グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第52話:酒の席だから言える事もある。言わない方が良い場合が多いけど。
(グランバニア城下町・オモルフィ:バル)
ティミーSIDE
同席した女の子達を仕切ってるっぽい女性(候のお気に入りの娘)が、黒服のウェイター等に注文を言い付ける。
すると用意してたかの様な早さで綺麗なピンク色の液体が入ったボトルが16本、僕等のテーブルへと運ばれてきた。
そして女の子達が手際よくボトルを開封し、各人の手前に置かれたグラスに中身の液体を注ぐ。
炭酸飲料なのか、グラスの中では気泡が次々と浮かび上がってる。
ピンク色で凄く綺麗だ……アルルやアミーにも見せてあげたいなぁ。
「よぉ~し。みぃ~んなにグラスが行き渡ったぁね?」
全員のグラスにピンクの炭酸飲料が注がれたのを確認すると、カタクール候が自分のグラスを手に持って、掲げる様に行動を促してくる。
「ほんじゃぁ、殿下の可愛い娘さんにカ~ンパイしましょう」
そう言うと僕の方を見てニンマリ笑顔を向けてきた。
「あ、どうも……」
こういう場合なんと言えば良いのか解らない。
「カンパ~イ!!」
「「乾杯」」
そして乾杯。みんながみんな勢いよくグラスの中の液体を飲み干した。
プーサンだけは、ちょっと口を付けただけでグラスをテーブルに置いてしまったけど、僕の(娘の)為に乾杯してくれてるのだろうから、僕は飲み干さない訳にはいかないだろう。ううっ……お酒嫌いなのに。
「っんぷはぁ~!!」
一人を除く皆さんが飲み干したらしく、感嘆の溜息に似た声を発しグラスを置く。
僕も真似して飲み干したが、意外と美味しく感じたのには驚きだ!
「コレ、美味いっすね」
「だしょ、だしょぉ! 普段酒飲まないウルポンにも、美味しく飲めちゃうっしょ!」
僕と同じ感想を言うウルフ君に、候が更にお酒を勧めるようにボトルを向けた。
「ウルポン言うな馬鹿!」
些か機嫌の悪いウルフ君は候が向けたボトルを引っ掴むと、そのままラッパ飲みでボトルを空にする。
確かに美味しいお酒だけど、そんな事するウルフ君は珍しい。
こんな感じで始まった宴……
プーサンを除く皆が思い思いにお酒を飲んでる。
しかし女の子の一人が、僕が見せたアミーの絵を凝視してて宴に参加してない。
また一人、僕の愛娘が心を奪ってしまったらしい(笑)
ふふふっ……残念だが、娘も絵も与える訳にはいかないので、そろそろ回収させてもらいます。
ごめんなさいねお嬢さん。超美少女を独占しちゃって(笑)
「お嬢さん、もう良いかな……その絵を返してもらっても?」
「……あっ、申し訳ございません殿下!」
女の子は僕の言葉に慌てたらしく、綺麗に絵を揃えて返却してくれた。
「それにしても……」
そして彼女は口を開く……“それにしても可愛いですね、娘さん♥”かな?
「それにしても、その絵……上手いですね! どなたが描かれたのですか? 御高名な宮廷画家ですか?」
……絵の賞賛? 絵のモチーフの賞賛じゃなくて、絵自体の賞賛?
「ふん。お前に絵画の何が解る!?」
アミーにではなく、絵への賞賛でガッカリしてると、この絵の不機嫌な作者が酒臭い息を振りまいて彼女を批判する。
「サビーネちゃんはぁ、芸術高等学校に通いながらこの店で働いて学費を稼いでるのよぉ」
サビーネちゃんとは絵を賞賛した彼女の事だろう。候のお気に入りの娘が教えてくれた。
偉いなぁ……自ら働いて絵の勉強か。
「嘘吐くんじゃねー。俺は芸術高等学校の全生徒名簿を暗記してるが、“サビーネ”なんて名前の女は居ねーぞ! 騙ってると逮捕すんぞ」
えー、数百人は居るだろう生徒の名前を全部覚えてるの!? 凄ーい!
「ウルポンは馬鹿ですか? 彼女等の名前は源氏名に決まってるでしょ! 本名を言って、馬鹿な客にストーキングされない為に、源氏名を使ってるんだよ」
“源氏名”? プーサン言う事には意味不明なことが多い。
「本当かよ……俺の記憶力を舐めるなよ」
「あ、あの……私……本名をエウカリスと言います。エウカリス・クラッシーヴィですぅ」
あ、本名言っちゃった。良いのかな?
「エウカリス……あぁ、今年3年になった生徒の中に、そんな名前があったなぁ」
本当に芸術高等学校の生徒なんだ……ってか、ウルフ君もよく覚えてるなぁ。
「良いの、本名言っちゃって? こいつストーカーになるよ」
そう言えば“ストーカー”って何だ?
「なるか馬鹿野郎! おい腐れヒゲメガネ、俺を何だと思ってるんだ!?」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。それにしても凄いですねぇウルフさんは。芸術高等学校の生徒名簿を暗記してるなんて……」
「そりゃそうだよクンドー……コイツはね、絵に興味があるんだ。先刻の殿下の娘さんの絵も、コイツが描いた物なんだから」
「ええぇぇぇ! 凄ーい! ウルフさんって凄いですぅ!!」
「別に……凄くねーよ……」
照れてるのか、ウルフ君はそっぽを向きながらお酒を飲み干した。
あれ……可愛い所もあるんだなぁ。
「そうそう、全然凄くないんだよ。だってさぁ……コイツが芸術高等学校の生徒の名前を覚えたのは、下心アリアリだからね」
「はぁ~? 何言ってんの腐れヒゲメガネ……俺にどんな下心があるんだよ!?」
ウルフ君はお酒をガブガブ飲みながら、プーサンの言葉に噛み付いた。
「自分も絵を描くし、芸術高等学校の生徒……特に女生徒の名前を暗記して、ナンパの時に役立ててるんだよ(笑) “やぁ俺ウルフ。絵には詳しいんだぜ。一緒に絵のことを語らないかい……ホテルで”ってな感じかなぁ? きっと教えてるのは筆遣いじゃなくて、男の筆の遣い方だぜ(大笑)」
「テメー適当なこと言ってんじゃねーぞ腐れヒゲ! 俺が何時そんな事したよ!?」
ウルフ君、凄く酔っ払ってる。
プーサンも刺激しない方が良いんじゃないのかなぁ?
「おやおや……毎週土曜日に丘の上で芸術高等学校の美女と逢い引きしてるじゃあ~りませんか。もう彼女の中のキャンバスに、君の白い絵の具を塗ったくっちゃたんでしょ?」
「な……お前……ば、馬鹿か!? ピクトルさんとはそう言う関係じゃねーよ!」
「ウルフ君……君には決まった相手が居るのに、更に浮気もしてるのかい?」
「ち、違うってティミーさん! このオッサンのイカレたハッタリだよ! アンタの妹を2人相手するだけで手一杯なんだよ!」
プーサンに視線を向けると、ニヤニヤと水を飲んでいる。どっちが信用出来る?
「アンタ……姫様に……しかも2人に手を出してるのか?」
「う、うるせーヒッカータ! 外野は黙ってろよ」
何で彼はこんなにも慌ててるんだろうか?
「おいコラ、今すぐ訂正しろ。俺への疑惑を訂正しろプーサン! こんなデタラメがあの2人の耳に入ったら大惨事が起きるだろ!」
「僕が訂正しても、彼女……ピクトルさんが“私の彼氏はエリートメン”と宣伝してたら意味なくね?」
「そんな事言う訳ねーだろ。付き合ってもいないのに……」
「付き合ってないと思ってるのはウルポンだけだろ。ピクトルさんは彼女気取りかもしれないだろ! プラトニックな関係だけど、何時かは……ってな感じ?」
「ふざけるな。会ってるときは絵の話しかしてないんだぞ! キスは勿論、肉体的な交わりなんて皆無だぞ!」
「お前……肉体関係がないからって付き合ってないとは言えないだろ。どんだけ極端な恋愛感情だよ?」
確かに……僕もアルルとは肉体的交流が無いときから恋愛感情はあった。
「それに言ってないだろ……自分には2人も付き合ってる女が居るって事を(笑)」
「言える訳ねーだろ。相手は姫で、しかも2人も居るんだぞ! お前と違って俺には良識が備わってるんだよ!」
……2人に手を出した時点で、君の良識はそこの男と同ベクトルだよ。
「ふふふっ……如何だろうかねぇ? 明日は土曜日……甘い逢い引きタイム。試しに『ねぇこれから君の部屋に行っても良い?』って聞いてみ。顔を真っ赤にして、嬉しそうにOKするから。鍵を開けて部屋に招き入れたら、股を開いて招き入れてるのと同じ事だよ」
「お前なぁ……ピクトルさんに限ってそんな下品な感情を持ち合わせてる訳ねーだろ! 世の中、お前水準で存在すると思うなよ」
その通りだ。プーサン水準が普通だと思うのは間違ってる。
「バ~カ、恋は盲目って言われてるんだ。恋する乙女は周りが見えなくなっちゃうもの。自分の言動が下品とかなんて考えない。兎も角、目の前に居る愛しい男性のことだけしか考えられないのさ。嫌われない為には如何すれば良いのか……好かれる為にはどんな行動する必要があるのか……」
「だ、だからって……いきなり股開く女が居るもんか!」
「そんな女が居なくても、そんなシチュエーションを好ましいと思える状態に持って行く女は多数存在するよ」
何だか難しい言い回しだな……
「あのなぁ……アンタも会ったことあんだろ。そんな手の込んだことしてこなさそうな為人なのは解ってるだろ!」
「会ったことあって、為人も多少は理解したから言えるんだよ」
プーサンは会ってるんだ。よく話を広げなかったもんだ。
「突然僕等が現れたときの彼女の慌てっぷりは忘れない。まぁ権力者が現れたら、普通の人間ならばあの程度だろう。だけどねぇ……なんて事は無いと思ってた絵描き仲間が、実はその権力者に絶大な信頼を寄せられてると解ってしまったら如何だろうか? しかも、その信頼されてる男は恋人が居ると言ってない(笑)」
「あの……コレ……誰の話してる? 権力者って……誰?」
プーサンとウルフ君の言い合いを見てたサガール君が、何となく感付いてしまった疑問を口にする……が、流れを見守ってるカタクール候に制止された。
「イケメンの若い男が、自分と同じ趣味を持ってて、凄いエリートだと判り……しかもフリーだと思われていれば、どんな女でも特定のベクトルでの感情を持ってしまうものさ」
サガール君やクンドーさん等からの“もしかして……陛下ですか?”的な視線を受けて、ウルフ君に件の女性との関係を語りつつ、変装を解除していく国王陛下。
「あのねリュカさん。本当に俺達は違うんだって、そう言う事柄とは……」
「そう思うのなら明日にでも確かめてごらん。“君の部屋に行きたい”って言って、顔を赤くして了承してくれたら、彼女の方にはその気ありって事だ。その先如何するかはお前次第だが、主導権は取られるなよ(笑)」
ウルフ君は何かを言おうと口を開いたが、父さんが手を翳し制止させ発言を封じた。
そしてそのまま立ち上がると、懐から2万Gほどの札束を出してテーブルに置くと、そのまま翳してた手をヒラヒラ振って出口へ向かっていった。
「な~んでぇ……今日は奢ろうと思ってたのに、け~っきょく一番の金持ちが、金出してったぁよ」
「と、とっつぁん! プ、プーサンって……あの……ヘ、陛下……ですか?」
候の呟きを聞いてクンドーさんが真っ青な顔で問い質す。因みに真っ青な顔は、プーサンの正体を知ってる者以外全員……お店の従業員達も同じくね。
「納得いかんぞ、あのクソ親父!」
言葉通り納得いってないウルフ君は、師匠と同じ様に懐からお金(5000Gくらい)を出してテーブルに叩き付けると、奴の後を追う様に出口へと向かった。
もう宴の雰囲気ではないだろう。
でもカタクール候は飲むのを止めそうにないし、出産祝いと称して僕は呼ばれてる訳だし、勝手に帰る訳にもいかなそうだ。
何とか場を盛り上げようと女の子達は頑張ってるし、引き攣った笑顔のままだと申し訳ないから、奴の息子としてこの場だけでも落ち着かせようと思う。
でもクンドーさん等は今にも吐きそうな顔してる。
きっと普段から砕けた会話をしてきたんだろうと思われる。
だって国王だとは予想だにしてなかっただろうからね。
多分プーサンが王様だと知っていれば、フランクな会話をしながらも多少は敬意を持った言葉遣いになってたんだろうけど、それすら行っていなかったことが彼等の気分をドン底に落としてるんだろう。
“陛下は気にしてないよ”と僕が言っても、彼等の心を救うことには繋がらない。
またプーサンが彼等の前に姿を現して、これまで同様に馬鹿な会話を繰り広げていけば、少しずつ元通りになっていくだろう。
「あの~殿下……」
「何ですかクンドーさん?」
クンドーさんが4人を代表して、恐る恐る問いかけてきた。
「先日ですね、プーサン……あ、いや、陛下の奥方様と言われる方にお目通りさせて戴いたんですけどぉ……あの方って……もしかしてぇ……」
「あぁ……そう言えば母さんも言ってたぁ。“ルービス”って偽名で楽しんだって」
「あぁぁぁ!! どうしよう……とんでもない無礼なことを言ってしまってたぞ!」
僕の言葉で頭を抱える4人。
大丈夫なのになぁ……
ティミーSIDE END
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