英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第35話
~港湾区~
「……お前達は阿呆か。何のつもりかは知らんがノコノコと乗り込んで……挙句の果てにあんな場所で悠長に相談事をするとはな。」
「す、すみません………」
「……確かに少々、配慮が足りませんでした。」
立ち止まり、振り返ったダドリーに注意されたロイドとエリィは謝罪した。
「フン……まあいい。―――で?」
「で……とは?」
「アルカンシェルがどうとか口走っていただろう。それと、お前達が”黒月”と”ラギール商会”を訪れたことに何の関係があるか……洗いざらい話せと言っている。」
「なっ………!?」
「おいおい……いきなり何言ってんだ?」
「唐突に現れたわりには図々しい要求ですね………」
そしてダドリーに言われたロイドは驚き、ランディは目を細め、ティオはジト目で言った。
「フン………図々しいのはどちらだ。我々一課は、一月以上前から”黒月”と”ラギール商会”をマークしている……いきなり何の断りもなく割って入ったのはお前達だぞ。」
「そ、そうなんですか……?」
「もしかして………一課の方でも”銀”を?」
「フン……その名前を知っていたか。とにかく、知っていることを包み隠さず話してもらおう。従わなかった場合………こちらの捜査妨害を行ったとしてセルゲイさんに厳重抗議する。」
「くっ……わかりました。ただし……あくまで支援課で受けた話です。他言は無用にお願いしますよ?」
ダドリーの話を聞いたロイドは唸った後、ダドリーを睨んで言った。
「それは私が判断する。いいから話せ――――これは命令だ。」
そしてロイド達は事情を説明した。
「―――ふむ、なるほどな。手掛かりがないと思ったが………ようやく尻尾を出したというわけか。」
「それは……”銀”のことですよね?」
事情を聞き、頷いたダドリーにエリィは尋ねた。
「……そうだ。”ルバーチェ”に対抗するため”黒月”が切り札として雇ったという凄腕の刺客にして暗殺者。ある筋から情報を入手して以来、我々一課は”黒月”と”ラギール商会”を監視してきた。だが………まさかお前達のような仔犬どもに首を突っ込まれる隙を作るとはな。」
「ヘッ……言ってくれるじゃねえか。」
「ですが……どうして”黒月”と”ラギール商会”だけ監視を?”ルバーチェ”と”ラギール商会”の方は放置しているようですが………」
「フン、何を言っている?”ルバーチェ”と”ラギール商会”についても大体の動きは把握しているぞ。旧市街の一件や、軍用犬の使用……お前達が関わった一連の事件もある程度のことは事前に掴んでいた。」
そしてティオの疑問を聞いたダドリーは嘲笑しながら答え
「な……!?」
「だったらどうして……」
ダドリーの話を聞いたロイドは驚き、ティオは真剣な表情でダドリーを睨んだ。
「フン……あの程度で動いていてはキリが無いというだけだ。殺人が起こったわけでもないし、ただの小さなイザコザにすぎん。どうして他の重要案件を後回しにして限りある人員を割かなくてはならん?」
(……小を捨て、大を取るやり方か……)
(そんな事だろうと思ったわ………一課のやり方は全然変わっていないわね………まあ、それしか方法が無いのは理解しているけど。)
ダドリーの説明を聞いたラグタスは重々しい様子を纏わせて呟き、ルファディエルは納得した様子で呟いた後、呆れた表情をした。
「そ、そうは言っても……!」
「民が傷ついているんですよ!?」
一方ロイドとエリナは怒りの表情でダドリーを睨んだ。
「―――我々捜査一課はお前達のようなボンクラとは違う。この正義が守り切れない街で一定以上の秩序を保ち続けること……殺人などの重犯罪を抑止し、犯罪組織や外国の諜報機関から可能な限り人と社会を守る事………その苦労がお前達にわかるのか?」
「!?」
「やはり……そうなんですね。クロスベルの平和と繁栄は………薄皮一枚の上で成り立っている。」
しかしダドリーの話を聞いて驚き、エリィは溜息を吐いた後複雑そうな表情をした。
「フン、市民の大半はその事実に気付いていないがな。”ルバーチェ”が帝国派議員と結びついている話は有名だが………あの”黒月”にしたところで共和国派議員と関係を深めている。”ラギール商会”はメンフィル帝国の保護がある。その時点で、直接手を出すのはどれも不可能になってしまっている。それだけではない………スパイを取り締まれる法律がないから外国の諜報員なども入りたい放題だ。」
「「……そんな………」」
「……信じられません。」
「なんつーか………末期状態かもしれねぇな。」
「ええ……よくその状態で今まで一定の平和を保ってこれましたね……」
「そうだよね……」
ダドリーの説明を聞いたロイドとエリナ、ティオは信じられない表情をし、ランディとセティは溜息を吐き、2人の言葉にシャマーラは複雑そうな表情で頷いた。
「……………………」
一方エリィは複雑そうな表情で黙って考え込んでいた。
「だが、そんな絶望的な状況でも我々はやれることをやるだけだ。全ての案件の危険度を査定し、たとえ根本的に解決できなくても抑止できるように働きかける………”銀”の問題もその一環にすぎん。」
「え………」
「アルカンシェルの一件についてはこちらの目が行き届いていなかった。情報提供に感謝する。あとは一課が引き継ぐからお前達は通常業務に戻るがいい。」
「な………!?」
「おいおい、なんでそうなる!?」
「あたし達の事件を横取りする気!?」
ダドリーの話を聞いたロイドは驚き、ランディとシャマーラはダドリーを睨んで言った。
「どうやら状況を判断する限り”銀”が実在するのは確かだろう。”黒月”の動向にも気を配りつつ姿無き謎の暗殺者の手からイリア・プラティエを守りきる………そんな真似がお前達にできるのか?」
「くっ………」
「……人手がなければ難しいかもしれませんね。」
ダドリーに嘲笑されたロイドが悔しそうな表情で唸り、ティオが静かな表情で呟いたその時
「………いくらなんでもそれはやりすぎじゃないかしら?」
人間の姿のルファディエルがロイドの傍に現れた!
「なっ!?………フン、そう言えば貴様の正体は天使でバニングスの御守をしているのだったな………それで?今の命令のどこがやりすぎだというのだ。」
ルファディエルの登場に一瞬驚いたダドリーだったがすぐに気を取り直して、ルファディエルを睨んだ。
「ロイド達をボンクラ扱いしたのも聞き逃せないけど、それよりロイド達が引き受けた事件を横取りするのはさすがにやりすぎね。」
「フン、ならば貴様は”銀”の手からイリア・プラティエを守りきれるというのか?」
ルファディエルの話を聞いたダドリーは嘲笑したが
「フフ……少なくとも貴方達みたいな予測可能な動きしかできない頭が固い人達よりは守りきれる可能性はあるわ。」
「なんだと……!?」
余裕の笑みを浮かべて言ったルファディエルの言葉を聞き、ルファディエルを睨んだ。
「どうせ貴方達の事だから、アルカンシェルの新作の披露の際に警護をして、その際に”銀”を捕えようとしているのでしょう?……”銀”の話を聞いていて感じたけど、今回の暗殺者に普通の警備は通じないわよ。いかなる厳重な警備をしても……ね。」
「我々一課を愚弄するか………!ならば貴様はどのようにして捕えるというのだ!?」
「フフ……貴方達一課の警護を”囮”にして今回の事件の”犯人”を捕えるつもりだけど………そちらは二の次で本命は狙われている”人物”の命を守る事が先決ね。」
「なっ!?我々一課が貴様らの”囮”だと……!?ふざけるなっ!何様のつもりだ、貴様!」
ルファディエルの話を聞いたダドリーは驚いた後、ルファディエルを睨んで怒鳴った。
「あら。嫌なら貴方達は貴方達で他の事件の業務についていいわよ?アルカンシェルから頼まれているのは私達の方なんだから。人手だって、ロイド達が契約している異種族達にも手伝ってもらえれば、今の倍以上に増やす事はできるから十分よ。むしろ貴方達は私達にアルカンシェルに警備に付く事の許可を取り次いでもらうよう、頼む立場よ?」
「そのボンクラ達に何ができるっ!?それにこの事件は我々がマークし続けていた”銀”が関わっている事件だ!横取りしているのは貴様らの方だろう!?」
「横取りとは心外ね。私達が関わった事件に”たまたま””銀”が関わっているだけの話よ。それに貴方こそ、何の権限があって私達の事件を引き継げるのかしら?………私が警察に入る条件として”与えられた”私の権限………忘れたのかしら?」
ダドリーに怒鳴られたルファディエルは涼しい表情で答えた不敵な笑みを浮かべてダドリーに尋ねた。
「貴様が持つ権限だと……?………………!?貴っ様………!」
ルファディエルの話を聞いたダドリーは最初は何の事かわからなかったが、すぐにルファディエルが持つ”警察の人物は誰も命令できない権限”を思い出し、怒りの表情でルファディエルを睨み
「フフ、恨むのならそこまでの権限を与えてまで私を欲しがった上層部を恨む事ね。」
怒りの表情で睨まれているルファディエルは不敵な笑みを浮かべて答え
「ルファディエルさんの権限??」
「一体何の事を言っているんでしょうか……?」
会話を聞いていたシャマーラとエリナは首を傾げたが
「ルファ姉の権限………?あ。」
「警察の人達は誰も命令できないという、あの超反則な権限の事ですね。」
「ははっ!ここで権力発動とはさすがはルファディエル姐さんッス!いや~、美人で部下思いの上司って最高だな~♪」
(あっははは!案の定、活用していやがるよっ!)
(かかかっ!大事なロイドの為なら権力も惜しまず使うってか♪)
ロイドは不思議そうな表情をしたがある事に気付き、ティオは静かな笑みを浮かべて呟き、ランディは嬉しそうな表情で言い、エルンストとギレゼルは大声で笑っていた。
「フフ、文句なら上層部にどうぞ?………まあ、警察の広告塔かつ功績もある捜査官と”ただの”優秀な捜査官………さらに現在の市民に対する警察や私への評価を考えると、上層部はどちらの意見を重視するかは明白だと思うけどね?それと覚えているとは思うけど私は”警部”………貴方より階級は上よ。”部下”なのに”上司”に逆らうつもりかしら?」
「おのれっ………!!」
そしてルファディエルは笑顔で悔しそうな表情で歯ぎしりをして、自分を睨むダドリーを見つめ
「いいぞ~♪もっと、やれやれ~♪」
「何かわからないけど、もってやってよ、ルファディエルさん♪」
「……いい気味ですね。」
「ちょ、ちょっと3人とも!?」
ルファディエルを焚き付けるランディとシャマーラ、静かな笑みを浮かべて呟いたティオの言葉を聞いたエリィは慌て
「ル、ルファ姉!もうそのぐらいにしてくれ!」
ロイドは慌てた様子でルファディエルを諌めようとした。
「クッ………勝手にしろ!!だが、アルカンシェルの警備は我々一課が指揮させてもらうぞっ!!」
一方ダドリーはルファディエルを睨みながら怒鳴り
「ええ、構わないわよ。私達は独自で動くからそちらの指揮下に入るつもりは最初からないし。」
「フン!貴様はともかく、他のボンクラ共はこちらから願い下げだっ!」
余裕の笑みを浮かべて答えたルファディエルの言葉に鼻を鳴らした後、ロイド達を睨んで怒鳴り、そして傍に駐車してある車に乗って運転をして、どこかに去って行った。
「全く……頭が固い所も相変わらずね。」
ダドリーが運転する車が去った後ルファディエルは呆れた表情で溜息を吐き
「そんな事より一課の捜査官にあんな事を言うなんて無茶苦茶だよ、ルファ姉………」
「その………怒りのあまり、一課がアルカンシェルの警備を放りだす事は考えていなかったのですか?」
ロイドは疲れた表情で溜息を吐き、エリィは疲れた表情でルファディエルを見つめて尋ねた。
「ああ、それは大丈夫よ。あの男は感情と仕事は別だと考えているし、第一”銀”が現れるかもしれないという一課にとって極上の”餌”をほおっておく訳にはいかないでしょう?」
「……………………」
「こ、断らない事は最初から把握済みだったんですね………」
そしてルファディエルの話を聞いたロイドは口をパクパクし、エリィは冷や汗をかいて表情を引き攣らせて呟き
「いや~、相変わらず素敵ッスよ!」
「さっきのメガネスーツさんの悔しそうな顔は見物でしたね……導力カメラで写真にとっておけばよかったです。」
ランディは嬉しそうな表情でルファディエルを見つめ、ティオは静かな笑みを浮かべ
(あわわ………まさかセティ姉さんを超える恐い人が上司だなんて……!)
(しっ!聞こえますよ!)
シャマーラは表情を青褪めさせて呟き、隣で聞いていたエリナはシャマーラに忠告したが
「……2人とも、聞こえていますよ?」
「「ひっ!?」」
すざましい威圧感を纏い微笑みを浮かべているセティに見つめられ、悲鳴を上げた。
「………ルファ姉。ちなみに本当に一課を”囮”にするつもりなの?」
そして気を取り直したロイドは真剣な表情でルファディエルに尋ねた。
「ええ。『敵を欺くにはまず味方から』って言うでしょ?一課の警備で”犯人”が油断して、隙を見せる可能性が高いと思うわ。」
「”犯人”………?」
「何だか”銀”以外に犯人がいそうな口ぶりですね……?」
ルファディエルの説明を聞いたロイドは不思議そうな表情をし、ティオは真剣な表情でルファディエルを見つめて言った。
「ええ、そうね。私は”銀”以外の”犯人”がいる可能性があると思っているし、殺害する対象がイリア・プラティエでない可能性もあるとも思っているわ。」
「ええっ!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!それだったら脅迫状の内容はどうなるんだ!?」
そしてルファディエルの推測を聞いたエリィは仲間達と共に驚き、ロイドは信じられない表情で尋ねた。
「その脅迫状が”囮”で本命がいる可能性もあるでしょう?例えばアルカンシェルの新作の公演にイリア・プラティエでない誰かが暗殺された場合、この場合の犯人は誰が上がってくるかしら?」
「状況を考えると”銀”ですが……」
「”銀”という”囮”に目を向けさせて、”犯人”がイリアさんでない誰かを殺害する可能性もある………そういう可能性もある……か。…………」
ルファディエルに尋ねられたエリィは答えた後考え込み、ロイドは真剣な表情で答えた後考え込み
「なるほど……言われてみれば確かにその可能性もありそうですね………」
「……脅迫状の内容で視野が狭くなっていましたものね………」
セティとエリナはそれぞれ納得した様子で考え込んだ。
「ねえねえ、ルファディエルさん。それなら誰が犯人で、誰が狙われているの~?」
そしてシャマーラは不思議そうな表情でルファディエルを見つめて尋ね
「……そうね。あくまで予想になるけど、いいかしら?」
「……ああ。」
尋ねられたルファディエルは考え込みながらロイド達を見回し、ロイドが仲間達を代表して頷いた。
「狙われる人物は私の予想では―――クロスベル市長。」
「え……………」
「なっ!?」
「う、嘘!?」
「……何故市長が狙われるのでしょうか?」
ルファディエルの答えを聞いたエリィは呆け、ロイドとシャマーラは驚き、エリナは静かに尋ねた。
「……クロスベル市長はカルバード、エレボニア派の両議員にとって目障りな存在よ。観客達が演技に夢中になっているかつ警備が全てイリア・プラティエに目を向けられている状態なんて、暗殺者にとっては格好の状況よ。それにクロスベル市長ならアルカンシェルに招待されていてもおかしくないでしょう?」
「確かに狙撃して暗殺するにせよ、近付いて暗殺するにせよ、暗殺者にとっては最適な状況ッスね………」
「……………………」
ルファディエルの説明を聞いたランディは目を細めて頷き、エリィは身体を震わせながら表情を青褪めさせて黙り込み
「……それで、犯人は誰を予想しているのでしょうか?」
ティオは真剣な表情で尋ねた。
「……悪いけど、それはさすがに予想できていないわ。それこそカルバード派の議員とつながりがある”黒月”が”銀”に市長を暗殺する依頼を出している可能性もあるし、さっきも言ったように”銀”を”囮”にしている犯人がいるかもしれないし……それに脅迫状の件が嘘とも限らないから、あくまで頭に留めておく程度にしておきなさい。」
「わかった……けど、相変わらず凄いな、ルファ姉は……他の犯人や狙われている人物がいる可能性まで考えるなんて……」
ルファディエルの話に頷いたロイドは苦笑しながらルファディエルを見つめ
「フフ……私が推理する時は一つの物事に囚われず、さまざまな可能性を考えているからね。」
見つめられたルファディエルはロイドに微笑んだ。
「2つ名通り、まさに”叡智”の推理ですね。」
「………とりあえずアルカンシェルに”銀”の情報と一課が警備に付く事を報告しよう。」
「そうですね。」
そしてティオが呟いた後ロイドが提案し、セティは頷いた。
その後ロイド達は”銀”の情報と捜査一課が警備に付く事を説明する為にアルカンシェルに向かった………
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