英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第30話
4月5日―――創立記念祭 最終日―――
~特務支援課~
「いや~!しかし昨日の話は凄かったな。あの二人、どんだけ修羅場を潜り抜けてんだよって話だぜ。」
「リベールの異変については色々と話は聞いていたけど………真相はそれ以上に驚くべきものだったみたいね。」
「それに”結社”ですか……最先端技術で、エプスタイン財団やZCFを超える勢力があるというのは噂程度には耳にしていましたけど……まさかそのような規模で本当に実在していたなんて……」
「ああ……俺も最初話を聞いた時は実感が湧かなかったよ。まあ、ヨシュア曰く、クロスベルに”結社”の手はほとんど及んでいないって話だけど………」
ティオの言葉に頷いたロイドはヨシュアから聞いた情報を口にした。
「もしかしたら、帝国と共和国の目が他より厳しいからかもしれないわね。両国の諜報関係者も多く入り込んでいるでしょうから尻尾を掴まれたくないのかも………」
「……それはそれで全然嬉しくない話だな。」
「謎の結社か、大国の諜報組織か、はたまた巨大な犯罪シンジケートか。ま、どれも厄介なのは変わらねぇか。」
「………ですね。」
「つーか、エステルちゃん達が話してくれたおかげでロイドと小嬢が今まで隠していた”影の国”とやらの件もようやくわかったな♪」
「”虚構”によってできた世界………”影の国”………まさかロイドがエステルさん達やレンちゃんと共にそんな凄い冒険をしたなんて………」
話が終わった後口元に笑みを浮かべたランディの言葉に続くようにエリィは驚きの表情でロイドを見つめた。
「……正直、今も何で俺が巻き込まれたのかわからないんだよな……”影の国”に巻き込まれたメンバーはみんなお互いに面識があったり、縁がある人達ばかりなのに俺だけはそのどれにも当たらないし……」
「あら、それを言うなら”西風の妖精”もロイドお兄さんと同じじゃないかしら?」
「!?」
複雑そうな表情で考え込んでいるロイドにレンは目を丸くして指摘し、レンの口から出たある人物の二つ名を聞いたランディは血相を変えた。
「”西風の妖精”……?ああ、フィーか。でもフィーも直接面識がなかったとはいえ間接的に君と縁があったじゃないか。」
レンの指摘に一瞬誰の事かわからなかったロイドだったがすぐに心当たりを思い出してレンに答えた。
「”西風の妖精”……?一体どんな人なのかしら?」
「えっと……何て言ったらいいのかな……」
エリィの疑問にロイドが答えを濁していたその時
「―――”西風の妖精”。”西風の旅団”に所属している腕利きの女猟兵にして、団長である”猟兵王”の娘だ。確か年齢はティオすけや小嬢と同年代くらいだったはずだ。」
「ええっ!?ティオちゃんやレンちゃんくらいの年齢の女の子が猟兵をやっているの……!?」
「しかも”西風の旅団”と言えば、”ルバーチェ”の若頭さんが所属していた猟兵団でもありますね。」
ランディが答え、ランディの説明を聞いたエリィは驚き、ティオは真剣な表情で呟いた。
「へえ……”西風の旅団”の事を知っていた時から気になっていたけど、やっぱりランディもフィーの事を知っていたのか。」
「まあ、な。それより小嬢、”西風の妖精”と小嬢が間接的に縁があるってどういう事だ?猟兵と遊撃士は水と油の関係なんだから、普通に考えて縁なんて敵同士としか考えられないんだが……」
ロイドの言葉に頷いたランディは真剣な表情でレンを見つめた。
「あら、他にも可能性がもう一つあるでしょう?―――――”契約”を取り交わした関係という可能性が、ね。」
「け、”契約”……?」
「まさか……”西風の旅団”を雇った事があるのですか?」
意味ありげな笑みを浮かべて答えたレンの答えを聞いたエリィは戸惑い、事情を察したティオは真剣な表情で訊ねた。
「大正解♪ちなみにレンが”西風の旅団”を雇った時は”西風の妖精”の他にも”罠使い(トラップマスター)”と”破壊獣”を寄越してくれたわ♪」
「オイオイ……連隊長まで出張ってくるとか、どんな依頼を出したんだよ………」
「うふふ、エステル達の話に出てきたリベールの”異変”……あの時レン達の不在中にママが狙われてパパやレン達への人質にされる事を危惧して、レンが代理人を通じてママの護衛として雇ったのよ。――――3億ミラという”報酬”を前払いしてね?」
疲れた表情で呟いたランディの疑問にレンは小悪魔な笑みを浮かべて答えた。
「ええっ!?さ、3億ミラ!?」
「あ、ありえねぇ……猟兵の要人護衛の相場の最低でも数十倍はあるっつーか、3億ミラなんて大金、”国”が依頼するレベルだぞ!?」
「……まあ、”Ms.L”であるレンさんからすれば3億ミラも大した金額じゃないんでしょうね。」
レンの答えを聞いたエリィは驚き、ランディは表情を引き攣らせた後信じられない表情で声を上げ、ティオは疲れた表情でレンを見つめて呟いた。
「そ、そう言えばエステルさん達からレンちゃんがあの”Ms.L”である事も教えてもらったわね……」
「うふふ、レンが”Ms.L”だからってエプスタイン所属のティオはレンの事を敬うような事はしなくていいわよ?その代わりレンの事は誰にも話さないようにお願いね?」
「というか話したら最後、財団でも絶大な権力を持つレンさんがわたしをクビにして、わたしを破滅させる事が目に浮かぶのですが。”お願い”じゃなくて”脅迫”の間違いでは?」
ティオの話を聞いてレンが”Ms.L”である事も思い出したエリィは表情を引き攣らせてレンを見つめ、小悪魔な笑みを浮かべるレンに視線を向けられたティオはジト目で指摘し
「ハハ……俺も最初レンの事を知った時は本当に驚いたよ。」
「つーか、どこが21歳のスタイル抜群の美女だよ!?金持ちの癖に詐欺なんてするんじゃねぇよ!」
その様子をロイドは冷や汗をかいて苦笑しながら見守り、ランディは真剣な表情でレンを睨んで指摘した。
「というかそれ以前にランディさんはレンさんに一ミラも支払っていないのですから”詐欺”として成立しませんし、写真も見た事ないのに、レンさんの話だけを信じていたランディさんの方が悪いと思うのですが。」
「ハア……あら?レンちゃんってリベール人の上遊撃士よね?よく猟兵を雇った事が問題にならなかったわよね?”敵”同士の関係である遊撃士が猟兵を雇う事も普通に考えたらありえない上リベールでは猟兵の雇用を法律で禁止しているのに……」
ティオは呆れた表情でランディに指摘し、その様子を見て呆れた表情で溜息を吐いたエリィはある事に気づいてレンに訊ねた。
「クスクス、レンは遊撃士協会にとっても”特別な存在”だからこんなものも発行してくれるのよ♪」
エリィの疑問に対してレンは小悪魔な笑みを浮かべながら遊撃士協会本部が発行した自分が猟兵達を雇う事ができる”許可証”を懐から出してエリィ達に見せた。
「えっと……?『Ms.L並びにレン・ブライトが雇った者達は遊撃士協会の規則に触れない依頼でない限り、如何なる人物達――――例えば猟兵達のような非合法な事をしている者達でも遊撃士協会の協力員として認める』…………ええっ!?」
「なるほど……名目上レンさんが雇った猟兵を”遊撃士協会の関係者”にすれば、”リベール人のレンさんが猟兵を雇った事にはなりません”から法律違反にはなりませんし、遊撃士協会自身も認めている事から遊撃士のレンさんが猟兵を雇った事にはなりませんね。」
「つーか、何で遊撃士協会はこんな普通に考えて前代未聞な許可証を発行したんだ?」
許可証の内容を読んだエリィは驚き、ティオは納得した様子で呟き、ランディは疲れた表情で疑問を口にした。
「クスクス、”Ms.L”であるレンが毎月莫大な金額を遊撃士協会本部に”寄付”し続けているから、レンを特別扱いしてくれてその許可証を発行してくれたのだと思うわよ。遊撃士協会は寄付によって運営を賄っている事から遊撃士が受け取る給料や依頼の報酬の金額も少なかったけど、レンが毎月莫大な金額を寄付し続けているお陰で給料や報酬の金額も上げる事ができたし。」
「毎月莫大な金額を寄付しているって……一体毎月いくら寄付しているのかしら?」
「――――400億ミラよ。」
「よ……400億ミラ!?」
「オイオイオイ……!毎月そんな滅茶苦茶な金額を寄付し続けているって……小嬢は毎月一体いくら稼いでいるんだ!?」
自身の疑問に答えたレンの答えを聞いたエリィは驚き、ランディは信じられない表情で訊ねた。
「そうねぇ………今は4000億ミラ前後って所ね。」
「ま、毎月4000億ミラ……」
「毎月4000億ミラとすれば……年間約4兆8000億ミラを稼いでいる事になりますが……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!レン、確か俺が”影の国”に巻き込まれた頃に聞いた時は毎月2000億ミラを稼いでいるって言ってなかったか!?」
レンの口から出た驚愕の事実にエリィとティオは呆け、ロイドは驚きの表情で訊ねた。
「うふふ、それは半年以上前の話。半年以上も経てば株や相場も上場したりするから、当然レンが受け取る配当金も上がるに決まっているじゃない♪」
そしてレンの答えを聞いたロイド達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「お嬢すら足元にも及ばないセレブじゃねぇか……」
「私どころか帝国貴族……いえ、二大国も足元にも及ばないと思うわ……ひょっとしたらIBCですらも……」
「そんな一生遊んで暮らせるような金額を稼いでいるのに何で遊撃士をやっているんですか……」
我に返ったランディ達はそれぞれ疲れた表情で溜息を吐き
「レン……ちょうどいい機会だから一つ聞いておく。以前課長が警察の上層部のほとんどの人達が何故か君が特務支援課に出向する事に賛成していたと言っていたけど……やっぱり買収したのか?」
ロイドは疲れた表情でレンに訊ねた。
「クスクス、短い間とはいえこれから迷惑をかける事になるのだから、”迷惑料”を支払っただけよ?」
レンの答えを聞いたロイド達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「それを買収したというのですが。」
「つーか上層部の連中を買収してまでまで何で支援課に来たんだ?」
我に返ったティオはジト目で指摘し、ランディは疲れた表情で訊ねた。
「…………………」
「レンちゃん?」
ランディの問いかけに対して目を伏せて黙り込んでいるレンが気になったエリィは不思議そうな表情でレンに声をかけ
「……ふふっ、ロイドお兄さん達にはユウナの件も含めてたくさんお世話になっちゃったし、そのお礼に特別に教えてあげるわ。―――レンが”特務支援課”に出向してきた”真の理由”を。」
閉じていた目を開いたレンは苦笑した後真剣な表情になってロイド達を見回した。
「レンが”特務支援課”に出向してきた”真の理由”………やっぱり”社会勉強”は適当に作った理由だったんだな?」
レンの答えを聞いたロイドは真剣な表情で訊ねた。
「当たり前じゃない。遊撃士の真似事をして、しかも同じ組織の他の部署からは正直あんまりいい感情を持たれていなかったお先真っ暗な部署に既に遊撃士として成功している上、遊撃士協会からも将来が期待されているレンがそんな理由の為だけにわざわざ遊撃士家業を休業して来る訳ないじゃない。」
呆れた表情で答えたレンの説明を聞いたロイド達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「耳が痛いわね……」
「頼むから、ちょっとはオブラートに包んだ言い方をしてくれ……」
エリィとロイドは疲れた表情で溜息を吐いた。
「ふふっ……それでレンが特務支援課に出向してきた真の理由だけど……三つある内の一つは昨日ユウナが推測していたように、あの二人の事についての件。二つ目もユウナがクロスベルに留まっている理由の一つと同じだけど……今はそれは秘密にさせてもらうわ。そして最後の三つ目。先行きが不安である事が目に見えている”特務支援課”が少しでも一人前に近づけるように支えてやって欲しいって頼まれたのよ。”ロイドお兄さんのお兄さん―――――ガイ・バニングスに。”」
そしてレンは意味ありげな笑みを浮かべてロイドを見つめてロイド達にとって驚愕の事実を口にした。
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