もてないのがいい
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6部分:第六章
第六章
それでだ。こう彼に言うのだった。
「とにかく今はね」
「仕事頑張ろうな」
「そうしよう。今は」
未来も言わなかった。そうしてだった。
文化祭は全て終わりだ。最後の最後のキャンプファイアーの時になった。その時にだ。
達央は一人だった。自分のクラスで一人休んでいた。それを見てだ。
彼のクラスだけでなく未来のクラスの男連中がだ。わらわらと集ってきてそのうえで彼にだ。こう言ってきたのである。
「ちょっと来てくれるか?」
「いいか?こっちにな」
「来てくれるか?」
「おい、何だよ急に」
連れ出される感じだったのでだ。彼は彼等に問うた。
「何処に連れて行くんだよ」
「安心しろ、北朝鮮でも上九一色村じゃないからな」
「どっちでもないからな」
「おい、両方共生きて帰られない場所だろうが」
達央はその二つの場所については速攻で突っ込み返すことができた。
「というか最初の場所は何なんだよ、一体」
「だからそうした場所じゃないって言ってるだろ」
「俺達別に北朝鮮の工作員じゃないからな」
「ごく普通の学生だからな」
「当たり前だ。何処のテロリストだ」
達央はまた突っ込み返す。
「とにかく何処だ。何処に連れて行くんだよ」
「いいからこっち来い」
「わかったな」
「だから何なんだよ」
ぼやきながら彼等について行く達央だった。そうしてだった。
彼はそこに来た。そこはというと。
学校のグラウンドだった。そこにだ。
キャンプファイアーがある。見事に燃え盛っている。それを見てだ。
達央は周囲にだ。目を顰めさせて問い返した。
「まさかと思うけれどな」
「やっとわかったかこいつ」
「普通すぐにわかるがな」
「ったくよ、実は鈍感だったんだな」
「ベタな奴だなおい」
周囲はそんな彼に呆れた。実は彼は鈍感だったのだ。
その鈍感な彼を何はともあれ強制連行してきた。そしてだ。
その前にはだ。彼女がいた。
未来は二人のクラスの女の子達に囲まれている。そしてだった。
「ほら、前に出ればいいから」
「あとはもう自然にいくからね」
「頑張りなさいよ、いいわね」
「変に騒ぐ馬鹿いたらこっちで排除するから」
物騒な言葉も出ている。そうしてだ。
未来は彼女達に背中を押された。同時に達央もだ。
それを受けてだ。二人は向かい合った。そしてだ。
達央からだ。戸惑いながら言った。
「キャンプファイアーで。相手は」
「いないわ」
「俺もだよ。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「踊ろうか。二人で」
こうだ。達央から何とか言ったのだった。
「そうしていいかな」
「ええ。是非共」
未来もだ。微笑んで応えたのだった。
「そうしてくれると嬉しいわ」
「それじゃあね。今からな」
「踊ろう。音楽がはじまったら」
こうしてだった。二人はようやく一緒になった。そのダンスの後でだ。
未来はだ。こう周囲に漏らしたのだった。
「ずっと。はらはらしてたの」
「はらはら?」
「はらはらっていうと?」
「柴崎君に誰かが声をかけないかって」
漏らしたのはこの言葉だった。
「ずっと心配してたの」
「あれっ、未来もなの」
「そうだったの」
「だって。あの外見じゃない。書道部のホープだし」
「だからだっていうのね」
「彼に声をかける女の子がいるかどうかって思って」
「それでずっと怖かったのよ」
こう話していく。周りの女友達に対して。
「もてなかったらいいのにって。思ってたわよ」
「それなら早く告白すればよかったのに」
「自分から」
「できなくて。どうしても」
顔を真っ赤にさせて言う未来だった。
「それはどうしてもね」
「やれやれ。未来も未来で」
「そんなこと考えてたのね」
「柴崎君と同じく」
「けれどよかったわ」
真っ赤にさせた顔を。ほっとさせて。
そしてだった。今度はこう言う未来だった。
「これで柴崎君と一緒にね」
「いられるのよ。おめでとう」
「何はともあれね」
「そうなのよね。夢みたいよ」
未来も未来で言うのだった。
「柴崎君とキャンプファイアーで一緒にいられる様になって」
「後は二人で頑張りなさい」
「いいわね」
「ええ。頑張るわ」
心からの笑顔で言った。達央も未来もだった。
二人共同じことを考え同じ心配をしていたのだった。こんな両思いもあるのだった。
もてないのがいい 完
2011・12・4
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