英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第48話
装甲車が駐車されている場所まで戻り、装甲車に仲間達と共に乗り込もうとしたロイドだったが、フランから通信が入り、マインツの町長がクロスベル市で出たまま帰って来ない鉱員がいるので、その事に関する相談をしたいという依頼を聞いて、依頼を受ける事にし、仲間達やノエルに事情を話して装甲車でマインツに向かい、町長の家に向かって入った。
~鉱山町マインツ~
「―――失礼します。特務支援課の者ですが。」
「おお、待っておったよ。わざわざ来てくれてすまない。本来ならこちらから出向こうと思ったんだが………」
「いえ、近くで他の仕事があったついでですから。それで………早速話を伺ってもいいですか?」
「ああ、座ってくれたまえ。」
「すぐにお茶でも淹れますね。」
その後ロイド達は町長と夫人に進められて椅子に座って事情を聞いた。
「―――なるほど。では、そのガンツさんと言う鉱員が2週間前にクロスベル市に行ったきり帰って来ないと………?」
「ああ、そうなんだ。とにかく大のギャンブル好きでね。それまでにも週末のたびにクロスベルの歓楽街にあるカジノに遊びに行っていたようだが………それが何の連絡もなく、2週間も帰って来なくて………」
「何かあったんじゃないかとみんなで心配しているんですよ。」
「確かに………それは心配ですね。」
「何かの事件に巻き込まれたか、それとも帰れない事情があるのか………」
「うーん、街の外に出て魔獣に襲われたとかじゃなければいいんですけど………」
町長達の話を聞いたエリィは頷き、ティオとノエルは考え込んでいた。
「―――そういや、その鉱員がギャンブルで大勝ちした可能性はあるんじゃねえか?それで今頃、ミシェラムあたりで女連れで豪遊してるとか。」
一方ある事を思いついたランディは口元に笑みを浮かべて言い、それを聞いたロイド達は脱力した。
「いや………ランディじゃないんだから。」
「でも、可能性としてはあり得るかもしれませんね。」
「まあ、その可能性は低いと思うけどねぇ。ギャンブルで大勝ちできるくらいなら、真面目に働かないでしょうし。」
そしてロイドが呆れた表情で突っ込み、ティオはランディの言葉が一理ある事を答え、それを聞いたレンは苦笑していた。
「う、うーん……ガンツには悪いがそちらのお嬢さんの言う通りその可能性は無いと思うんだがねぇ………」
一方町長は考え込んだ後、苦笑しながらランディの可能性はありえない事を答えた。
「それはまた、どうして?」
「ギャンブル好きだけど根は真面目な人なんですか?」
「ハハ、お世辞にも真面目とは言いがたいが………ギャンブルについてはとにかく下手の横好きでね。おまけにツキもカンも無いから毎回、有り金のほとんどをスッて帰ってくるくらいなんだ。」
「な、なるほど………」
「確かに宝クジなら大穴もあるがギャンブルだと実力もないと大儲けは難しいかもな。」
町長の説明を聞いたロイドは苦笑し、ランディは納得した様子で頷き
「では、街で借金をしてそれが返せずに失踪とか………」
「そ、そうね……可能性としてはあり得るかも。」
「ギャンブル好きの人が破滅する時に一番よく聞くパターンだし、町長さんの話から推測するとその可能性の方が高いと思うわよ。」
「……実は私達の方もそのあたりを疑っていてね。もしそうだった場合、どう連絡を取ればいいのか……」
ジト目で呟いたティオの推測にエリィは疲れた表情で頷き、レンは呆れた表情でティオの推測を補足し、3人の言葉に頷いた町長は心配そうな表情で考え込んでいた。
「―――わかりました。この件はお任せください。とりあえず、カジノを始め、ガンツさんの寄りそうな場所を聞き込みしてみましょう。」
「ありがたい………どうかよろしくお願いする。何かわかったら私の家に通信で連絡してもらえるかね?」
「ええ、それでは番号を控えさせていただければ……」
その後町長の家の通信番号を控えたロイドは仲間達と共に町長の家を退出した。
「もう夕方か……そろそろクロスベル市に戻った方がよさそうだな。」
「そうね……今日中に聞き込みくらいはしておきたいところだし。ノエルさん、お願いできる?」
「ええ、お安い御用です。それでは車両の所に戻りましょう。」
その後装甲車が駐車されている場所に向かったロイド達は装甲車に乗り込んで、ノエルの運転によってクロスベル市の中央広場まで送ってもらった。
~夕方・中央広場~
「―――今日は本当にありがとうございました!ご恩は近い内に必ず返させていただきます!」
「はは、大げさだなぁ。」
「ま、なかなか興味深い体験をさせてもらったぜ。」
「あの遺跡―――”僧院”についてだけど……一応、クロスベル大聖堂に相談してみた方がいいかもしれないわね。」
「……そうですね。アーティファクト絡みであれば他にどうしようもありませんし。」
「まあ、普通に考えたらその筋の”専門家”に聞くべきでしょうね。」
「なるほど……わかりました、副指令と相談してそのあたりの対応は考えてみます。皆さんの方は……これから街で聞き込みですか?」
エリィの提案にそれぞれ同意したティオとレンの話を聞いたノエルは頷いた後ある事に気付いて尋ねた。
「ああ、少なくともカジノは訪ねてみるつもりだ。もし、警備隊の方でそれらしい情報があったらこっちに連絡してくれないか?」
「わかりました。鉱山町のガンツさんですね。それでは失礼します。皆さん、お疲れ様でした!」
「おお、そっちこそお疲れ。」
「わざわざ市内まで送ってくれて、ありがとう、ノエルお姉さん。」
そしてノエルは装甲車に乗り込んで運転を始め、どこかに去って行った。
「さてと………それじゃあ時間もないし、このままカジノに行ってみるか。」
「ええ、そのガンツさんっていう鉱員の情報を集めないとね。」
「そんじゃあとっとと歓楽街の方に行こうぜ。」
その後ロイド達は歓楽街にあるカジノに向かい、カジノの中にある酒場のマスターでもあるカジノのオーナーを訪ねた
~歓楽街・カジノ~
「おや、これは皆さん。ランディと一緒に遊びに来られたんですか?」
「いえ、実は………」
「ちょいとオーナーに聞きたい事があるんだけどよ。」
ロイド達は行方不明になっているガンツ鉱員について訪ねてみた。
「行方不明?ハハ、そんな馬鹿な。今日だってウチに遊びに来て荒稼ぎして行かれましたが………」
「ほ、本当ですか?」
「しかも荒稼ぎって………」
「あら、まさか”そっちの可能性”が当たったなんて、レンも驚いたわ。」
ガンツの行方不明を笑い飛ばしたオーナーの話を聞いたロイドとエリィ、レンは驚き
「おいおい、オーナー。人違いじゃねえだろうな?俺達が捜してんのはマインツの鉱員をやってるツキもカンもねぇ野郎だぜ?」
ランディは目を細めて確認した。
「ああ、勿論その方のことさ。2週間前になるか………久々に顔を見せたかと思ったら別人のように強くなっててな。おかげでウチのディーラーは負け続き。50万ミラくらい持っていかれてるよ。」
「ご、50万ミラ!?」
「かなりの大金ですね………」
「今までギャンブル下手だったのにそんなに稼げるようになるなんて、一体どんなマジックを使ったのかしら?」
「おいおい、マジかよ………なんかイカサマをやってるとかそんなんじゃねえんだよな?」
オーナーの話を聞いたロイドとティオは驚き、レンは不思議そうな表情で首を傾げ、ランディは溜息を吐いた後真剣な表情で尋ねた。
「私達もプロだ。イカサマがあれば気付くさ。とにかく異常にカンが冴えてる上にあり得ないほどのツキの良さでな。一体、彼に何があったのかこちらも知りたいくらいなんだ。」
「むう………」
「町長さんから聞いた話と随分違っているみたいだけど………」
「あの、オーナー。ガンツさんは鉱山町にはずっと帰っていないそうですが………滞在場所はご存知ありませんか?」
「ああ、それなら。すぐ近くにあるホテルに毎日泊まっておられますよ。それも確か、最上階にあるデラックスルームだった筈です。」
オーナーの話を聞いたロイド達全員は表情を引き攣らせ
「あの高級ホテルのデラックスルームですか………」
「確か一人一泊2万ミラはする超高級客室よ。」
「おいおい………どんなお大尽だっつーの。」
ロイドは驚き、レンは自身が知る情報を口にし、ランディは呆れた表情で溜息を吐いた。
「でも、意外とすぐに消息が判明しましたね。」
「ええ……早速、訪ねてみましょう。」
その後ロイド達は捜し人―――ガンツが泊まっているホテルの部屋をノックした後部屋の中に入った。
~ホテル・ミレニアム~
「あ~、ランディさん?」
「あら、お久しぶりね。」
部屋の中にいるスーツを着た男の両脇にいる女性のホステスはランディに気付いて声をかけ
「はは、ご無沙汰してるぜ。」
声をかけられたランディは軽く手をあげて答えた。
「ああん、なんだオメーらは………?」
一方男は酔っぱらった様子でロイド達を見つめた。
「―――失礼します。クロスベル警察の者です。マインツのガンツさんですね?」
「ヒック、そうだが………オメーら、どこかで見た事があるような………?」
「え………」
男―――ガンツが呟いた言葉を聞いたロイドが驚いたその時
「………というか、この人。軍用犬騒ぎの時に襲われそうになっていた鉱員さんの片方では………?」
ガンツの顔を見て何かを思い出したティオはジト目でガンツを見つめながらロイド達に説明した。
「あ………!」
「あの時の………」
「ああ、レンが来る少し前辺りにロイドお兄さん達が関わった事件ね。」
「ハッ、そんな事もありやがったな。思い出したぜ………確かに警察のガキどもだったな。このオレ様に何の用だよ、ヒック?」
ティオの話を聞いてかつての出来事をロイド達がそれぞれ思い出している中ロイド達同様ロイド達の事を思い出したガンツは酔った様子でロイド達を見つめて尋ねた。
「その、実はマインツの町長さんに頼まれまして………あなたの行方を捜していたんです。」
「町長がオレのことを………?ヒック………いったい何の用だってんだ?」
「アンタ、こっちに来たまま2週間も連絡取ってねえんだろ?失踪したんじゃないかってえらく心配されてたぜ?」
「それで私達が捜索を引き受けたんです。」
ロイドの話を聞いて首を傾げているガンツにランディとエリィが説明した。
「ヒック、なるほどなぁ。よかったじゃねーか。ちゃんと見つかってよう。クク、とは言ってももうオレはマインツなんざ帰るつもりはねぇんだが………」
「そ、そうなんですか?」
「一体どうして………」
ガンツの話を聞いて驚いたロイドはティオと共に尋ねた。
「ガハハ、決まってんだろ!?オレは手に入れたんだ!天才的なギャンブルの腕をな!腕やカンだけじゃねえ!女神の幸運もオレ様のもんだ!誰があんな田舎町に戻ってセコイ穴掘りなんぞやるかっての!」
「そんな………」
「おいおい………」
「まあ、ギャンブルで楽に大儲けできたら、長時間仕事で拘束される上安月給のまともな職なんて続けないでしょうね。」
ガンツの説明を聞いたエリィは信じられない表情をし、ランディは目を細めてガンツを睨み、レンは呆れた表情で溜息を吐いた。
「その、いいんですか?みんな心配しているんですからせめて町長さんには連絡を………」
一方ロイドは溜息を吐いた後、真剣な表情で提案したが
「るせえ!オレに指図すんじゃねえ!クク、もう一儲けしたらミシェラムにでも行くか………おい女ども!週末あたりにテーマパークに連れて行ってやるぞ!宝石店とブティックで、何でも好きな物を買ってやる!」
ガンツはロイドを睨んで怒鳴った後ロイド達の存在を無視するかのように自分の両脇にいるホステス達に提案した。
「わ~、ホントですかァ!?」
「ふふっ………楽しみにさせてもらうわ。」
一方ガンツの提案を聞いたホステスたちは喜び、その様子にロイド達は表情を引き攣らせ、これ以上話をしても埒が明かないと判断したロイド達はガンツが泊まっている部屋を退出した。
「………駄目だな、あれは。完璧に舞い上がってやがるぜ。」
「典型的なギャンブルで成り上がった人達のパターンね。」
「ああ………」
「残念だけど、町長さんに状況を伝えるしかなさそうね。私達が説得するというのも筋違いでしょうし……」
「そうですね………本人の意志もありますし。」
「……………………」
「………ロイド?何か気になることでもあるの?」
黙って考え込んでいるロイドの様子に気付いたエリィはロイドに視線を向けて尋ねた。
「いや………ちょっとね。元々、ツキもカンもない、下手の横好きでしかなかった週末ギャンブラー………どうしてこんなに勝ち続けることが出来るようになったのかと思ってさ。」
「それは………」
「ふむ、確かに気になるな。つーか、是非ともコツを伝授してもらいたいくらいだぜ。」
ロイドの話を聞いたエリィは考え込み、ランディは頷いた後溜息を吐いた。
「ランディさんもギャンブルはそこそこ強いと聞いていますけど………」
「調子がいい時はな。だが、2週間連続で勝ち続けて50万ミラ稼ぐなんてのは無理だ。ま、ジャックみたいな凄腕の賭博師ならあり得るかもしれんが。」
「あれは小説の話でしょう………」
ランディの推測を聞いたエリィが呆れたその時、ホステス達がガンツの宿泊している部屋から出て来た。
「あら………」
「なんだ、まだいたんだァ?」
「おいおい、ご挨拶だな。そうだ2人とも……少し話を聞かせてくれねぇか?あのガンツって兄さんについてなんだが………」
「ふふ、別にいいわよ。」
「なになに?ひょっとして犯罪がらみぃ?」
ランディの質問を聞いたホステス達は微笑んだり、興味深そうな表情になった。
「いや、そうじゃねえが………あの兄さん、いつもあんな調子なのかよ?いくら酒が入ってるからってあまりに横柄すぎやしねぇか?」
「うーん、そうね……確かに最初の頃は、あそこまで威張り散らしたりはしていなかったけど………」
「そのうちどんどん、エラソーになってったかなァ。ま、ウチらは客商売だからあんまり気にはしてないけどー。」
「ふむ、そうか………」
「あの態度は、酒が入っているからだけじゃ無いってことか………」
ホステス達の話を聞いたランディとロイドは考え込んだ。
「それにしても彼、ホント凄いのよね。まるで伏せられたカードが見えているみたいにカンが冴えてるんだもの。」
「うんうん!ルーレットなんて数字をピタリと当てちゃうしィ!ディーラーの人達の考えも見抜いちゃってるみたいだもん!」
「それは凄いですね………」
「は~、そこまで行くとカンと言うより超能力だな。」
「クッ、なんでその力が俺に目覚めないんだっつーの!」
「………………………」
(まさか………)
ホステスのガンツについての詳細な説明を聞いたエリィは驚き、ロイドは溜息を吐き、ランディは悔しそうな表情をし、ティオは黙り込み、レンは厳しい表情で考え込んでいた。
「えっと、ガンツさんについては知っているのはその位だけど………」
「そんなんでもいいワケ?」
「おお、サンクス。また暇な時にでも店に寄らせてもらうぜ。」
「ふふ………期待しないで待ってるわ。」
「それじゃ、まったねェ~。」
そしてホステス達は去って行った。
「………とりあえず、町長さんに連絡を入れた方がいいんじゃないかしら?」
「ああ、そうだな………」
エリィの提案に頷いたロイドはエニグマに教えてもらっていた町長宅の番号にコールした。
「もしもし。こちらビクセンだが………」
「どうも、特務支援課のロイド・バニングスです。」
「おお、君か。ひょっとして何か情報でもあったのかね?」
「いえ、それが………」
ロイドは町長に一通りの事情を説明した。
「なんと………そんな事になっていたのか。まさかあのガンツがギャンブルで大勝ちをして高級ホテルに泊まっているとは………」
「さすがに連れ戻す説得までは出来なかったんですが………一応、報告だけでもと思いまして。」
「いやいや、それで十分だ。そういう事であれば明日にでも私が街に出て彼と直接話をしてみるつもりだ。ありがとう、本当に助かったよ。」
「いえ、お気になさらずに。また何かあったら遠慮なくこちらに連絡してきてください。出来る限りのお手伝いをさせてもらいますから。」
「ありがとう………その時はよろしく頼むよ。」
そしてロイドは通信を止めた。
「町長さんはなんて?」
「ああ、さすがに驚いたみたいだった。明日、クロスベル市に来て直接話してみるってさ。」
「ま、身内が話すのが一番いいかもしれねぇな。」
「そうね。そういう事に関する説得は第三者であるレン達がするより、身内がするべきでしょうし。」
「…………………………」
「………ティオ?さっきから静かだけど何か気になる事でもあるのか?」
「いえ………ただ、今日は色々あったので疲れてしまったみたいで………」
「そうか……遺跡の調査もあったしな。」
「もう日も暮れているし、そろそろ支援課に帰りましょう。キーアちゃんも待っている事だし。」
「ふふ、そうですね………キーアの笑顔が見られれば疲れも吹き飛びそうな気がします。」
「はは、大げさだな。ま、気持ちはわかるけどさ。」
「うふふ、キーアの笑顔はどんな疲労回復の料理や栄養ドリンクよりも効果抜群だものね♪」
「やれやれ、揃いも揃って親バカというか何というか………そんじゃ、とっととキー坊の顔を見に帰るとすっか!」
その後ロイド達は支援課のビルに戻って行った―――――
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