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青砥縞花紅彩画

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5部分:新清水の場その五


新清水の場その五

千寿「(弁天に目をやり)はっ」
弁天「(彼も千寿を見やる)むっ」
 二人は互いの顔を見る。そしてつけ回し(相手に心を置きつつ向かい合って独楽の様にじりじりと回る)に入る。それから別れて弁天は右に消える。千寿はそれから目を離さない。南郷もそれを思い入れて見ている。
南郷「では俺も行くか(と出て行こうとする)」
 その南郷を侍女が止める。
侍女「お待ち下さい」
南郷「(彼女に顔を向け)何用でござるか」
侍女「まだお話したいことがあるのですが」
南郷「(ここで少し嫌な顔をする)御供をしなければならないのですが」
侍女「ほんの少しの間ですので」
南郷「(渋々と)そうでしたら。して何でしょうか」
侍女「姫様がそちらの若様の御許婚というのは御承知でしょう」
南郷「(ギクッとして)ええ、まあ」
南郷「(独白)いかん、すっかり忘れてった。そうであった」
侍女「それでお願いなのですが」
南郷「はい(汗を流している)」
南郷「(ここでまた独白)まずいことになったな」
侍女「小太郎様に是非お話しておいて頂けるでしょうか」
南郷「何をでしょうか」
侍女「これはまた意地の悪い。決まっているではございませんか」
南郷「はあ」
侍女「姫様のことを。お願いしますよ」
南郷「しかし若様はあのお年で大層堅い方でして。女子の話はお嫌いなのです」
侍女「まさか」
南郷「私は前それで叱られたことがあるのですよ。男子がみだりにその様な浮ついた話をするな、と。ですからねえ」
侍女「ではどうしたらよいでしょう」
南郷「そうですなあ(ここで考えるふりをする。それからはたと思いついて)そうだ」
侍女「何が名案が」
南郷「はい、ここにうちの若が来られて私が言い出します。するとお堅い若のことですからならぬ、と仰るでしょう。そこでそちらの姫様が一芝居打たれるのですよ」
侍女「一芝居とは」
南郷「はい、小刀を喉に向けられる。そうすれば若も止められるでしょう。そこから入る。これでどうでしょうか」
侍女「悪いお話ではありませぬな」
南郷「そうでござろう。これで如何でしょうか」
侍女「ではそれで(頷き千寿の方に向かう)」
侍女「姫様」
千寿「はい」
侍女「実はあちらの方のお話ですが。耳をお貸し頂けますか」
千寿「わかりました(そして顔をそっと傾ける」
侍女「(その耳に顔を近付け)実は」
 そして話をはじめる。話を聞き終えた千寿はにこりと頷く。
千寿「わかりました。私はそれでいいです」
侍女「左様でしたら(彼女も頷く)」
 そして再び南郷のところに戻る。
侍女「姫様は御了承して下さいました」
南郷「そうですか、それなら大丈夫でござる」
侍女「はい、ではそれで」
南郷「行きましょう」
 ここで弁天がやって来る。
弁天「これ駒平」
南郷「はい」
弁天「参拝は済んだ。戻るぞ」
南郷「いえ、少しお待ち下さいませ」
弁天「何かあるのか」
南郷「はい、実は若様にお目にかけたいものがありまして」
弁天「わしにか」
南郷「はい、宜しいでしょうか」
弁天「一体何じゃ(ここで問う)」
南郷「はい、こちらの御方です(ここで左手に控える千寿を案内する)」
南郷「こちらの姫様でございますが」
弁天「(不愉快そうな顔を作って)これ駒平」
南郷「はい」
弁天「前にも言ったであろう。わしの前で女子の話はするなと」
南郷「左様でしたが」
弁天「言い訳はよい。一体何のつもりじゃ」
南郷「こちらの姫様が是非貴方様とお話がしたいとのことですが」
弁天「話すことはない(ぷいと横を向く)」
南郷「そう仰らずに」
弁天「ないと言っておろう」
 弁天は左手に去ろうとする。南郷がそれを止める。そこへ千寿が出て来る。
千寿「あの」
 だが弁天はそれを無視する。
 
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