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おぢばにおかえり

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第三十一話 研修先でもその九

「違うの?それは」
「実は女形って好きでして」
「歌舞伎のね」
「大衆演劇でも」
 どうやらそういったものが好きらしいです。
「女形って好きなんですよ。奇麗じゃないですか」
「玉三郎さんとかはそうよね」
「昔の藤十郎さんなんかも凄い奇麗でしたよ」
「藤十郎さん!?」
 坂東玉三郎さんは知っていますけれど藤十郎さんと言われましても。その名前は日本史で知っていますけれど今もあるんでしょうか。
「ええ。中村玉緒さんのお兄さんの」
「ええと、中村扇雀だったかしら」
 とりあえず記憶を辿って言いました。
「確か」
「それって前の前の御名前ですけれど」
「あっ、そうだったの」
「けれど正解ですよ。その人ですよ」
 その人なのは正解だったそうです。
「上方歌舞伎の人で」
「そうだったわよね。私あまり歌舞伎は詳しくないけれど」
「それでもよく扇雀さんの名前出て来ましたね」
「信者の方でお好きな方がおられるから」
「それでですか」
「それにね」
「それに?」
 これは私の教会だけのお話ですけれど。
「社長さんも時々お父さんにそんな話をされてるし」
「社長さんって?」
「今は会長になられたかしら」
 阿波野君に問われながらこんなふうにも考えました。
「確か」
「社長に会長にって随分凄いんですけれど誰のことなんですか?」
「八条グループの会長さんなのよ」 
 こう阿波野君に説明しました。
「あのグループの。総帥になるわね」
「八条グループっていうとあの世界的グループの」
「そうよ。神戸に本拠地があるね」
「そこのことだったんですか」
「私の教会の信者の方にあのグループの経営者の一族の方々がおられるの」
 これは代々です。私の実家の教会は八条町にあるから八条分教会なんですけれどその縁で代々私の実家の教会に来て下さっているのです。
「その方が歌舞伎がお好きで」
「それでお話もされてるんですね」
「そうよ。それで私も少し聞いたりして」
「滅茶苦茶凄いですね」
 阿波野君は今の私の話を聞いて目を丸くさせていました。
「八条グループの会長さんまで来られてるなんて」
「凄く男前の方でね」
 それがもう凄い美男子なんです。まるで映画俳優みたいな。背も高くてお若くて身体つきも引き締まっていて。何で役者さんじゃないのかしらって思う位です。
「もうそこにおられるだけで華があって」
「そこまで凄いんですか」
「そうなのよ。私も子供の頃から可愛がってもらっててね」
「へえ」
「その縁で。ちょっと聞いたことがあるの」
「そういうことだったんですか」
 阿波野君は私の話をここまで聞いて納得してくれた顔になっていました。
「成程」
「それで阿波野君」
 話を戻しにかかりました。
「それで花魁さんだけれど」
「ええ」
「私は待ってるから」
 こう阿波野君に言いました。 
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