英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第25話
ロイド達が迷子の捜索を開始したその頃、バスでアルモリカ村に到着したレンは状況を聞く為に依頼人を訊ねた。
~アルモリカ村・宿酒場”トネリコ亭”~
「あぁ……お客さんに何かあったら大変だ。どうか無事でいてくれよ~……」
「―――すみません、貴方がゴーファンさんでしょうか?特務支援課の者です。支援要請が出ていたようなので伺ったのですが……」
自分に背を向けて独り言を呟いている依頼人にレンは声をかけた。
「おお、君は……!よく来てくれたよ!ああとにかく、大変なんだ!こんな事になるなら、縛り付けてでも村に留めるべきだった。ああ、僕の責任だ……!」
「お気持ちはわかりますが、どうか落ち着いてゆっくり話してください。一体何があったのでしょうか?」
焦った様子でいる依頼人にレンは静かな表情で宥めて問いかけた。
「……あ、ああ。すまない、取り乱してしまったね。順を追って話そう。昨日から、外国人観光客のカップルがうちに宿をとっていたんだけど……今朝、朝食を運びに行ったら部屋がもぬけの殻でね。どうやら、アルモリカ村古道の途中にある”古戦場”という場所に行ってしまったようなんだよ。」
「(カップルと言う事は捜索対象は二人ね……ただ、厄介な所に迷い込んでくれたわね。)古戦場……確か、かなり前に石橋が壊れて行けなくなったと聞いているのですが………?」
依頼人の話を聞いてある事が気になっていたレンは不思議そうな表情で訊ねた。
「ああ、そうだったんだが……つい先日、修繕が終わったらしくてね。誰でも入れる状態になっていたんだ。……あのカップル、昨日から観光してみたいって言って聞かなくてね……絶対に勝手に入ったりしないように注意はしたんだが……」
「それは心配ですね……確かあの地帯は危険な魔獣が生息する場所として有名との事ですし。」
「ああ………どうかお願いだ。あの観光客を探し出して、連れ帰ってきてくれないか?一応、友人のアルフレッドにこれ以上古戦場に入る人が出ないよう見張ってもらってるけど……このままじゃ、大事なお客さんが危険な目にあってしまうよ……!」
「―――わかりました。すぐに捜索を開始―――――」
依頼人の懇願にレンが頷きかけたその時
「親父さ~ん!」
一人の青年が宿酒場に入って来た。
「……キース君、一体どうしたんだ?今は、この人と大事な話を……」
「のんきに話なんかしてる場合じゃねえだろ!?観光客が行方不明になって大変だって言ってたじゃないか!」
「ああ、その話なら―――」
「いや、安心してくれ。困っている親父さんのために……強力な助っ人を呼んでおいたからさ!」
「?」
「うふふ、どうやらグッドタイミングだったようね♪」
青年の言葉に依頼人が首を傾げている中事情を既に察していたレンは笑顔を浮かべた。
「ほらほら!早く親父さんの話を聞いてやってくれよ!」
「ああ、わかった。―――遊撃士のルーク・ブライトだ。行方不明の観光客を探して欲しいって事だけど……早速、詳しい話を聞かせてくれるか?」
そして青年が入口に向かって声をかけるとルーク達が入って来た。
「あら?貴女は……」
「レンさんですの!」
「おいおい……どうなってんだ?」
レンに気づいたティアは目を丸くし、ミュウは声を上げ、ガイは戸惑いの表情でレンを見つめた。
「キ、キース君。何で遊撃士の方達がここに……」
一方事情がわからない依頼人は青年に視線を向けて事情を尋ねた。
「なに言ってんだよ親父さん。困ったときの遊撃士だろ?今朝話を聞いてから、大急ぎでクロスベル市のギルドに依頼を出したのさ!」
「はぁ……その気持ちはありがたいが……」
「ふふっ、捜索をする側の私からすれば人手が増えるからむしろ助かりますので気にしないでください。」
青年の気遣いに溜息を吐いている依頼人にレンは苦笑しながら慰めの言葉を贈った。
「……あ、あれ。なんだか反応悪くない?」
「……”特務支援課”に出向しているレンがいるって事はまさかとは思うけど……俺達と同じ依頼を請けたのか?」
「ええ♪実は――――」
レンは自分も同じ依頼を請けてここに来たことをルーク達に説明した。
「……なるほど、そういう事か。」
「みゅ?どういう事ですの??」
「……違う組織に所属している者同士が同じ依頼を請けてしまったという事よ。―――それよりもレン、貴女一人だけなの?確か”特務支援課”は他にも4人いると聞いているけど……」
事情を聞き終えたガイは頷き、不思議そうな表情をしているミュウに説明をしたティアはロイド達がいない事に気づき、レンに訊ねた。
「ロイドお兄さん達は別の緊急要請の対応をしているわ。この依頼は遊撃士の人達と一緒にやる事は確信していたけど……うふふ、まさかお兄様たちとだなんてついているわ♪」
「へ……何で俺達―――遊撃士がこの依頼を請けるって確信していたんだ??」
レンの話が気になったルークは不思議そうな表情で訊ねた。
「今朝クロスベル支部の端末にハッキングして、今日来ている依頼を確かめたのよ♪」
そしてレンの答えを聞いたルーク達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「それってどう考えても情報泥棒じゃねぇか……」
「お前な~……警察官の癖に非合法な事をするなよな……」
「自分が所属している組織以外の組織の情報を盗む意味がどれ程の事か理解しているのかしら?」
「みゅ?どういう意味ですの??」
我に返ったガイとルークは疲れた表情で、ティアは呆れた表情でレンを見つめてそれぞれ指摘し、ティアの指摘の意味がわからないミュウは不思議そうな表情で首を傾げた。
「まあまあ、今はそんな細かい事は別にいいじゃない♪それよりもここは協力して捜索しましょう?人の命がかかっているのだから、人手は多い方がいいし。」
「ああ、僕もその方が心強いよ。どうかよろしく頼むよ。」
「……わかった。つー訳だから、よろしくな、レン。」
「はーい♪」
こうしてルーク達と協力して観光客を捜索する事を決めたレンはルーク達と共に古戦場へと向かい始めた。一方その頃、ロイドは歓楽街を捜索し、裏通りも捜索し終えて中央広場に向かおうとした所、ある人物に声をかけられた。
~裏通り~
「うふふ………お兄さん、お久ぶりね。」
「え………」
自分に声をかける声を聞いたロイドが驚いて振り向くとユウナがロイドに近づいてきた。
「ユウナ……また一人でアンティークショップに遊びに来たのか?」
「ええ、それとお祭りの見物もね。パレードがあったけどお兄さんも見物したのかしら?」
「いや、仕事を片付けているうちに見逃しちゃってさ。」
「そうなの。それは残念ね?ところでお兄さん、一人で何をしてるの?また誰かとかくれんぼをしてるのかしら?」
ロイドが単独行動している事が気になったユウナは不思議そうな表情でロイドに訊ねた。
「いや………実は迷子を捜していてさ。今日のパレードではぐれちゃったらしいんだけど、まだ見つかっていないんだ。」
「ふぅん、そうだったの。写真かなにか持っている?ユウナが知ってるかもしれないわ。」
「そうだな………一応、見てもらえるかな?」
ロイドはコリンの写真をユウナに見せた。
「……………………え…………………」
写真を見た瞬間固まったユウナは呆けた声を出した。
「どうした?ひょっとして見覚えがる子だったか?」
「―――ううん。ユウナ、こんな子、見覚えないわ。」
そしてロイドに尋ねられたユウナは俯いて答えた。
「そうか…………」
一方ユウナの様子に気付いていないロイドは残念そうな表情で溜息を吐いた。
「でも………可愛い男の子ね。お兄さんは………この子を捜しているのかしら?」
「ああ、仲間と手分けしてね。早く捜して、ご両親の元へ帰してあげたいんだけど………」
「……仲間と手分けしてって事はおねえちゃんもこの子を探しているのかしら?」
「いや、レンは別の緊急要請の対処を一人で……っと、もしかしてレンからか?」
ユウナの疑問にロイドが答えかけたその時通信の音が鳴り、通信の音に気づいたロイドは通信を開始した。
「はい、ロイドです。」
「レンよ。今依頼者に事情を聞いて、その時にタイミング良くルークお兄様たちも事情を聞きに来たから、今ルークお兄様達と一緒に観光客が遭難していると思われる場所に向かっている最中よ。」
「ルークさん達がクロスベルに!?……とりあえず緊急要請の状況を説明してくれないか?」
「ええ―――――」
通信相手のレンは自分が請けた緊急要請の内容や状況を説明した。
「そうか……観光客は古戦場に向かったのか……一刻も早く保護しないと、取り返しのつかない事になるかもしれないな……」
「同感よ。レン達の方は5人もいるのだし、ルークお兄様たちと相談した結果古戦場に到着したら手分けして捜索する事にしたわ。」
「……わかった。また何かあったら連絡してくれ。………今の話を聞いていてわかったと思うけど、レンは俺達と同じような緊急要請の対処で別行動をしているんだ。」
「そのようね。………おねえちゃんったら、上手い事都合を作って逃げたわね………おねえちゃんだってユウナの事を言えないじゃない。」
「へ………」
自分の話に頷いた後小声で呟いたユウナの言葉の一部が聞こえたロイドは呆けた。
「……何でもないわ。そんな事よりユウナもこの子を捜すのを手伝ってあげるわ。」
「え………」
ユウナの提案を聞いたロイドは驚きの表情でユウナを見つめた。
「前に言ったでしょう?ユウナはかくれんぼが得意だって。この子がどこにいるか多分、突き止められると思うわ。」
「いや、でも………(レン同様あらゆる能力に秀でているユウナなら、本当に何か手がかりを突き止められるかもしれないな……)………)―――わかった。それじゃあよろしく頼むよ。しばらくお兄さんと一緒に付いて来てくれるか?」
「うふふ、いいわ。よろしくね、ロイドお兄さん。」
「ああ、こちらこそ。」
その後ユウナと一緒にコリンを探し回ったロイドは時折仲間達からかかってくるエニグマで情報を共有しながら探し回り、中央広場、駅前通りを終え、そして西通りも終えるとエニグマが鳴りはじめ、エニグマを手に取ったロイドは通信を開始した。
~西通り~
「はい、ロイドです。」
「エリィです。気になることがあったので報告するわね。今ちょうど、ティオちゃんと一緒にいるんだけど………」
「どうも、ロイドさん。」
「ああ、合流したのか。それで、どうしたんだ?」
「コリン君だけど、桟橋の所で水上バスを眺めていたらしいわ。その後、どこに行ったのかわからなかったんだけど……」
「そこでツァイトに頼んで匂いを探ってもらったんです。そしたら………桟橋から階段を登ったところで突然、匂いが途切れたそうです。」
「匂いが途切れた………?」
ティオの話を聞いたロイドは眉を顰めた。
「ええ、港湾区の南東の端だけど………これってどういう事なのかしら?」
「……もしかして………ある程度密閉され、匂いが外に漏れない場所………何らかの車両に乗り込んだ可能性があるかもしれないな。」
「あ………」
「なるほど………それなら納得ですね。」
「ええ、ユウナも同意見よ。そうなると、どこの車両に乗り込んだかが問題になるわね。」
「ところで………誰か他にそこにいるの?」
「どこかで聞いたような女の子の声がしますけど………」
自分達の会話に割り込んできたユウナの声を聞いたエリィとティオはロイドに尋ねた。
「いや、色々あってさ。とにかく、いったん集まって状況を整理した方が―――」
尋ねられたロイドが答えた後、提案しかけたその時
「―――ねえ、お兄さん。支援課の端末、貸してもらうわね。」
「へっ………」
ユウナが支援課のビルに向かって行った。
「ちょ、ちょっと待った!―――エリィ、ティオ!ランディにも連絡していったん支援課に戻ってくれ!その時に一通り説明するから!」
「え、ええ……わかったわ。」
「よくわかりませんが了解です。」
ユウナの行動にロイドは慌てた様子でエリィ達に指示をした後、ユウナを追って行った。一方その頃古戦場に到着したレンはルーク達と手分けして観光客の捜索をしていた。
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