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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第44話(インターミッション終了)

~ウルスラ病院~



「まったくもう、ロイドってばゼンゼンわかってないんだから。………キオクだってべつになくってもヘイキなのに………どうしてみんなそんなに気にするのかなー?」

一方ヨアヒムの部屋を出て、さらに病院を出たキーアは敷地内で頬を膨らませて呟いた後、首を傾げ

「あれれ………ここ、どこだろう?」

自分が敷地内を歩いている事に気付いて周囲を見回して首を傾げていた。

「???んー………キーア、まいごになっちゃった?あ………」

首を傾げて呟いたキーアは池の傍の手すりにいるある人物を見つけて声をあげた。

「………ふふ、いい風………お父さん………今日はいつ来るのかなぁ。」

ある人物―――事故で盲目になったアリオスの娘であるシズク・マクレインは肌に感じる風を感じた後、嬉しそうな表情で独り言を呟いていた。

「ねーねー!」

するとその時キーアがシズクに声をかけて、シズクに近づいた。

「あなたは………」

「ねー、なにが見えるの!?ひょっとしておサカナでも泳いでる!?」

「ふふっ。わたしには見えないけどちゃんと泳いでると思うよ?ときどきパシャって跳ねる音がするから………」

「あ、ほんとだ!いっぱいいるみたい!うーん、キーアもツリってしてみたいなー。」

シズクの話を聞いたキーアは池の手すりに近づいて、池を見つめて嬉しそうな表情をした。



「ふふっ………キーアちゃんていうんだ?わたしはシズク。シズク・マクレインっていうの。」

「シズク、シズク……うん、いい名前だね!」

「ふふっ、ありがとう。キーアちゃんも素敵な名前だと思うよ。ここにはお見舞いに来たの?」

「あ、ううん。キーアのキオクをみてもらいにきたんだけど………」

「きおく………?」

キーアの話を聞いたシズクは不思議そうな表情をした。

「あのメガネのセンセイがロイドたちと離れろとかいうからキーア、にげてきちゃった。ふふん。せんりゃくてきてったいってやつ?」

「逃げて来ちゃったって………(あれ、ロイドたちってもしかして………)」

「ねえねえ、シズク。なんでさっきからずっと目をつぶってるのー?」

「あ、うん………わたし、目が見えなくてそれで入院してるから………」

「ふーん、そうなんだ。キーアもキオクがないしおあいこかもしれないねー。」

「あ……記憶………そっか、そうなんだ………なんにも覚えてないの?お父さんとか、お母さんとか。」

キーアの話を聞いたシズクは悲しそうな雰囲気を纏って尋ねた。

「………うん、そーみたい。でも、ロイドたちがいるからゼンゼンさみしくないよ!」

「ふふ、そっか………わたしもお母さんはいなくなっちゃったけど………お父さんがいるし、病院のみんなも優しいから寂しくはないかな………?」

その後キーアとシズクは仲良く会話を始めた。2人の会話は弾み、時間がどんどんと過ぎて行き、いつの間にか夕方になっていて、2人が会話しているとキーアを探していたロイドとレンがキーアを見つけた。



「いた………!」

「あら、キーアと一緒にいるあの娘は……」

キーアの姿を確認したロイドは明るい表情をし、キーアの傍にいるシズクに気づいたレンは目を丸くした。

「それでね、それでね!ツァイトっていう犬がとってもおーきいんだよ!なんかえらそーだけど、もふもふってしててねー。背中をかいてやるときもちよさそーにしてるの。」

「ふふっ、そうなんだ。大きな犬さん……ふわふわなんだろうなぁ。」

「シズクもたまにマチに来るんだよねー?その時にいっしょにツァイトとあそぼーよ!?」

「あはは………うん。お父さんに頼んでみようかな?あ、エステルさんたちも頼んだら付き合ってくれるかも………」

「あ、エステルってゆーげきしのおねえちゃん?シズクもしってるんだ?」

「ふふ、たまに街に出た時、買物とかに付き合ってくれるの。お父さん、いつも忙しいから………」

ロイドたちがキーアの姿を確認するとキーアとシズクは仲良く会話をしていた。

「はは………シズクちゃんと一緒だったか。」

「うふふ、年齢も同じくらいだから仲良くなったのじゃないかしら。」

「フ………子供は馴染むのが早いな。」

二人の様子を微笑ましそうに見守っているとアリオスがロイドとレンに近づいてきた。



「ア、アリオスさん………!?」

「もしかしてシズクのお見舞いかしら?」

「ああ。………ところで――――あの娘が例の………?」

「ああ、ミシェルさんたちから話を聞いたんですね。ええ………キーアっていいます。」

「そうか……………………」

ロイドの話を聞いたアリオスは返事をした後、じっとキーアを見つめていた。

「えっと………キーアがどうかしましたか?」

「もしかして心当たりがあるのかしら?」

アリオスの様子が気になったロイドは不思議そうな表情で訊ね、レンは首を傾げて訊ねた。

「いや………不思議な娘だと思ってな。娘は―――シズクは行儀が良くて人当たりはいいがどうも遠慮しがちな所がある。それで、同年代の子供ともあまり馴染まなかったんだが………」

「ああ、なるほど。………なんだかすごく楽しそうにしていますね。」

そしてアリオスの話を聞いたロイドは納得した後、微笑ましそうにキーアとシズクの様子を見つめていた。



「そうだな………………あの娘にどのような背景があるかはわからない。だが、関わったからには最後まで責任を持つ事だ。そして………大事に慈しんでやるといい。」

「あ……はい、そのつもりです。」

「……お父さん?」

「ああっ………ロイドとレン!?」

ロイドたちがアリオスと会話をしているとシズクとキーアがロイド達に気付いて驚いた。

「気付かれちゃったか………」

「………ふむ。」

二人に気づかれたロイド達はアリオスと共に2人に近づいた。



「お父さん、お帰りなさい。お仕事、大変だった?」

「いや………今回はそうでもなかったな。ただいま、シズク。」

シズクに尋ねられたアリオスは静かな笑みを浮かべてシズクを見つめた。

「このひと、シズクのおとうさん?すっごく背が高いねー。それになんかつよそー!」

「えへへ………そう?ロイドさんたちも………こんにちは、おひさしぶりです。」

キーアの父に対する印象を聞いたシズクは嬉しそうな表情をした後、ロイド達がいる方向に向けて挨拶をした。

「ああ、お久しぶり。」

「ふふっ、キーアと仲良くしてくれたみたいね。」

「あ、いえ、わたしの方こそ仲良くしてもらっちゃって。」

「……ところでロイド。キーア、ぜったいにここに泊まらないんだからね!?」

レンの話にシズクが恐縮した様子で答えるとキーアはロイドを真剣な表情で睨んで答えた。



「ああ、それはもうわかったよ。あ、でも………ここに泊まればシズクちゃんと一緒にいられるかもしれないぞ?仲良くなったみたいじゃないか。」

「ホントー!?あ、でも………やっぱりロイドたちと離れるのは………」

「もう、ロイドさん……イジワル言っちゃ駄目です。キーアちゃん、困ってますよ。」

「はは、そうだな。ゴメン、キーア。今日はそろそろ帰ろうか。」

シズクに言われたロイドは苦笑した後、キーアに視線を向けて帰りを促した。

「えー、でもシズクともうちょっと話したいなー。」

「また、遊びに来ればいいのじゃないかしら?もしくはシズクに街に来てもらうか。」

「んー、そっか。」

「フフ………その時はどうかよろしく頼む。―――シズク、抱き上げるぞ。」

「あ、うん………!」

娘と仲良くなったキーアに静かな笑みを向けたアリオスはシズクを抱き上げた。



「アリオスさんは今日はこちらの方に?」

「ああ、一泊するつもりだ。―――キーア。今後もシズクと仲良くしてくれ。」

「うんっ!シズク、またねー!」

「うん………!キーアちゃんもまたね!」

そしてシズクを抱き上げたアリオスは去って行った。

「さてと………俺達もそろそろ帰るか。」

「そうね……いつの間にか夕方になっているし。」

「そーいえば………わぁ、お空がマッカだねー!キーア、お腹が空いちゃった!今日のバンゴハンはなにかなー?」

「はは………ほんと、キーアは元気だな。それじゃ、セシル姉に挨拶して帰りのバスに乗ろうか。」

「うんっ!」

その後セシルに挨拶したロイド達はバスに乗ってクロスベル市に戻って行った。



~夜・ルバーチェ商会~



「まったく、何たる失態だッ!たかが警察ごときに手打ちを申し入れる羽目になるとは………!ええい………お前達が不甲斐ないせいでッ!」

その夜マルコーニ会長はガルシア達を睨んで”黒の競売会(シュバルツオークション)”での失態を怒鳴っていた。

「………言葉もありません。」

「で、ですが例の人形は会長が御自ら手に入れて………」

「そ、それに……謎のメイド達や若頭の古巣であるあの”西風の旅団”の連隊長が警察のガキ共の味方をしてしまった為、あの時奴等を逃がしてしまったのは仕方がない事かと……」

ガルシアは反論することなく重々しい様子を纏わせて頭を下げたが、マフィア達は言い訳をしてマルコーニ会長の怒りを少しでも収めようとした。

「なにぃ………?」

しかしマフィア達の発言は逆に火に油を注ぎ、マルコーニ会長はマフィア達を睨んだ。

「………黙ってろ。いずれにせよ侵入者を許し、警察のガキ共にあんな戦力が隠されている訳がないとタカをくくっていて油断した俺達の責任だ。」

「は、はい………」

そしてガルシアに制止されたマフィア達は頭を垂れた。



「フン………あれ以来、ハルトマン議長もこちらとの連絡を避けておるし………”黒月”どもの攻勢も本格化しそうだというではないか!ええい………このままでは………ッ!」

「会長、ご安心を。いまだクロスベルにおける我々の優位は揺るぎありません。ここで連中の攻勢を何とか凌げば議長も………」

現在の状況に焦っているマルコーニ会長をガルシアは諌めようとしたが

「ええい、凌げる保証がどこにあるというのだ!?いまだ”銀”とやらの首一つ取る事ができない上、幾ら戦闘技術を習得していたとしてもメイド達如きに翻弄された挙句”猟兵”が二人加勢しただけで警察のガキ共を逃がしてしまったお前達が!?」

「それは………」

マルコーニ会長に怒鳴られ、言葉を無くした。



「クッ、議長の支援もしばらくはアテにできん………ええい、どうすれば………」

そしてマルコーニ会長は少しの間考え込み、ある事を思いついた。

「こうなったら手段は選ばん………決めた―――奥の手を使うとしよう。」

「奥の手………!?」

「ま、まさか………」

「会長、それは……!」

マルコーニ会長が何をしようと考えているのか察したマフィア達やガルシアは驚いてマルコーニ会長を見つめ

「クク……何を驚いている?こういう時のための保険を使うというだけの話だ。」

見つめられたマルコーニ会長は勝ち誇った笑みを浮かべて答えた。

「で、ですが………あれはリスクが高すぎます!警察はともかく、ギルドに嗅ぎ付けられる危険も……!」

一方ガルシアは血相を変えて忠告したが

「クク、その前にとっとと”黒月”を叩き潰せばよい。前に用意した流通網もせっかくだから試すとしよう。クロスベルの裏社会の覇権――――断じて余所者(よそもの)などに渡すものか!」

マルコーニ会長はガルシアの忠告を一蹴し、不敵な笑みを浮かべて叫んだ。



この事が後に自らの首を締める事になるとは気付かず、”ルバーチェ商会”は行動を始めた―――――


 
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