人徳こそ
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第四章
「確かにな」
「いい人でしょ」
「初対面だけれどな」
それでもとだ、浩輔は答えた。
「わかるな」
「本当に凄くいい人よ、けれどね」
「それだけになんだな」
「言ったでしょ」
「ああ、悪い奴がだな」
「そんな感じがするのよね」
カウンターの中でだ、優子は顔を曇らせて言った。
「杞憂だといいけれど」
「じゃあその人が来たらな」
「見る?」
「ああ、お客さんのふりをしてな」
浩輔はこう優子に答えた、そしてだった。
とりあえずは店の端のところに腰かけてそのうえで優子の仕事ぶりを見た、優子はカウンターの中でてきぱきと動いてだった。
仕事をそつなくこなしていた、やがて客が何人か来てだった。
優子は応対もしっかりしていた、その彼女にだ。
浩輔は店の端からだ、こう言った。
「いいな」
「私の仕事ぶり?」
「ああ、お客さんもな」
「これまでの人達はね」
どうかとだ、こう浩輔に話した。
「ご近所の人達で」
「店長さんとも馴染みの人達でか」
「悪い人達じゃないのよ」
「そうなんだな」
「ええ、これまでの人達はね」
「それで問題は」
「ええ、まだ来てないけれどね」
それでもという口調でだ、優子は顔を曇らせて言った。
「お話した通りね」
「その人だな」
「そうなの」
まさにというのだった。
「今日は来ないかも知れないけれど」
「ああ、出来れば来ないことを祈ってるか?」
「どっちかっていうとね、証拠はないけれどね」
「悪いオーラ出してるか」
「そうした人だから」
客がいない間はこうした話をした、そして。
ふとだ、店に一人で来た客はというと。
見るからに怪しい、目の光は濁っていて顔立ちはならず者の如く歪んでいてだ。姿勢も歩き方も狡猾い感じで。
服装もだ、ヤクザ者の様だ。その彼がだ。
店に来てだ、優子に横柄な口調で両手をズボンのポケットに入れた姿勢で聞いてきた。
「店長さんいるかい?」
「今は外回りに行ってます」
優子は表情を崩さず男に答えた。
「ですから」
「わかった、じゃあまたな」
男は優子の言葉を受けてだ、そのうえで。
すぐに踵を返して店を去った、その彼をずっと見てだった。
彼が帰ってすぐにだ、浩輔は眉をこれ以上はないまでに顰めさせて言った。
「おい、あの人だよな」
「わかった?」
「聞いた通りだな」
「怪しい人でしょ」
「怪しいっていうかな」
それこそというのだった。
「もうあからさまにな」
「よくない人っていうのね」
「店長さんにあれこれ話してるんだよな」
「そうなのよ」
「一応聞くけれどあの人何やってる人だ?」
「自分では経営コンサルトって言ってるけれど」
「自称か」
このことからだ、浩輔はこう言った。
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