流し目
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2部分:第二章
第二章
「工業科の新渡戸君」
「ああ、彼ね」
「ラグビー部のね」
「彼なのね」
「何かああした武骨な感じの子が」
麻衣の好みだというのだ。彼女のだ。
「だからなんだけれど」
「いいんじゃない?彼性格も悪くないしね」
「外見はごついけれど奇麗好きだし」
「しかも面倒見もいいしね」
「申し分ないじゃない」
「それでなんだけれど」
その新渡戸のことを話してからだった。麻衣は。
あらためてだ。こうクラスメイト達に話した。
「私もやってみようかって思うのよ」
「目?」
「目を使うの」
「そう。お母さんが言ってたけれど」
その母親だった。麻衣の他ならぬ。
「目を使うやり方で一番効果的なのはね」
「それは何なのかよね」
「流し目っていうけれど」
「それよね」
「そう。それ使ってみたらいいっていうから」
それでだ。彼女もだというのだ。
「やってみようかしら」
「ううん、何か麻衣のキャラじゃないって気がするけれどね」
「そうね。麻衣っておっとりしてるし」
「けれどそれでもいいんじゃない?」
「そうよね。それじゃあね」
「やってみたら?」
「うん、やってみるわ」
麻衣も皆の言葉に頷いてだ。そうしてだった。
それから時々だ。新渡戸が傍を通る時にだ。
あえてだ。流し目をしてみせる。彼の前で。
するとその度にだ。新渡戸の目が止まった。その大柄でいかつい顔を止めてだ。そのうえで一瞬だがいつも麻衣を見るのだった。
そうして何時しかだ。彼はだ。
麻衣を見るとその顔を妙に赤らめさせるようになった。それは周囲にもわかった。
それでだ。彼女達はこう麻衣に話すのだった。
クラスでそれぞれお弁当を出して食べながらだ。その話をするのだった。
「新渡戸君いい感じじゃない?」
「そうよね。麻衣を見ると何かね」
「顔をすぐ赤くさせて」
「それで麻衣を見て」
「いい感じになってない?」
「ううん。私ただ流し目作ってるだけだけれど」
麻衣のお弁当はサンドイッチだ。自分で朝作ったものだ。
それを手に取って食べながらだ。彼女は言うのだった。
「それだけでなのね」
「そうね。何も言ってないし」
「目の前で流し目してるだけだけれど」
「それでもあれよね。新渡戸君が」
「それ見て変わったっていうか」
「彼の方が麻衣を意識して」
「変わったわよね」
そしてだ。一人がお握り、自分のお弁当のそれを食べながらだ。
そのうえでだ。こう麻衣に言うのだった。
「最初は麻衣だけが意識してたじゃない、彼のこと」
「うん、そうだったわね」
「けれど今はむしろね」
「新渡戸君の方がね」
「そう、意識してるから」
こうだ。彼女は麻衣に自分のお握りを食べながら話す。それと共にお握りの中にある梅干も食べる。そうしながら話すのだった。
「後はね」
「後は?」
「もうちょっと続けたら?」
「新渡戸君の前で流し目見せること?」
「そう、それをね」
続けてはどうかというのである。それをだ。
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