青砥縞花紅彩画
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24部分:浜松屋奥座敷の場その一
浜松屋奥座敷の場その一
第四幕 浜松屋奥座敷の場
平舞台で戸棚や鏡戸、暖簾口、呉服や絹を入れた葛篭等も後ろにある。そして前では日本駄右衛門や忠信利平達が幸兵衛や宗之助達の接待を受け酒や御馳走に囲まれている。
幸兵「ささ、どうぞどうぞ」
日本「うむ」
幸兵「そちら様も」
忠信「よいのかな。この様な宴を開いてもらって」
幸兵「はい、貴方様方は我々の恩人です故。遠慮なくどうぞ」
そして酌をしようとする。
幸兵「男ばかりで申し訳ありませぬが」
日本「いやいや、そんなことはないぞ」
忠信「左様、この様な馳走まで。何と言ってよいかわからぬ」
日本「それで拙者もこちらの者は深くは食べぬ。気にするな」
幸兵「しかし」
ここで赤星が左手から入って来る。
赤星「旦那様」
幸兵「おお、何じゃ」
赤星「お土産の用意が出来ました」
幸兵「おお、そうじゃったか。では持って来てくれ」
赤星「はい」
一旦左手に下がる。そして白台に何かを置いてそれを持って戻って来る。
幸兵「さてお侍様方(赤星を従えて二人の前に来る)」
日本「何じゃ」
幸兵「ほんの心づくしにございます(そう言ってその白台を二人に差し出す)」
日本「それは一体」
幸兵「私共のほんの感謝の気持ちでございます故。どうかお受け取り下さい」
日本「(首を横に振り)その気持ちは有り難いがな」
幸兵「何故でございまするか」
日本「我等は当然のことをしたまで。謝礼を受けるいわれはない」
忠信「その通り、そもそも我等は武士として当然の勤めを果たしたまでであるからな」
幸兵「いや、そのようなことを仰らずに」
宗之「こちらも商家の誇りがございます。恩人に報いぬとあっては我が家の名折れでございます」
日本「(それを聞いて考え込む)ううむ」
忠信「如何致しましょう」
日本「わかった。それでは頂こうか」
幸兵「(それを聞いて嬉しそうに)畏まりました。何でも申し上げ下さい」
日本「よいのか」
幸兵「勿論です」
日本「わかった。では金子を頂きたい」
幸兵「はい、これがそうでございます。どうかお受け取りを」
ここでその白台を再び差し出す。だが駄右衛門はそれを受け取らない。
幸兵「(それを見て不思議そうに)如何なさいました?」
日本「これには及ばぬ」
宗之「と言いますると」
忠信「箱ごと有り金全部貰い受けたい」
ここで二人やにわに怖ろしい顔になる。
幸兵「えっ」
宗之「ご冗談を」
日本「冗談ではない」
忠信「これがその証拠」
そして二人は刀を抜く。幸兵衛と宗之助はそれを見て真っ青になる。
幸兵「こ、これ」
宗之「佐兵衛さん、人を呼んで」
赤星「(にやりと笑いながら)わかりました」
そして立つ。左手に顔を向けて名を呼ぶ。
赤星「南郷の兄貴、弁天」
二人「何っ」
それを聞いてさらにギョッとする。駄右衛門と忠信はその前でニヤリと笑う。
南郷「(左手の入口の陰から)おう」
弁天「(同じく陰から)赤星、こっちは上手くいったぜ」
赤星「そうか」
弁天小僧と南郷力丸が与九や丁稚、小僧達を縛り上げて出て来る。そして中に入って来る。
日本「店は完全に閉じたな」
南郷「へい」
弁天「錠を下ろして出入りも止めやした」
日本「そうか。それは何より」
幸兵「何と、盗人であったとは」
宗之「これは何ということ」
日本「驚いたか」
幸兵「如何にも。まさか玉島殿までそうであったとは」
日本「そういうことだ。ところでだ(ここで忠信に顔を向ける)」
忠信「はい、後は縛っている者をどうするかですな」
日本「うむ、とりあえず押し入れにでも放り込んでおけ」
忠信「わかりました。では連れて行こうぞ」
三人「おう」
四人は与九達をそのまま左手へ連れて行く。そして暫く経ってまた出て来た。
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