息を潜めて
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五章
「そうそう上手にはな」
「いっていないですか」
「期待したいが」
それでもとだ、ゴルトマンはヴァルターに眉を曇らせて行った。
「そうもいかないだろう」
「そうですね」
「何隻生き残っているか」
この現実にありそうな方をだ、ゴルトマンは強く言った。
「港に戻って聞くか」
「そうしますか」
「そして次に出港する時はな」
「我々は。ですね」
「出来れば敵を沈めて」
今回はそれは出来なかった、しかしというのだ。
「そうして生きて帰るか」
「そうしましょう」
「このまま港に向かう」
海に出たままでというのだ。
「周囲に警戒は怠るな」
「我々の制海権でもですね」
「敵が来るようになった」
航空機だ、彼がここで言うのは。
「だからだ」
「はい、それじゃあ」
「何時でも潜行出来る様にしておくことだ」
このことを言うことを忘れなかった、そしてだった。
彼等は今は無事に港に帰った、そして共にあの海域に今回出撃した潜水艦は全艦無事だったと聞いてこう言った。
「いい結末だな」
「今回は、ですね」
「あくまで今回はな」
ゴルトマンは基地司令から言われた言葉を思い出しつつヴァルターに言った。
「出港した全艦が生き残れてな」
「敵の輸送船を沈めることは出来ませんでしたが」
「生き残ってだ」
そしてというのだ。
「こうしてビールとソーセージを飲めるだけでもな」
「本当にそうですね」
こう士官用のバーでそのソーセージとビールを飲みつつ言うのだった。
「それだけでも」
「次も出来れば勝つまでな」
「そうありたいですね」
こうしたことを話してだった、そのうえで。
彼等は今はバーで飲みながら生還出来たことを楽しんだ、次はどうなるかわからないという刹那な時の中で。
第二次世界大戦においてドイツ海軍の潜水艦艦隊は活躍した、しかしその損害は六割の潜水艦を失い四万いた乗員達のうち三万を失った。その損害の多さは特筆すべきものであろう。ゴルトマン達の生還を喜んでいることも無理はないことであろう。
息を潜めて 完
2015・12・20
ページ上へ戻る