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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・前半-未来会議編-
  第八章 夜中の告白者《2》

 
前書き
 始まりは突然に……、ん? どこかで聞いた?
 知りませんな。
 ということで、告白続き。 

 
 闇の中の西二番貿易区域の空に、一つの巨大な映画面|《モニター》が表示されている。
 そこには、日来覇王会の長であるセーランが映る。
『よく聞けよ、これは告白ってやつで、俺は今告白したの。お前にな』
「あ、え、いや、言っている意味が解らない」
『く、くそ! そう言って俺を傷つけて楽しいか!? だけど俺は諦めないぜ』
「解釈おかしいだろ!」
 甲板上から奏鳴が、コンテナの上でこちらに人差し指を向けるセーランに向かい叫ぶ。
 偵察をしている三年生も、この告白に興味を持ち、映画面を見上げその場を動かない。
 夜風が吹き、体温を奪っていく。それを防ぐように、奏鳴は羽織っているコートを引っ張り、体を包む。
「会議のときに断ったはずだが」
『俺は粘り強い男なんだ』
 胸を張って言うセーランに対し、周りは冷えた視線を送る。
「未練がましいの間違いだよね」
「フラれたら悲しいよな」
「長も無茶するな、俺には関係ないけど」
「監視されてる今、やることじゃなくね?」
『はいはい、最後の人、そういうもっともなことを言わない』
 コンテナの上で冷えた視線を受け止めながら、次へと進もうとする。
 監視艦が近くに見えるが、取り押さえる理由がないため動きはない。ただその場で浮遊しているだけだ。
 それを眺めていた実之芽が言う、
「奏鳴様、騒ぎというのは」
「これのことだろうな」
「こんな戯れ事に付き合う必要ありません。艦内へ戻りましょう」
「そうだな、寒いし中で温かい物を飲みながら」
『え、帰るの? 待って、もう少しだけ付き合って、ね?』
「……」
 セーランは必死の笑顔で引き留める。だが、二人は無言で艦内へと向かう。
 しかし、それを遮るように艦内へと通じる扉の前に、一つの人影が立っている。
「告白を、んぐ、最後まで聞かないどは。なんと、いう……ぐぐ、常識知らずですか!」
「明子、食べ物食べながら話さないで。それだから彼氏できないのよ」
「ごくん……喧嘩売ってんですかー! って、ちょ、ま、吐きそうだからお手洗いに行ってきます!」
 そう言い、明子は艦内へと戻って行った。
 そして沈黙。まるで時が止まったような感じがした。
 数十秒後、両手にケーキを持ちながら戻ってきた。
「あはは、胃のものを出したらとても楽になりましたよ」
「だからってまた食べなくてもいいでしょ」
「いやー、出すもの出したらお腹が空いてしまって」
 笑い、両の手に持つケーキを口に放る。
 呆れてため息をつく実之芽は、この場を抜け出せないと思った。
 明子ってば、恋愛関係のことには熱くなのよね。
 よく熱くなり、クラスメイトの恋路を破壊したこのも多々あった。そして付けられたあだ名が、恋愛破壊師。
 貿易区域を照らしていた照明が消え、空の上に光る星が綺麗だ。四月の初めということもあり、空気が澄んでいるからだろう。
 夜空を見上げた実之芽は、横にいる奏鳴に顔を向けた。
「どうやら味方に裏切り者がいたみたいです」
「ここは死んでも通さん!」
「かっこいい台詞だけどあなた、頭おかしいわね」
「ひどっ!」
 うろたえる明子ではあるが、意地でも艦内へは戻らせないらしい。
 すでに空となった両の手を伸ばし、艦内へと続く扉を遮っている。
「どうします奏鳴様、潰しますか?」
「いや、潰さなくていい」
「ならば如何様に」
「日来の長に付き合うしかないな」
 それを聞いたセーランは映画面越しに、明子に向かい親指を立てた。明子も応答として親指を立てる。
 まさかこの二人は組んでた?
 実之芽は思ったが、それはないと区切りを付けた。
『話の解る少女のお陰で、無事に告白を続けるぜ!』
 だから言う、
『俺は神州瑞穂の奥州四圏にある辰ノ大花の宇天学勢院覇王会会長、委伊達・奏鳴にもう一度告白するぜ!』
 よく聞きてろ、と皆に呼びかける。
 辰ノ大花の皆、日来住民はそれを聞き静かになった。
 そして発言をする。
『俺はお前が大、大、大? いや、超、超、ちょー大好きだ――!!』
 その言葉と共に、夜空に花火がうち上がる。
 空を彩るように、星と共に輝いた。
 大気を震わせ、その音は日来に響く。
『いいか、冗談じゃねえかんな。別に世界のことや、政治のこと、そして監視されている今なんて関係ねえ。俺は一人の少女つまりお前を好きになったんだ』
 セーランの後ろ、花火が今もなお上がり、音を響かせる。
 その音に勝るように叫ぶ。
『だから告った。なあ、お前はこんな俺をどう思う?』
「最低だと思う」
『その速答傷つく、だけどその最低な俺は最高にお前と居たいと思ってる』
「私は最高にお前と居なくないと思う」
『なら誰と居たい?』
 それには奏鳴は答えられなかった。
 誰と居たいのか、分からなかったからだ。誰と何をし、どうあるべきなのか。――分からかった。
 息を飲み、奏鳴は振り返らない。
 すでに花火は終わり、夜の静けさが戻る。
 緩い風が吹き、その後にセーランは言う、
『だったらお前が居たいと思えるように、俺がそうなってやる。だから――』
『それ以上の発言は暴動と見なしますよ』



 だから、とその後を述べようとしたときだ。
 セーランは自分が映る映画面と対峙するように、宇天学勢院の戦闘艦の上に映画面が表れたのを見た。
 通信中と表示されたその映画面から、若い女性の声が聞こえる。
『何をやってる? 宇天覇王会隊長、日来のこの行為は暴動と同じだぞ』
「しかし、日来は何も手を出してません!」
 実之芽は声を上げた。
 まさか黄森の覇王会が現れるなんて、面倒な存在が割って入ってきたわね。
 実之芽は、額に粘るような汗をかいていることに気づく。
 今言葉を交わした相手は、自分達辰ノ大花にとって敵と言える存在だ。しかし味方でもある。
 だからこそ、下手に動くことは出来ない。
 暴動と認めれば、それに対し動かなかった辰ノ大花は行動力のない者達の集まりと解釈されてしまう。だから、ここはそれを否定する。
 セーランは宇天学勢院の戦闘艦から、声を聞いていた。
 そして空に表示される自分のとは違う、もう一つの映画面を指差す。
「なんか知らんけど、人の告白邪魔すんな」
『邪魔? それはこちらの台詞だな』
 強く、鋭い声だ。
 その声が、冷たく日来に響き渡る。
『日来は今、世界中の最高危険地域として見られている。その日来が奥州四圏の辰ノ大花に訳の分からぬことをしているのならば、神州瑞穂及び奥州四圏の中心である黄森は黙っているわけにはいかないのだよ』
「黄森の誰かは知らねえけど、訳の分かんねえことじゃねえぞ。これは告白と言ってな、人類が崩壊世界という大昔であっても好きになった人へと愛の言葉を贈る神聖な行いなんだぞ!」
『その神聖な行いを利用し、辰ノ大花の意志を揺さぶって味方につけるつもりか?』
「なんでそうなんだよ」
 セーランは、足で今立っているコンテナを力強く踏みつける。
 金属が打撃をされている音が鳴る。
 いいか、とセーランは通信中と表示されている映画面に向けて言う、
「俺はただ宇天覇王会の長が好きなだけだ、それを政治に絡めて失敗に終わらせる気だな?」
『たとえ告白が成功したとしても、結局は失敗に終わる。何故なら――』
 何故ならば、
『宇天覇王会の長、委伊達・奏鳴はこの世から消えるのだから』
 言葉を聞いた。
 この世から消える、つまり死ぬということだ。
 セーランは面食らい、そして焦った。
「な、なに言ってんだよ、じょ、じじょ、冗談だろ?」
『嘘だと思うなら聞いてみることね。家族を殺し、私達の仲間を虐殺したその殺人者にね』



 実之芽は日来学勢院の長が、こちらを見ているのに気づく。
 それを感じたのだろう、彼女に横にいる奏鳴は何の意味があるのか、息を吐いた。
『なあ、嘘だろ? 殺したとしてもなんか理由があったんだろ?』
「何も言うことはない。さっき聞いた通りだ、私はただの人殺しだ」
『――――』
 日来の長は何も言わなかった。
 ショックでなのか、思っていた通りだからか、それは今の彼の表情では解らなかった。
 実之芽は奏鳴に視線を向けた。
 震えていた。小さく、近くにいないと分からないだろう。
 顔を下げていた奏鳴は、何かを吹っ切るように上を向いた。
「だからもうほっといてくれ。私が好きならば、私が死ぬことを黙って見てろ」
 その言葉に、今度は即座に言葉を返した。
『死ぬんだぞ』
「そうだな」
『消えるんだぞ』
「知っている」
『何もかも無くなるんだぞ』
「全てが無くなった方が――」
 奏鳴のその言葉は続かなかった。日来の長が訴えかけるように、叫び、怒鳴った。
『良いとか、楽でもねえ! 死ぬこと認めんなよ。何やったか知らねえけど、死ぬなんておかしいだろ』
 呼びかけるように、セーランは宇天学勢院の戦闘艦に向けて話す。
『だったら日来に未来を告げに来たのは、最後の役目だったからかよ!』
『その通りだ。何もせず、突然死ぬのは酷だと思ってな』
『お前に聞いてんじゃねえよ。なあ辰ノ大花の隊長さんよお』
 呼ばれた。
 だから映画面|《モニター》の方へと体を向けた。
『仲間なんだろ、だったら守ってやるのが当然だろ。なんで守ってやらねえんだよ!』
「守ろうとしたわ……」
 怒りの意志を、小声で言った。
 日来の長がいう言葉にも怒りを感じる。
 しかし、
 解った気にならないで!!
 怒りを感じているのは彼だけではない。
 実之芽は怒りを越し、憎しみへと感情が揺れ動きそうな程に心が怒りに燃えていた。。
 何もしなかったわけではない、守らなかったわけでもない。
 しかし救えなかった。
 全力を尽くしてなお全力を尽くせ、こう彼は言っているのと同じだ。
 胸に抑えられない憤怒の言葉を吐いた。
「ただ流され続けていた日来の長が、解ったような口を聞かないで!!」
 彼女の声に、仲間や日来の者達は震えた。
 周囲に気を配っていたときとは違う、今の彼女は眼前に映る者に殺意に似た感情を抱いている。
 口で言うことは簡単だ。甘い考え、淡い期待、愚かな希望。そんなことに感情を動かされ、結局は無理だと気づく。
 そう、私達みたいにね。
 実之芽は奏鳴の前に立つ。
 彼女を隠すようも、守るようにも見える。
「何も解ってない。なら貴方は守ったことがあるの? 死ぬことを定められ、それを覆せない現実を前にしても絶望せず、必ず救ってみせるとその者に言い、救ったことが!」
 大きく息を吸い、
「――答えてみなさい!!」
 荒く息を付き、映画面に指を差す。
 腕を伸ばし、彼の心臓を貫くように。
 今までのバカらしかった雰囲気とはがらりと変わり、混沌に似た夜の中、怒りが支配する場となった。
『……俺は、』
 言葉が続かない。
 言葉に出そうとするが、喉の中でその言葉が止まる。
 うなだれているような、声が映画面からかすかに漏れる。
『俺は!』
 力を込めたが、先程と同じだ。
 日来の長は何かを払うように、左腕後ろに振った。
 音は聞こえない。
 空気を切っただけで、何も起こらない。
 そして沈黙した。
 地を見るように首を下に向け、持っていたマイクをコンテナに投げつけた。
 大気を裂くようなノイズが走り、直後そのマイクが壊れた。
 だが音が聞こえる。
 元々壊れたマイクの役目は拡声器だ。だからなくても音が映画面から流れる。
 しばしの沈黙が流れ、実之芽は聞いた。
『俺は……』
 声が途切れたと思ったときだ。
『……何も、救えなかった』
 マイクを持っていないのでよく聞こえなかったが、確かにそう言った。
 下を向いたままで、こちらを見ようとはしない。
 それは後悔があり、彼にとって辛いことだと理解する。
 しかし、怒りが消えたわけではない。今も怒りは燃え続けている。
 コンテナの上で立ち尽くす日来の長は、動くこともなくただそこに立っていた。 
 

 
後書き
 告白したら、告った少女の死を告げられたよ?
 なんと迷惑な!
 それに傷ついた主人公は救えなかったとうなだれて、告白がおかしな方向に進んでく。
 どうなる日来!! どうなる告白!!
 次回「告白、その想いは」とうご期待!!
 ※次回のサブタイトルとは関係ありません。 
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