英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第22話
4月3日―――創立記念祭 3日目―――
ヴァルド達とのレースが終わった翌日、ロイド達はエステル達から聞いた情報―――”黒の競売会”を気にしつつも支援要請を片付けて行き、ある支援要請を片付けるとなんとヨナから、ティオに手伝って欲しい事があると言われ、ヨナを訪ねると”仔猫”というハッカーに一矢報いる為にティオの力がいると頼まれ、手伝う代わりにロイド達が興味を示している情報という報酬を聞き、興味がわいたティオはロイド達の許可の元、ヨナに協力する事にし、支援課にある端末とは別の端末で”仔猫”と電子戦をする為に、ジオフロントA区画の最下層にある『第3制御端末』にロイドと共に向かい、途中で現れる魔獣を倒しつつ到着した。
~ジオフロントA区画~
「この端末が………」
「”第3制御端末”ですね。ここと、ヨナが勝手に利用している”第8制御端末”の2箇所からハッキングを仕掛ける段取りです。」
「なるほど。それじゃあ、ヨナに連絡するか?」
「はい、お願いします。エリィさん達からも連絡があるかもしれませんからわたしのエニグマを使ってください。」
「ああ、わかった。」
ロイドはティオからエニグマを受け取った。そしてティオは端末の前に座り、ロイドはエニグマでヨナに連絡した。
「ヨナ?こちらロイドだ。」
「アンタか。もう着いたのかよ?」
「ああ、ちょうど今、ティオが端末を起動している。」
「オッケーオッケー。そんじゃあこっちも始めるぜ。そうだアンタ。エニグマの通信モードのスピーカーをONにしなよ。」
「スピーカーをON………?」
「エニグマの裏側にある赤いスイッチを押してください。そうすると通話相手の声が他の人にも聞こえますから。」
「こうか………」
ティオに言われたロイドは言われたとおりに操作し、エニグマを端末の横に置いた。
「――ハッ。聞こえるようになっただろ?」
「なるほど………」
「消費EPが多めなのであまり推奨はされていませんが何とか保つでしょう。―――ヨナ。こちらの準備は完了です。あとの段取りは?」
「ああ、こっちはとっくに囮になるべく動き回ってる。”仔猫”が現れたら連絡するから対応してくれ。」
「了解しました。それまて待機してます。」
「よろしく頼んだぜ!」
そしてヨナが通信を切るとその場に静寂が訪れ、2人とも無言になった。
「―――えっと。これで準備は終わりなのか?」
「ええ、後はひたすら待機です。ハッキングを始めた後もわたし一人で十分ですし………わたしが一人で行くと言った理由がわかりましたか?」
戸惑いながら尋ねたロイドに答えたティオはジト目でロイドを見つめた。
「な、なるほど。でも実際、ここに来るまで結構大変だったわけだし……結果オーライでよかったじゃないか。」
「……………………」
「その、はは………(困ったな、話題がないぞ。)」
黙り込んだティオに対して話題が思い浮かばないロイドは苦笑しながら周囲を見回した。するとティオのエニグマについているストラップが目に付いた。
「そういえば………”みっしぃ”だっけか?随分、気に入ったんだな。そんなストラップまで付けて。」
「ええ………そうかもしれませんね。わたしはあまり物には執着しない性質ですけど………不思議とこれだけはずっと持ち続けていますね。」
「これ、ここに来てから買ったものじゃないのか?たしかクロスベルのご当地キャラクターだろう?」
「これは貰ったものです。5年くらい前に、ガイさんから。」
「………――――え。」
ティオの口から亡き兄の名前が出た事に驚いたロイドは思わず呆けた声を出した。
「ガイ・バニングス…………ロイドさんのお兄さんですよね?」
「え、ああ、いや………もちろんそうだけど………ティオって―――兄貴と面識があったのか!?」
「はい。」
「し、知らなかった………何だよ、だったらもっと早く言ってくれればいいのに!でも、ティオは確かレマン自治州から来たんだろ?どうして兄貴と――――あれは………ティオの事だったのか……!」
ティオの話を聞いたロイドは首を傾げたが、ある事―――生前のガイが突然レミフェリア公国へ数ヵ月出張した話を思い出して声をあげた。
「多分、そうです。わたしが9歳の時………レミフェリアにある実家までガイさんに送ってもらった時ですね。」
「レミフェリア……ティオの出身はそこなのか。」
「はい。といっていも、あまり思い入れがある故郷ではありませんが………もうほとんど捨ててしまった場所ですし。」
「え………その、ティオのご両親は?」
「元気だと思いますよ………?3年前に家を出てからほとんど連絡を取ってませんけど。」
「…………………」
ティオの説明を聞いたロイドは真剣な表情で黙ってティオを見つめ続けていた。
「―――ある事情でわたしは5歳くらいの時から行方不明の身の上でした。ガイさんに保護され………衰弱していたわたしはウルスラ病院に半年ほど入院していました。そして何とか回復した後………実家まで送ってもらったんです。」
「そう、だったのか………でも………どうしてまた家を出たんだ?」
「ふふっ……―――ロイドさん。わたしが普通の人間と少し違うのはわかりますよね?」
ロイドに尋ねられたティオは静かな笑みを浮かべてロイドを見つめて尋ねた。
「違うなんて………!」
ティオに見つめられたロイドは真剣な表情で否定しようとしたが
「事実ですから。外界の事象に関して………わたしは普通の人間の数倍の感応力を持っています。普通の人には聞き取れない微かな音。普通の人には見えない導力波の流れ。普通の人には感じられない属性の気配。そして……人の感情や心のゆらぎまで。」
「あ………」
ティオが次々と口にした話を聞いて心当たりがあるロイドは呆けた。
「日曜学校に行っても………わたしは一人ぼっちでした。周りの子達とは違ったものを見て違ったものを感じて……そして見えない悪意や好奇心もはっきりと感じ取れてしまう………両親はわたしを愛してくれましたが………やはり限界があったんでしょう。次第に家の空気が張りつめて………わたしは気付いてしまいました。ああ―――帰って来なければよかったって。」
「っ………!」
寂しげな笑みを浮かべて語るティオの話を聞き、ティオの壮絶な過去にロイドは息を呑んだ。
「そして気付いたら………わたしは列車に乗っていました。共和国を経由してクロスベルに向かう列車に。」
「そうか………ティオは………兄貴に会いに来たんだな?」
「………そうかもしれません。そのマスコットをプレゼントしてくれた時にガイさんが言ったんです。『―――安心しろ。きっとお前は幸せになれる。もし、そうならなかったらいつでも俺を呼んでくれ。お前を不幸にする原因を一緒にぶっ飛ばしてやるからよ!』」
「はは、いかにも兄貴が言いそうな言葉だけど………でも………ちょうどその頃に兄貴は………」
「………………………」
自分の話を聞いて苦笑した後ある事を言いかけたロイドの言葉に頷いたティオは端末に視線を向けた。
「――途方に暮れていたわたしはエプスタイン財団の人と知り合って………その感応力を見込まれて、当時発足したばかりの魔導杖の開発チームにスカウトされました。そしてレマン自治州に渡り、財団の研究所で3年間過ごして………そして3ヵ月前、再びクロスベルに戻ってきました。」
「………ティオ………………」
ティオの話を聞いていたロイドは静かにティオを見つめた後、ティオに近づいて頭を撫でた。
「……あ………」
「……ゴメンな。突然いなくなっちまうようなバカ兄貴で………女の子との約束を守らないなんてホント、兄貴らしくもない………」
「………ロイドさん……」
申し訳なさそうな表情で語るロイドの話を聞いたティオが辛そうな表情をしたその時、エニグマが鳴りはじめた。
「あ………」
「……ヨナみたいですね。」
「”仔猫”が現れた………!今、ちょうどこっちが用意したエサを発見したところだ!追い込んでいくからサポートを始めてくれ!」
「わかりました。」
「………俺は高みの見物か………―――ティオ。無茶だけはするなよ?」
「はい………心配ご無用です。――――アクセス。エイオンシステム起動………」
その後”仔猫”との電子戦を開始したティオは全力を出して、ヨナをサポートし、その結果ヨナは”仔猫”のデータを手に入れた。
「や、やったのか……?」
「ええ……そうみたいですね。あ――――」
ロイドに尋ねられたティオは答えた後、疲労によって椅子にもたれかかった。
「だ、大丈夫か!?」
「ハア、ハア……は、はい………ちょっと処理を上げ過ぎたせいで目を回してしまいました……」
ロイドに心配されたティオは息を切らせながら答えた。
「まったく………無茶するなって言ったのに。」
ティオの答えを聞いたロイドは呆れた後、ティオの頭を撫でた。
「あ………」
「―――あのさ、ティオ。兄貴がした約束………俺に引き継がせてくれないか?」
「え――――」
「『もし、そうならなかったらいつでも俺を呼んでくれ。お前を不幸にする原因を一緒にぶっ飛ばしてやるからよ!』……悔しいけど、兄貴は凄かった。パワーにしても行動力にしてもまだまだ足元にも及んじゃいない。―――でも俺、頑張るから。その約束を守れるくらいはデカイ男になってみせるからさ。だから………」
「……………………ふふっ……不思議ですね。」
「え………」
「ロイドさんとガイさんってあんまり似ていないのに……それでもどこか似たようなものを感じます。魂の在り様というか……見ている方向が同じというか……」
「俺と、兄貴が……?」
静かな笑みを浮かべて語るティオの話を聞いたロイドは驚きの表情でティオを見つめた。
「はい。でも―――やっぱり違います。ロイドさんはロイドさんであってガイさんと同じじゃありません。それはロイドさんが一番、わかっているんじゃないですか?」
「……それは………」
「―――ですから。どうせ約束してくれるのなら別の内容がいいです。」
「え………」
「別に………今すぐじゃなくていいです。ロイドさんの言葉でわたしにしてくれる約束………思いついたらで結構ですから。」
「ティオ………」
「それに………わたしも子供じゃありません。一方的に守られるのも何かをしてもらうのもイヤです。わたしだって………同じ支援課のメンバーでしょう?」
「………そうだな。ははっ、確かにその通りだ。」
「……ふふっ………」
苦笑しているロイドの笑みにつられるかのようにティオは微笑んだ。
「あ………」
「???どうしたんですか………?」
「いや、その……ちゃんと笑ってる顔、初めて見たかもって思ってさ。」
「べ、別に笑っていません………!これはその………気が抜けてしまっただけで………」
「はは、照れるなって。うーん、でも勿体ないな。ティオ、元がすごく可愛いんだから普通に笑えばモテモテだろうに。」
「す、すごく可愛いって………~~~っ~~~………!」
ロイドに微笑まれたティオは驚いた後頬を赤らめて呆れた表情でロイドを睨んだ。
「えー、コホンコホン。」
「おっと。」
「ヨ、ヨナ!?い、い、いつから聞いていたんですか!?」
するとそん時エニグマからヨナの声が聞こえ、ヨナの声に我に返った二人はそれぞれ驚いた様子でエニグマを見つめた。
「いや~、笑ってる顔は初めて~、とかのあたりだけど………ハハッ、なんか珍しいモンを聞かせてもらっちまったなー。まさかアンタがそんな風に慌てるなんてねぇ。」
慌てているティオに笑いながら答えたヨナだったが
「………それ以上無駄口叩いたら”ポムっと!”で40連鎖します。」
「それは仕様的に無理だから!ってか、アンタなら本当にやりかねないけど………」
ティオの言葉に突っ込んだ後溜息を吐いた。
「それで、ヨナ。”仔猫”の正体はちゃんと掴めたのか?」
「ハッ、ボクを誰だと思ってるんだっつーの。無事、アドレスは掴んだからそっちにも情報を送るぜ。」
「………?妙な添付ファイルが付いてるみたいですけど……」
ヨナの言葉の後、送られたメールを見たティオは不思議そうな表情で尋ね
「添付ファイル~?―――って、なんだこりゃ!アドレスを割り出したログにどうしてこんなものが………」
尋ねられたヨナは何かに気付いて驚いていた。
「開いてみましょうか。」
そしてティオは端末を操作し
「え………」
「これは……!?」
”Congratulation”という文字を見るとロイドと共に驚いた。
「な、な、なんじゃこりゃ~!?ちょ、ちょっと待て!これって、ひょっとして………」
「居場所を突き止められた仕返しにハッキングを受けたみたいですね。いえ………最初から掌の上だったのかも。そうなると、ダミーの情報を掴まされた可能性もありますね。」
「きゅうっ………」
ティオの説明を聞いたヨナは大きな音を立てて黙り込んだ。
「おーい、大丈夫か?」
その様子に気付いたロイドは声をかけたが
「くっ………あの状況でアドレスを偽装する余裕は流石になかったはずだ………だったらアドレスを解析すれば何とかアクセスポイントも………いやでも………ブツブツ………」
「おーい………」
ヨナは独り言を呟き始め、それを聞いたロイドは苦笑しながら声をかけ、ティオは端末の電源を切って立ち上がった。
「まあ、放っておいていったんヨナの所に戻しましょう。報酬の記録結晶も受け取る必要がありますし。」
「あ………そんな話もあったか。なんか色々ありすぎてすっかり忘れていたな………」
「ふふっ………この近くに、出口付近に出る非常エレベーターがあるはずです。それを起動させて帰りましょう。」
「ああ、そうだな。」
その後ロイド達はジオフロントA区画を出て、ヨナの所に向かった。
~ジオフロントB区画~
「ローゼンベルク工房………?」
「ちょ、ちょっと待て。ローゼンベルク工房って人形を作っている工房だろう?北の山道の途中にあった………」
「そうだよ、その通りですよ!でも”仔猫”のアドレスを解析したらそこがアクセスポイントって出たんだ!ハッ!何の冗談だよ、これは!?」
ティオとロイドが戸惑っている中、ヨナは悔しそうな表情で答えた。
「確かに………不可解ですね。」
「………どういう事なんだ?あの工房に”仔猫”がいたら何かおかしいことでもあるのか?」
「その………現在、自治州内に敷かれている”導力ネットワーク”網は市内とウルスラ病院くらいなんです。あとは湖の対岸にある保養地、ミシェラムくらいでしょうか。」
「あ………」
「………無線の導力波は不安定だから普通の導力通信にしか使われない。大量の情報のやり取りをする導力ネットは基本的に有線なんだ。ウルスラ病院とミシェラムだって湖底に導力ケーブルが通ってるし………でもどう考えても、山道外れの工房に導力ケーブルが敷かれているワケがない!ああもう!どういうトリックなんだよ~っ!」
「うーん………(………まさか………!………と言う事はローゼンベルク工房は”結社”が関係している施設なのか……!?)」
ティオとヨナの説明を聞いたロイドは考え込み、工房で出会った少女―――ユウナを思い出すと真剣な表情で考え込んでいた。
「―――まあ、謎は残されましたが収穫はあったみたいで何よりです。それでは、報酬を頂きましょうか?」
「はあ………わかったっつーの。アンタらの助けがなかったらここまで辿り着けなかったしな。」
そしてティオに促されたヨナはロイドに記録結晶を渡した。
「これが………俺達が興味を示す情報か。」
「………ぶっちゃけて言うと”ルバーチェ”絡みの情報。関連情報もまとめといたからアンタらには重宝すんじゃねーの?」
「それは………」
「………なるほど。確かに一番知りたい情報ですね。」
「言っとくけど、知ってるヤツなら全部知ってるような情報ばかりだぜ?たとえば警察の上層部なんかはとっくに掴んでるネタばかりだろ。」
「いや、助かるよ。そういう情報が回ってこなくてちょっと困ってた所だったからさ。」
「あっそ、よかったじゃん。………あ~もう………今日はもう寝る!また明日、さっきの手掛かりを元に”仔猫”の正体を追ってやるからな~!」
「はは、まあ程々にな。せっかくの記念祭なんだから引きこもってばかりいないでデートでもしてきたらどうだ?」
ソファーに寝転がって暴れているヨナをロイドは苦笑しながら指摘したが
「う、うるせー。余計なお世話だっつーの!この弟草食男子を装った喰いまくりのリア充野郎が!」
「………意味不明だけど、不当に中傷してるみたいだな?」
ヨナの反論を聞くとヨナを睨んだ。
「そういえば………ロイドさん、記念祭の初日にセシルさんとデートしてましたね。」
「へ………」
「その後も、ノエルさんたち姉妹と両手に花で楽しく過ごし、さらに夕食はセシルさんと過ごしたとか………なるほど、経験者の言葉には重みがありますね。」
「その、ティオさん。何が仰りたいんでしょう………?」
ジト目のティオに見つめられたロイドは冷や汗をかいて苦笑しながら尋ねたが
「いえ、特に何も。」
ティオは答えなかった。
その後ロイドとティオは支援課のビルに戻り、先に戻って来ていたエリィ達と共にヨナからもらったルバーチェの情報を端末で見始めた―――――
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