世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
なのは ~戦いの終わりと始まりとプロローグなの~
アルフがフェイトを抱え、蒔風が後につき医務室に運ぶ。
なのはとユーノも途中までついて来ていたが、クロノと合流し、プレシアの庭園に乗り込んでいった。
医務室のベッドにフェイトを寝かせ、アルフが心配そうに眺め、蒔風は壁に寄り掛かって腕を組んでいる。
「・・・・なぁ、なんであんたはあっちに行かなかったんだい?」
「こっちの方が心配だからな。にしても衝撃の事実だったねぇ」
「うん・・・」
医務室のモニターに、庭園に乗り込んでいったなのはたち三人が映し出される。
クロノが道を開き、なのはとユーノが先に進む。
クロノは大量の騎士たちを相手どり、なのはたちはプレシアのもとに向かっていく。
「あの騎士たちはなんだ?」
「あれは・・・多分、機械に庭園の動力炉にあるロストロギアのエネルギーを送り込んで作ったものだよ」
「なるほど、人が入ってるわけじゃないのか」
「うん・・」
「あと、所々にある穴はなんだ?」
「あの穴に黒い空間があるだろ?あれは虚数空間って言ってね、一切の魔法が無効化されてしまうんだよ」
「落ちたら一貫の終わり、か」
「・・・あたし、あの子たちが心配だから、ちょっと手伝ってくるね」
「そうか」
「フェイト・・・これが終わったら、ゆっくりでいい。元の、あたしの知ってるフェイトに戻ってね・・・・じゃあ、行ってくるよ」
アルフが部屋を出る
部屋には蒔風と、虚ろな目をして天井を見つめ続けるフェイトが残された。
「フェイト、わからなくてもいい。聞いてくれ」
蒔風がフェイトにに話し始める
「今お前は、自分を見てくれていた母親に裏切られた。お前を見ていた者はいない、と思っているだろうな」
「でも、アルフはどうだ。あいつは、お前が・・・フェイト・テスタロッサがいたからああして生きているんだ。あいつの主は、間違いなく、お前なんだ」
「それに、モニターの向こうで戦ってるなのは。お前の名前を何度も叫んだあの少女。お前と友達になりたいっていったんだぜ?他でもない、フェイト・テスタロッサとだ」
「オレたちが知っているのは、アリシア・テスタロッサの代わりの少女じゃない。ましてやプレシアの人形でもない!フェイト・テスタロッサと言う、一人の人間だ!」
「確かに、生まれた理由は、アリシアのクローンだったかもしれない。プレシアの慰み物だったかもしれない。でも、生きる理由は、そこじゃないだろ?」
「アリシアのクローンだとか、そういったものも当然、お前を形作る要因の一つだ。でも、そうある前に、お前はフェイト・テスタロッサだ!アリシアとかプレシアとか、そんなことは後回しだ。まず、お前自身が何者で、なにをしたいのか。よく、考えてくれ」
「そして忘れるな。誰よりも「フェイト・テスタロッサ」を見てきた少女が今、他の誰でもないお前の為に戦っていることをな」
蒔風が出口に向かいながら最後に言った。
「お前の物語はここからかもしれないけど、オレの「この世界の」物語はまだ始まってないんだ。プロローグでもたつかせないでくれよ?」
そして蒔風も医務室を出ていく。
部屋にはフェイトが残された。
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あの男の子が出ていった
頭の中を思考がグルグルとまわる
母さん・・・・
あんなこと言われても、私はまだ母さんに笑って欲しいと思ってる
まだ母さんに縋り付いてる
チカチカと映っているモニターに目をやると、アルフと、白い服の女の子が戦っていた
アルフ・・・何度も私を止めようとしてくれた、アルフ
アルフは、いつだって私の為に動いてくれた
それに、あの白い服の女の子・・・
なんども戦って、なんども私の名前を呼んでくれて・・・
初めて私と対等に向き合ってくれた
初めて私に本気の本音をぶつけてくれた
なんどもなんども、私に"初めて"をぶつけてくれた、あの子
胸の中に、熱いなにかを感じた気がした
身体を起こす
生きる意味なんて、母さんに認めてもらうためだった
それ以外にないと思っていた
でも・・・・あの子は・・・・私に・・・
逃げればいいってわけじゃない
捨てればいいってわけじゃ、もっとない・・・
部屋の片隅に置かれた、ボロボロになったバルディッシュ
私の・・・私たちのすべては、まだ始まってもない
バルディッシュをデバイスモードに展開する
ボロボロでヒビだらけで、今にも砕け散ってしまいそうだけど、確かにまだここにある
「私・・・まだ始まってもいなかったのかな、バルディッシュ」
《get set》
「っ・・そうだよね、バルディッシュもずっと私のそばにいてくれたんだもんね。このまま終わりになんか、したくないもんね」
《yes sir》
そうだ・・・私はフェイト・テスタロッサ
アリシアが元で生まれて、母さんの人形だったとしても――――!!!
「私は、私であるために―――私の、フェイト・テスタロッサの物語は、ここから始まるんだ。バルディッシュ!!!」
《yes,sir.recovery》
バリアジャケットに身を包み、バルディッシュが輝き、ボロボロだった機体が直っていく。
これで準備は整った。
「さあ、これからを始めるために、これまでを、終わらせよう!!」
転移魔法陣を展開し、跳ぶ。
向かうはあの子の戦う場所、そして、母さんのもとに
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医務室の中からフェイトの気配が消える
「行ったか・・・」
蒔風が中をのぞき、嬉しそうな表情でつぶやいた。
「ははは!!これだから!!人ってのはいいもんだ!!」
天井を仰ぎ、大笑いして、この世の最高の幸せと手にしたような顔をする。
「どんな逆境にあっても!!決して失われることなく、輝き続ける心!!ああ、やっぱり生きてるっていいな。人との出会いはなんと素晴らしい!!人の意志の力はなんて逞しいんだ!!!」
その言葉にはいっさいのからかいはなく、純粋に人に対する想いから来ていた。
「まったく、こんなん見せられたら、もっと人が大好きになっちまうだろ!!」
自分自身が翼人であることは関係なしに、蒔風の想いは大きくなる。
これが蒔風舜なのだ。
特定の誰かが好きなんじゃない。人間が好きなんだ、と
「さて・・・オレも行きますか。あんなやつがいるんだから、まだまだ世界は十分輝てるんだからな」
蒔風も飛び出す。
なのはたちのいる決戦の地へ
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蒔風がアースラを出た頃、なのはとフェイトが並び立ち、大型の騎士と対峙していた。
「大型だ・・・バリアが固い」
「うん・・・」
「でも、二人でなら・・・やれる!!!」
「うん・・・うん!うんっ!!!」
なのはとフェイトが初めて一緒に戦う。
「バルディッシュ!!」
《get set!!》
「こっちもだよ!レイジングハート!!」
《stand by ready!!》
ギィィィィィィィ!!!!!
大型の両肩に乗るキャノンにエネルギーがたまる
だが、知るであろう
そんなものは、この二人の前には無意味であることが!!!
「サンダーーーー!!!スマッシャーーーー!!!!」
「ディバイーーーーン!!!バスターーーーーー!!!!」」
ドウッ、ゴアッ!!!
バリアに二人の砲撃が阻まれる
それでも!!!
「「せーーー、のっっっっ!!!!!」」
二人の攻撃に、バリアをいとも簡単に破られ、爆散する。
庭園が揺れ、ガラガラと崩れていく。
プレシアの居る場所も、例外ではない
なのはやフェイト達のいる位置よりかも遥か奥。
足場が崩れ、虚数空間の領域が広がる。
プレシアは最深部の部屋におり、細く突き出した足場の先に、アリシアの入ったカプセルとともにいた。
「もう来たのね・・・でももう間に合わないわよ・・・・あと、もう少し・・・もう少しで・・・」
ドォンッッ!!
そこまで独白し、そして轟音によって掻き消される。
プレシアの言葉をさえぎるように、そこに蒔風が乗り込んできたのだ。
「よう。プレシア、それにそっちがアリシアか」
「・・・何の用かしら。今とても忙しいの。それに、ここの前にはまだ見張りがいたはずよ」
「あのデグどもか?あんなもんじゃ止められないよ、オレは。止めたきゃ、あと五倍は持ってこい」
「そう・・・」
「なんだ?拍子抜けだな。アルハザードには行けそうなのかい?」
「・・・無理よ。これっぽっちじゃ届かない」
「あらまぁ」
「でも・・私にはあのままアリシアの死を受け入れられなかった」
「・・・・」
「あのまま何もしなきゃ、私はアリシアの死を認めなければならなくなる。そんなことはできなかった!!!私はアリシアをそんな簡単に「殺す」ことはできなかった!!!」
「・・・死は誰にでも訪れるものだ。アルハザードであっても、それは覆らない」
「あなた、アルハザードを知ってるの?知らないでしょう。だからこれから行くのよ!!何としても!!!」
「できないとわかっていても、それに向かって突き進む。その意志は嫌いじゃない。嫌いじゃないが・・・!!!!」
「なに?文句でもあるの?」
「誰かの意志を踏みにじってまで叶えられる願いなんざ、このオレがゆるさねぇ!!!」
「そんなの知ったことではないわ!!そもそも、なんでアリシアなの!?なんでこの子がこんな目にあわなければならなかったの!?世界はこんなにも理不尽なのよ!?だから私は取り戻すのよ!このどこまでも理不尽で、救いのない世界から、私たちの失われた過去を!!!」
そのとき、クロノが額から血を流し一人突入してきた。
痛みに顔をしかめ、それでも堂々とした面持ちで、目の前のそれを救えぬ自分を悔やみながら、確かな現実を叫びあげた。
「世界は、いつだって……こんなはずじゃないことばっかりだよ!! ずっと昔から、いつだって、誰だってそうなんだ!!
苦しそうに叫ぶ。
それは決して、体力だとかそういう問題ではない。
「こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ!だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない!!」
叫ぶ。
だが、そこでクロノの体が若干揺れて倒れそうになった。
「クロノ!!!大丈夫か!?」
「舜!!もう来ていたのか・・・さすがに、早いね・・」
プレシアは、虚数空間のギリギリ崖っぷちに寄っていく。
蒔風はそこから三、四メートルほど離れたところに。
クロノは蒔風よりも三メートル後ろにいた。
さらには天上の穴からフェイトとアルフが飛び降りてきた。
「フェイト!!!なのはとユーノは!?」
「二人とも、動力炉を破壊しに行ったよ!!」
ドドン・・・・・
さらに庭園が揺れる。
足場がビキビキと嫌な音を発しているのに、蒔風が気付いた。
プレシアが苦しそうにせき込む。
「母さん!!」
「動くな!!」
フェイトがプレシアに駆けよろうとするのを、蒔風が止める。
「今足場が非常に不安定だ・・・何の拍子で崩れるかわからない!!!」
蒔風の忠告に、皆動けなくなる。
堕ちれば戻ってこれないのだ。
「何をしに来たの・・・言ったでしょう。あなたはもういらないのよ」
プレシアがフェイトに話しかける。
「あなたに言いたいことがあってきました」
それにフェイトが答える。
「私は、アリシア・テスタロッサじゃありません。あなたが作った、ただの人形なのかもしれません」
フェイトの告白は続く。
「だけど、私は・・・フェイト・テスタロッサは・・・あなたに育ててもらった、あなたの、娘です!!」
「ふ・・・ふふふ。あははははははは!!!言ったでしょう!!私はもうあなたはいらないの!!なに?今更あなたを娘と呼べと!?」
「・・・あなたが、それを望むなら。私は、世界中の誰からも、あなたを守り続けます」
「・・・・・」
「それは、あなたが、私の、母さんだから!!」
「っ!!!」
フェイトの言葉には芯があった
たとえどんな存在でもいい。自分の意志で決めたことだから。
たとえどんなに愛されなくてもいい。それでも私はあなたの娘だから。
あなたは私の母さんだから!!!
そこには、かつての人形はいなかった。
この世でたった一人の、フェイト・テスタロッサが、そこにいた
しかし、それでも
「くだらないわ・・・言ったでしょう?あなたはもういらない。私にはね、ふ・・・ふふふ」
ドゴン!!!
プレシアが残った少ない力で、足場に魔力を流す。
たったそれだけの魔力で、プレシアの足場は崩れた。
「母さん!!!」「プレシア!!!」
フェイトとクロノか叫ぶ。
しかし、その先には踏み込めない。
容易に動けば、自分も落ちてしまう。
「ダメだ!!!開翼!!!」
しかしこの少年は動いた
その背に翼を展開させ、プレシアの落ちて行った穴に飛びこむ
「い・・今、背中に翼が・・・」
「ああ・・・彼は・・彼なら虚数空間でも飛ぶ術をもっているのだろう。急げ!!ここから逃げないと!!」
「ま・・待って・・・母さんが・・母さんが!!!!」
「フェイトォ!!!」
アルフがフェイトを引きとめる。
そして、その空間から離脱した。
一方、虚数空間内
「プレシアアアアアアアアアアア!!!!!」
蒔風が落ちていくプレシアを追う。
しかし、プレシアは手を伸ばそうとせず、一向に届かない。
その顔には驚きの表情があった。
「あなた・・・まさか・・・翼人!?」
「そうだ。普段じゃ飛べないからな。こうしないとならないんだよ」
「では!!やはりアルハザードは!!」
「知らないよ」
「え?」
「オレはアルハザードなんか知らない。あそこの伝説に書かれたものとは別人だよ」
「そん・・・な」
「今からでも戻れる!!掴め!!」
「・・・だめよ。この子を一人にさせられないわ・・・」
「だったら一緒に引き上げてやるから!!フェイトだって待ってんだぞ!!」
「なおさらダメよ。私にはあの子はいらないもの」
「まだそんなことを!!!」
「あそこの庭園・・・あそこにアリシアのデータや研究の資料がたくさんあるわ」
この間も距離は縮まらず、なおも落ち続ける。
「あそこには私とアリシアの、思い出の詰まった場所がたくさんあるの。それを胸に・・・私は逝くわ」
「フェイトはどうするんだよ!!あんたの」
「私にはいらないのよ!!!」
「っ!!」
プレシアが蒔風の言葉を遮る
「言ったでしょう?私に必要なのは、アリシアか、お人形よ」
「・・・・」
「あの子はもう、人だもの。「フェイト・テスタロッサ」になってしまったもの」
「おまえ・・・」
「あの子は一人の人間としてここにきてたわ。紛れもない、フェイト・テスタロッサとして。だから、私は・・・・」
そこでプレシアは、
悲しそうに、それでも、穏やかに笑った。
「この笑顔・・・「お人形」には見せられないわ・・・でも・・・・」
「プレシア!!!!」
そしてプレシアが雷を振るう。
追うことに全力であった蒔風は、これを受けられず、後ろに跳ね飛ばされた
蒔風が目をあけると、そこには虚無の空間がただただ広がっていた。
「プレシア・・・・テスタロッサァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!」
もう見つからない、追いつけない。
蒔風はそれを理解してしまった。
だから全力で戻った。
庭園の、プレシアの、その記憶を永遠にするために
『全員、退避しろ。ここを跡形もなく吹き飛ばす』
「舜!?」
「舜君!?」
蒔風は虚数空間から飛び出すと、プレシアが最後にいたあの広間に着地して庭園内にいる全員に念話を飛ばした。
『オレは本気だ。一切の資料を持ち帰ることはこのオレが許さない』
(プレシア・・・お前の記憶は・・・誰にもいじらせはしない!!!それがお前を救いきれなかった、オレの・・・償いだ!!!)
『くっ、全員退避!!急いで!!!何も持たないで、全速力!!!』
リンディからの指示が下る
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
(獄炎、圧水、土惺、雷旺、絶光、混闇、全エネルギーを純エネルギーに変換!!!)
全属性エネルギーを純粋な「力」としてのエネルギーに変換する。
『全局員の退避完了!!!』
それを聞き、蒔風が己の最強の武器を取り出す。
「十五天帝!!!!!」
ボゴン!!!
十五天帝を組み上げ装備し、天井を突き破り、最上層に上がる蒔風。
(この翼に宿るのはたった一人の願い。だが、オレは!!!その願いのために、こいつを!!!)
十五天帝と、蒔風の腕にエネルギーが・・・一人の母の願いが集まる。
「あああああああああああ!!!!!」
蒔風が涙を流し、「時の庭園」に突っ込んだ。
「すべての者に救いと破滅を。十五天帝《ソラウス・キング・フィフテーン》ッッ!!」
十五天帝を振るい、「庭園」にぶち当てる。
するとそこにあまりの衝撃に力場が発生し、「庭園」を真っ二つにしたうえ、ねじ込んでいき、庭園がただの岩の塊となる。
それでも破壊は止まない。
砕けた岩石一つ一つが爆発し、細かいものをさらに細かく砕いていく。
そうして、「時の庭園」は、粒子と消え、跡形もなく消滅した。
「これで、終わったんだ」
to be continued
後書き
アリス
「にしても、蒔風が人間好きだったとは」
蒔風には確かに確固たる愛情があります。
しかしそれは100%の人類愛なんです。
アリス
「次回、終わってその後。そして・・・」
ではまた次回
ありふれた言葉でもいい 真っ直ぐに伝えたいよ
君の元へと羽撃いていく
「行こう・・・」もう迷わない
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