英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第63話
~夜・ハルトマン議長邸~
「フフ、なるほど。そういう事情でしたの。なかなか大胆な事をしますわね。」
「………ええ、まあ。実際には見ているだけですからただの自己満足かもしれませんけど。」
事情を知ったマリアベルに微笑まれたロイドは複雑そうな表情で答えた。
「フフ、でも気に入りましたわ。エリィの同僚ならそのくらいの思い切りがないと相応しくありませんものね。」
「も、もう、何を言っているのよ?………それにしても。ベル、どうしてこんなところに?さっきの話を聞く限り来るのは初めてみたいだけど……」
マリアベルの言葉を聞いたエリィは焦った後、真剣な表情でマリアベルを見つめて尋ねた。
「ハルトマン議長からは毎年熱心に誘われていますの。ただまあ、怪しい方々との付き合いがある人でしょう?お父様は色々と理由をつけて断っているんですけど………わたくしの方は中々そうもいかなくって。」
「なるほど………確かにそうかもしれないわね。」
「何か事情があるんですか?」
マリアベルとエリィの会話を聞いて首を傾げたロイドは尋ねたその時、エリィが代わりに答えた。
「前にも言ったけど彼女はIBCの事業の幾つかをおじさまから任されているのよ。このミシェラムの開発計画も担当しているそうだから。」
「ええっ………!?」
そしてエリィの話を聞いたロイドは驚きの表情でマリアベルを見つめた。
「ふふ、と言ってもホテルとテーマパークの運営に関わっているだけですけど。ただ、その関係でどうしても昔から住んでいる議長のお誘いはなかなか無下にできなくって。今年はこうして出席することにしたわけですわ。」
「な、なるほど……………」
「……………………………」
マリアベルの話を聞いてロイドが納得している中、エリィはジト目でマリアベルを見つめた。
「あら、エリィ?何か言いたいことがありそうな顔ですわね?」
「………まあ、ね。ベルって自分が気に入らない事は絶対にやらないタイプでしょう?なのに、事情があるからといってわざわざ足を運んだりして………何か他の狙いがあるのではないの?」
「ふふっ……流石はエリィ。―――実は、今回の出品物に面白い品があるそうなんですの。それに興味があったので出席することにしたのですわ。」
「それって………」
「どういう品なの?」
マリアベルが競売会に来た理由を知ったロイドとエリィはマリアベルを見つめて尋ねた。
「ローゼンベルク工房製の初期のアンティークドール………好事家の間で破格の値段が付いた幻の作品という触れ込みですわ。」
「アンティークドール……あの人形工房のですか。」
「………やっぱりそれも曰くつきの作品なのかしら?」
「盗品か、どこぞの資産家が後ろ暗い理由で手放したのか……詳細はわかりませんけど噂では素晴らしい逸品らしくて。コレクターの一人としてこれは見逃せないでしょう?」
「なるほど、あなた昔からあそこの人形のファンだものね。」
「………ちなみに、そういう人形、幾らくらいの値がつくんですか?」
マリアベルの説明を聞いたエリィは溜息を吐きながら頷き、ロイドは真剣な表情で尋ねた。
「そうですわね……初期の作品は、最近のものより一回り以上大きかったらしくてほとんど出回っていませんの。マイスターもそのサイズはもう作るつもりがないそうで必然的にプレミアがついて………以前、帝都で開かれた競売会では500万ミラで落札された作品もあったそうですわ。」
「に、人形一体にそんな値が!?」
「まあ、熱心なファンがいる芸術品みたいなものだから……しかしその様子だと手に入れる気満々みたいね?」
「フフ、由来がどうあれ、人形には罪はありませんから。もちろん、盗品であった場合はしかるべき対応をいたしますわ。その上で、前の所有者と交渉して正式に手に入れるつもりですけど。」
「………参りました。」
「ふう、敵わないわね。」
マリアベルの話を聞いたロイドとエリィはそれぞれ溜息を吐いた。するとその時扉をノックする音が聞こえた。
「あら………」
「失礼します、マリアベル様。オークションの開催時刻がそろそろ近づいて参りましたが………」
「そう、ありがとう。すぐに参りますから後ろの方に3人分の席を用意してもらえるかしら?」
「―――かしこまりました。それでは手配しておきます。」
「えっと、ベル………」
「ふふっ、心配いりませんわ。わたくしが議長と挨拶するのはオークションが終わった後ですし。」
「う、うーん……構わないかしら、ロイド?」
「ああ、せっかくだから一緒に出席させてもらおう。マリアベルさん、よろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ。」
その後オークション会場にマリアベルと共に向かったロイドとエリィは用意された席について、オークションが始まるのを待っていた。そしてしばらくするとワジがロイド達に近づいてきた。
「ああ、ここにいたのか。」
「あら、ワジ君。」
「先程のご夫婦を見かけたけど………無事、仲直りできたみたいだな?」
「フフ、そうみたいだね。これで僕も晴れてお役御免になったところさ。」
「そうか……よかった。」
「ふふ、お疲れ様。」
「ふふ、面白い方とお知り合いみたいですわね?」
ワジとロイド達が会話をしているとマリアベルが口元に笑みを浮かべながら尋ねた。
「ああ………えっと、こちらの彼は―――」
マリアベルの言葉に頷いたロイドはワジを紹介しようとしたが、先にワジが名乗った。
「僕の名前はワジ。ワジ・ヘミスフィアだよ。IBC総裁のご令嬢、マリアベル・クロイスさんだね?お会いできて光栄だよ。」
「あら、うふふ。機先を制されてしまったわね。ワジさんと言ったかしら。よかったら近くに席を用意してもらいましょうか?」
「いや、それには及ばない。実は少々、そちらの彼らに伝えたいことがあってね。」
「え………」
ワジの言葉にロイドが驚いたその時、ワジはロイド達に近づいて小声で言った。
(………窓から裏庭を見下ろしたら犬が何匹も眠っていた。何か心当たりはあるかい?)
(……本当か?)
(犬というと………例の軍用犬の事みたいね。でも、眠っていたって……)
「………―――マリアベルさん。申し訳ないですけど少しばかり席を外します。」
「フフ、色々と面白い事になっているみたいですわね。わたくしの方はお気になさらずに。せいぜい、あなた方の代わりにオークションでの出品物を見届けておきますわ。」
「………感謝します。」
「ありがとう、ベル。」
そしてロイドとエリィはワジと共にオークション会場を後にした。
(庭に放たれていた番犬が何匹も眠っていた……フフ、何を意味しているのかな?)
(ああ、考えられるとすれば―――何らかの侵入者が現れた………その可能性が高いかもしれない。)
(なるほど………確かに。)
(いずれにしても何かが起ころうとしている………それだけは確かみたいだね。)
(ああ、念の為屋敷の中を一通り回ってみよう。異変に気付けるかもしれない。)
(ええ………!)
(フフ………僕も付き合わせてもらうよ。)
その後ワジを加えたロイド達はさまざまな場所を見回っていると、オークションの品々を管理している部屋の前に倒れているマフィアを見つけた。
「駄目だ、気絶している………」
「へえ、どうやら一撃で昏倒させられたみたいだね。」
「こ、こんな事ができるのは………」
「……とにかく中に入ろう!」
ロイド達が部屋に入る少し前、なんと銀がマフィアに取り囲まれていた。
「て、てめえ………!」
「いつの間に現れやがった………!」
「フフ………我が名は”銀”。月の光さす所ならばどこへでも現れよう。」
「ふ、ふざけろ………!」
「くたばれ……!」
銀の言葉を聞いたマフィア達は襲い掛かろうとしたが
「ぬるい―――爆雷符!!」
銀は懐から符がついたクナイをマフィア達に投擲した!すると投擲されたクナイはマフィア達に命中すると爆発を起こし
「がっ………」
「馬鹿な………」
それを受けたマフィア達は一撃で気絶して地面に倒れた!するとその時、ロイド達が部屋の中へ入って来た。
「なっ………!?」
「や、やっぱり……!?」
銀を見たロイドとエリィは驚いて銀を睨んだ。
「……妙な気配がするかと思えばお前達も入り込んでいたか。」
睨まれた銀は黙ってロイド達を見回した後静かに呟いた。
「あんた……」
「へえ………随分とヤバそうな人だね。察するに、巷で噂されている”銀”殿なのかな?」
「いかにも………”テスタメンツ”リーダー、ワジ・ヘミスフィア。妙な気配の一つはお前のものだったようだな。それ以外にもいるようだが………クク、まさに伏魔殿だったか。」
静かな笑みを浮かべるワジの言葉に答えた銀はワジを見つめた。
「ふぅん、面白い事を言うね。それで………僕達も彼らのように実力で排除するつもりかい?」
「…………………」
ワジに尋ねられた銀は黙ってロイド達を見つめた後、剣を仕舞ってロイド達に背を向けた。
「お、おい………?」
銀の行動を見たロイドは戸惑った。
「フフ、お前達を始末するのは簡単だが………この場を任せても面白いことになりそうだ。」
「え………」
「そちらの奥の部屋には競売会後半の出品物がある………”黒月”に流れた情報によると面白い”爆弾”があるらしいぞ?その目で確かめるといい。――――フフ、今宵は再び邂逅する時が来るかもな。―――さらばだ。」
そして銀は窓ガラスに飛び込み、ガラスを割って去って行った!
「お、おい………!
「なんて身のこなし……!」
「やれやれ……噂に違わぬ化物みたいだね。やり合う羽目にならなくてラッキーだったけど………どうするんだい、ロイド?」
銀が去った後の場所を驚きながら見ているロイドとエリィにワジは尋ねた。
「……時間がない。奥の部屋を調べてみよう。あいつが言っていた”爆弾”………本当にあるのか確かめてみたい。」
「フフ、そういうと思ったよ。」
「ふう、仕方ないわね。出来るだけ急いで調べるだけ調べてみましょう。」
「ああ………!」
銀が去って行った後、ロイド達は競売会の品々が置いてある部屋に入った。
「ここは………」
ミツケテ………ワタシヲミツケテ………
ロイド達が部屋に入ると、ロイドの頭の中に少女の声が頭に響いてきた。
「……どうやら競売会の後半に出品される物みたいね。まだ結構あるみたいだけど………」
「ふふ、後半に出るってことは取っておきの品ばかりだろうね。時間もないことだし、手分けして調べてみようか。」
「………ああ。どうやら………本当に何かありそうだ。」
その後ロイド達は競売会の品々を調べ始め、エリィとワジが調べている中ロイドは何かを入れた大きなトランクを見つけ、鞄にかかっている鍵を捜査官用のツールボックスからピッキング用のツールを取り出して鍵を開け、トランクを開いた。
「………………え。」
トランクを開けたロイドは呆け
「………ぁ…………」
トランクの中に入っている少女の姿をした人形を見つめて驚いた。
(もしかして………これがローゼンベルク工房の?ま、まるで本当に生きているみたいだけど………で、でもこれは………)
人形を見つめてロイドが驚いてると
「………ん………」
なんと人形が動き出し
「………………………おにいちゃん、だれ?」
目を開けて起き上がり、ロイドを見つめて首を傾げた。
「なああっ!」
(まさか………人間!?)
そして人形に見つめられたロイドは大声を出し、ルファディエルも驚いた!
「あら?シーツで何か隠しているようだけど……一体何なのかしら?」
ロイドがトランクを開ける少し前、エリィはシーツで何かを隠している部分が気になり、シーツを取った。すると
「…………………………」
まるで本物の人のような姿をしたエルフらしき容姿を持ち、赤いミニスカートと白を基調としたどこか高級感のある服を身に着け、さらに頭に緑の薔薇を付けた帽子をかぶった人形が倒れていた。
「………え……………に、人形………?」
それを見たエリィが戸惑っていたその時!
「………ア……ル……幸せに………生きて…………ヴァイスハイト………ありが……とう………貴方の……気持ちは………とても……嬉し……………かった………いつか………出会えた時に……………貴方と…………一緒に………生きたいわ………………………ん………………」
なんと人形が寝言を呟いた後目を覚まし、起き上がった!
「え………………」
起き上がった人形を見たエリィは呆け
「!?これはどういう事…………!私は死んだはずなのに………それに貴女……誰?それにここは一体どこなのかしら?」
人形は立ち上がって、自分の身体を見て戸惑った後、エリィに気付き、周囲を見回しながらエリィを見て尋ねた。
「!!!ま、まさか貴女………人間!?」
人形―――エルフらしき女性に見つめられて尋ねられたエリィは目を見開いた後、身体を震わせながら女性を尋ね
「いいえ、私はルーンエルフ。我が名はエルファティシア・ノウゲート。かつてエレン・ダ・メイルを治めていた者。人の子よ……貴女の名前は?」
「エ、エリィ・マクダエルです………そ、それよりどうしてこんな所にいるんですかっ!?」
女性―――エルファティシアに尋ねられたエリィは名乗った後、血相を変えてエルファティシアを見つめて言った。するとその時ロイドの叫び声が聞こえて来た!
「ど、どうしたの……?………!!!」
ロイドの叫び声に気付いたエリィはロイドにワジと共に近づいて尋ねたが、すぐに状況―――トランクの中に入った少女を見つめて目を見開き
「………その子は………」
ワジは驚きの表情で少女を見つめた。
「き、君は………どうしてこんなところに……」
「どーしたの?目をまんまるにして。あはは!おにいちゃん、面白い~!」
驚きの表情のロイドに見つめられた少女は首を傾げた後、無邪気な笑顔を見せた。
「い、いや、面白いって………もしかして偶然、中に紛れ込んだのか………お父さんとお母さんはどこにいるかわかるかい!?」
「???おとうさん?おかあさん?キーア、そんなの知らないよ?」
血相を変えたロイドに尋ねられた少女―――キーアは首を傾げて答えた。
「キーア………君の名前はキーアっていうのか。でも、いったい誰の……」
「ね、ねえ、ロイド………その子の格好、どう考えても招待客の子には見えないんだけど………」
「ああもう、もちろんわかっているさ!」
「フフ………なるほどね。どうやらその子が……”爆弾”だったわけだ。ローゼンベルク工房の人形が仕舞われているトランク………もしこのまま会場に運ばれてその蓋が開かれていたら………?」
「あ………」
「な、なるほど………」
ワジの推測を聞いたロイドとエリィはある事に気付いた。
「へー、おにいちゃん、ロイドっていうんだ。……ロイド、ロイド………えへへっ………いい名前だね!」
一方キーアは無邪気な笑顔をロイドに向けた。
「ど、どうも………―――って、そうじゃなくて!キーア!他の覚えてることはないか!?知ってる人とか住んでいた場所とか!?」
「……えーと。………えへへ………なんにも思い出せないや。」
血相を変えたロイドに尋ねられたキーアは首を傾げた後、無邪気な笑顔で答えた。
「ガクッ!―――と、とにかく君をこのままにはしておけない。いったんここを出て―――」
「!!ロイド!そういえば、もう一人いるわ!商品として運ばれている”人”が!」
「何!?――――」
エリィの言葉にロイドが驚いたその時、サイレンが聞こえて来た!
「くっ………」
「いけない……!」
「やれやれ………タイムオーバーみたいだね。」
サイレンを聞いたロイド達が声をあげたその時
「なっ………!」
「馬鹿な、侵入者だと!?」
「しゅ、出品物を確かめろ!」
男達の声が聞こえた後、部屋にマフィア達が入って来た!
「ひゅっ………!」
その事に気付いたワジは電光石火の蹴りでマフィア達を壁に吹っ飛ばして気絶させた!
「ほえ~っ……」
「へえ……やるわね。」
「で、電光石火ね……」
ワジの行動を見たキーアは呆け、エルファティシアは感心し、エリィは驚いていた。
「ワジ………」
「―――どうやら覚悟を決めた方がいいんじゃない?このままだと確実に連中に捕まることになるよ。」
「………わかった。」
ワジに尋ねられたロイドは頷いた後、その場でスーツを脱いで下に着込んでいたいつもの服装になった!
「キーア。俺達と一緒に来てくれるか?君の事は絶対に守るから。」
「???よくわかんないけど、別にいいよ~。キーア、ロイド達と一緒にいく!」
「………いい子だ。」
キーアの言葉に頷いたロイドはキーアを抱き上げた。
「わぁ………!」
抱き上げらえたキーアは喜びの声をあげた。そしてロイドはワジに振り向いて言った。
「―――2人とも。動きやすい格好に戻ってくれ。それと、外で待機しているランディ達に連絡を―――これより、この子を連れて議長邸から脱出する……!」
「………わかったわ!……!!待って、ロイド!もう一人競売会に連れ込まれた”人”がいるわ!」
ロイドの指示に頷いたエリィはすぐにエルファティシアの事を思い出してエルファティシアに視線を向けて言い
「何!?……………なっ!?」
「へえ………まさか異種族にまで手を出すとはねぇ。」
エリィの言葉に驚いたロイドはエリィが視線を向けた方向―――エルファティシアを見つめてワジと共に驚いた。
「わぁ……みみ、なが~い♪」
一方キーアはエルファティシアの容姿を見てはしゃいでいた。
「まさかセティと同じ種族―――ハーフエルフか!?」
「………いいえ、私は純粋なエルフよ。それより一体どうなっているのよ………?」
ロイドの言葉を聞いたエルファティシアは静かな表情で否定した後、戸惑った表情で周囲を見回していたが
「―――話は後です!今はここから脱出する事が先決です!走れますか!?」
「え、ええ。――――私の名はエルファティシア。エルファティシア・ノウゲート。ロイド……だったかしら?とにかくここを出たら事情を話してもらうわよ。」
血相を変えたロイドに尋ねられ、戸惑いながら頷いた後、気を取り直して真剣な表情で名乗った後ロイドを見つめて言った。
「わかりました!――――作戦変更!これより、キーアとエルファティシアさんを連れて脱出する………!」
「ええ………!」
「フフ………楽しくなってきたじゃないか。」
(くかかかっ!なんだか面白くなってきたじゃねえか!!)
(………最悪、ミシェラム内にいるルバーチェの全戦力と戦う事を考慮に入れておく必要があるわね………さて………早速貴女の加勢も期待させてもらうわよ?リーシャ………)
(どれだけの者達が来ようと……我が斧槍で滅する!)
その後エリィとワジはいつもの服装に素早く着替えた後、ロイドと共に脱出を開始した!
こうして謎の少女―――キーアとエルフの女性―――エルファティシアを連れた脱出作戦が始まった…………!
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