英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第7話
~特務支援課~
「さて………返事を聞かせてもらおうか。」
翌日、ロイド達を集めたセルゲイはロイド達を見回して言った。
「俺は問題ナシ。このまま厄介になりますよ。っていうか、俺を警察本部に引っ張ったのはアンタでしょうが。」
「クク、何なら一課あたりに推薦したっていいんだぞ?連中もお前の戦闘力なら欲しがるかもしれねぇしな。」
「うげ………ゴメンこうむりますよ。警備隊暮らしならまだしも、ギスギスした所はちょっとね。」
「エリィの方はどうだ?」
「私もこのままこちらでお世話になります。セルゲイ課長。改めてよろしくお願いします。」
「まあ、お前に関しては俺も予想外だったけどな………本部のお偉いさんはこの課を安全な雑用係と思って推薦してきたんだろうが………当然、そんな甘いもんじゃないのは覚悟してるだろうな?」
「ええ、それはもう。密度の濃い仕事が出来るのを今から期待しています。」
「フッ、上等だ。ティオはまあ、聞くまでもないか。」
「ええ、最初からそういう約束でしたし。それより………今日の午後、導力ケーブルの配線工事があるそうです。端末のセッティングはわたしに任せてもらっても?」
「ああ、元よりそのつもりだ。さてと―――そんじゃ残るはお前だけか。」
エリィ達の返事を聞いたセルゲイは頷いた後ロイドを見つめエリィ達もロイドに注目した。
「―――ロイド・バニングス。警察学校のカリキュラムを座学・訓練共に優秀な成績で修了―――そのまま捜査官試験に挑戦し、見事これに合格した。正直、ウチには不釣り合いなくらい真っ当すぎる人材だ。」
「……………………………」
セルゲイに見つめられたロイドは真剣な表情で黙り込んでセルゲイを見つめた。
「お前なら、どの課に行ってもそれなりにやって行けるだろう。ウチが手放したら引き取りたいって話も幾つか来てるしな。迷う余地はないんじゃねーか?」
「―――いえ。色々考えた上で決めました。セルゲイ課長。これからよろしくお願いします。」
「へへっ………」
「ロイド………」
「………………」
ロイドの返事を聞いたランディとエリィは嬉しそうな表情になり、ティオは黙ってロイドを見つめ続けていた。
「なんだよ、つまらんなぁ。もう少し悩みまくるのを期待してたんだがよ~………」
一方セルゲイは残念そうな表情で呟き
「………あのですね。」
セルゲイの言葉を聞いたロイドは苦笑した。
「まあいい、今日一日全員休暇という形にしてやる。地獄のように忙しくなる前の最後の休暇だと思っておけ。ああ、ティオ。端末のセットだけは頼んだぞ。」
「ええ、了解です。」
「おっと………そういや忘れてたな。改めて―――ロイド・バニングス。」
「はい!」
「エリィ・マクダエル。」
「はい。」
「ランディ・オルランド。」
「うっス。」
「ティオ・プラトー。」
「………はい。」
「本日09:00をもって以上4名の配属を承認した。ようこそ、特務支援課へ。バラエティ豊かな仕事を山ほど回してやるから楽しみにしてるといい。………何か質問はあるか?」
ロイド達を見回して頷いたセルゲイはロイド達をもう一度見回して尋ねた。
「……あの、一ついいですか?」
「何だ、ティオ。」
「………昨日、副局長が一時的にユイドラの人達がこの『特務支援課』に配属されるようなことを呟いていましたが………」
「なんだ、あのキツネ、そんなこともバラしていたのか。………まあいい。いずれわかる事だから先に話しておく。―――お前達。ウィルフレド・ディオンって名前は知っているか?」
ティオの話を聞いたセルゲイは意外そうな表情をした後、ロイド達を見回して尋ね
「オレは知らないッス。」
ランディは不思議そうな表情で答え
「へっ………!?どうしてその名前が………!」
ロイドは驚き
「――――ウィルフレド・ディオン。メンフィル帝国と同盟を結んだユイドラ領の領主にして頼まれた物はどんな物でも必ず最高の物に作り上げる最高の”工匠”にして1年前のリベールの”異変”を解決した英雄の一人ですね。どうしてその方の名前が出てくるんですか?」
エリィは静かに答えた後、不思議そうな表情で尋ねた。
「そのユイドラ領主の娘達がな。留学という形で一時的にこの特務支援課に配属される。」
「ええっ!?」
「一体どんな理由でそんな事になったんですか………?」
セルゲイの話を聞いたロイドは驚き、エリィは驚きの表情で尋ねた。
「詳しい事は俺も知らん。………だが、話によればクロスベル市長直々の頼みによって、そうなったらしくてな。警察のお偉方も向こうが何を考えているのか全員首を傾げていたぜ。」
「………………(どうしてお祖父様が……………)」
「へ~………でも俺達、まだ顔合わせをしていませんよね?」
説明を聞いたエリィは考え込み、ランディは興味深そうな様子で呟いた後尋ねた。
「その事に関してだが、向こうの令嬢達もこっちの世界の常識等をリベールのメンフィル大使館で学んでから配属される事になっていてな。予定では数週間後に配属される事になっている。」
「そうなんですか………」
(……まさかイリーナ皇妃の妹さんどころか、ウィルさんのご息女達とも同じ職場になるなんて予想外です………)
「ちなみに”達”という事は複数いるんッスか!?」
話を聞いたロイドは頷き、ティオは心の中で驚き、ランディは嬉しそうな様子で尋ねた。
「ああ。3名配属される予定になっている。」
「おおっ!ちなみに歳は?」
「一番上の姉が15で、その下の妹達は14と聞いている。」
「ガクッ!ティオ助と同じお子様ばかりッスか………」
(………むっ………)
「あのなぁ………」
自分の質問の答えを聞いたランディは肩を落とし、ティオはジト目でランディを睨み、ロイドは呆れ
「………仲間が増えるのはいいのですが、その方達はこの特務支援課がどういった部署なのか知っているのでしょうか?」
エリィは真剣な表情で尋ねた。
「ああ、当然知っている。………ちなみに戦闘経験に関しては心配ないとの事だ。なんでも話に聞けば”工匠”という職業は物を創る為の材料を探すために、魔獣が生息する土地に出かけて材料を採取しているらしいからな。その3人も当然”工匠”で戦闘経験はあるとの事だから、戦闘の点ではむしろ向こうの方がお前達より先輩だと思うぜ。………という事だから、その3人が来たら、世話を頼むな。」
「了解しました。それでは失礼します。」
そしてセルゲイの言葉に頷いたロイドは仲間達と共に退室しようとしたが
「あ………ねえ、みんな。せっかくだからメヒーシャ達とも顔合わせをした方がいいんじゃないかしら?」
ある事に気づいたエリィがロイド達を呼び止めて提案した。
「あ、そうだな………これから一緒に戦って行く仲間になるしな……」
「ま、いいんじゃねえの。」
「………そうですね。現在の戦力を把握しておくべきでしょうし。」
エリィの提案にロイド達は納得し
「あん?何の話だ?」
セルゲイは不思議そうな表情でロイド達に尋ねた。
「――――ルファ姉、ギレゼル!」
「―――メヒーシャ!」
「―――ラグタス、ラテンニール!」
「――――エルンスト!」
するとその時、ロイド達は契約している仲間達全員を召喚した!
「…………………………」
それを見たセルゲイは呆けた表情をした後
「………おい。これは一体どういう事だ?」
すぐに気を取り直してロイド達に尋ね、ロイド達はそれぞれの事情を説明し、ロイド達とルファディエル達は互いに自己紹介をし合った後、ルファディエル以外は全員自分からそれぞれが契約している主に戻った。
「………なるほど………な。クク………まさか天使と悪魔がお前達に力を貸しているとはな………それにしても、こんな形でお前も警察入りするとはな、ルファディエル。警察のお偉方が知ったら、さぞ喜ぶだろうな。3年前に消息を絶っていたが………久しぶりに顔を見せたと思ったら、そんな予想外な姿で現れるとはな。」
事情を聞き終えたセルゲイは口元に笑みを浮かべた後、興味深そうな様子でルファディエルに視線を向け
「………先に言っておくけど、私はロイドを見守る為にいるのだから、警察官として働く気はないわよ。あくまで知恵や力をこの子達に貸すだけよ。」
視線を向けられたルファディエルは静かな口調で答えた。
「えっ………課長もルファ姉の事を知っているのですか?」
一方ロイドは驚いた様子でセルゲイに尋ねた。
「クク………警察内部で奴の事を知らない警察官はいないほど、奴は知れ渡っている。恐らく遊撃士協会もルファディエルの存在は掴んでいるだろう。………しかし運が良いな、お前達。奴の知恵があれば、どんな難事件でも簡単に解決してくれるから、楽ができるぜ。しかも奴は捜査官の資格も持っているから、リーダーにもなれる。」
そして尋ねられたセルゲイは不敵な笑みを浮かべながら答え
「セルゲイ。ロイド達の成長を妨げるような事を提案しないで。」
ルファディエルはセルゲイを睨んだ。
「フッ………ちょっとした冗談だ。………まあ、そういう事ならルファディエル達の分の”ENIGMA(エニグマ)”も用意しておく。せっかく無償で警察の為に力を貸すっていうんならそれぐらいはしてやらないとな。」
睨まれたセルゲイは口元に笑みを浮かべて答えた後、ロイド達に言った。
「ありがとうございます、課長。」
セルゲイの言葉にロイドは仲間達を代表してお礼を言った。
「それにしてもティオちゃんが他に、もう一人契約していたなんてね………」
「何で昨日の戦いの時、呼ばなかったんだ?見た目はお子様だったが………ありゃ、とんでもない強さを秘めているぞ。」
一方エリィとランディはラテンニールの事を思いだして、主であるティオを見つめ
「………ラテンニールは”魔神”ですからね。彼女の力はあまりにも強すぎて、あの場で戦わせるのは不適切だと思って呼ばなかったんです。」
見つめられたティオは静かに答えた。
「ま、”魔神”!?し、信じられない………そんな凄い存在と契約できるなんて…………」
「?エリィはその”魔神”という種族がどんな種族か知っているのかい?」
そして驚きの表情で叫んだエリィに気づいたロイドは尋ね
「え、ええ………あのね、”魔神”っていう種族は――――」
エリィは頷いた後、”闇夜の眷属”の中でも”最強”を誇る種族―――”魔神”の強さや恐ろしさを説明した。
「………という種族なのよ。通常”魔神”は自分の力が上である事を示すか、よほどの事がない限り、契約は絶対に結んでくれないわ。私の知る限り”魔神”と契約している人達はみんな”英雄”と称えられてもおかしくない功績や強さを持っている人達ばかりよ。ちなみにさっき話にあったユイドラ領主―――ウィルフレド様もその中の一人よ。」
「………………………」
「よくそんなとんでもない存在と契約できたな………」
エリィの説明を聞き終えたロイドは口をパクパクさせ、ランディは驚きの表情でティオを見つめた。
「………少々特殊な事情があったお蔭で彼女と契約できましたので。」
(いや、だから………)
(その特殊な事情っていうのが………)
(凄く気になるっつーの……)
そしてティオの言葉を聞いたロイド達はそれぞれ心の中で突っ込んだ。
(フッ………まさか”叡智”のルファディエルがロイド達に力を貸し、さらに異種族達がロイド達に力を貸しているとはな………これからこの特務支援課がどうなるか、楽しみになってくるじゃねえか………)
一方セルゲイはロイド達を見回して口元に笑みを浮かべていた。その後ロイド達は解散し、それぞれ明日からの仕事に向けて、休暇に入った。
~3年前・クロスベル大聖堂・墓場~
――――天にまします我等が女神よ。御身の元へ向かう魂のため、天の門を開き賜らんことを――――
(信じられないぜ………あの元気の塊みたいだったヤツが………可愛い恋人もいてそろそろ結婚かと思ってたのに………どうしてこんな事に………)
(クソ………!警察は何をやってるんだ!?身内が殺されたんだろう!?また迷宮入りにするつもりかよ!?)
(たしか………ご両親は亡くされているのよね?弟さん、どうするのかしら………)
「………大丈夫、ロイド?無理したらダメよ?あまり寝ていないんでしょう?」
ある人物の葬式の参列者達が無念そうな表情や悲しそうな表情、辛そうな表情で会話をしている中、ある人物の墓の前にいる喪服姿の女性は喪服姿の少年に寂しげな笑みを浮かべて尋ね
「………セシル姉こそ。色々手伝ってもらってゴメン。本当なら俺が一人で片付けなきゃいけなかったのに………」
尋ねられた少年―――ロイドは女性―――セシルに謝った。
「………水臭いことを言わないで。家族同然の付き合いじゃない。それに………ガイさんのことは私にとっても………………………………」
一方謝られたセシルは無理な笑顔を浮かべた後、涙を流し続けてある人物の墓を見つめ
「………セシル姉…………」
「……………………………」
セシルの様子をロイドは辛そうな表情で見つめ、人間の姿になり、喪服を着ているルファディエルは2人を見つめた後両目を伏せて黙り込んでいた。
「………ごめんね。一番つらいのはロイドなのに。これから大変だとは思うけど遠慮なく頼ってちょうだいね………?あなたが一人立ちするまで、ちゃんと見守らせてもらうから………」
その後葬式を終え、参列者達が帰って行く中、同じように帰り始めたルファディエルをセシルが呼び止めた。
「待って、ルファディエル。貴女に少しだけ話があって………」
「私に?何かしら。」
「貴女はこれからどうするつもりなの………?」
「………まだ決めていないけれど、それがどうかしたのかしら?」
セシルに尋ねられたルファディエルは少しの間考え込んだ後答え、そして尋ね
「お願い………!せめてロイドが一人前の大人になるまででいいから、貴女もロイドの傍にいてあの子を見守っていてあげて………!ガイさんを亡くしたあの子にとって、貴女だけが私以外の唯一の家族なの………!それに………貴女は私と違ってロイドを守る力もあるし、あの子の将来の為になる知識も持っているわ………勝手なお願いだと思うんだけど、どうかロイドに貴女の力や知識を貸してあげて………!」
尋ねられたセシルは頭を深く下げて言った。
「………セシル……………………」
セシルに頭を下げられたルファディエルは驚きの表情で見つめた後
「……顔を上げて、セシル。私もロイドの事は心配だし、しばらくはあの子の傍にいる事も考えていたから…………」
優しい微笑みを浮かべて言った。
「じゃあ………!」
「ええ…………あの子が危機に陥った時力を貸すし、私の持つ知識をあの子に教えて、ロイドを立派な大人にしてみせるわ………それに………この世界に来て初めて出来た”親友”の頼みを無下にする訳にはいかないでしょう?」
「ありがとう………ありがとう………ルファディエル………!」
優しい微笑みを浮かべるルファディエルにセシルは涙を流しながら嬉しそうな表情で見つめていた。
~現在・クロスベル大聖堂・墓場~
「「………………………………………」」
寂しげな雰囲気が漂う墓場の中、ロイドと人間の姿をしたルファディエルはそれぞれ花束を持って、3年前に何者かに殺害されたロイドの兄―――ガイ・バニングスの墓を見つめていた。
「……はは。我ながらガキだったんだな。素直に頼ればよかったのに………変な意地を張ったりして………」
「フフ、男の子だから仕方ないわよ。」
寂しげな笑みを浮かべて語るロイドにルファディエルは苦笑しながらロイドを見つめ、そして2人は同時に花束をガイの墓の前に置いた。
(―――兄貴、ただいま。今まで顔を見せなくてゴメン。少し、意地を張ってたみたいだ。でも俺………帰ってきたから。兄貴と同じ捜査官としてクロスベルに戻ってきたから。一人前には程遠いし………なんか変な部署に配属されちゃったけど………まあ、何とか頑張るからせいぜい見守っててくれよな。)
(―――いつか必ず、ロイドを貴方を超える捜査官にしてみせるわ……それが貴方にできる私の唯一の恩返しよ、ガイ………だから、貴方は安心してロイドを見守っていなさい………)
そして2人はそれぞれ決意の表情でガイの墓を見つめていた………………
ページ上へ戻る