英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第54話
~夜・特務支援課~
―――概要・沿革―――
クロスベル自治州に存在する最大のマフィア組織。その歴史は古く、自治州が成立した七耀歴1130年前後に遡ると思われる。『商会』の名を冠する事からもわかるように当初は帝国ー共和国間の密貿易で財を成し、自治州における暗部を一手に引き受けて来た。現在、その非合法なビジネスは多岐に渡り、武器の密貿易、盗品売買、地上げ、総会屋、ミラ・ロンダリング、各種風欲産業の運営、猟兵団の仲介斡旋などが確認されている。有力議員と密接な関係を持っているためその犯罪行為の多くは摘発を免れており、仮に構成員が逮捕されたとしてもすぐに保釈されてしまうことが多い。
「なるほど………よくまとまってる情報だな。」
「今案で聞いていた話が的確にまとめられている感じね。」
概要の情報を見たロイドとエリィは頷き
「しかし………改めて見るとやっぱりとんでもないですね。」
「ああ、非合法なビジネスで相当儲けまくってる感じだな。」
「………ユイドラでは絶対に許されない行為ですよ。」
ティオは溜息を吐き、ランディは目を細め、エリナは静かな怒りを纏って呟いた。
―――武装・勢力範囲―――
構成員数はおよそ300名。自治州内外の末端構成員も含めると500名以上になると推定される。猟兵団や、周辺諸国の軍隊経験者も多く、最新の導力兵器を密貿易しているため相当な戦力を保持していると思われる。広域暴力組織でないにも関わらず、その影響力はクロスベルに留まらず、エレボニア・カルバードの有力者との繋がりも深い。最新の情報では、対抗組織である”黒月”と”ラギール商会”に押され気味であったようだが、軍用犬を導入することで戦力を補強し、再び優位を取り戻したと目されている。
「こうして見ると………やっぱり大きな組織だよな。それに、軍隊経験者もかなり多そうな感じだし………」
「ああ、前に下っ端と戦った時、かなり手強かったのも納得だぜ。」
「………道理で対人戦になれていた訳です。
勢力の情報を見たロイドとランディ、セティはそれぞれ頷いていた。
「でも、あの時の軍用犬………そのまま運用しているみたいですね。わたしたちがほとんど殺したのに、まだいたというわけですか………」
「そうだね………」
「ちょっと空しくなるわね………」
そしてティオが呟いた言葉を聞いたシャマーラとエリィは溜息を吐いた。
―――マルコーニ会長―――
ルバーチェ商会の代表にしてマフィア組織を支配している人物。ルバーチェの会長としては5代目だが正式な代替わりをしたのではなく、8年ほど前、謀略と裏切りによって4代目を追い落として組織を掌握した。エレボニア系移民のためか、どちらかというと帝国派議員との関係を重視しており、特にハルトマン議長との繋がりは深い。一方、共和国方面のパイプも確保しており、その意味では、クロスベルという特異な地域で抜け目なく立ち回っているといえるだろう。最近ではメンフィル帝国領方面にもパイプを作ろうとしたが、メンフィル帝国領には貴族はおらず、駐留しているメンフィル軍の将軍が領主となっており、彼らと繋がりを持とうと何度か接触を試みようとしたが、全て門前払いされて上手くいかなく、頭を悩ましている。なお、エレボニア貴族への憧れがあるらしく、悪趣味な成金趣味の服装・調度を好む模様。
「こりゃあ……なんつーか、印象的なオッサンだな。」
マルコーニの写真を見たランディは意外そうな表情で呟き
「ユーモラスな外見ですけどやってる事はえげつないです。」
「それに、思っていた以上に柔軟で頭も切れるみたいね。帝国寄りなのに、共和国方面にもコネクションを持って上、メンフィルとも繋がりを持とうとするなんて………」
「相当、やっかいそうな相手だな………」
ティオはジト目で呟き。エリィが呟いた言葉にロイドは真剣な表情でマルコーニの写真を睨んでいた。
―――ガルシア・ロッシ―――
ルバーチェ商会の営業本部長にしてマフィア組織の若頭と目されている人物。猟兵団『西風の旅団』の部隊長だったが8年前、マルコーニが先代会長を追い落とす時に実行部隊として雇われた。その後、マルコーニに引き抜かれる形で猟兵団を抜けてルバーチェ商会に入社。マフィアの武装化、戦力強化に貢献した。猟兵時代は”キリングベア”と呼ばれ、その巨体を活かした軍用格闘術を持って数多の敵兵を屠ったと伝えられている。
「あの若頭の人………猟兵団の出身だったのね。」
「『西風の旅団』………どこかで聞いた事があるような。」
ガルシアの情報を見たエリィが驚き、ティオが考え込みながら呟いたその時
「………大陸西部において最強と謳われた猟兵団の一つだ。その部隊長をやってたって事は相当な戦闘力なのは間違いねぇな。”キリングベア”って名前も何度か耳にしたことがあるぜ。」
「そうか………確かに凄い迫力だったけど。でも、やっぱりランディ、そういうのは詳しいんだな?」
ランディが説明をし、それを聞いたロイドは意外そうな表情で尋ねた。
「はは………昔、噂で聞いたくらいだけどな。」
「けど、この人、メンフィルの事はどう思っているんだろうね~。」
「ん?どういう意味だ、それは。」
そしてシャマーラが呟いた言葉を聞いたロイドは不思議そうな表情で尋ねたその時
「……大使館で学んでいた時、教えてもらったのですが………リベールの”異変”時、”西風の旅団”とその猟兵団と並ぶと言われる猟兵団―――”赤い星座”がリベールの都市、ロレントを襲おうとした際に事前に襲撃を予測し、猟兵団達の進路に待ち構えていたメンフィル帝国軍と戦い、その結果”西風の旅団”は団長を含めた団員は殺されて事実上壊滅し、”赤い星座”も団長を含めたほぼ全員の団員達が殺され、現在の勢力はかつての半分以下になったそうなんです。」
「………え……………」
真剣な表情のセティが説明をし、その説明を聞いたランディは呆け
「なっ!?」
「まさかリベールの”異変”に猟兵団が関わっていたなんて………」
「………でも、いくら大陸最強と謳われた猟兵団でも”ゼムリア大陸真の覇者”と謳われているメンフィル軍には敵わなかったんですね………」
ロイドは驚き、エリィは厳しい表情で呟き、ティオは静かな表情で呟いた。
「………ですが、メンフィル軍も1個大隊近くの犠牲者を出したそうです。特に双方の猟兵団の団長の強さがあまりにも凄まじく、ファーミシルス大将軍とカーリアン様が直々に相手して、御二方とも重傷を負ってようやく討ち取った相手だそうです。」
「ええっ!?」
「あ、あのカーリアンさんと”空の覇者”と互角に戦うなんて………一体どんな強さだったんだ………?」
「………あの人達と対等に渡り合える”人間”がいるなんて、想像もできないです………」
エリナの説明を聞いたエリィとロイドは驚き、ティオは信じられない表情で溜息を吐いた。
「……………なあ、エリナちゃん。どっちがどの団長を討ち取ったんだ…………?」
一方ランディは複雑そうな表情でエリナに尋ね
「確か………『西風の旅団』の団長をファーミシルス大将軍が討ち取って……『赤い星座』の団長をカーリアン様が討ち取ったと聞きました。」
「!!!……………なるほど……………な……………………」
エリナの答えを聞いて目を見開いて驚いた後、複雑そうな表情で小声で呟いた。
「ランディ?どうしたんだ。」
ランディの様子に気付いたロイドは尋ねたが
「いや……何でもねえ。それよりこのガルシアっていうオッサンだが、元いた古巣の仲間や団長を全員殺されたんだから、少なくともいい感情は持ってねえんじゃねえのか?」
ランディは誤魔化して話を変えた。
「まあ、復讐したいと思っても、返り討ちになる相手ですけどね………」
「ハハ………確かにそうかもな………」
そしてティオが呟いた言葉を聞いたロイドは苦笑していた。
―――ハルトマン議長―――
クロスベル自治州議会の議長を務めている大物政治家。自治州政府代表の一人でもあり、帝国派議員のリーダーを務めている。帝国貴族に連なる名門の出身であり、自治州にある保養地ミシェラムに贅をつくした巨大な邸宅を構えている。ルバーチェのマルコーニ会長とは旧知の仲であり、各種利権や密貿易、ミラ・ロンダリングなどにおいて密接な協力関係になると目されている。なお昨年、非公式ではあるが帝国宰相ギリアス・オズボーンと会談し、その権威を内外に改めて見せつけた。
「これがハルトマン議長……」
「なんつーか、政治家ってより帝国の大貴族って感じだな。しかし、あの”鉄血宰相”と会見したってのはマジなのか?」
ハルトマンの写真を見たロイドは呟き、ランディは疑問に思っている事を口にした。
「ええ、非公式ではあるけれど去年の春頃、オズボーン宰相がクロスベルを訪れたらしいの。おじいさまには会わずにハルトマン議長とだけ会談してすぐに帰国したらしいけど………一時期、各国の政界ではその話で持ちきりだったみたい。」
「そんな事があったのか………”鉄血宰相”……相当、有名な人みたいだけど。」
「何の為に訪れたのかちょっと気になりますね。」
ランディの疑問に答えたエリィの話を聞いたロイドは考え込み、ティオは静かな表情で呟いた。そしてロイド達は閲覧をやめた。
「―――なるほど。今まで漠然としてたところがかなり見えるようになったな。」
「ええ………冷酷かつ抜け目ないトップと歴戦の猟兵だった若頭の存在………そしてハルトマン議長との関係ね。」
「しかもその議長ってのはあの”鉄血宰相”とも何かしらの関係があるんだろ?確かにクロスベルの警察が全く手を出せないのも納得だぜ。」
「………そうだな………」
閲覧を終えたロイド達が相談しているとティオが何かに気付いた。
「………待ってください。渡された記録結晶の中に隠されたデータがありました。」
「隠されたデータ………?」
「って、隠したってんならあのガキが隠したんだろう?」
ティオが呟いた言葉を聞いたロイドは首を傾げ、ランディは目を細めて言った。
「ええ、どうやらわたしが気付くか試そうとしたらしいですね。………後でおしおきをしないと。」
「それはともかく………その隠されたデータも見れるか?」
「ええ、お茶のこさいさいです。」
そしてティオが端末を操作すると項目に”黒の競売会”が追加された。
「!!これは………」
「”黒の競売会”………!?」
「エステルちゃんたちが言ってた例のイベントってやつか。ハハ、あのガキ、洒落たマネをすんじゃねーか。」
項目を見たロイドとエリィは目を見開き、ランディは呟いた後苦笑した。
「………どうやら本当に存在するイベントのようですね。それもルバーチェ絡みですか。」
「ああ………怪しいとは思ってたけど。よし―――とにかく見てみるか。」
―――黒の競売会――――
毎年、創立記念祭最終日にルバーチェが開催しているオークション。保養地ミシェラムにあるハルトマン議長の大邸宅を借り切って開催されている。出品される品は一流のものばかりだが盗品や賄賂・脱税・横流しなどに関連する美術品・絵画・宝飾品であることが多い。また、クロスベルのみならず周辺諸国の貴族や資産家が多く招待され、裏の社交界的な催しとしても機能している。ルバーチェにとっては重要な収入源であり、ハルトマン議長にとっては各国の有力者と繋がりを持つ絶好の場となっているようだ。なお、オークション会場の警備はルバーチェの構成員が厳重に行っており、”金の薔薇”が刻まれた招待カードが無い限り、中に入る事は出来ないらしい。
「こ、これは………!?」
「し、信じられない………そんなものが毎年開かれていたなんて………」
情報を見たロイドとエリィは驚き
「でも、ちょっとおかしいです。秘密にしている割にはかなり大規模な催しですけど………」
「そんな動きがあれば、警察やマスコミにも感づかれると思いますが………」
ティオとセティはそれぞれ疑問に思った事を口にし
「いや、警察やマスコミには厳重に規制がかかってんだろ。でもなけりゃ、こんなモンが表沙汰にならねぇわけがねぇ。」
ランディが答えたその時
「―――その通りよ。」
「!?」
聞き覚えのある声が聞こえ、声を聞いて驚いたロイドが仲間達と共に振り返るとそこにはスーツ姿のルファディエルとセルゲイがいた。
「課長………それにルファ姉も………」
「お、お疲れ様です。」
2人を見たロイドは驚き、エリィは申し訳なさそうな様子で会釈をした。
「やれやれ………まさか自力でそこまで辿り着いちまうとはな。まあいい、ここじゃなんだ。そっちの部屋で一通り話してやろう。」
そしてロイド達はセルゲイに促され、課長室で説明を受けた。
「―――それじゃあ、あのファイルにあった情報は全て事実ってわけですか………」
「ああ、そうだ。誰が調べたモンかは知らんがなかなか的確にまとめてやがるな。」
「フフ、いい情報屋を見つけたわね。」
ロイドの言葉にセルゲイは頷き、ルファディエルは微笑んでいた。
「で、でも………警察の上層部では全て掴んでいるんですよね?」
「ああ、全員とは言わねぇがな。警部クラス以上はもちろん、一課の連中は全員知ってるハズだぜ。遊撃士協会だって受付やアリオスあたりだったらとっくに承知しているだろ。」
「警部クラス以上って事は………ルファディエル姐さんもッスか!?」
エリィの疑問にセルゲイは頷き、ある事に気付いたランディは驚きの表情でルファディエルに尋ね
「………ええ。というかガイに頼まれて警察を手伝っていた頃から知っていたわよ。」
尋ねられたルファディエルは静かに頷いて答えた。
「くっ………これも”壁”ってわけですか。」
「ああ………とびきりデカイ”壁”だ。基本的に俺は、お前達の行動に制限を付けるつもりはないが………”黒の競売会”にだけは手を出すのは止めろ。お前達には荷が重すぎる。」
「で、でも………!」
セルゲイの話を聞いたロイドは悔しそうな表情で反論しかけようとしたその時
「おいおい、課長。言葉を間違えてんじゃねえよ。俺達に荷が重いってより、警察そのものが動けねぇんだろ?」
ランディが目を細めて尋ねた。
「………………………」
尋ねられたセルゲイは黙り込み
「それだけの有力者を招待して、しかも実質的な主催者の一人があのハルトマン議長………そんなの動けるわけがないわ。」
「民間人に危険が迫らない限り、遊撃士協会も動けませんし………誰も手が出せないという事ですか。」
エリィとティオがそれぞれの推測を言った。
「だ、だからと言って………!」
「………悔しい思いをしてんのはお前達だけじゃねえ。特に一課の連中は毎年、歯軋りするような思いだろうさ。非人道的な催しだったらそれこそギルドに動かれる前に意地でも突っ込むところだが………どうやら出品物が”黒い”以外は豪華なパーティーってだけらしいからな。」
「くっ………」
「実際、下手に手を出しちまったら支援課ごと潰される可能性は高い。だから今回ばかりは俺もお前らを止めざるを得ない。ま、そういうことだ。」
「「……………………」」
「ハッ………」
「……やれやれです。」
セルゲイの話を聞いたロイドとエリィは複雑そうな表情で黙り込み、ランディは不愉快そうな表情になりし、ティオは溜息を吐き
「ねえ……ルファディエルさんはどう考えているの?」
シャマーラはルファディエルを見つめて尋ねた。
「………貴女達にルバーチェや議員の後ろに控えるエレボニアを含めた者達――――いえ、下手をすれば警察自身や警備隊も敵に周るわね。それらと”戦争”をする覚悟があるのなら止めはしないわ。その時は私も全ての策を編み出して、”敵”を全て殲滅や暗殺する策を考えるわ。………でも、その時は多くの関係ない者達が傷つき、そして文字通り人と人が殺し合う”戦争”が起こる可能性がある事を考えておきなさい。」
「それは……………」
「…………そんな事、絶対にしたくありません………!」
そして真剣な表情で言ったルファディエルの話を聞いたセティとエリナはそれぞれ暗そうな雰囲気を纏った。
「………ったく、物騒な事を進めるんじゃねえ。とにかく―――納得しろ、とは言わん。」
ルファディエルの話を聞いたセルゲイは溜息を吐いた後、気を取り直して言った。
「え………」
「だが、現実を直視し、自分達に何がどこまで出来るか見極めるってのも時には必要だ。そして、その悔しさを忘れない限り、いつかきっとチャンスは来るだろう。お前達の諦めがなけらば、な。」
「………わかり、ました………この件に関しては………手を出すのは止めておきます。」
「ロイド………」
「「「「ロイドさん……」」」」
「やれやれ……だな。」
こうして……記念祭3日目は過ぎて行った。ティオの過去、知られざる兄の話、仔猫と言う謎のハッカー、ルバーチェに関する詳細な情報………―――そしてクロスベルの歪みを体現したかのような”黒の競売会”。それらがグルグルと頭の中をめぐり、いつしかロイドは眠りに落ちていった――――
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