真田十勇士
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巻ノ四十五 故郷に戻りその十一
「つまりは」
「ふむ、確かに」
根津は腕を組み神妙な顔になっている。
「式まではそうある方がいいですな」
「この度は一世一代の晴れ場」
こう言ったのは穴山である。
「ならば終わるまでは」
「そうした方がいいですな」
伊佐は主に微笑んで述べた。
「確かに」
「いや、それでは」
海野はこうしたことを言った。
「我等もそれに倣いましょうぞ」
「我等十人も殿の式が終わるまでは」
由利も言う。
「酒を慎みましょう」
「そして式が終われば」
猿飛はそれからのことを言った。
「大いに飲みましょう」
「しかし式が終わるまでは」
穴山は猿飛に続いた。
「慎みましょうぞ」
「そうした時もよいですな」
霧隠も酒好きだが今はだった。
「酒を控える時も」
「酒は薬にもなりますが毒にもなる」
最後に言ったのは筧だった。
「益ももたらしますが禍もですからな」
「そう思ってじゃ」
幸村も言う。
「式が終わるまではな」
「酒をですな」
「控えると」
「そう決められたのですな」
「うむ、そうしようぞ」
こう言ってだ、実際にだった。幸村は今は酒を飲まなかった。彼と共にいる十勇士達もそれで酒を止めた。
そしてだ、その酒を収めてだ。水を出してだった。
そちらを飲みだした、その中で。
幸村は水の味を味わいつつだ、こんなことを言った。
「水には水の味がするな」
「確かに」
「こちらにはこちらの味がありますな」
「水には」
「それの味が」
「この水はじゃ」
彼等が今飲んでいる水はというと。
「上田の水、上田の水はな」
「美味いですな」
「実に」
「心地よい味ですな」
「喉に」
「全くじゃ、高い山にあるな」
上田の山々のというのだ。
「そうした味じゃな」
「澄んでいますな」
「木々の香りもして」
「雪や氷の冷たさも感じられ」
「実によいですな」
「幾らでも飲める」
その水を飲みつつ言う幸村だった。
「まことにな」
「はい、実にです」
「飲みやすい水です」
「そして水はな」
こうも言った幸村だった。
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