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トスカ

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25部分:第四幕その三


第四幕その三

スカルピア  「何かあったか?」
スポレッタ  「先程スキャルオーネ、コロメッティ両警部の追跡隊から連絡が入りました。アンジェロッティ侯爵を発見したそうです」
スカルピア  「(それを聞いて笑って)これで私の首もつながったな。もう一人はどうだ?」
スポレッタ  「カヴァラドゥッシ子爵も何時でも」
トスカ     「そんな、もう・・・・・・」
スカルピア  「さて」
 ここでトスカに問う。
スカルピア  「宜しいですかな」
トスカ     「ではあの人をすぐに自由に」
スカルピア  「見せ掛けが必要だ。公然と解き放つことは私にでもできはしない」
 そう述べてからまた言う。
スカルピア  「子爵は一度死ななくてはならない」
トスカ     「一度・・・・・・」
スカルピア  「それはこの男が確実にやってくれる」
 スポレッタを指差して言う。指差されたスポレッタはいささか驚いた。ただし態度には出るが顔には出さない。それだけは抑えている感じであった。
トスカ     「誰がそれを保証してくれるのですか?」
スカルピア  「貴女の目の前で私が彼に直接与える命令だ。それでも?」
トスカ     「いえ」
 流石にそれには信じる顔をする。
トスカ     「それならば」
スカルピア  「ならよしだ。スポレッタ」
 スポレッタに顔を向けて言う。
スカルピア  「扉を閉めているか」
スポレッタ  「はい、既に」
スカルピア  「ならいい。来い」
スポレッタ  「は、はい」
 小走り気味にスカルピアのところへ来る。そうして話を聞く。
スカルピア  「考えなおした。子爵は銃殺だ」
スポレッタ  「銃殺ですか」
スカルピア  「パルミエーリ伯爵の時のようにな」
スポレッタ  「殺す・・・・・・」
スカルピア  「いや、違う」
 ここで目の色が一変する。スポレッタもそれに気付いて慎重になる。
スカルピア  「見せ掛けだ。パルミエーリ伯爵の時と全く同じようにだ。寸分違わぬようにな。・・・・・・わかったな」
 念を押して問い返す。スポレッタはトスカを一瞬見るが何も言えない。
スポレッタ  「わかりました。パルミエーリ伯爵の時と同じように」
スカルピア  「そうだ。あとこの御婦人は囚人ではないから城内を自由に歩かれても城内に出られても問題はない。階段の下に警官を一人置き後で子爵のおられる礼拝堂まで御案内するように」
スポレッタ  「場所と時間は?」
スカルピア  「場所はこの方が最初におられた部屋、時間は四時だ、いいな」
スポレッタ  「わかりました。それでは」
スカルピア  「うむ」
 スポレッタは敬礼して退室するがここでもまたトスカを見る。だがトスカは思い詰めた顔で俯いているだけである。閂の落ちる音が部屋の中に響き渡る。
スカルピア  「(トスカの方を見て)私は約束を守った。これでいいな」
トスカ     「いえ」
 だがまだ首を横に振る。
トスカ     「まだです。あの方と一緒にローマを発てるように旅券を頂きたいのです」
スカルピア  「旅券をか」
トスカ     「そうです。宜しいでしょうか」
スカルピア  「宜しい。では望みを適えさせてあげよう」
 それに頷いて自分の机に行き立ったまま書きはじめる。トスカは長椅子のところにいたままである。スカルピアは暫くして手を止めてそのトスカに問うてくる。
スカルピア  「どの道を?」
トスカ     「一番近い道を」
スカルピア  「チヴィタヴェッキア?」
トスカ     「はい、その道を」
スカルピア  「わかった。ではそこを」
 スカルピアが書いている間にトスカは食卓へ向かい気を落ち着かせる為に先程スカルピアが自分に差し出したワインを震える手で持つ。しかしここで食卓の上で銀色に輝くナイフを見る。これを見て何かに気付いた顔になる。
 続いてスカルピアを見る。旅券を書くことに集中してトスカから目を離している。
 それを見てすぐにナイフを取って自分の後ろに隠す。スカルピアはその間に旅券を書き終え印を押した後で丁寧に折り畳む。そうして食卓の方にいるトスカに一歩ずつ近付いていく。そのうえで彼女に対して言う。
 
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