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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第五十五話 決意を新たに

 
前書き
この話で青年時代前半編は終わりとなります。
後日譚、前日譚を投稿した後に青年時代後半編が始まります。
 

 
 デボラはピエールに案内され、グランバニア城の廊下を歩いていた。

「それで、今ミレイはどんな状況なの?」

 少し黙った後にピエールはデボラにミレイの状況について説明した。
 アベルとビアンカを石化され、仲間を助けられなかっただけではなく魔法の力を奪われたことで深く傷つきアベルとビアンカに対して強い自責を感じていること。それによって食べ物も喉を通らず、夜泣きするようになり、部屋に閉じこもるようになってしまったこと。

「あの子……そんな事で……」

 そう呟いているデボラの表情はどこか怒っているように、ピエールには見えた。

「デボラ殿?どうしましたか?」
「……何でもないわよ。それよりミレイの部屋はどこなのよ」
「はい、こちらでございます」

 ピエールは廊下の左側にある扉を手で示した。

「わかったわ。それじゃあ行ってくるから」

 デボラはそう言うと、ミレイの扉の部屋を開けて入っていった。

「…………デボラ?」

 デボラは自分を見たミレイの顔の変わり具合に内心驚いた。
 瞳は真っ赤に充血していて目の下には濃い隈ができている。顔はやつれていて表情にも声にも生気がない。
 そんな風になる程心に深い傷がついた友人の姿を見て、たくさんの感情が胸の内に湧き溢れたが、それらを無理やり飲み込んで最初に彼女はこう言った。

「ミレイーー」


「ーーあんた、何してんのよ」

 *

 ミレイには訳がわからなかった。
 デボラが何故自分ににそんな事を言ったのか、その理由がわからなかった。

「デボラ……?何言って……?」
「わからなかったらはっきり言ってやるわよ。あんた何一人で部屋に閉じこもってメソメソ泣いてんのよって言ってんのよ!」

 心配する気持ちがない訳ではない。それどころか、ピエール達と同じくらいかそれ以上にミレイを心配する気持ちは強いのだ。
 しかし、それよりも先ず最初にあったのは友人への怒りだった。

 アベルとビアンカを守れなかった事ではない。魔法の力を奪われた事でもない。
 
 ただ相手に一方的にされて、泣き寝入りしている。
 それがデボラがミレイに対して怒っている原因だった。

 無論、デボラはただ感情に任せて怒っている訳ではない。
 ミレイの気持ちもわからないのにこんな事を言ってしまっていいのか、自分のこの言葉はミレイをより傷つけさせはしないか。
 そんな迷いを抱えた上で、今のミレイには腫れ物に触るような態度をしていても何も通じないと判断して、デボラは怒っているのだ。

「あんたに何があったのかは、既に聞いてるわよ。あんたは仲間を守れなかった。あんたは敵に力を奪われた。だから?それであんたは敵に立ち向かいもせず泣き寝入りしてるの?何の解決にもならないのに?」

 それを聞いた瞬間、ミレイが勢い良くデボラの胸ぐらに掴みかかってきた。

「デボラに何がわかるのよ!何が起こったのか聞いただけのくせして!私がどんな想いをしていたのかも知らないくせに!」
「ええ、知らないわよ!あんたの痛みはあんたしかわからない、だから、あんたの痛みはあんたにしか乗り越えられないのよ!それなのに何で、あんたは自分の痛みから逃げているのよ!」

 それを聞いたミレイの手の力が緩む。
 そしてミレイは静かに泣きながら、弱々しく言った。

「そんな事は私だってわかってるよ。ただここで泣いているだけじゃ何の解決にもならない事も全部わかってる。でも、私はただの人間なんだよ。どんな強い魔法を使えるようになったって、どんな敵にも勝てても、所詮はただの人間。ただの15歳の女の子。
……弱いんだよ、私は。弱いながらも強くあろうとして、必死に生きて、戦っていたんだよ。なのに、それなのに私は仲間を守れなかった。力も奪われた。後に残ったのは敗北感しかなかった。これまで努力してきた分の全てを粉々になるまで打ち砕かれたんだよ。
だからもう無理。もうこれ以上、強くあろうとし続けるのも。何かに挑み続けるのも。もう無理なんだよ」

 彼女のその言葉を聞いた途端、デボラは初めて気がついた。
 
 ずっと自分はミレイの事を強い少女だと思っていた。自分にはできない事もやり遂げられるだけの力と意志を持つ少女。それがデボラのミレイに対しての認識だった。
 世界有数の大富豪の養女として育ち何でもかんでも我儘放題、好き放題して過ごしてきた自分とは違う、その少女にデボラは一種の憧憬を抱いた。
 だから彼女はミレイと友人になりたいたと思った。(本人の性格上それを直にミレイに伝える事は無いが)

 だが実際は違った。
 ミレイは強い力を持っていて多くの冒険をしてきたものの、 その心はどこまでも年齢通りの少女の心だったのだ。

 それを知った上でデボラの言った言葉は。

「ねぇ、ミレイ。あんたが戦おうとしないで部屋に引きこもっている間に、他の誰かがアベルとビアンカを助け出したとして、それであんたは2人に顔向けできるの?」

 それを聞いたミレイの顔が一瞬でグシャグシャになった。
 そして……そして静かにミレイは言った。

「そんな事、できるわけが無いよ……。2人に合わせる顔が無い……」
「なら、あんたは尚更部屋に閉じこもって泣いてるわけにはいかないわね」

 デボラはミレイの肩に優しく手を置いた。

「いい?ミレイ。別に悲しむなとは言ってないわ。でも、あなたがやっている事は自分の傷を舐める事に一生懸命で自分の問題から逃げ出して、全部他人に押し付けているだけよ。一歩づつでもいいから前に進みなさい。……でないと、許さないから」

 ミレイはデボラの服を掴んでいた手を背中に回して、大きな声で泣いた。
 デボラは抵抗せず、優しく背中をさすった。

 *

 泣きながら、私は思い出していた。
 何で精々1時間かそこらの会話で私がデボラに友情を感じたか。
 アベルやヘンリーとも仲はいいけど、どっちかというと友達というより仲間という意識が強かったから私は本当の意味でこの世界に友人と呼べる人は今までいなかった。
 
 でも、あの日私が緊張しながらも今までの冒険を話しているあの時は……、まるで新学期に初めて会った子とたどたどしくても話をしていって少しづつ友達になっていくような、あの感覚を感じる事が出来た。

 きっとその感覚はデボラも感じていたに違いない。だから私達は仲良くなれた。
 
 ありがとう、デボラーー。

 *

 デボラが帰った後、私は部屋から出た。
 何だか廊下も壁に掛けてある肖像画も燭台も久しぶりに見る感じだ。

 テラスに出ると気持ちの良い風が私を撫でて、目の前には綺麗な夕日と虹が出ていた。
 最近が雨続きだけにとても綺麗に見えた。

 ごめんね皆。今までずっと心配掛けて。私……もう逃げないから。
 光の教団との戦いも、アベルとビアンカを助けるのも、『影響』の事からも私は逃げない。
 100パーセント逃げないと言える保証はないし、また挫ける事もあるかもしれないけど、私は逃げたくないし立ち止まって下を見続けるよりは一歩づつ進んでいって前を向いていたい。
 だから待ってて。アベル、ビアンカ。

 必ず助けに行くから。


 
  
 

 
後書き
これである少女の青年時代前半編は終わりです。
幾つか番外編を投稿した後後半が始まります。

大人ミレイの活躍にこうご期待! 
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