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年月を経て

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第五章

「折角旅行に行くんだしさ」
「そうか、じゃあ二人で行くか」
「それじゃあな」
「旅費はわしが出すからな」
 行き来のそれにホテル代等もというのだ。
「そっちは安心しろ」
「悪いな」
「悪いも何もな」
 それこそと言った豊田だった。
「わしも行きたいからな」
「だからか」
「御前に言われて思った」
「そうか、それじゃあな」
「一緒に行くぞ」
「ゴールデンウィークの時にな」
 こう話してだ、そしてだった。
 豊田は曾孫の恭介を連れてゴールデンウィークに東京から江田島に行くことになった。妻にそのことを言ってだった。
 恭介と二人で東京駅で新幹線に乗った、そして。 
 新幹線の席でだ、隣の席の曾孫にこんなことを言った。
「十八とか九の頃だったな」
「高校生位か」
「今で言うとな」
 車窓の景色を見つつ話すのだった。
「それ位だ」
「昔の中学を出てだよな」
「ああ、わしもだ」
 曾孫に言う。
「中学を出てな」
「昔は小学校出てだよな」
「そこで義務教育は終わりだった」
 そうだったというのだ。
「けれどうちは昔羽振りがよくてな」
「中学もなんだ」
「ああ、行けてな」
 そしてというのだ。
「そこで成績がよくてな」
「海軍行ったんだ」
「兵学校にな」
「そうだったんだ」
「兵学校はな」
 目を微笑まさせてだ、豊田は恭介に顔を向けて話した。
「東大より難しかったんだぞ」
「それ前に聞いたっけ」
「そうか、昔の東大よりもな」
「入るのが難しかったんだ」
「東大に入ったらな」
 入るのが一番難しい、今はそう言われている大学に入学してもというのだ。
「東大に入りやがってって言われたんだ」
「どうして海軍に入れなかったって」
「そうだったんだ、安倍さんのお祖父さんがな」
「ああ、岸信介さん?」
「そう言われたんだ」
 東京帝国大学の法学部に入ってもというのだ、尚彼は主席で卒業している。
「あの人の兄さんが海軍だったんだ」
「そうだったんだ」
「それでそう言われたんだ」
「東大に入っても」
「わしもその時は鼻高々だったな」
 兵学校に入られてというのだ。
「自分で自分が誇らしかった」
「自慢だったんだ」
「ああ、それで入ってな」
 それからの話もだ、彼は曾孫に話した。 
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