英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第42話
~IBC~
「やあエリィ、久しぶりだ。半年ぶりくらいになるかな?」
部屋に入って来たロイド達を見たスーツ姿の男性はエリィを見て尋ねた。
「はい、ディーターおじさまもお元気そうで何よりです。その、アポンイントもなしにお邪魔して申し訳ありません。」
「ハハ、水臭い事は言わないでくれたまえ。君は友人の娘でわが娘の幼馴染でもある。身内も当然じゃないか。」
「……ありがとうございます。」
「ふむ………警察に入ったというのは娘から聞いていたが………そちらの彼らが同僚かね?」
「はい。同じ”特務支援課”の仲間です。」
男性―――ディーターに尋ねられたエリィは頷いた後、数歩横にそれて、ロイド達がディーターによく見えるようにした。
「初めまして。ロイド・バニングスといいます。」
「ランディ・オルランド。よろしくッス。」
「ティオ・プラトーです。初めまして………」
「セルヴァンティティ・ディオンと申します。初めまして。」
「あたしはシャマーラ・ディオン!よろしくね♪」
「……エリナ・ディオンと申します。以後、お見知りおきを。」
そしてロイド達はそれぞれ自己紹介をした。
「ふふ、クロスベルタイムズで君達の事は一応知っているよ。IBCの総裁を務めるディーター・クロイスだ。ロイド君、ランディ君、ティオ君、セルヴァンティティ君、シャマーラ君、エリナ君。どうか私のことは遠慮なく、ディーターと呼んでくれたまえ。」
ロイド達の名前を聞いたディーターは頷いた後笑顔を見せた。
「は、はあ………」
(今、歯が光ったような………)
(な、なんかムチャクチャ爽やかそうなオッサンだな。)
ディーターの笑顔を見たロイドは戸惑い、ティオは不思議そうな表情をし、ランディは苦笑し
(フフ、でも親しみやすそうでよいではないですか。)
(そうだよね~。堅苦しい人が一番苦手だもんん。)
(全く……貴女も領主の娘の一人なのだから、そのぐらい慣れておきなさい。)
セティは微笑み、セティの言葉にはシャマーラが頷き、それを聞いたエリナは呆れた。
「しかし、何やら警察の仕事で相談したい事があるそうだが………一体、どうしたのかね?」
「はい、実は………私達、ある事件を追って捜査を進めているのですが―――」
そしてロイド達はディーターに事情を説明した。
「―――なるほど。その”銀”とやらの導力メールがIBCに君達のオフィスに送られてきたのか。」
「ええ……そうなんです。」
「………恐らくこのビルにあるメイン端末からだと思います。それを操作して送った可能性が高いかと。」
「ふむ………このビルのセキュリティには正直、自信を持っていてね。特に端末室があるフロアには許可されている人間しか入れないようにしているんだ。端末の操作も、権限がある者しか出来ないようになっている。」
ティオの推測を聞いたディーターは頷いた後、真剣な表情で答えた。
「大変失礼ですが………端末を操作できるスタッフの中で不審な方はおられないでしょうか。最近入ったばかりとか、何か後ろ暗いことがあるとか。」
「ふむ………私の知る限り、信頼できる者ばかりだけどね。―――それより、ロイド君。他の可能性はあり得ないのかな?」
「え………」
ディーターに尋ねられたロイドは呆け
「例えば、そうだな………”銀”の正体がこの私で君達にメールを送ったとか。」
「ええっ!?」
「マ、マジかよ!?」
「お、おじさま……!?」
ディーターの言葉を聞き、仲間達と共に驚いた。
「ハハ、例えばと言っただろう。伝説の刺客とやらの正体が私みたいな立場の人間だったらなかなか面白いとは思うが……さすがに現実はそこまで奇想天外ではないだろうしね。」
「は、はあ………」
「もう………驚かせないでください。」
「お茶目な方ですね………」
そしてディーターの言葉が冗談とわかると、ロイドは苦笑し、エリィとティオは呆れた。
「ハッハッハッ、これは失敬。しかし、考えてもみたまえ。もし、そのメールを送ったのがここのスタッフだった場合………自分が犯人だと名乗るのも等しい行為ではないかな?」
「あ………」
「……確かにそうですね。」
ディーターに問いかけられたエリィは声をだし、セティは頷き
「逆にスタッフ以外の可能性を考えた方がいいってことか………」
ランディは目を細めて呟いた。
「………―――ティオ。あのメールが、IBCの端末から支援課に送られたという記録………それを偽装することは可能なのか?」
一方ロイドは考え込んだ後、振り向いてティオに尋ねた。
「そうですね………別の場所から、IBCの端末に”ハッキング”を仕掛けた可能性はゼロではないかもしれません。」
「”ハッキング”………?」
「なんだそりゃ………?」
「私も詳しくは知らないけど……たしか、端末を守っているセキュリティを解除することで不正に操作する技術だったかしら?」
ティオの言葉を聞いて首を傾げているロイド達にエリィは説明して、ティオに確認した。
「おおむね合っています。導力ネットワークで繋がっている端末同士であれば原理的にはどこからでも可能です。もっとも高度な知識と技術を持っている必要がありますが………」
「ちなみに、それを行う者を”ハッカー”と言うらしい。導力ネットは、大陸全土でもまだ限られた地域で試験的にしか運用されていないんだが………早くもそういう事例が報告されているらしいね。」
エリィに確認されたティオは頷いて説明し、ディーターが補足の話をした。
「なるほど………」
「ってことは………”銀”ってのは刺客だけじゃなく”ハッカー”でもあるってことか?」
「そこまでは断定できないけど………例のメールが、このビルの外部から送られた可能性はあるみたいね。」
「ふむ、信頼するスタッフを疑わずに済むのはいいんだが………メイン端末がハッキングされたというのもそれはそれで由々しき問題だ。………よし、こうしよう。君達が端末室に入れるよう手配しようじゃないか。」
「え………」
「い、いいんですか?」
自分達の会話を聞いて考え込んだ後提案したディーターの話を聞いたロイドは驚き、エリィは戸惑った様子で尋ねた。
「ああ、メイン端末を調べればハッキングの痕跡などが残っているかもしれないし…………スタッフも詰めているから話を聞くこともできるだろう。」
「………助かります。」
「おじさま………どうもありがとうございます。」
「いや、こちらにとっても見過ごせない問題だからね。ふふ―――しかしエリィ。なかなか充実した日々を過ごしているようじゃないか?」
「え………」
唐突に自分の話をディーターにふられたエリィは呆け
「最初、君が警察に入ったと聞いて少々疑問に思ったものだが………なるほど確かに良い経験が出来そうな職場だ。私も改めて、応援させてもらうよ。」
「おじさま………そう言って頂けるととても助かります。」
ディーターの言葉を聞き、口元に笑みを浮かべて会釈した。
「ふふ、それに君達も………雑誌で読んだ以上に可能性を感じさせてくれるね。」
「え………」
そしてディーターの言葉にロイドが呆けたその時、ディーターは席を立って、ロイド達に背を向けてガラス張りの窓に近づいた。
「……気づいているだろうがこのクロスベルという自治州は非常に難しい場所だ。おそらくエリィなどはそれを痛感していると思うが………一番、問題だと思われるのは”正義”というものが完全に形骸化してしまっていることだ。」
「”正義”の形骸化………」
「それは………どういう意味でしょう?」
「”正義”は、ともすれば”奇麗事”と同じ意味と捉えられる場合も多いだろう。在り方も人それぞれ………だから正義などは存在しないと嘯く者もいるかもしれない。だが、どんな形であれ………結局のところ、人は正義を求めてしまう生き物なのだよ。」
「え……」
「人が正義を求める生き物………?」
ディーターの話を聞いたロイドとティオは呆けた。するとディーターはロイド達に振り向いて答えた。
「なぜなら”正義”というものは人が社会を信頼する”根拠”だからだ。もし、犯罪が起こった時にそれを法によって裁くという”正義”が存在しなければ………多くの者は家に閉じこもり、滅多に街に出る事はないだろう。そうなったら社会生活はまともに成り立たなくなってしまう。だが――――このクロスベルでは”正義”の形が曖昧でも何とか成り立ってしまっている。」
「!!」
「……それは………」
「政治の腐敗や、マフィアの問題………それを警察が取り締まらなくても経済的に恵まれているから多くの市民は生活に困らない。結果的に、単純犯罪は少ないが目に見えない悪が蔓延っていく………だが、そんな中でもやはり人は”正義”というものをどこかに求めざるを得ない。どんな形であれ、社会を信頼できる安心感を欲してしまうからだ。―――だからクロスベルではここまで遊撃士の人気が高いのだよ。」
「あ………」
「『民間人の安全を最優先で守る』………確かに”正義の味方”って感じですよね。」
「なるほどねぇ………他の国に比べて、妙に遊撃士が持ち上げられるとは思ったが。」
「………とても納得がいきます。」
「……犯罪者に傷けられる民にとって助けてくれる遊撃士はまさに”正義”そのものと言ってもおかしくないですものね………」
ディーターの説明を聞いたロイド達はそれぞれ納得した様子で頷いた。
「だが、知っての通り、遊撃士協会が行使できる正義はあくまで限定的なものだ。この街の歪みを根本的に解決することは不可能だろう。だからこそ私は―――君達に期待したいのだよ。」
「えっ………!?」
「遊撃士の代わりに悪を倒せってこと~?」
そしてディーターに見つめられたロイドは驚き、シャマーラは尋ねた。
「はは、そんな単純なことを言うつもりは毛頭ないよ。君達が、君達なりに”正義”を追求している姿………それが目に見える形で市民に示される事が重要だと思うのだ。」
「あ………」
「クロスベルにもまだ”正義”が存在している………そう信じられるきっかけを市民に与えるという事ですね。」
「その通りだ。ふふ、その意味ではあのクロスベルタイムズの記事も非常に有意義だと言えるだろう。まだまだ未熟な警察の若者が時に失敗しながらも”正義”を求めて奮闘する姿………面白がる者もいるだろうが否定的な市民は少ないはずだ。温度差の違いはあっても………皆、君達に期待しているのだよ。」
「……………………………」
ディーターに微笑まれたロイド達はそれぞれ黙って考え込んだ。
「ふふ、どうやら興にのって一席ぶってしまったようだな。―――本題に戻ろう。端末室への立入りを君達に許可する話だったね。」
「あ………はい、そうして頂ければ。」
「どちらに行けば許可がいただけるのでしょうか?」
「ふむ、そうだな………私も端末室には入れるから案内してもよかったんだが………あいにくこの後、色々予定が立て込んでいてね。」
「すみません。本当にお忙しいところを………」
「なに、気にしないでくれ。しかしそうだな………ならばスタッフの誰かをここに呼ぶとしようか。」
申し訳なさそうな表情をで謝罪するエリィに微笑んだディーターが答えたその時
「―――その必要はありませんわ。」
女性の声が聞こえた後、一人のスーツ姿の女性が部屋に入って来た………
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