少年は魔人になるようです
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第111話 少年達は前に進めないようです
Side ―――
「よぉ、遅かったじゃねぇかネギ。」
「ラカンさん!」
墓守人の宮殿に到着したネギ達を出迎えたのは、倒れたヴァナミスと、それを見下ろす
"紅き翼"の三人だった。
奥にはデュナミスと、クルト提督の傍にいた同い年くらいの子が倒れている。
楓は隠れ蓑から皆を出し、ネギは予想以上の戦果に驚きを隠せないまま、先行部隊に
駆け寄る。
「す、凄いですね。こんなに早く敵の幹部を、三人も倒すなんて!」
「フフ、流石に九対三……いえ、バラバラに戦ってくれましたから、三対一でしたからね。
外はどうなっていますか?」
「……クルト提督が裏切って巨大ロボットになってMM軍は半数以上が壊滅して、デモゴルゴンが
魔族を取り込んで超巨大化して、ヘラス陛下が龍化して、拮抗状態…と言う所でした。」
「うっは、龍化したか!つーかなんじゃそのカオスな戦場行きてぇぇーー!!」
「ダメよジオン、貴方まで覚醒したら収拾つかないから。」
「チッ、わーってるよ……。」
外の状況を聞いた先行部隊の面々の反応は三通り。テンションを上げたジオン・ラカン・松永と、
ゲンナリしたその他、不安そうにしたエーリアスと安定の反応だった。
続き、愁磨達が居ない事を聞いたラカン達は、敵に援軍が来なかった事を納得する。
しかし―――
「うっし、そうなりゃとっとと上に行って、ゲートを解放しねぇとな!」
「とは言え気をつけて進みましょう。ゼクト、三人の拘束は―――」
「ハァァァーー………いやいやいやいや、まさか一時間のお留守番も出来ないなんて……。」
「・・・・ざんねん、むねん、さようなら?」
噂をすれば影。上の階に唯一通じる通路に、数人の子供と黒い影を伴わせたノワールと
アリアが帰還した。
「ノワール様、アリア様。我らも。」
「いえ、良いわぁ。あなた達は救助した人をいつもの場所へ。任せたわよ。」
「御意!」
了解の意思を告げると一糸乱れぬ動きで子供を抱え、影達はその場から姿を消した。
子供が抱えられる際に、一人一人の頭を撫でる間、隙だらけにも拘わらず、集結した
ネギ達は誰一人動く事が出来なかった。
「さて、と。久しぶりな面々と、初めましてが……四人居るわね。」
「お初にお目にかかる、『黒姫』殿、『幼狼姫』殿。
"大魔導士"ジオン・ジルダリア・エーリアス、初代の言により、永久を誓った友
シュウマの行いの是非を図る為、参上仕りました。」
「朕は地獄の魔ゼルク。公爵と共に来たが、今はこうして好き勝手させて貰ってイる。」
「・・・うむ、覚えた。よきにはからえ。」
相手の緊迫した空気を感じているのかいないのか、自己紹介を促したノワールだったが、
"大魔導士"三人を見て唸る。
初代、嘗て自分達と友であった彼等とは似ても似つかない三人ではあるが、自分でさえ
一目でそれぞれの特徴を薄っすらと見て取れる彼等と、愁磨が出会ってしまったらと、
幾ら頭を悩ませてもどうしようもない事実。
しかし最後は『なるようになれ』になってしまうのだが。
「困ったわねぇ……シュウとツェラちゃんから言われて、私もアリアもこの中だと
かなーり力抑えないといけないのよねぇ。」
「おや、ノワールさんらしくないですね。流石に私達全員を相手にするのはつらいと?」
「・・・・出せるだけの本気、全部出すの、エレガントじゃない。・・・だよね?」
「ふふふ、アリアは良く分かってるわね。」
「だろうなー……あぁ、チクショウ。」
現在、計画に使われる繊細な"魔法"の術式が魔法世界全土を覆い、それが集約されているのがここ、
墓守人の宮殿だ。魔法や気の攻撃は余程の攻撃に使わない限り――つまりこの二人が該当する――
問題無いが、ノワールやアリアの使う"神気"はその術式を僅かに狂わせてしまう為それも使えない。
そんな事をラカン達は知る由も無いが、相手が十分に力を出せない状況を楽観視はしていない。
実力に差はあるも二十四人に対し、たった二人と言う絶望的な状況にも拘わらずいつもと変わらない
調子で話されては動けない。
「おろ?なんだ、まだ始めてなかったのか。」
「あらシュウ、早かったのね。」
「しゅ、愁磨さん……!?」
そして、そこへ愁磨が合流した。驚きの余りネギだけが叫びを上げたものの、その場の全員が
同じ危機を抱いた。『最悪だ』、と。
「もう良いデーチモ、いつまで転がっているつもりだ?下がれ。」
『『ハ、申し訳ございません猊下。』』
「ぬぁ……っ!?」
愁磨がそう言うと倒れていた三人がムクリと起き上がり、揺らめいたかと思うと、デュナミスと
ヴァナミスの姿がデーチモに成り代わり、何事も無かったかのように姿を消した。
「さて、これで邪魔も居なくなった訳だし、思い切り、やれる……な………。」
それと同時に魔力を放出し始めた愁磨であったが、その動きがピタリと止まり、ノワールが頭を
抱える。正にそれは、先日心配していた事であり――
「ジオ、ン……、ジル、エイル………。」
「お、おお、え、何コレ?」
「し、ししし知らないわよ!?」
"大魔導士"三人を、子孫を見た瞬間思い出が蘇り、大粒の涙をボロボロと零す。
初代が書いた書物がそのまま残されており、親友と呼べる関係であった事を知ってはいたが、
まさか、魔法世界を震撼させている『皆殺し』が子供の様に泣くなど考えもしなかった全員が
狼狽え、先程とは別の意味で動けなくなってしまった。
「あーあーあー、だから言ったのに、もう……。」
「・・・・パパ、お馬鹿。」
「うびゅばー!おうびゃびびゃえあばべぁー!」
「もうぜんっ然分からないから、ちょっと黙ってなさい。」
「う゛ん゛…………。」
やれやれと呆れながらも、敵の事など歯牙にもかけずノワールとアリアは二人がかりで泣き続ける
愁磨を慰める。それからたっぷり十分後、鼻水を啜りながらも復活し、再度立ちはだかった。
「あ゛~……で、ネギ。お前らは何をしに来たんだ?帰りたいんなら帰らせてやるぞ?」
『『『………………………えっ!?』』』
「おぉう、まさかの申し出だな。」
泣きやんだ愁磨の最初の提案。普通であれば邪魔をするな、今退けば見逃す――
そう出るものと思っていたラカン達は、出鼻を挫かれた事もあり、抱いていた気合を
半消してしまった。
そして最終局面でもあるこの場、ネギは僅かな期待を込めて自分達の目的を告げる。
「僕達は……麻帆良に帰りたいだけです。でもそこには、愁磨さん達も居て欲しい…
居なければ嫌なんです!世界を滅ぼすなんてもうやめませんか!?
皆で考えれば、きっと、もっと……!」
『日常』に戻りたいと言う、ほんの僅かな願い。それが懇願と、慟哭とで響く。
麻帆良から魔法世界へ来て僅か一ヵ月。壮絶な特訓でも、苛烈を極めた戦闘にも
色褪せず、鮮明に思い出せる学園生活が、戻れない程遠いと感じてしまうからこそ、
必死で訴える。例えそれが――
「それは無いよ、ネギ。『みんな』で考える猶予が尽きたから、我々がこうしている。
この世界の安寧無くして俺は戻らないし、成ってしまえば、俺は帰れない。」
――叶わない夢であろうとも。
「………つまり、計画が失敗して、僕達がこの世界を救えれば、一緒に帰ってくれるんですね?」
それでも、ネギは夢を語るのをやめない。
折れてしまいそうな覚悟に楔を打って支える様に、自分に言い聞かせるように。
それを聞いた仲間達は嘗ての仲間とそっくりだと笑い、今では対峙する仲間も
一瞬笑った。
「それが出来るのなら――見せてみろ!お前の、お前達の可能性を!!」
「「っしゃぁ、行くぞおらぁああああああああああああああ!!!」」
「待ちたまえ、無策で突っ込んだら犬死するだけだ。」
"皆殺し"が叫び、男気溢れ過ぎる二人が呼応するが、それを抑えて松永が前に出る。
「ネギ君、君は先程『この世界を救う』と言ったが、代替案はあるのかね?」
「………確定では、ありませんが。」
「案はある、と。ではどの道、時間が増えた分君は小躍りすると言う訳か。」
「踊りませんよ!?その通りですが、目の前の鬼門が問題です。」
「ふむ、ならばその鬼は我輩が任されよう。」
「………………はい?」
こんな時にまで冗談か――とネギは文句を言いかけるが、松永が愁磨達しか
見ていない事に気付き口を噤む。"狂人"は満足気に頷くと、愛刀を抜き放つ。
「では共に踊って頂けるかな、お三方。」
「狂人とは思っていたけれど、こう言うしかないわね。……久秀、気でも狂ったの?」
「ふむ、では有言実行と行こう。――"天我縛鎖"。」
大仰な振る舞いで抜いた"羅刹九星"で、コンと軽く地面を打った、瞬間。魔力の発露も
無しに空間が愁磨達三人と松永を喰らった。
捻じれた空間が徐々に形を取り戻して行くと、見えて来るのは宮殿とはまるで違う、
赤の世界。
更に形を成して行くのは襖や畳、精巧な作りの欄間、そして炉・・・嘗ての松永の
居城、その一室が15m四方程に拡がった空間に変化した。
「固有結界とはお前らしくない能力だな。だがまさか、より上位の固有結界を持って
すれば破れる、と言う事を忘れてはいないだろ?」
「フフフ、幾ら君らとて、我輩のこの"天我縛鎖"から逃れる事は出来んよ。
なんせこの空間では魔力や気、神力までもが封じられるのだからね。」
「ほう……?」
感嘆と共に愁磨は"うんめいのうつくしきせかい"を展開しようとするが、松永の言う
通り、自身から魔力、その他の力が感じられない事を悟る。
派手さを好む松永らしくない、地味で強力な"結界"。
しかしそれを造るには、見合う解除条件と制約を設定しなければならないのだ。
「なぁに簡単な事だ。この空間に取り込まれた者は我輩と何度でも仕合い、
勝利すれば出られる。
ただそれだけの"結界"である。先に言った通り、純粋な剣の勝負で、ね。」
「冗談キッツイなぁオイ。相手によらなくても大抵詰むだろうよ。」
剣と剣の仕合。それだけならばこの三人に負けは無かっただろう。しかしそこに"のみ"と付いて
しまえば話は別だ。あらゆる剣技を使える愁磨、対剣戦闘を幾億と熟したノワールと言えども、
やはりそれを発揮するには強化と、何より"力"で技を顕現させなければならない。それでも達人の
域には達する二人だが、相手が"松永久秀"ともなればやはり足りないのだ。
戦国時代に於いて"最強"であれば松永は中堅から頭一つ出た程度。だが"剣士"としてならば、松永は
本田忠勝すら凌ぐ"最優"であったと、愁磨は評価していた。それと、剣のみの勝負。
「それじゃぁ……行ってみるか。」
「何時でも良いよ。」
「……………………………――ッシ!!」
瞬動に加え、神速の抜刀。反応すら許さない筈の初撃を―――
ザンッ
「ゴッふ…、マジ……か………。」
「謙信公を超える速度とは言え、直線ではね。」
易々と迎撃され、愁磨は血の海に一度目を沈みながら思った。『予想外に強すぎ・・・』、と。
そして、愁磨達が居なくなった宮殿内。
「松永、まさか本当にあの三人と!?」
「……行きましょう先生。時間稼ぎが長いにしろ短いにしろ、急ぐに越した事はありません。
爆発好きが自爆しただけとなれば犬死ですから。」
「む、無駄にキッツイけどその通りや。はよ行くで、ネギ!」
ドン引く程の刹那の辛辣さに、全員が松永への同情を覚えるが、時間的な余裕が無い事でそれを
無視し、それぞれ次の動きに入る。
「じゃあ打ち合わせ通り上と下、二手に別れます!皆さんご無事で!」
「へっ、お前らもな!戦力が集中してるとすりゃ上だ。精々命を惜しめ!」
「楽な方に行きたいねぇ……遅れんなよ、お前ら!」
ドゥッ!
「っちょ、早っ!」
最後になるかもしれない別れをあっさり済ませ飛び出した"大魔導士"三人に連れられ、未だ翻弄
されている明日菜達生徒は気も漫ろに宮殿を駆けて行く。用心として索敵魔法を使いながら先導する
"大魔導士"三人だが、宮殿内のあまりの静かさに愁磨の為人が本物か罠かを疑うが、どうせ前者か、
とアイコンタクトで示し合わせて諦め、詠唱短縮魔法に切り替える。それに合わせネギも遅延詠唱を
補助から攻撃魔法へ切り替え――
「止まれ!!」
「っとと!?」
不意に停止を言い渡され、慌てて遅延しかけていた魔法を制御しやすい『固定』にする。
"大魔導士"の背後から先を覗くと、巨大な祭壇を抱く広間となっていた。
球体の室内に入口が二つ、そこから中央に向かって空中床が伸び逆円錐型の祭壇に
繋がっており、四方に赤青白黒の鳥居の様なオブジェが屹立し、その中心には魔法陣が
描かれている。全員を待機させジオンとエ―リアスが魔法陣を調べに行ったが鬼の
ような形相で戻り、小声で叫んだ。
「やべぇよ、どうする!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「げ、ゲートポートです!最上階にある筈のゲートポートですよあれ!」
『『『えぇええっ!?』』』
予想外過ぎる、まさかの問題解決に明日菜達が潜めていた声を上げてしまうが、
そんな事に構っていられるかと"大魔導士"に詰め寄る。
「ってこたぁオッサンらが下の装置を起動してくれりゃすぐ帰れるんか!?」
「ひっ!?い、一応は、多分……何処も壊れてませんしぃ。」
「こらこらコタ、女性に詰め寄るものではないでござるよ。それは彼らに任せると
決めたろう。」
「でもここで待つだけなのぉ!?ぶっちゃけ怖いんだけど!」
元の世界に戻れる、ほぼ確実な可能性が目の前に現れた事でタガが外れ、騒々しく
騒ぎ出す。早く帰りたいという本心の顕れを苦々しく思いながら、収拾にかかろうと
するネギと千雨だが、その二人が装置の方を見たと同時、パシュッと軽い音と共に
幾数の金と数十の影が現れた。
「なんじゃお主ら、まだこんな所におったのか?」
「むー、愁磨はまだ戻っておらんのか。仕方あるまい、救助者は任せたぞ。」
「御意。」
呆れたように言うアリカとテオは引き連れていた、黒ローブ改めデーチモに救助者を
預ける。
再度敵の首魁との遭遇に構えたネギ達だが、僅かとは言え愁磨達同様に隙だらけに
見えた二人に違和感を覚える。
愁磨達であれば実力的に納得出来たが、王皇族特有の固有能力を持っているとは
言え、この距離と実力・人数差には見合わない余裕なのだ。
「では着いて来るが良い、ゲートポートまで案内してやる。」
「…………おいどうする、偽物っぽいぞこれ。」
「で、でも術式は確実に長距離転移術式なんだけどぉ……。」
「偽物って事は無いでしょう、現に転移して来た訳ですし。」
サラッと告げられたネギ達は顔を付き合わせて罠かとまた疑い始めるが、直ぐに
アリカが答える。
「愁磨に言われたのじゃ。私達"魔法組"と主らが会ったのならゲートポートへ。
"物理組"と会ったら軽く捻ってゲートポートへ。
もしも"絶対殺すマン組"と当たったなら――と、これは良いか。
それはこの世界内にしかワープ出来ん"中距離用"じゃ。早う着いて来んと時間が
勿体無いぞ。」
「明らかに目的が違う人達がいたんですが……。」
不穏な事を言うと、テオと連れ立って反対側の出入り口へ姿を消す。
疑いは晴れないが、愁磨がゲーム程度ではあるが態々条件を付けてまで、自らの家族に
案内をさせるのだ。
ここは黙って従うしかないと、前衛にジオン、後衛にジルダリアとエ―リアスを置き、
暫く大きく螺旋を描く廊下を無言で上って行く。
「そう言えばお主らとは初めましてじゃな、"大魔導士"。」
「……は、挨拶が遅れ申し訳ございません王女。」
「よいよい、今となっては敵同士じゃ。
それにしてもお主らは今までどこにおったのじゃ?」
しかし無言に耐え切れなかったアリカが"大魔導士"に話しかけ、世間話を始める。
僅かに和らいだネギ達に頬を緩めるが、前を向いてその表情を見せないようにして
歩みを再開する。
「さぁ、着いたぞ。これがお主らが求めるゲートポートじゃ。」
「これが……これで、学園に帰れる……。」
それから間もなく。最上階に着き、目に飛び込んで来たのはゲートポートに似た、
けれど全く違う装置。
ストーンヘンジの様に屹立する岩の代わりに、桃色の花が咲く蔦が絡みついた呪文の
彫られた黄金色の柱が立ち、その中に大小三つの輪が不規則に回っている。
「後はラカン達が最下層のを起動してくれりゃぁ…!」
「ここまで連れて来ておいて済まぬが、それは無理じゃろうのう。」
ピコンッ
ネギ達が喜びに沸き、冷や水を浴びせる様にテオが映像窓を映し出したその先は、
宮殿の最下部。
既にそこは宮殿の静けさとは真逆。炎と氷が海を成し、岩と重力により部屋の有様は
地獄と化しており、その中では、この場にいない七人が戦いを繰り広げていた。
Side out
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