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タクチータ

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第五章

「奇麗だ、じゃあな」
「ええ、いいわねファランギース」
 タハミーネは娘に対して言った。
「これからは」
「ええ、嫁いで」
「あちらのお家で幸せにね」
「主人に従って」
「それでよ」
 そのうえでというのだ。
「妻として母親として」
「務めていくわ」
「そうしてね」
「あちらでも元気でな」
 ジダンは泣きそうな顔のまま娘にまた言った。
「困ったことがあったら何でもな」
「だから黙って見ていなさい」
 タハミーネは夫にまた言った。
「それはもう言ってるでしょ」
「それはそうだが」
「今のこの娘を見てなのね」
「これで嫁ぐと思うとな」
「やれやれね」
「何でこんなに嬉しくて悲しいんだ」
「親だからでしょ」
 これが妻の言葉だった。
「私だって同じよ」
「嬉しくて悲しいか」
「ギーヴの時もね」
「あいつの時もそうだったがな」
「ファランギースの場合はっていうのね」
「余計にだ、じゃあ幸せになって来い」
 こう娘に言う、そしてだった。
 彼は娘を送った、何とか涙を落とすのを堪えながら。
 その式の後でだ、ジダンは学校で生徒達に言った。
「いい式だった」
「ああ、タクチータを買われた」
「その結婚式ですね」
「娘さんの式ですね」
「よかったんですね」
「泣くことを抑えることに必死だった」
 それこそとだ、生徒達に言うのだった。
「本当にな、これで終わった」
「ほっとしてますね」
「もう心から」
「そんなお顔ですよ」
「そうだろうな、タクチータも買った」
 勿論他のものもだ。
「それでいい式にしたからな」
「だからですか」
「今はほっとしてますか」
「そうなんですね」
「そうなった、とにかくな」
 それこそとだ、また言ったジダンだった。
「いい式だった」
「父親として全部やってですね」
「見送られたんですね」
「そうだ、御前等も結婚してな」
 こうも言ったのだった。
「娘が出来たらこうなるぞ」
「今の先生みたいにですか」
「そうなりますか」
「ああ、いいものだ」
 満足した顔での言葉だった。
「だからいいな」
「何か深いですね」
「人生ってのものを感じますね」
「じゃあですね」
「俺達も結婚して」
「女の子が出来たら先生みたいに送るんですね」
「そうしろ、嬉しくて悲しくていいものだ」
 遠い目で微笑んでの言葉だった。
「だから、いいな」
「じゃあまずは結婚します」
「それからはじめます」
「そうしろ、じゃあ授業をやるぞ」
 ジダンは笑顔で言った、そうしてだった。実際に授業をはじめた。娘を送った後でそうしたのだった。満ち足りた中で。


タクチータ   完


                        2016・6・27 
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