カンガ
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第一章
カンガ
ホロホロ鳥を見てだ、フリードリヒ=フォン=ハイデルベルグは思った。そしてその思ったことを言葉にも出した。
「奇麗な鳥ですね、何度見ても」
「ここではカンガっていいましてね」
彼と共にいる地元の地理学者ワンガリ=ジェンガは黒い肌の顔から白い歯をにっと出してフリードリヒに話した。
「ってご存知ですね」
「ここに来て長いですから」
フリードリヒも笑って返す、二人は同じ大学で勤務している教授同士だ。ただフリードリヒは語学者でドイツ語を教えている。ドイツから招かれていて元はプロイセンのユンカーの家だ。背は高く金髪を後ろに撫で付け奇麗な青い目をしている。高い鼻を持っている端整な顔だ。その彼に対してワンガリは長身のフリードリヒよりも十センチ高く筋骨隆々としyている。目は黒く細めで縮れた黒髪を短く刈っている。二人共今はケニアの平原部にいる。
そこにいる野生動物達を見つつだ、フリードリヒは話す。
「いや、私の専門は語学ですが」
「こうして時々ここに来てですね」
「違う学問を学ぶこともです」
「いいですね」
「はい、これは本来はジェンガさんの専門ですね」
「地理学者ですからね」
この平原もその調べる対象である。
「ですからここにもよく来ます」
「専門だからこそ」
「そうです、ただ」
「ただ?」
「あのカンガは珍しいですか」
「カンガはこの辺りでは普通にいませんか?」
目を瞬かせてだ、フリードリヒはワンガリに尋ねた。
「この鳥は」
「いえ、色合いがです」
「それがですか」
「珍しいですね」
「そうしたカンガですか」
「はい」
そうだというのだ。
「どうにも」
「そうなのですか」
「派手な色合いの鳥ですが」
「その派手な中でもですか」
「特にですね」
「目立ちますか」
「はい、そうした色ですね」
こうフリードリヒに話すのだった。
「いや、これは珍しい」
「そうですか」
「私は生物学者ではないですが」
それでもとだ、ここでまた言ったワンガリだった。
「ここには何度も来ていましてカンガもよく観ていますが」
「それでおわかりになるのですね」
「そうです、いやああしたカンガに会うとは」
まさにともだ、ワンガリは言った。
「面白いですね」
「面白いですか」
「はい」
今度はこう答えたワンガリだった。
「カンガといっても色々ですからね」
「そうなのですね、ドイツ語と同じですね」
「ドイツ語も地域によって違います」
自分の専門だからだ、フリードリヒはワンガリに饒舌に話すことが出来た。
「おおまかに言ってドイツとオーストリアでも」
「同じゲルマン系国家でもですね」
「また違います、ドイツの中でもです」
「それぞれの地域で違いますね」
「方言ですね」
「それでしたら私達も同じですね」
ここでだ、ワンガリはまた笑顔になってフリードリヒに話した。二人で平原の中をジープで進みながら見つつだ。野生動物も多く大型の肉食獣もいるのでジープは密閉状態になっていて安全は確保されている。
「スワヒリ人も」
「スワヒリ語もですね」
「地域によって違います」
そうだというのだ。
「このケニアの私達もタンザニアの方も」
「他にも色々ですね」
「はい、そうです」
まさにというのだ。
「方言があります」
「そういうことです、言葉も違います」
「そしてカンガもです」
「そういうことですね」
「そしてです」
ここでだ、ワンガリは笑ってこうも言った。
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