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トスカ

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22部分:第三幕その八


第三幕その八

スカルピア   「今こそ」
トスカ      「(スカルピアに顔を向けて)どうしてもですか」
スカルピア   「そう、どうしても」
 冷たい言葉のままである。やはりトスカを追い詰めていく。
スカルピア   「話すのです」
トスカ      「それは・・・・・・」
スカルピア   「さあ、何処なのですか?」
 完全に問い詰める感じだ。最早逃れられないところまで来ている。
スカルピア   「それは一体」
トスカ      「井戸・・・・・・です」
 倒れ伏して言う。
トスカ      「庭の井戸の中です。そこにおられます」
スカルピア   「(その言葉を聞いて頷いて)わかった。それでは」
 スポレッタに顔を向けて言う。
スカルピア   「子爵を解放してさしあげろ。いいな」
スポレッタ   「わかりました」
 そそくさとスカルピアから逃げるようにその場を去る。そうして頭から血を流してふらふらになっているカヴァラドゥッシを連れて来る。数人の警官達も一緒である。
トスカ      「(カヴァラドゥッシの方に歩み寄って)マリオ、マリオ」
カヴァラドゥッシ「(怪訝な顔でトスカを見て)何も言わなかっただろうね」
トスカ      「え、ええ」
 答えはするが言葉は弱く目も泳いでいる。カヴァラドゥッシはそれを見て目を顰めさせる。ここでスカルピアが警官達に対して告げる。
スカルピア   「井戸だ、行け」
警官達     「はい」
 スカルピアの言葉に頷いてスポレッタに連れられて部屋を後にする。カヴァラドゥッシは彼等が足早に去る音を聞きながらトスカを見る。怒りではなく哀しい目で。
カヴァラドゥッシ「フローリア、君は」
トスカ      「御免なさい、私」
 俯いて嗚咽をあげる。カヴァラドゥッシはそんな彼女に言う。
カヴァラドゥッシ「いやいい、いいんだ」
トスカ      「マリオ、私・・・・・・」
カヴァラドゥッシ「アンジェロッティ、生きていてくれ」
 暫くしてスポレッタが戻る。スカルピアに敬礼をして報告する。
スポレッタ   「井戸の中に確かに気配がありました」
スカルピア   「そうか。中はどうなっているか」
スポレッタ   「途中に横穴があります。そこから逃亡したものかと」
スカルピア   「スキャルオーネとコロメッティに伝えよ」
 彼は指示を出す。
スカルピア   「ここの警官の四分の三を連れて追えよな。場合によってはその場で殺しても構わん」
スポレッタ   「わかりました」
 また敬礼して退室する。スカルピアは二人に何か言おうとする。だがそこに一人の制服の警官が慌しくやって来る。そしてスカルピアの前に来た。
警官      「こちらでしたか、ようやく御会いできました」
スカルピア   「何だ、騒々しい」
 警官をジロリと見て言う。
スカルピア   「何かあったのか?」
警官      「総監、一大事です」
スカルピア   「王妃からの御命令か?」
 敬礼をして述べる警官に対して問う。
警官      「いえ、マレンゴのことです」
スカルピア   「勝ったではないか」
警官      「いえ、敗戦です」
スカルピア   「(話の意味がまだよくわかってはいない)あの小男がだな」
警官      「いえ、我が軍がです」
スカルピア   「何っ!?」
 この言葉には流石に色を失う。
スカルピア   「それはまことか」
警官      「はい、まことです」
 警官も強張った顔で述べる。
警官      「我が軍はこれきょり停戦協議に入ります。ですがそこでも」
カヴァラドゥッシ「やったぞ!」
 その報告に飛び上がらんばかりに喜びの声をあげる。
カヴァラドゥッシ「勝利だ。自由の旗がこのローマに再び立てられる日が来たのだ」
スカルピア   「くっ・・・・・・」
 カヴァラドゥッシの喜びに対して悔しさで顔を顰めさせる。カヴァラドゥッシはそんな彼に対してさらに言葉を続けてくる。
カヴァラドゥッシ「苦しみの後に喜びは訪れる。これでアンジェロッティも助かる。総監、貴女も王妃に睨まれぬうちにシチリアに帰るのだな」
スカルピア   「うう・・・・・・」
 懐に手を入れようとする。だがそんな彼にカヴァラドゥッシはまた言う。
カヴァラドゥッシ「撃つのか?シチリアでは男は決闘以外で相手に武器を向けないのではなかったのか。それともそれすら忘れてしまったというのか」
スカルピア   「わかりました」
 何とか心を抑えて言う。
スカルピア   「その続きは場所を変えて御聞きしましょうか。絞首台でね」
トスカ      「(顔を青くさせて)えっ、そんな」
カヴァラドゥッシ「望むところだ」
 驚くトスカ。しかしカヴァラドゥッシは傲然とさえしている。
カヴァラドゥッシ「そこで貴方達の最後を見届けるとしよう」
スカルピア   「連れて行け」
 その声に従い警官達がカヴァラドゥッシに近寄る。しかし彼は腕を掴ませない。
カヴァラドゥッシ「安心してくれ、逃げたりはしないさ」
スカルピア   「貴女もだ」
 トスカも連れて行く。有無を言わさぬ態度でそのまま二人を連れて行く。
 後には何の気配もない部屋だけがある。静寂が全てを支配している。
 窓が開く音がし風が入る。それが蝋燭の炎を消し去る。
 何台かの馬車が遠ざかる音がする。ここで詠唱。その中で幕。

 裁きを下す方が席に着かれる時
 隠されていた事柄は全て露わとなり
 誰もがその報いを避けられぬ
 
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