よく抜けましたから、これまでより周りが見えるようになるはずです。 頑張ってくださいね。」
箱部は的場に包帯と回復の錠剤のようなものをいくつか手渡すと、的場を送り出した。
『頑張ってくださいね。 私はアナタの味方でもあるんですから。』
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