逆襲のアムロ
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34話 狂宴 3.10
前書き
ゆっくり書いていました。
読み返してみても展開が色々と大変です。
何とか簡易に伝えられるよう努めました。
宜しくどうぞ。
* ダカール市郊外最終防衛ライン 3.10
エゥーゴ、ティターンズは元より連邦軍である。故に政治機能として連邦首都たるダカールへ攻撃が加えられれば出動し迎撃任務に当たるのは筋であった。
エゥーゴのジムⅢ、ティターンズのバーサム共に四方から迫り来る反政府部隊を相手にしていた。
この度の議会は特別なもので、元より武力抵抗していた組織はエゥーゴのみならず存在していた。
今の政府に訴えるにデモ活動や政府へ直接的なな陳情などしていったが、ティターンズにより弾圧され市民は武器を手に取り始めた。それが今の状況であった。
エゥーゴ、カラバは代表とするティターンズの対抗組織であったが、それ程名も知られないティターンズへ対抗する小規模の組織は少なくなく存在していた。
彼らが何故目立たず行動し今日まで戦力を保持できたもの偏にエゥーゴやカラバという組織の3次、4次団体として一員であったからだった。
ティターンズは連邦組織の中で一枚岩ではないのと同様に、エゥーゴにしても下部組織までは監視管理下には置ききれていない。むしろ置く気がない。彼らの自主性を重んじては有志を募っただけであった。
その為の悲劇としてこのダカール市防衛戦であった。エゥーゴの部隊はそもそも連邦軍の一部でもある。下部組織は民間組織で軍との繋がりは元々無い。そんな彼らの行動の自主性が今回の議会開催報道による脅迫観念によりエキサイティングな結果を生んだ。様々な混成団体がこの日の為にまとめてやって来た。
ラー・アイム隊もダカールの防衛に回り、ティターンズも地球防衛司令ベン・ウッダー少将の指揮の下、ダカールへ接近する反ティターンズ組織を撃退していた。
ラー・アイムの艦長席でシナプスはうなだれていた。
「・・・何故、味方、有志を攻撃せねばならぬのか」
傍で聞いていたルセットがため息を付いてシナプスのぼやきへの回答を表情ない声で述べた。その隣でカミーユも表情険しく腕を組んで人差し指を動かしていた。
「明らかにエゥーゴの組織の欠点が露出した形です。彼らの攻撃は支持するエゥーゴへの反応、ティターンズへの現政府への実力行使の陳情です。それを軍である、政府を防衛する立場であるエゥーゴは守らないといけません」
「そんなことは百も承知だ!だがこのジレンマを解消できない我々は一体何なんだ!」
操舵手のパザロフは瞑想にふけ、オペレーターのシモンも他のスタッフも節目がちでうなだれていた。
そんな中前線のパイロットたちから悲鳴が上がる。
「艦長~。味方を攻撃しない訳にはいかないから、動力を失わせて凌いでいますが・・・」
キースが艦橋のモニターのワイプで出現し発言したのち、今度はコウがワイプで現れた。
「隣りではティターンズが容赦なく撃墜しております。彼らの戦力は旧式です。こんな戦いは無意味です」
艦橋に居たカミーユがそんな2人を叱咤した。
「コウ、キース両中尉!今できる最善を尽くすのだ。数多くの味方を降伏させて投降させる。現状では直ぐには命は取るまい。議会開催中だからだ。風向きが変われば彼らの生き残る術が見えてくる。ともかく走れ!お前らのZⅡならばそれができるはずだ」
コウとキースはカミーユの苛立ちに身の毛が弥立ち「はっ!」と了承し通信を切った。
カミーユは両手を腰に当ててはため息を付いていた。
「はあ・・・北からのダカールへの進軍はアムロ中佐がそのように市防衛ラインを敷いて、自ら単機での制圧に乗り出しているのに、こちらは上手く行きません」
カミーユがシナプスに向けて愚痴をこぼした。北の防衛ラインに実質的な指揮官として上位であるアムロが出向いて指揮系統を握っていた。カミーユらラー・アイム隊の防衛するのはダカール市上空に在って北と制空権以外の防衛は全てティターンズのベン・ウッダーが握っていた。
ウッダー曰く、「誘引される市民レベルの反乱因子を一挙駆逐できる絶好の機会だ。エゥーゴの奴らには空と一か所をくれてやれば面目が立つだろう。奴らは駆逐したくないだろうがそうともいくまい。奴らのストレスを思えば我々の溜飲も下がるってものだ」
そんな意見をティターンズ内で持ちきり、エゥーゴを嘲笑していた。シナプスらもそれを知っていて、尚更不快極まりないと全クルーが苦虫を潰した様な気持ち悪さを感じながら仕事に務めていた。
* 防衛ライン北側
アムロがデルタプラスにて次々と旧式のモビルスーツらを戦闘不能にしていった。彼らは命がけでダカールを落とそうと躍起になっていた。中には自爆しようと試みる機体もあった。アムロはデルタプラスのバイオセンサーを活用して戦場のあらゆる感情を汲み取っては危険性の順位を選別し、戦っていた。
アムロはジムのジェネレーターの燃料パックのホースをメスの様にデルタプラスのサーベルを出力最小にして切り取って動けなくしていた。その左面よりまた新たな敵襲の信号をキャッチしていた。
「まるで湧いて出てくる源泉のようだ。そこまで不満が蓄積されている話なのだが、ここにきて最高潮か」
アムロは残りの燃料ゲージを見た。ここまで新型旧式混成の敵20機程のモビルスーツを無力化していった。かなりの省エネとデルタプラスの燃費の良さも有り、まだ4分の3もあった。
「まだやれるな。索敵反応から言ってもあと80機は優にあるな」
そのモニターを眺めていたアムロが点滅の急激な増加に目を見張った。
「なんだ・・・50・・・いや150はあるぞ。これは一体・・・」
50個の点滅の接近速度と違い100個はその倍以上で防衛ラインへ近づいてきているのがモニターで確認した。アムロは目視で地平を確認したが、その100体以上のモビルスーツは確認できなかった。
「ならば・・・」
アムロは視線を上空へと向けた。すると無数の飛行物体がこちらに接近していた。
デルタプラスの広角カメラでほとんどの機体を判別できていた。フライマンタやコアファイター、ブースター、ドップなど旧兵器混合した飛行戦隊が近づいていた。
「チィ・・・これはマズい・・・」
不殺で行動していたアムロにとっては手の内様がない攻撃方法だった。
何しろ目標が小さすぎる。しかも飛んでいる。アレらを無力化するとなると撃墜しかない。
撃ち落としたり、破損させても墜落死。
アムロは震えていた。何もできない自分に。
「・・・頼む。いいからやめてくれ!下がれ!こんなことしてもどうにもならないだろ!」
この魂の叫びをオープンチャンネルな回線で上空のゲリラ部隊に呼びかけた。
すると一機から返答があった。その回答者にアムロが愕然とした。
「アムロ中佐だったか。何度か戦場なエゥーゴ内であったな」
「ダグラス大将!」
「何故とは聞かないでくれ。彼らの想いを、こんな無謀な行為をオレが全て背負い込んで今作戦に当てた」
「・・・貴方は良識人だと思っておりました。しかしこんなのはナンセンスだ」
「そうだ無意味だ。しかし彼らの想いを誰かが束ねては世に訴えかけなければならない。その人柱になる者はオレの様な求心力がある者ではならない。世界が悲鳴を上げているのだ。ティターンズの宇宙弾圧、地上での焦土作戦。最早組織抵抗に一刻の猶予もない。瓦解寸前なのだ」
アムロはモニターワイプ越しに映るダグラスの無念さ、悲痛さを感じ取っていた。彼は確かに求心力がある。彼以外に組織抵抗を試みようとしてもダカールはビクともしないだろう。それを彼は買って出て、彼らの意思を無為にならないよう出来る限りのことを努めたのだと思った。
アムロの索敵モニターにアンノウンという表示が出た。それは自分の上空より接近してたモビルスーツだということが確認できた。それがダグラスの搭乗機だということも。
「アムロ君、君がオレの餞になってくれることを祈るよ。もし君がここでやられるようならばダカールを火の海になるだろう。それ程の戦術的作戦は構築済みだ」
デルタプラスとおよそ数10メートルほどの距離にダグラスの機体が着陸した。
見た目はジェガンだが物凄く巨体で塗装が全て黒。そして足元はホバーリングできる換装。バックパックには羽の様なスラスターが付いていた。手にはビームサーベルを改良した死神の鎌の様なものを持っていた。
アムロは機体バランスやそんな装備を見て、センスの悪さを思った。
「この機体には名前などない。ただ連邦に裁きを下す為だけに見ず知らずの彼らが取って付けただけのものだ。均衡も何もない。すぐ壊れてしまうかもしれない。それに乗ってオレはお前と戦う」
アムロはダグラスを倒さない限り上空の敵らを攻撃できない事を悟った。地上の敵ならば無力化できるということにアムロは安堵した。しかしそれは根本的な解決にはなってはいない。ダグラスはそんなエゥーゴの弱点を知って作戦を練ってきていた。
「オレたちに友軍の攻撃を躊躇わせることを知っての戦術か。貴方は・・・全く性格が悪い!」
「褒め言葉と受け取っておこう。行くぞ!」
ダグラスの機体はスラスターを全開にして一歩目を踏み出した。するとバランスを崩し転倒しようとした。そこからアムロが思いがけない軌道を描いてアムロへ迫ってきた。
「なっ!」
アムロはデルタプラスに回避行動を取らせたが、ダグラスの死神の鎌はデルタプラスの左腕を捥ぎ取っていた。ダグラスの不安定なバランスと不安定なスラスターは前進する上でまるでスクリューのような軌道でブレながら且つ尋常じゃない速度でデルタプラスへ突進していった。
アムロは上空へと逃げ飛んだ。ダグラスの機体はバランスが取れない為、着地点で転がっていた。しかし、直ぐ態勢を立て直し、直ぐ態勢を崩してアムロへ襲い掛かった。
アムロはビームライフルで応戦をしたが、意思を汲み取ろうが彼の機体バランスの悪さに照準を定めても当たらない。
「ええい!機体バランスの悪さがこうも正確さを覆すとは」
今までのアムロの戦い方は完全省エネな的確な射撃、切り込みだった。ダグラスの機体はまた大きくブレながら予測できない軌道で且つ何故かアムロに目がけて突進してきていた。ダグラスは咆哮しながら鎌をデルタプラスに目がけ切り込んでいた。
「この機体の皆の想いをお前は受けきれるかアムロ!」
アムロは物凄いプレッシャーで一瞬金縛りにあった。
「バカな!動けない・・・」
アムロはバイオセンサーの解放レベルを上げることにした。胃にむかつきがきたが、金縛りを解くことができた。アムロは後方に飛びのき、地上へ着地した。空振ったダグラスは思いっきり態勢を崩し、地表へ墜落に近い着地をした。最初の登場の着地は奇跡だったのかとアムロは思った。
「(ダグラスの機体にも何かサイコミュが施されていると見えるが・・・)」
ダグラスの機体がゆっくり立ち上がると機体が緑白く発光を始めた。
「なっ!サイコフレームの共振。これは一体・・・」
アムロはたじろいだ。その圧力に。その圧力の根底にある意思の力はこの戦場でダカールを攻める反政府組織らの想いだった。
「・・・この力は世界の悲鳴。オレがこれを打つ破らねばならないのか」
アムロは自己嫌悪に陥っていた。ここで防衛に回るため攻撃することはエゥーゴに属してしてきたことを覆すことになる。説得は最早無理難題だとも理解している。ここで止めることは殲滅するしかない。無視することはダカールが、民間人に犠牲が出る。中には投票もおぼつかない程の貧困層もここには暮らしている。その人たちをオレらは救おうと頑張っていたのではないのかと彼らに訴えたかった。
「・・・ダグラス大将。このダカールに住む民間人、貧困層を考えて見た事はないのか?」
アムロはダグラスに問いかけた。するとダグラスは厳しい顔をして回答した。
「大義の前の小事だ。皆それを理解してこのような行動を取っている」
アムロの中で何か糸が切れた。アムロは雄たけびを上げた。デルタプラスの周囲が真っ赤な闘気に包まれた。ダグラスはそれを見て額から汗が滴り落ちた。
「フッ・・・、君の感情がきっと正しいのだろうよ。それでも!」
ダグラスは機体を持ちうるサイコミュシステムを最大出力にし、そのサイコフィールドが周辺の地面を圧力で押しつぶしていた。ダグラスの機体はその地面から浮遊していた。サイコフィールドによって宙に浮くような感じで。
防衛ラインから、または上空のゲリラ部隊のパイロットたちも地上の異様さを確認できていた。
デルタプラスの周囲の赤いオーラとダグラスの機体の緑白いオーラ。その2つの光が互いに交えようとしていた。
「何なんだ。一体・・・どこのSFの話なんだ」
フライマンタのパイロットがその様子を口にしていた。その瞬間、目の前を対空砲が掠めていった。
ヒヤリとし、目前の作戦を遂行することに改めて集中した。
ダグラスはサイコフィールドにより包まれた形でアムロに目がけて突撃を掛けてきた。
今度はフィールドに守られて機体が安定していた。アムロはふと思った。何故ニュータイプでないダグラスがこれほどまでのサイコフィールドを引き出しているのか。最近では通常の者でも活用可能なサイコフレームの開発が進み、サイコフィールドの制御が微弱ながらも常人にもできるようにはなっているが、これが明らかに異常だった。
そんなことは考えてもしようがない。目前に迫る危機をアムロは対処せねばならなかった。
アムロのバイオセンサーによるサイコフィールドとダグラスのサイコフィールドがぶち当たり、辺りに衝撃波が起こった。その波は防衛ラインの味方、ゲリラ部隊の地上、上空も巻き込んだ。特に上空のフライマンタやコアファイター、ブースターらが起こり得ない気流に対処できず何十機か上空へ跳ね飛ばされ、何十機かは墜落した。地上の部隊はその波が物凄い濃度の電磁波を起こし、旧型機は機能不全、新型を使っている防衛部隊は部分的に故障等実害が出ていた。
アムロとダグラスはそれぞれのサイコフィールド場に溶け込み中和し、各々の肉弾戦闘となっていた。
デルタプラスの残った右腕をダグラスの機体の鎌を持つ左腕を掴んだ。その動きが迅速過ぎた故にダグラスは動きが遅れた。ダグラスは右腕をデルタプラスが掴んだ右腕を掴みねじ切ろうとした。アムロはその動きから右足のバーニアを全開にし、ダグラスが掴みかかった右腕を縦に蹴り上げ、腕の関節もろとも破壊した。
「なんと!」
ダグラスはアムロの動きに感嘆を漏らした。ダグラスは後方へ下がろうと試みたが、アムロの掴んだ腕がそれを阻む。ダグラスは胸部のバルカンをアムロに喰らわした為、アムロは腕を放し離れた。ダグラスは勝機と見て、鎌を手首でまるで扇風機の様に回し始めアムロへ詰め寄った。
「(あの鎌、邪魔だな。どうするか・・・)」
既にビームライフルを棄てていたアムロはビームサーベルを出していた。アムロは鎌の向きとは逆に回り込むように動いた。ダグラスはそれを追うように旋回していた。一向にアムロはダグラスへ攻撃を仕掛けなかった。ダグラスもアムロの動きを追うために旋回を努めていた。
「アムロ・・・どこから仕掛けてくるか・・・」
ダグラスがそう呟いた。ダグラスの機体のバランス問題はこのサイコフィールド場において解消されていた。アムロは動きながらもダグラスの機体を観察していた。
「全くバランスを崩さない。この場のせいか。ならば少し無茶をしてみるか」
アムロは渦の様にダグラスへ急接近してみた。ダグラスに緊張が走る。ダグラスは扇風機鎌をアムロに向けた。タイミングはドンピシャだった。向かってくればこのまま細切れになると思っていた。しかし、
「中心軸が見えた。ピンポイントで狙わせてもらう!」
アムロはまるでフェンシングの鋭い突き刺し様に扇風機鎌の中心軸へサーベルを突き立てた。ダグラスの機体の左手が粉砕した。持つ手の鎌も真左に吹っ飛んでいった。
「ぐ・・・アムロ!」
ダグラスの機体はその衝撃で後方へ退き、アムロは更に詰め寄った。
「大将!これで終いだ!」
アムロはダグラス機の残った左腕と両足を完全切断し、両羽のスラスターも切り込み行動不能にした。
「・・・負けか・・・」
ダグラスは観念するとダグラスの起こしていたサイコフィールドが途端に消え去った。それに気付いたアムロもバイオセンサーのレベルを落とした。
「ふう・・・大将。貴方は軍法会議に掛けられるだろう。覚悟してください」
「無論、そのつもりだ」
「あと、彼らに撤退するように・・・」
ダグラスは目を閉じ、少し間を置いてからアムロへ回答した。
「それはできない。彼らは自由意思の下動いている」
アムロは激高した。
「バカな!無駄死にだと何故分からない」
「それを無駄だと思うアムロ君は世界の本当の怒りを知ることはできん」
アムロは声が詰まった。ダグラスは自身の席の左肘かけのところにアクリルのボタンカバーがあった。それをゆっくり開け、アムロへ告げた。
「さて、私の役目はここまでだ。現政権から我々をクーデターやテロとしか呼ばんだろう。この攻撃の最高責任者たる私はここで散るとしよう」
アムロはダグラスが自決すると考えた。アムロはそれを止めようとは考えなかった。彼に待ち構えているのは死刑確実な軍法会議。どのみち辿るならば彼の意思を尊重した。
アムロはやることがあった。デルタプラスをウェイブライダー形態になり、通過した航空部隊をダカールへの空爆を防ぐため追撃にその場より飛び立っていった。それをモニターで見送ったダグラスはボタンを押した。すると周囲が緑白く光り輝き始めた。ダグラスは動揺した。
「な・・・なんだ。自爆ボタンだと聞いていたのだが」
ダグラスの機体は巨体だったが、胸部がパラパラとメッキが剥がれ落ちる様に砕けて、1機のモビルスーツとなった。外見は同じ黒色だが、機体の顔に角が生えていた。ダグラスは呆然としていた。するとダグラスの乗るコックピット内に液体が流れ始めた。謎の水没だった。
「な・・・なんだと、ゴブッ・・・溺れ・・・ガバ・・・」
ダグラスは謎の液体を飲み込み、気を失った。その後ダグラスの眼が見開き、その目には怒りの炎が伴っていた。
「アア・・・ユルサナイ・・・レンポウ・・・」
残敵の掃討の為、北側の防衛ライン部隊はダグラスの機体が鎮座し佇んでいるのを確認した。
「いたぞ!残党だ」
周囲に30機程がダグラスを取り囲んだ。その部隊員の女性がダグラスの機体から緑白い輝きのモヤが見えた。
「ん・・・何か見えたが、これは一体・・・」
その瞬間その部隊員は絶対的な危機を感じた。
「みんな!急いで離れなさい!」
自分の周囲や後方にオーバーリアクションで危機を知らせた。その呼びかけに周囲の隊員達らは嘲笑した。隊長のハインツ・ベア少佐が心配そうに声を掛けた。
「気が狂ったかマッケンジー中尉。この戦力で起動すらしていないモビルスーツに何を恐れる」
そう話し掛けられたクリスティーナ・マッケンジー中尉は首を振り否定をした。根拠のない否定だった。
「いいえ、アレは恐れる必然があります。アレックスの起動実験でアムロ中佐へ引き渡す前に乗ったあの感覚がそれ以来残っていて、それがあの黒いモビルスーツに致命的な危機を知らせているんです。この倍以上の戦力でも太刀打ちできない!」
「アムロ中佐のねえ・・・。あの英雄の操縦技術は確かに卓越したものだがそんな摩訶不思議な事は中々信じ難いもんだがね」
ベア少佐はサイコフィールドを相手にした戦いを経験したことがなかった。クリスも同様だった。彼らは連邦首都防衛に赴任し栄誉職を満喫していた。各地のテロやゲリラの掃討戦にも度々駆り出されたりもしたが、そこにエースと呼ばれる者との戦いは皆無だった。彼も含み、彼らの自信は転戦した土地土地での必勝経験が多少にも自己過信に繋がっていた。故に目前の事についても何か事が起きねば予測することは現実視を優先していた。ベアはモニターでクリスが恐れる地に膝を付いた黒いモビルスーツを眺めた。ベアは自身の乗機ジムⅢの右手を挙げて、部下に指示を出した。
「このモビルスーツは鹵獲する」
部下のバーサム2機は指示に従い、黒いモビルスーツの両脇に移動し腕を抱え込もうとした時、その2機のモビルスーツがその黒いモビルスーツの両腕に一瞬で胸部を貫かれた。その2機のバーサムは胸部より爆発し互いに後方へ倒れた。
「なっ!」
ベアは驚愕した。黒いモビルスーツは立ち上がり、額にある角が2つに割けて連邦でおなじみの顔を見せた。
「ガ・・・ガンダム!」
ベアはたじろぎ、クリスは改めて全隊員に避難を勧告した。
「みんな見たでしょ!一瞬であの通りよ。撤退しましょ」
人は恐怖に晒され、武器を持った状態だとそれから逃れようとある一種の狂乱に陥る場合があった。
それがこの部隊では半数がその動きを見せた。黒いモビルスーツに向けて一斉掃射を行った。
「う・・・わああ!化け物めー!」
ビームやロケットの弾幕を黒いモビルスーツへ放ったが、黒いモビルスーツはそれを介さず、謎の緑白い光を周囲の部隊にも可視化できるぐらい強く放っていた。
「何なんだ!この光は」
ベアが唸った。クリスは唾を飲み込んだ。
「(このままでは・・・)」
クリスは目を凝らした。集中力を研ぎ澄まし、異様なモビルスーツの隙を伺っていた。
「アレは獣か何かだ。人の様に制御は無いように見える。きっと何か打開できる機会があるはず」
クリスがそう呟いた。黒いモビルスーツはその光を自身の両手を腹の前に翳しそこへ集中させた。
すると、周囲の場が黒いモビルスーツへ向けて強力な引力を引き起こした。部隊のモビルスーツらは踏ん張り堪えていたができないものはそれに引き寄せられては、その光の近場で様々な物と衝突し合い四散していった。ベアももれなく踏ん張っていた。その光景に空笑いをしていた。
「ハ・・ハハハ・・・何なんだ・・・」
クリスはずっと観察していた。そのモビルスーツはその引力を起こすことに夢中だと感じた。それは周囲だが、発生させた機体自身はその場にとどまっている。動かないことに疑問を持った。
「(あの引力に寄せられないとすれば、斥力があの機体から発せられている。ならば!)」
クリスのジムⅢはその引力に向かって積極的に前に出ていった。それを見たベアはクリスへやめるよう呼びかけた。
「マッケンジー中尉!やめろ!死ぬぞ!」
クリスは周囲から引っ張られている様々な障害物を八艘飛びの様に移ってはその速度を加速させていった。
「この引力が有り得ない速度を生む。それはこの引力から逃れる一つの手段にも・・・」
クリスは黒いモビルスーツの引力の離脱限界点を見極めて、最後の障害物で黒いモビルスーツの上空へ飛びのいだ。
「なる!覚悟しなさい謎のモビルスーツ」
クリスの計算通り、飛びのいだ黒いモビルスーツの後方は引力を感じられなかった。クリスはバーニアを全開にし、黒いモビルスーツの後方を蹴り込んだ。黒いモビルスーツは前のめりになり、その瞬間緑白い光が四散し消滅した。
「やった。サイコフィールドが引力1点に集中していたから何とかなった」
黒いモビルスーツは即座に立て直し攻撃を受けたクリスの方を向いた。クリスは片手にビームサーベルを構えたはずだった。
「何で両腕が何も反応しないの!」
クリスは困惑した。その答えはその奥にいたベアが無線越しに叫んでいた。
「マッケンジー中尉!一瞬で両腕が無くなったぞ!その場から離れろ!」
目の前の黒いモビルスーツはクリスのモニター越しでクリスのジムⅢの両腕を両手で握っていた。
「ま・・・まさかあの蹴り込みの時に・・・」
両腕を持っていかれた、とクリスが判断した時、黒いモビルスーツはクリスのコックピット目がけて左手で突き込みをした。その刹那、クリスは真横に何者かにより攫われる形で飛びのいでいた。
クリスは何が起きたか分からなかった。クリスはモニターで何に何をされたかを確認した。それはジェガンだった。
「大丈夫か。ジムのパイロット」
「あ、はい大丈夫です」
「オレはエゥーゴのネエル・アーガ隊のディック・アレン大尉だ。斥候でダカール入りする前の偵察で先発していた。貴官ら守備隊が何故この地まで?」
この会話中もアレンはジェガンのサイコミュの感覚で黒いモビルスーツが攻撃を仕掛けてきたことに感知していた為、クリスを抱えて回避行動を取って後退していた。それを確認したベアはクリスの忠告を鵜呑みにして部隊の後退を命じていた。
「こいつは改めて対峙する。今は撤退に努めよ!責任はオレが取る」
流石部隊長であった。狂騒に駆られていた部隊はその命令で現存している半数は正気を取り戻し後退し始めた。それでも黒いモビルスーツの暴走は続いては残りの半数はまるで百獣の王の狩られるが如くもて遊ばれてしまった。
アレンはクリスに機体の状態を聞いた。
「乗っているパイロット・・・」
「クリスティーナ・マッケンジー中尉です」
「ああ、マッケンジー中尉」
「クリスで構いません」
「ではクリス中尉、そのジムのバーニアは生きているか」
「問題ありません。腕の具合によりますが・・・」
アレンはモニターで捥がれたジムの両腕部分を確認した。
「大丈夫そうだ。誘爆の危険性は低いだろう。抱えながらではあの黒いのに追いつかれてしまう可能性がある。あれだけ動いていて奴が種切れになれば問題ないが、可能性がないわけではないからな」
アレンは望遠で離れたところ、つまり黒いモビルスーツが荒れ狂っているところを見ていた。その付近で幾度も花火が見て取れた。
「分かりました。エンジンを起動します」
クリスは部隊と分かれて、一路ネェル・アーガマへ向かって行った。
* 連邦議事堂内 第●会議室 予算委員会
コリニー派、それ以外の反対派閥、中立派閥と各会派の主張と論戦が大体落ち着きをもたらしていた。
この委員会の手法は昔のイギリスの国会に似た仕様だった。互いに論戦し合い、議論に議論を尽くす。
コリニー派はメディアの予想通り、内戦状態になりつつある事態の原因は連邦の施政にあることでそれを反省し、より緊縮統制を図り秩序を保つ。市民の安全と生命を守る上での政治指導を行っていく。勿論人権を守ることを念頭に。ブレックス、ガルマの派閥は市民の思想の自由は権利であると主張し、それを制御することが今の事態を招いている。連邦はより緩和政策を取り、仮に国として独立してもそれに干渉するのは制限すべき、思想の制御は一体何の目的かと質疑していた。
コリニーがそれについて回答した。
「・・・ガルマさんはジオン出身でいらっしゃる。経験はとても大切な事です。それを踏まえての答えであります。熱狂した市民はコロニー落としなど愚挙、暴挙を考える。これも連邦の失策に一つです。彼らの主張を当時真剣に議論していれば、彼らも殺人という行為踏むことはなかった。不幸に見舞われることはなかった。そう思うととても心が痛む・・・」
コリニーは目を閉じ、手を胸に当てていた。その行為にガルマは心の中で「偽善が」と罵っていた。
「故に手段として制限かけることが必要ならば已む得ない。それで市民の生活が守れるならば」
「いや、それは反対運動している市民の弾圧を続けるということを是とする答えだ。彼らも市民であり、その運動はあくまで政府批判に他ならない。それを統制するなど・・・」
「ガルマさん、現実を御覧なさい。エゥーゴ、カラバの様な反政府組織を謳った団体が現政体を批判するだけならまだしも実力行使で各地でまるで内戦状態に陥っている。地球のプラント事業もその余波を受けて従業員の生命にかかわる故政治決断で避難を余儀なくされた」
「それは!現政権の・・・」
ガルマが否定に食いつこうとしたところ、コリニーが手を挙げて制した。ブレックスはガルマの後ろで座っている。足と両腕を組んで。「役者が違う」とガルマとコリニーを比較していた。
「・・・我々の自衛部隊が各地の混乱を収拾するため出動していることは万人が知る所だ。しかしそれは<収拾>の為だ。戦争する為ではない。その中にはテロ行為に走るものもいる。そんなゲリラ部隊が各地ではびこっている。どんな批判も甘んじて受けよう。それが政治家というものだ。だがテロは許してはならない。それをガルマさんは容認なさると・・・」
ガルマは目の前の机に手を思いっきり叩き声を荒げた。
「バカな!テロは許すわけにはいかない。そこまで増長させた我々の原因を猛省するべきではないか!この時期にきてそんな宗教的な争いは皆無だ。現状のこの事態は彼らとの対話がしっかりできない与党の貴方達が・・・」
「バカという発言は良くないが、その通りだ。正に・・・。故に猛省し、彼らと対話とこちらとてしたいのだが・・・」
コリニーは自身の秘書に目配せて指示をだした。秘書は「こちらのモニターをご覧ください」と議員らに天井より出現した大型モニター紹介し、各自注目していた。そのモニターにはダカール郊外の戦闘映像が映し出されていた。
「とまあ、こんな具合だ。我々の責務でもあるが、彼らは我々の対話に対して銃火器をもって挑んできている。余地が果たしてあるのだろうか?」
コリニーは困った顔をしていた。各議員も動揺していた。ダカールが万が一火の海になったら、自分の生命の安全は保障されるのか。ガルマは口を噛みしめていた。ブレックスは沈黙し座していた。
ガルマの傍にイセリナが詰め寄っていた。耳打ちで話し掛けていた。
「(ガルマ、例の人体実験の件、入れますか?)」
「(イセリナ、唐突過ぎる。あれは証拠が十分とは言えない。差し込みどころを注意せねば・・・)」
その様子をコリニーが眺めては困惑した顔で議員らに話し掛けていた。
「それが、ここだけなら良いのですが・・・」
コリニーはモニターを別の映像に切り替えた。それは各サイドの望遠でみる宇宙だった。各サイド内で大小様々な光が見て取れた。
「どうやらこの攻撃に呼応した反政府抵抗団体が独自に暴発してはコロニーに被害が及んでいるようです」
ガルマは絶句した。何故そんなことが各サイドで起きているのか皆目見当が付かなかった。ブレックスはそれすらコリニーの仕掛けたものだと険しい顔をして悟った。
「(これは・・・勝てないかもしれん。コリニーはわざと自作自演でエゥーゴの自主性の盲点を突いた。3次、4次団体など我々は元々管理監督などしない。そこに草を忍ばせてはこの時の為に仕込んでいた)」
ガルマは何とか反論を試みた。
「それでも!何度も繰り返すが現状を憂い組織だった市民団体だ。彼らは貴方達の統制を恐れての行為だということを知ってもらいたい」
「参考意見として頂いておきましょう。さて最後の提案となりますが・・・」
コリ二ーは議長であるゴップにこの事案に関する解決案を文書で提出した。ゴップは受け取りそれを読んだ。コリニーは会議室の全ての議員らに事案を配ってはサラッと述べた。
「要点を話すとエゥーゴ、カラバと武装解除と組織の解散を提案するということだ。それでティターンズも解散させよう。これで痛み分けだ。連邦は再び世界の警察としてあるべき姿に戻る訳だ」
全然戻っていないとガルマは思った。この与党が牛耳る限りティターンズの解散など名ばかりで、連邦全体がティターンズのような組織になることに誰もが気付いていた。これでは地球と宇宙との関係の平等は図れず、地球優位に事が進む。ガルマは宇宙に住まうものも含めた人類の進化と生き方、平等を常に訴えていた。
コリニーの意見は至極真っ当な平和的意見だった。だが皆知っている。でも反論できない。ここで反論することは内戦の様相を是認したいという意思の表れ。
コリニーはニッコリと微笑んだ。
「皆さん、同意見のご様子で。我々は過ちを犯し過ぎて今日のような事態を招いてしまった。重ねて申し上げるが、是正すべきことはしなければならない」
すると一人の壮年に差し掛かろうとする議員が手を挙げた。ゴップはそのものの発言を認めた。
「バウアー君。どうぞ」
「有難うございます議長」
バウアーは着席していた所より立ち上がり一つ咳ばらいをしてもうひとつ現実的な話をし始めた。
「コリニー議員。確かに基本は皆血を流すことは嫌うのはスタンスとしてある。だが実は株価含め、今日の動乱にしてもかなりの高水位であることを皆承知しているはずだ」
半数の議員たちは頷いていた。それは中立、ティターンズ、エゥーゴ全ての派閥の議員に見て取れた。戦争特需についてだった。それを見てガルマは「大体が俗物か・・・」と内心ぼやいた。
「政治にはお金が掛かる。私は敢えてきれいごとは申しません。私自身も選挙区に様々な恩恵をもたらしている。先立つものは大事だからだ。飢えては幸せなど謳うに無茶がある。現にプラント事業の撤収が目の前の問題になっている」
コリニーは頷いていた。バウアーはエゥーゴ派閥だがコリニーは彼を含めた経済活動を重視するものの存在は軽視はしていない。
「コリニー議員の申し出が全て受け入れられることは理想だが、難しい場合は少なくともプラント事業の即時再開に目を向けてもらいたい。法律的にそこを非武装地帯とする。勿論守らぬものは制裁を与えることを明記する。これを皆に決議を求めたい」
コリニーは表情を変えないが、バウアーの意見、法制定の要求に舌打ちをしていた。これもコリニーは計算されていたことなので、それよりもより性急さを求めたものにする段取りをコロニーの反政府活動団体の仕掛け以外にも施していた。しかしそれは余りに悪辣だった。
コリニーは秘書を通じて地球軌道艦隊へ連絡を取るよう促した。
「(ジャミトフに例のを・・・)」
「(了解致しました)」
* 地球軌道艦隊 旗艦ドゴス・ギア艦橋
ジャミトフはバスクよりコリニーからの伝達を受けた。
「・・・了解した。左翼艦隊司令のジャマイカンにつなげ」
バスクはオペレーターに命じ数刻でメインモニターにジャマイカンが映像に映った。
ジャマイカンは最敬礼をし上官へ指示を仰いだ。
「閣下、ご指示でしょうか?」
「そうだ。お前の艦隊は連邦の寄せ集めだ。お前が先陣を切ってエゥーゴに当たれ。奴らは正規軍とは戦い難いだろう」
ジャミトフの言わんとすることはジャマイカンにも理解した。
「彼らはティターンズと戦いたいでしょうからな」
バスクがジャマイカンの意見に叱責した。
「余計な事は口にするでない」
「は・・はっ!」
ジャマイカンは血相を変えて、ジャミトフは連絡回線を切った。
ジャマイカンは不興を買ってしまったかと懸念だけ駆られ、これを払拭するには大勝するしかないと決意を固めた。
ジャミトフは艦長席に座して、ジャマイカン艦隊が一路エゥーゴの方へ向けて動く様子が艦内から見て取れた。バスクはそれを見て笑みを浮かべていた。
「ジャマイカンには色々世話になりましたな」
その科白にジャミトフはバスクを叱責した。
「バスクよ・・・、ジャマイカンはこの戦の終局に向けて先陣を切るのだ。本来はこの栄誉、お前が担ってもおかしくはない」
バスクもジャマイカンと同じく血相を変えて謝罪した。
「た、大変ご無礼を・・・」
「ならばジャマイカンの雄姿を見届けようか・・・」
ジャミトフとバスクはジャマイカンが自身の艦隊の前に出ていくところを見ていた。
* エゥーゴ・ネオジオン混成艦隊 ラー・カイラム艦橋
艦橋は近づいてくるジャマイカン艦隊を捕捉していた。最も真正面であるため且つアレだけの艦隊が動くので分からない方が理解できない。
既に第一種戦闘態勢を整え、艦橋クルーは戦闘ブリッジへ移行していた。
「艦砲一斉射の後、モビルスーツ隊出るぞ。第1中隊は準備できてるか?」
ブライトが声を高く上げると、トーレスが第1中隊長へつないだ。
ワイプモニターにケーラ・スゥ中尉が映った。
「このリ・ガズィで中佐が来るまで穴埋めしますよ。第2中隊のスレッガー少佐まで出番は無いように綺麗に掃除してあげますから」
するともうひとつのワイプにスレッガーが映った。
「おいおい、そんな自信どこから生まれてくるんだ。お前さんは少し前まで宇宙で迷子で泣いていたじゃないか」
スレッガーが嘲笑うとケーラが顔を真っ赤にして声を挙げた。
「ちょ・・ちょっと少佐!そんな昔話やめてください!」
さらにワイプが増える。今度はアストナージだった。
「へえ~、ケーラ。そんなことがあったんだ。少佐後で教えてくださいな」
「ば、バカやろー。アストナージ!てめえ許さねえぞ!」
そんな痴話喧嘩を聞いていた戦闘ブリッジのブライトはプルプルと震えていた。
「貴様らー!後で再教育してやるから覚悟しておけ!」
その怒号に3人とも即退散という形で同時に通信を切った。
そのやり取りに副官のメランがため息を付いていた。
「准将・・・お察し致します」
「言うなメラン・・・」
その時前方から恐ろしい多くの光が発せられた。その光はブライトらは良く知っていた光。忌々しいものだった。
「ここに来て・・・なんだとー!」
ブライトは絶叫していた。
* 地球 ダカール 連邦議事堂内 予算委員会
コリニーはバウアーの意見に賛同する声をあげた。
「確かに・・・、与党としても経済活動は注視せねばならない。このような内戦状態が軍事産業にプラスに働いていることは否めない。そしてプラント事業の撤退も安全を考えてとしてだが、それによる数々の産業も休業になっているものもかなりの数がある。大事なのは市民の命だ。人あってこその産業だということを私は明言しておきたい」
バウアーは眉をピクリとさせた。
「平和思想、立派ですな。ならば我々の応援してもらっている市民をいち早く救う手筈を政府主導で取るべきではないか?派閥でのイザコザで市民の明日の食事を困らせては本末転倒というものだ」
「ほう、バウアーさんは私の手法に反対すると」
「途中の過程でな。プラント事業は首尾よく守るだけで良かった。それはできたはず。なのに撤収したということは解せない」
バウアーの言論にプラント事業撤収に反対している全派閥の中の議員たちが賛同の声を挙げた。
ガルマは感心していた。このような攻め方があるとはと。ブレックスもバウアーの様に政治の中で生きてきた損得勘定で動く者は現状の派閥争いで思想の相違とは無縁な為、彼らが難点だと思っている。
コリニーは秘書のもたらされて情報に険しい表情をしていた。ガルマは何か起きたのかとその表情を見て、ブレックスの顔も見た。ブレックスはセイラと打ち合わせをしていた。それを眺めていると辺りが騒然としてきた。遅ればせながらイセリナがガルマの下へ寄ってきた。
「(ガルマ、地球軌道艦隊が三分の一消滅した。核爆発でよ)」
「(なに!誰が・・・)」
「(・・・発表によると、エゥーゴの傘下の部隊がそこに紛れていてテロを起こしたと)」
「(・・・証拠は?)」
「(ないけど、現状がダカールが攻められていて、宇宙でエゥーゴ、ネオジオンの混成艦隊と連邦、ティターンズの混成艦隊が交戦可能距離で睨み合っている。これが議員たちにとってどう働くか・・・)」
ガルマはもたらされた情報に唸っていた。ブレックスは沈黙。バウアーは愕然と、コリニーは汗を拭いていた。
その中でゴップは平然と周囲を見回していた。
「(おやおや、皆動揺しているのう・・・。コリニーは役者だ。彼自身の起こした行為を有り得ないと演技している)」
コリニーは困り果てた顔でバウアーに話し掛けた。
「・・・はあ、バウアーさん。どうやら相手は核武装もしているみたいだ。これを危機と見ないでいかがとします?事は重大です。ここにいるか知りませんが核を提供したスポンサーがどこかにいて、それと繋がっている者がこの中に居るかもしれません」
コリニーの話にほとんどの議員が顔を見合わせた。ゴップがコリニーの話に乗る恰好で入って来た。
「コリニー議員の提案の採択に入りたいと思う。ここまで来ると事は急を要すだろう」
ゴップの話にコリニーは力強く頷いた。ゴップはそこでコリニーに別の話を持ち掛けた。
「それに加えて、連邦憲章・・・つまり憲法についても少々議論してから採決に臨みたい」
コリニーはゴップの意見を謎に思った。何故今更連邦憲章なのかと。
「議長・・・余りに唐突過ぎて」
「実はな政府調査委による調べで現行の法律の礎となる憲章がレプリカだということは皆の知る所である」
コリニーは頷いた。
「ええ、ラプラス事件で消失したからです」
「実は消失していなかったとしたら・・・」
すると一人の議員が立ち上がってゴップに発言した。ローナン・マーセナス議員だった。
「聞き捨てなりませんな議長!どういうことですか!」
ゴップは手を挙げてローナンを制した。
「慌てなさんなローナン君」
ローナンは我に返り、静かに席に着いた。ゴップは続けた。
「証拠は・・・これから見せる石碑だ」
するとゴップは合図をし、多くの自前の使用人に大きなカートに乗せた石碑を持ってこさせた。コリニーは一体どのようにしてこんな大それたものを持ち込めたのか疑問に思った。まずコリニーが気付かない訳ない。そう考えているなとゴップが思い、その疑問に察したかのように回答した。
「私の彫像を注文したんだ。そしたら調べで私の彫像の下に何かが隠されていると知った。砕いてみたらコレだ。とても有名な代物だから専門家に調べてもらった。そしたらおよそ90年前くらいの石だと言う話だ」
これもまた手の込んだ作り話だとコリニーは思った。しかし重要なのはそこではないこれが本物だということだ。ゴップの調べはまず間違えは無い。
ローナンは席でワナワナ震えていた。このままでは連邦の威信が無くなってしまう。その恐怖に。
「因みに君の先祖のリカルド・マーセナスの指紋も出ている」
つまり真物だということだとローナンは悟った。ローナンは恐る恐る遠目で条文を上から下を見た。するとやはりあるはずがない最後の条文があった。ゴップは話続けた。
「さて、最後の条文は・・・皆が目にしたことないものだ。えーと・・・」
第15条
一,地球圏外の生物学的な緊急事態に備え,地球連邦は研究と準備を拡充するものとする。
二,将来,宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合,その者たちを優先的に政府運営に参画させることとする。
予算委員会内は沈黙した。ゴップはさらに話続ける。
「第7条の 地球連邦は,大きな期待と希望を込めて,人類の未来のため,以下の項目を準備することとする から言えば、この第15条は宇宙で活動している者達を認めるようにと連邦の在り方としてコリニー君が提案した連邦の統制は反するものだと私は思う」
コリニーは沈黙していた。余り動揺がない様子。ゴップはそれを見てコリニーもこの真物のことを知っていたと思った。どのようなルートかは知らない。まあ与太話や都市伝説の類かもしれない。取りあえずカマを掛けてみた。
「コリニー君は知っていたようで」
「・・・ご冗談を・・・」
コリニーは一つ間を置いて否定したが、その瞬間ガルマはハッと連鎖的にあることが1つに繋がった。
そして推論を述べようと手を挙げた。
「議長!発言よろしいでしょうか?」
「どうぞガルマ君」
「有難うございます。コリニー議員、政府主導である実験が行われていました。それは製薬関連ですが、人の健康についてあらゆる可能性を追い求めていくこと。それを保健省が行っていたことは事実です」
コリニーは頷いた。
「ええ、健康管理監督するのも市民を守る上での一環ですから」
「それは宇宙に住まうものも含めますよね」
「当然です。既に人類は宇宙まで住まいを広げているからね」
「有難うございます。つまり冗談ではなかったということです」
ガルマの決めつけた答えにコリニーは席について一息ついた。
「聞きましょう」
「はい、人類は新たな環境に適応するに研究しては感受性の強い進化した人類が出てきました。ニュータイプと呼ばれるものたちです」
「そんなものを信じるに無理があろう。人は人だ。スーパーマンにはなれん」
「しかしサイコフレームというものが軍事産業で出回っております。科学的にも解析が継続して行われております。アレには人の感応波を汲み取る作用があると」
「・・・」
「貴方は知っていた。有用性も。各地にあった研究所はそれを研究する施設もあった」
「・・・」
「その目的は何だと思います?」
「仮定の話か。証拠にならんな。仮に敢えて言うならば、ニュータイプが存在するとすればそれを活用している者達に対抗するためかな」
「・・・貴方は全てについて保険を掛ける癖がある。これも保険だったとは私たちは大いなる思い違いだった」
「大いなる思い違い?」
コリニーの疑問にガルマは頷いた。
「単に戦力の為だと思っていた。エゥーゴはニュータイプと呼ばれるようなエースパイロットが多く参加している。それに対抗するために」
「・・・」
「だが、議長の予想通り貴方が知っていたとすれば地球至上を望む貴方はそんなニュータイプをなるべく駆逐したい。しかし人口は増える。その中にニュータイプが全く生まれないと保証はない。ならば戦争で減らしては且つ可能な限り実験にてそんな危険分子を管理下におけるような方法を探す。研究所はニュータイプを管理統制下に置けるかどうかの実験場だった。なぜそうするか?それはこの条文を知っていたという仮定がなければ成り立たない。コリニー議員はニュータイプ思想が地球至上思想を脅かす敵として見ている。そして恐れている」
ローナン議員は拳をぎゅっと握りしめていた。コリニーの考えはマーセナス家の呪いに類似していたからだった。
「・・・ガルマさん、それで終わりかな?」
「ニュータイプを支配するために非人道的行為を行われていた事実を分かるだけでもこちらの資料によって説明致します。イセリナ例のものを・・・」
ここでガルマは極東での実験地ムラサメ研究所の実態と被検体のシロー・アマダについて全議員に配った。皆顔を顰めた。
「これは酷い・・・」
各議員内で声が上がる。コリニーは目を通すが秘書にそれを渡した。
「で、終わりかね?」
ガルマは強気に声を荒げた。
「これは貴方がたの研究の成果だ!証拠は設置された登記場所!こんな施設一朝一夕でできる代物でない。きちんと計画されてできたものだ!警備会社やティターンズが保護施設として認定もされている。貴方がたの責任は免れない!」
ブレックスは内心で「詰めが甘い」と思った。コリニーは困惑した顔で答えた。
「ふーむ。人聞き悪いな。エゥーゴの急進派がそんな惨業をしたとも考えられんか?」
「なっ!エゥーゴが踏み入れたのはその時が初めてだ!こんなに廃棄場の死体をなんとする!」
「エゥーゴが用意したのではないのかな?ティターンズが用意した、研究所のものとも何の関係する証拠がない。ただの誹謗中傷にしか思えない」
「しらを切るつもりか!状況証拠で研究所放棄まであの死体らをみる機会がない!死亡推定時刻も研究所がまだ機能していた時の話だ!」
「そんな死体らを政府が何故不利になるように、貶める形で残しておく。私ならば隠すね。まず非人道的なことをして私に何のメリットがある?保険を掛けるならばあらゆるデメリットを排除しますね」
ガルマがグッと声が詰まった。ダメだ勝てないと思った。ブレックスはセイラに耳である知らせを聞いて立ち上がりガルマの肩に手をのせた。
「ガルマ君、これまでだ。採決は欠席しよう」
「ブレックス議員!ここまできて・・・」
「いいんだ。頑張った。あとは本会議にでの決議に臨もう」
そう言ってガルマは目いっぱいの我慢に努め深呼吸をして、ゴップに告げた。
「はぁー・・・議長、発言終わります」
そう言ってガルマとブレックスは部屋を出ていった。コリニーは着席しゆっくりと目を閉じた。
エゥーゴ派閥を粉砕して仕事を終えたがゴップのニュータイプ思想肯定な憲章発言のタイミングについて考えていた。
「(終わったか。しかしゴップの憲章発言の始末はどうするべきか・・・)」
コリニーそう思いふけっていると、エゥーゴ派閥の議員はぞろぞろと採決欠席のため部屋を後にしていった。ゴップは退出する議員たちを眺めている最中ハッとし、若干冷や汗をかいていた。
「(まさか・・・あやつが・・・)」
* 議事堂内 通路
ブレックスは早歩きだった。ガルマがそれを追うように掛けていった。
「ブレックスさん、何故部屋を出たのですか?」
早歩きながらガルマを見てはまた前を向いた。
「何故ってここが戦場になるからだ」
ガルマは驚いた。ブレックスは話を続けた。
「セイラ、イセリナ両名がカミーユと連絡を取り合っていた。カミーユが捕捉していた大型機がダカールを襲来する。もうすぐコリニーは自ら撒いた種に悩まされる。因果応報ってことだ」
ガルマは複雑な顔をした。イセリナも知っている?しかし・・・
「私が知らないとはどういうことですか?」
「君は実直過ぎる。搦め手というものを君は快く思わんだろうからな」
ガルマは話の流れからカミーユが敢えて危険をダカールに持ち込んだことについて言及した。
「つまりカミーユは知って見逃していたんですか!」
「厳密にはカミーユ単機で何とかできる代物でなかったと言う方が正確だ」
「何故コリニーが・・・」
「因果応報か?その大型機こそがムラサメ研究所からの代物だからだ。ラー・アイムに搭乗しているユウ・カジマから調べが付いている」
そう話しをしていると既に議事堂の外に出ていた。既にセイラ、イセリナ両名がハイヤーを手配していた。
「議員、こちらへ・・・」
2人は車に乗り込みセイラたちも同乗し議事堂から離れていった。
* ダカール市郊外 北側上空
アムロのデルタプラスは通過していった反政府組織の航空機部隊を追撃していた。
「みんな、やめてくれ!お前たちがやろうとしていることはただの市民の虐殺だぞ!」
アムロの叫びと苦悩は即座に終わる。ダカールの堅固な防空機能により、一機たりとも街に到達するような航空機はいなかった。
「アムロ中佐。ゲリラ上空部隊は全て一掃されました。ご安心を」
対地防衛部隊より無線で連絡が入った。アムロは無力感に晒されていた。自分の無力さを知っていたがその仕打ちとしては酷な話だった。
「・・・ばかやろうたちが・・・」
その悔やみも束の間、今度は一瞬にて対地防衛システムが火の海と化した。アムロは目の前で原因を見た。一筋の閃光だった。
アムロは索敵モニターを見た。すると東の方から大型機の反応が見て取れた。
カミーユが言っていた機体がいよいよ到着したのかと思うと戦慄した。
「アレを落とさなければ・・・」
ダカールが火の海と化す。アムロは覚悟を決めてその大型機にデルタプラスを向かわせた。
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